横顔
「ちゃ、チャンス? 一体どういうことだ(ぼそっ)」
「私もまぜてください(ぼそぼそっ)」
さびしかったのか、小声で話し合う僕らに混ざり合おうとぼそぼそし出したアイラのことは軽く頭を撫でて放置して、僕はナージャとの会話を優先することにした。
「このダンジョンを含めてマグロス火山全域を、ウェンティに編入させちゃおう」
「そんなことして大丈夫なのか? ダンジョンの管理は実入りも大きいが、かなり危険だ。もしものことを考えたら……」
「ビスさん達の上の世代みたく、資源を独占しようとする砂漠の人達に管理されるよりその方がよっぽどいいと思う。それにダンジョンがあるのなら――交通の便のせいでなかなか人が寄りつきづらかったウェンティに、人を呼び込むことができるものができる。冒険者の誘致もできるから、冒険者ギルドの支部を立てることもできるはずだ」
「そ、それはたしかに……つまりダンジョンの諸問題さえ解決してしまえば、良いことづくめというわけだな」
「うん、だから僕としては……」
「私も仲間に入れてくださいよ、ぼそぼそぼそぼそぼそっ」
「――わあっ!? ちょっとアイラ、耳元でそんなにぼそぼそ言わないでよ!」
耳元でものすごい勢いでぼそぼそされた。
こそばゆくなったのでたまらず身体を震わせてから、後ずさる。
はぁはぁと息が荒くなっていたので、一旦深呼吸をして心を落ち着けてから改めてドワーフ達の方へ向き直る。
「もしよければこのマグロス火山を、僕の領地――ウェンティに編入させてはもらえませんか? ここを僕の領地という形にしてしまえば、ダンジョンの管理は僕が代わりに行います。ビスさん達ドワーフにはこちらで働き続けてもらってもギネアに来てもらってもいい形になるので、選択肢が増えると思いますし。……あ、もちろんこちらの鉱物が必要ということであれば、取り寄せることもできるようにします」
「そんな至れり尽くせりな……あまりに我らに有利過ぎる取引のような気がするが、本当にいいのか?」
「ええ、実は今僕達は、腕のいい鍛冶師や細工師を探しておりまして。それを引き抜くためには、手段は選ばない所存なのです」
「そこまでしてくれるなら……期待に応えなくてはならないな」
ビスさんが差し出してきた手に、僕も手を差し出す。
握手を交わすと、彼の腕力は万力みたいに強かった。
昨日、真っ向勝負で戦わなくて良かった……そんなことしてたら、身体のどこかがもげちゃってたかもしれない。
僕達が握手を交わしているのを見たドワーフ達が、快哉の声を上げた。
どこかから「宴だ!」という声が上がる。
宴……というか酒が三度の飯より好きなドワーフ達がそうだそうだと騒ぎだし、気付けば昨日と同じ感じで酒宴に入ろうと酒を探しに行こうとする者達が出始めていた。
その背中を見て、僕は慌てて彼らを止める。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ肝心な部分が終わってませんよ!」
隣ではぁ……とため息を吐くナージャ。
「本当にこんな奴らが、使える職人なのか……? 私は非常に疑わしいぞ、ウッディ……」
「うん、大丈夫……だと思うよ。腕は確か……なはず」
二日間彼らを見ていたことでついつい工作技術以外の色々な駄目なところに目がいってしまうけど、職人であれば大切なのは作る製品のクオリティだ。
大丈夫……だよね?
酒が飲めなくて残念がっているドワーフ達を見ると、誘っている僕もなんだか不安になってきたよ……。
とりあえず気を取り直して、まず最初に避難の準備をしてもらおう。
そしてそこから先は――。
「とりあえず溜まりに溜まった魔物を狩っていこう。頼んだよ、ナージャ」
僕の言葉を聞いたナージャが、きょとんとした顔をする。
そして一瞬のうちに気を引き締め直し、
「ああ――任せておけ、ウッディ! ここ最近腕が鈍って仕方なかったからな!」
そういって快活に笑う。
その凜々しい横顔の美しさに、僕は思わず見とれてしまうのだった――。
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