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金貨の輝き


 精霊騒ぎを解決させてからしばらく。

 かねてからの調整を終えて、僕は改めてランさんにお金を貸し付けることになった。


 待ち合わせに指定した場所は、僕の執務室。

 ランさんの後ろには一応は護衛なのだろう、かつての部下である『白銀の翼』のヴァルさん・ガルダさん・テトさんの三人が控えていた。


「これが金貨十万枚ですか……」


「こうやって並べてみると、なかなか壮観ですね……」


 今、僕とランさんの前にはこの時のために取り出した黄金が輝いている。

 一つの木箱に、一万枚の金貨が敷き詰められており、それが合わせて十個。

 合わせて十万枚もの数となると、なんというか……お金の魔力にとりつかれる人の気持ちも、少しだけわかる気がした。


「それじゃあ、お願いね。きちんと十万枚数えるように」


「りょ、了解っす!」


「なんで私達まで……」


「おら、数を数えんのはそんな得意でないんだけどなぁ……」


 僕とランさんが見守っている中で、『白銀の翼』の三人が金貨を一枚一枚取り出しては確認していく。


 どうやら僕に冒険者時代の話を漏らしたのがバレたらしいヴァルさんは、ランさんの言葉に黙って従うしかないようだった。


 今回はかなりの額が動く取引だ。

 親しき仲にも礼儀ありというやつで、金貨十万枚もの契約となれば流石になぁなぁにするわけにもいかない。

 当然ながら中身がしっかり入っているかの検査も行う必要がある。


 もちろん僕の方でも確認はしているけれど、万が一にも漏れがないようランさん側にも確認する必要があるからね。

 まさか店員じゃなくて『白銀の翼』の皆さんにやらせるのは、流石に予想外だったけど……。


「そういえばウッディ様実は先日付で、この三人の『白銀の翼』は解散してもらったんです」


「はぁ……ええっ!?」


 金の輝きに飲み込まれ生返事をしていたけれど、ランさんの言葉に突然意識が覚醒する。

 『白銀の翼』、解散しちゃったんですか!?


「うちも商売の規模を大きくしていくなら、そろそろ専属の護衛を雇わなくちゃって話になってね。それなら冒険者のままでギルドにマージンを抜かれるより、ヴァル達をそのまま商会の組合員にした方がいいかなって。ウッディ様の言う通り、なるべくウェンティの中で経済を回さなくちゃいけませんからね」


「冒険者じゃなくて商会の店員になれば、もし大けがを負ったりしてもそのまま食い上げることもありませんしね。二人はちょっと微妙な顔してましたけど、私が納得させました」


