糸口
「これで色んな商人を呼び込むことができるようになるのは良いと思うんだが……ウッディはこのまま何もせずに放置する方針で行くのか?」
「ううーん、悩みどころだと思ってるんだよね。てこ入れをする必要があるとは思ってるんだけど」
王国内とウェンティを安全に行き来することができるようになるなら、各地から商人がやってくることになるだろう(目印にウッドゴーレムを置いておけば、道に迷ったりすることもないだろうし)。
ウェンティ印のフルーツには引きがあるし、最近では問い合わせの件数もかなり増えている。
今後間違いなく、往来の量は増えることになるだろう。
するとまた一つ、困った問題が出てくるようになる。
商店というのは、わりとパワーゲームなところがある。
大量の商品を買い取り在庫として抱えることができる店は、その分だけ仕入れ値を下げたり……といった具合にね。
なのでここで僕らが何もせずに指をくわえてみていると、多分気付けばグラトニー商会やグリード商会といった大規模な商会にうちの領内の商圏を乗っ取られ、彼らに大量のお金を落とすことになってしまう。
それが嫌だから、今までどこか大きな商店と独占契約を結んだりしてこなかったのだ。
大規模な商店からどれだけの量を引き取れると言われても、他の人達と同じ量しか売らなかったしね。
ちなみに僕の態度に、彼らは「わかってるだろうな……」的な捨て台詞を吐いてきた。
もう今では輸入品に頼らずに生活できる環境も整ってるっていうのに、何をわかってるって話だよね。
なので僕の個人的な心証は、よろしくない。
大規模商店の手を、あまり積極的に借りたいとは現状思えていなかった。
それにそんなことをしたら……今まで砂漠の民のために頑張ってくれていたランさん達や、細々と店を営んできていた砂漠の民の商人達があまりにも報われないじゃないか。
それをなんとかするために、僕はランさんにあるお願い事をしていた。
「ランさんもいい加減頷いてくれると嬉しいんだけどね……」
「あれもあれで、なかなか頑固なところがあるからなぁ」
そのお願い事とは――僕がフルーツ売却で作った資金を出資することで新たに作るウェンティ中をまたにかけた総合商店の店長に、就任してもらいたいというものだ。
一応僕は国王陛下から爵位をもらっている王国貴族だ。
けれど僕は実のところ、王国というものに大して強い帰属意識を持っているわけではない。 僕のホームは王国ではなくこのウェンティだと思っているし、王国に所属することを選んだのは、それが一番流す血が少なくて済むと思ったからだ。
独立国家の宣言でもしようものなら、間違いなく父さん率いるコンラート公爵軍との戦争になるだろうしね。
なので当然ながらウェンティのフルーツや製品で作る利益は、ウェンティの人達に還元したい。
名前も覚えていない僕をバカにしてきた商人や、王都に向かった際に何度か顔を合わせたでっぷりと太った商人達ではなく、このウェンティに根ざした誰かに儲かってもらいたいのだ。
今居る商人達をまとめ上げ、今後やってくる王国商人達に負けないだけくらいに頑張れる人。
僕はそんな人を、一人しか知らない。
砂漠の民のために赤字が出ようとも自ら身銭を切って交易をしてきれたランさん。
ウェンティに根付く商人に最も相応しい人は、嘘偽りなく彼女だと思っている。
なのでここ最近は、ウェンティに戻ってきてくれたランさんになるべく顔を合わせるようにしていた。
一緒に食事を取ることなんかは問題なく受けてくれるんだけど……いざ本題に入ろうとすると、ランさんはそれ以降まったく話を聞いてくれなくなってしまうのだ。
たしかに忙しくなると思うし、今と比べたら自由度も減ってしまうとは思うけど……それでも僕はランさんにやってもらいたい。
なので僕は熱意をもって、説得に当たらせてもらっていた。
「ヴァルさん、お久しぶりです」
「ウッディ様こそ。お噂はかねがね」
ヴァルさんが率いるCランク冒険者パーティー『白銀の翼』は、ランさんが必ず連れている護衛だ。
必然ランさんとの絡みも多く、色々と彼女の事情を知ってもいる。
何度か色々と正攻法を試して、見事全て失敗に終わっている。
なので搦め手……というわけじゃないけれど、護衛であるヴァルさんを食事に誘うことにした。
どこかに糸口がないものだろうか……。
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