表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/167

マグロスレスリング

「ウッディ様、一つご忠告を」


「何かな?」


「ドワーフはめちゃくちゃ脳筋でお酒が大好きです。なので力比べと飲み比べは断らないでください」


「なにそのアドバイス!?」


 非力でお酒にも弱い僕が来たのは間違いだったかもしれない。

 そんな風に思ってしまうほどに、現れた三人のドワーフ達の身体はできあがっていた。


 身長は僕の首下あたりだろうか。

 上背はないんだけどその分筋肉がすごい。

 離れているここから見てわかるほどの、ガチガチの上腕二頭筋。

 たしかにずんぐりむっくりなんだけど……足や腕の筋肉量がすごいな。

 仕上がってるっていうのは、彼らみたいな状態のことを指しているのかもしれない。


 裸にサスペンダーという非常にワイルドな格好をしていて、重たそうなハンマーを肩に掲げている。


「む、なんだお前らは?」


 現れたドワーフのうち真ん中に立っていた一人が前に出る。

 どうやら彼がリーダーらしく、一際筋肥大がすごい。


 彼はぎょろりと僕らを見回して、そして後ろの方に視線を固定させた。


「おお、ミリアではないか! 剣の使い心地はどうだ!?」


「ビス殿、お久しぶりです。相変わらず物凄い切れ味で助かっていますよ。細かく手入れはしているのですがやはり完全に傷を消すことはできず……よければ後で様子を見てほしいのですが」


「もちろん、生み出した剣は我が子も同然。いやぁ、しかしこの『蒼丸』は作るのになかなか難儀をしてなぁ。そもそも純度の高い玉鋼を用意するのにとてつもない時間がかかり、更にそれらを親和性の高い素材を探すためにいくつも無駄にせにゃならんかった。更に言うと鍛造の時の重ねがなかなか難しくて……」


 ビスと呼ばれているドワーフのリーダーが、怒濤の勢いで話をし始める。

 完全に自分の世界に入ってしまっているようでその口調には熱がこもり、時折楽しそうにウェヒヒと不気味な笑みさえ浮かべていた。


 ほ、本物の職人だぁ……。


 ちょっと目がイっちゃってるけど、これほど何かに熱中できるというのはなかなかに得がたい才能に違いない。

 僕は彼が言っていることをかみ砕いて少しでも理解すべく、頭を回転させながら必死に話を聞かせてもらうことにした。


「この竜蝦蛄の鱗を砕いてから炉にくべてだな……」


「ほうほう!」


「鍛造はすればするだけいいというものではない。粘り気と堅さを両立させるためには、極めて精密なバランスを成り立たせる工夫が必要で……」


「なるほどなるほど!」


「――というわけで、この『蒼丸』を作るためにはとてつもない時間と労力がかかった、というわけよ!」


「そうだったんですね、すごいです!」


「おうおう、話のわかる坊主ではないか」


 ビスさんはバンバンと僕の肩を叩いてくる。

 その手はとっても大きくて、そしてとんでもなく硬かった。


 見れば手のひらのあちこちに、剣だこのようなものができている。


 槌を叩き続けた男の手だ。

 形だけ見れば不格好かもしれないけれど、僕にはそれがとても美しいものに見えた。


 一生懸命話を聞いているうちに、気付けば僕はビスさんのファンになってしまっていた。


(なんとしても彼に領地に来てほしい)


 そんな風に強く思ってしまうほど、僕は彼のことを気に入ってしまった。


「で、坊主達は何をしに来たのだ?」


「はい、実はですね……」


 僕は自分の正体を明かした。

 僕がウェンティの領主であるということを知るとビスさん達は流石に警戒した様子を見せたけれど、それから僕が構想しているプランを熱っぽい口調で語っているうちに、その警戒心はなくなってしまっていた。


 神鼠であるホイールさんによって自由自在に鉱石を生み出すことができるギネアの街の素晴らしさ。

 更にドワーフ達に解放しようとしている高炉の存在。

 そして彼らが食料で困らないように、高い給金とフルーツや麦などによる食糧支援の申し出。

 食料生産的には問題ないため、職人のドワーフだけじゃなくその妻や子供だってまとめて面倒を見るつもりでいること。


 それを聞いたビスさん達ドワーフが唸る。


「本当にそんな理想の環境があるというのか……?」


「もしかしたら我々を騙そうとしているのかも……」


「ビス殿、それは否定させてもらおう。実は我らダークエルフも、既にウッディ様にお世話になっている身でな」


 ミリアさん達は既にギネアの街にエルフがいることだけは奇妙に伏せながら、自分達の現在の境遇について語ってくれる。

 彼女の真摯な話を聞いて、どうやら嘘ではないらしいとわかってくれたようだった。


「なるほどな……たしかに今よりも良い環境で鍛冶ができるのは間違いない」


「はい! もちろんです! それなら早速――」


「だが我らマグロスの氏族はそう易々と頷くほど安くはない。対等な話し合いをするのは、我らに並び立つことができる剛勇を持つ者のみと決めている」


「おうっ! なのでここは一つ……」


「マグロスレスリングとしゃれ込もうではないか!」


 ――何さ、そのよくわかんない競技は!?

 え、もしかして……僕がやらなくちゃいけないの、それを!?

短編を書きました!

↓のリンクから読めますので、そちらもぜひ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