 金貨を数えるのに悪戦苦闘しているヴァルさんとガルダさんを尻目に、どこか手慣れた様子で数えているテトさんが胸を張る。

 どうやら彼女は実家が小規模ながら店を営んでいたらしく、金勘定はお手の物なのだそうだ。


「俺的には、解散じゃなくて一時休止なんで! 腕が鈍らないよう、定期的に依頼は受けるつもりっすよ!」


 山のように積まれた金貨を前に脂汗を流しているヴァルさんが、こちらを見ずにそう続ける。


「まぁ、冒険者稼業っつぅのもいつまで続けられるかわからん水もんの仕事だで。せっかくならここで腰を落ち着けるっつぅのも悪くないと思っただよ」


 どうやらガルダさんも納得はしているようで、その大きな指で小さな金貨を十枚一束にしてしっかりと数えている。


 でもそうか、『白銀の翼』が活動を一時休止……つまりはランさんも、それだけ真剣に取り組んでくれるってことだよね。


「ウェンティの品物を優先的に卸してくれさえすれば、どうとでもなります。私は金勘定はそこまで得意ではないですが、駆け引きならお手の物ですので……」


「商人としてはどうかと思うっすけどね」


 ガルダさんのツッコミもどこ吹く風、ランさんは早速とばかりに王都で行う取引についての説明を行い始める。


 やはり生ものは傷みも速く、その分輸送にもコストがかかる。

 まず最初は良く夜会やティーパーティーを開く貴族を優先的に狙い、貴族の中での知名度を上げていくという作戦を取るようだ。


 ちなみに僕はランさんの『ウィング商会』と独占契約を結ぶつもりだったけど、それはやんわりと拒否された。


「物事の流れというのは完全にせき止めてはよどみが生じます。たとえ数は少なくとも、うち以外の商店にも卸すべきです」


 話し合いの結果、王侯貴族が使うレベルの最高級品は『ウィング商会』で、そして日常生活を彩るような一般的な(それでも今までのフルーツとは比べものにならないけど)フルーツに関してはある程度流通に乗せることを決める。


 『ウィング商会』が目をつけられて他の商会から潰されてしまわないためにも必要らしい。 商人の世界というのも、なかなか厳しいみたいだ。


「合わせて高級フルーツの栽培場所も改めて選定する必要があるでしょうね。有名になれば、盗みに入るような不届き者が現れないとも限りませんので」


 独占契約をしないのには、そういった犯罪的な行動を抑止する狙いもあるという。

 大げさな……と思ったけれど、たしかに世界樹の実の場所はもっとしっかりと監視を置いておくべきかもしれない。

 今はまだ一件も報告はないけど、大金というのは人を狂わせる。

 僕はそれをこうして、目の当たりにしちゃっているわけだしね。


 ……あ、そうだ!

 お金に目がくらんで(物理的に)忘れてた!


 僕は今日のために作っておいたあるものを、ポケットの中から取りだした。

 ドワーフ達のところに行ってちょちょいっと作ってもらったんだよね。


「ランさん、もしよければこれを使ってください」


「これは……?」


 そのプレートには、僕が当主であるアダストリア家のものであることを示す、大樹とその上に乗る鳥の紋章が彫り込まれている。


「ランさんがアダストリア家にとって大切な人であることを示すプレートです。もし何かあった時に、相手が騎士や王国貴族あたりなら効果を発揮してくれるかと」


「……」


 自分が僕の家の紐付きと見られるのが嫌だからか、ランさんは微妙そうな顔をする。

 その反応は想定済みだ。


 実際に使うような事態にならない方がいいし、これはある種のお守りみたいなものだ。

 そう言い含めると、ランさんも渋々受け取ってくれた。


「数え終わりました! 一万枚ぴったりあります!」


「当然ながら、偽金なんかもありませんでしたよ!」


 思っていたより長く話し込んでしまっていたからか、気付けばヴァルさん達は金貨を数え終えていた。


「とりあえずこれを使って……『ウィング商会』を大きくしてみせますよ。お金があればあるだけ、できることが増えますからね」


 ハイリスクだけどその分リターンも高い投資や、投機性の高い品物など、お金に余裕がなければ手を出せないものも沢山ある。

 これだけあれば、そういった挑戦も今より更に積極的に行うことができるようになるだろう。


 ドワーフの人達のおかげで鉄鋼業も順調だし、これからマグロス火山ダンジョンで経済の並にもう一山が来るのも既にわかっている。

 十万枚もの金貨を使えばウェンティ全域にしっかりと根を張り地域に根ざした商売をして、、手堅く足下を固めることだってできるはずだ。


「前々から一度、商人としてどこまでやっていけるか試してみたいとは思ってたのよね。やっぱり元冒険者なだけあって、自分は競争するのが好きみたいで」


 ランさんはガルダさん達に木箱に持たせてから、くるりとこちらに振り返る。


「お任せください、十万枚くらいすぐに返してみせます。きっちり利子もつけてね」


 それだけ言うと彼女は出て行った。

 その颯爽とした背中は思わずほれぼれしてしまうほどに格好いい。

 彼女は今日もまた、彼女の戦場へと向かうのだろう……。

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