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問答無用


 山賊に海賊と呼び方は色々あるが、賊――つまりは他人の財産を奪う者達というのは基本的にはどんな場所にも現れる。


 食い詰め追い詰められた者がそれでも生きていこうとするのなら、真っ当な道など選んではいられないからだ。


 農家が一年かけて必死に育て上げ、収穫された小麦。

 その成果をたった一度の襲撃で奪う喜びを知ってしまえば、もうまともな生活に戻れるはずもない。


 この砂漠での生活は辛く苦しい。

 鼠だろうが魔物だろうが食べられる肉であればなんでも食べるし、水なんて一滴すら無駄にはできない。

 故に何か飯の種になりそうなものがあればすぐさま飛びつく。


 何かが起こった時に躊躇しないのが、砂漠を根城にする盗賊達――砂賊の生き方だった。

 


「おいおい……なんだぁ、ありゃあ」


「だから言ったじゃないっすかお頭! 本当にオアシスと村ができてるって!」


「ああ……正直お前の駄法螺だとばかり思ってたぜ」


 砂賊の親玉――カディンは目を細めながら、目の前に拡がっているあり得ない光景を観察する。


 ――カディンは今朝、部下の一人から信じられない報告を受けた。

 なんと砂漠の外れの方に、急にオアシスができたというのだ。


 オアシスというのは、一日や二日でできるようなものではない。

 そこに水源があり、水の恵みを受けられる樹木が育つことで初めて生まれるものなのだ。


 そんなふざけた報告をする部下は斬り殺してやろうかとも思ったが、彼は砂賊の頭である。

 人員補充が利かない砂漠で、むやみに部下を殺すのは上手くない。

 時にはリーダーとして余裕のある態度も見せなくては、部下はついてきてはくれないからだ。


 故に部下の間違いを許してやるボスとして振る舞うため、彼はわざわざ報告の場所までやってきた。

 けれどこうして実際に来てみれば、事実は小説よりも奇なり。

 本当に今までなかった場所に、見知らぬオアシスができているではないか。


(たしかここには村があったはずだ)


 けれど以前カディンが見たときと比べると、その様子は様変わりしている。

 今の村には木々が青々と茂り、そして瑞々しい果実を実らせているからだ。


 ごくり……という生唾を飲み込む音は自分のものか、それとも部下達の中の誰かのものか。

 それがわからなくなるほど、カディンは目の前の光景に目を奪われていた。


「これだけのオアシスに果樹……あれだけ木々が育つんなら新しい水源が見つかったんだろう」


 この砂漠において、水資源は何よりも重要だ。

 水は高値で売れるし、水さえあれば基本的にはどんな物々交換にだって応えることができる。

 その時の降雨量や水魔法使い達の居場所にもよるが、鉄資源などよりも水の方がよほど高値で取引できることも多いのだ。


 つまりあのオアシスは――正しく宝の山。

 あの有り余る水源とフルーツを上手く利用することができれば、ここら一帯を牛耳ることもできるだろう。


(いや、そんなもんじゃねぇ。あれだけの場所が俺様のものになれば、それこそ砂漠を纏め上げる王にだって……じゅるり)


 思わずよだれがこぼれそうになるのを必死に抑え、カディンは手に持った曲刀を強く握った。

 今の彼の目は、完全にお金のマークになっている。


 そして彼の部下達も多かれ少なかれ、似たような状態だった。

 目の前に極上の獲物がぶらさげられていて、奮わない砂賊はいない。


 高く掲げた曲刀が、強い太陽の光を浴びてキラリと輝く。


「行くぞ野郎共ッ! 今日からあの場所は――俺らのもんだっ!」


「「「うおおおおおおおおおおおっっ!!!」」」


 カディンを先頭にし、砂賊が動き出す。

 雄叫びを上げながら駆け出す彼らの目には、明るい未来しか映っていなかった。


「浅ましいな……他人から盗るよりも自分で築き上げた方が、何百倍も価値があるというのに」


 チャキリという音が聞こえたかと思うと、向かっている三人の男が意識を失った。

 欲に眩む男達は鯉口を切る音にも気付かず、ただただ前を目指していく。


「ウッディが作ろうとしている優しい世界。それを壊すというのなら――私は一切、容赦はしない」


「うおっ、なんだっ!?」


 吹き付ける突風に、砂賊達はたたらを踏んだ。

 そして――『剣聖』が暴威を振るった。


「ぐっ!?」


「ぐわっ、なんだ――!?」


「ひ、ひいいいいいっっ!」


 砂がめくれ上がり、人体がボールのように吹っ飛んでいく。

 カディンは事態の深刻さに気付くが、もう遅かった。


「ま、待て、助け――」


「問答、無用ッ!」


 剣がカディンへと襲いかかる。

 素養も持っておらず一般人にしては高いという程度の戦闘能力しか持っていない彼に為す術はなかった。


 ガクリ、と脱力し意識を失う直前にカディンが聞いたのは――。


「安心しろ、峰打ちだ」


 そう言って剣を鞘へと収める、女の声だった……。


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