燃えている……
「チイッ、まったくついてねぇ……」
そんな風に言いながら、足を引きずって歩いているのは一人の大男――カディンだった。
カディンは苛立たしげに地面を蹴る。
つま先が蹴り上げた土が飛び散り、砂が巻き上がった。
「ぺっぺっ! クソッ、ついてねぇぜ、まったく」
カディンは倒置法を使い再度愚痴ってから、つまらなそうな顔をして歩き出す。
その全身は砂に汚れており、身体中至るところに青あざや切り傷があった。
「うるさいぞ、死にたいか?」
「かっ、こんなキツいことをされ続けるくらいなら、死んだ方がマシだっての!」
彼は目隠しをされており、その両腕は後ろ手に縄で縛り上げられている。
その縄を掴んでいるのは、先ほどまでカディン達をボコボコにしていた『剣聖』ナージャだ。
(しかしまさか村に『剣聖』がいやがるとはな……考えりゃあおかしいことはわかってたんだ)
謎の剣士にボコボコにされたカディン達は意識を覚ますと、村の端に作られている謎の場所にいた。
拘束されることもなく、何故か手元には素朴な造りの木剣が。
そして少し先には、自分達の方を睥睨している鬼がいたのだ。
『貴様らの性根を私がたたき直してやる』
木剣片手にこちらをにらみつける彼女がナージャという名であることを教えられたカディン達は、彼女が『剣聖』の素養を持っているということを、その身体に教え込まされることとなった。
地獄のようなシゴキに血反吐を吐きながらもなんとか耐えた彼らは、アイマスクで目隠しをされ、両手を縛られた上で村の中へと連行され、そして一人また一人と収容施設へと入れられていった。
カディンは言われるままに歩いているが、既に周囲に仲間達の気配はない。
どうやら自分が最後の一人らしいとあたりをつけてからしばらくすると、ようやく足が止まる。
「入れ」
中へ入ると、目隠しだけは外された。
両腕は縄で縛られているが、足の自由は利くので動き回ることができる。
ナージャは盗賊達を収容すると、さっさとどこかへ行ってしまった。
彼女の足音が遠ざかるのを確認しながら、カディンは部屋の中をくまなく探すことにする。
用を足す用の桶、寝るためのベッド、食事を摂る時に使う机。
生活に必要な用具は、最低限揃っている。
部屋も広い……というか、広すぎる。
そこは少々ボロくはあるが、ちゃんとした一軒家だった。
捕まった虜囚に与えるには破格すぎる物件だろう。
「マジか……本当に監視もねぇのかよ」
死を覚悟していたが、これは幸運だ。
監視の目がないのなら、抜け出すチャンスが絶対にあるはず。
盗賊として捕まっているのだから、明日がどうなるのかもわからない身だ。
それならさっさとずらかるのが吉に違いない。
カディンは音を立てぬよう慎重に扉を開き、外に人がいないのを確認。
そのまま勢いよくドアを開き、そして……。
「な、なんじゃこりゃあ……」
絶句した。
彼の家の前には一本の樹があった。
樹からは蔦が伸びており、ピンと張った状態で家をぐるりと囲んでいる。
そしてそれらは……凄まじい勢いで燃えていたのだ。
「樹が、燃えてる……あっち! あっちいっ!」
外に出すぎると、火の粉がかかって火傷をしてしまう。
こんな風に家を囲まれていては、出る術はない。
「……家に、戻るか」
カディンは自分の力の及ばぬ何かに巻き込まれたことを悟り、黙って家へと戻る。
そして同様の光景が村の至る所で引き起こされ、盗賊達は抜け出そうなどと考える間もなく、家で大人しくしているのだった……。
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