ドワーフ
僕はミリアさん達に話を聞かせてもらうため、一度ツリー村に戻ってきた。
僕はミリアさん率いるダークエルフ達の居住地区へとやってきた。
ダークエルフ達の中には狩人として活動してもらっている者も多く、現在ではサンドストームに入隊してくれている人も何人もいる。
全員が戦士であるというダークエルフ達は訓練ができる場所がいいと希望していたので、サンドストームの兵舎にほど近いところに住居を構えてもらっている。
ミリアさん達が集落に居たダークエルフ達を一人残らず連れて来たため、既にツリー村のダークエルフの人口は五十人近くいる。
うちには食糧問題はないので、これくらいの受け入れならもうお手の物だ。
今ではミリアさんやルルさん経由で別のダークエルフ達も呼んでいるので、多分将来的にはもう少し数は増えるだろうというのが僕の見込みである。
ダークエルフ専用の住居区画を作らなければいけなくなった時のてんやわんや状態を思い出し、またあんな感じになるのかなぁと考えながらミリアさんの家に近付くと、誰かが出てきた。
「ウ、ウッディ様、こんにちは!」
出てきたのは、ガチガチに緊張している様子の男の子だった。
見た目は僕と同じくらいだけど、ダークエルフだから多分年上の子だろう。
耳が少し短めなので、もしかするとハーフだったりするのかもしれない。
ダークエルフの人達はサンドストームの人達と同様、どうにも僕を神格化しすぎているきらいがある。
僕としてはもうちょっと適度に気安く接してもらえるとありがたいんだけどなぁ。
「ミリアさんはいる?」
「ミリアは今留守です、狩りに出かけております! 戻るのは日暮れの午後五時頃の予定です!」
ダークエルフの男の子がカチコチになりながら、恐らく事前に暗唱させられていたであろう文言を告げてくれる。
やや棒読みな台詞を耳にしてから時計を見る。
時刻はまだ午後三時、ここで待っていてはちょっと時間を持て余す。
「それなら適当にツリー村の視察でもしながら時間を潰そうか」
「お供致します」
僕はダークエルフの男の子に別れを告げ、一度ツリー村の中心部へと向かうことにした。
既に時刻は午後三時を回っている陽光は弱まる頃だけど、ツリー村の人達の熱気はまったくといっていいほど衰えていなかった。
現在ツリー村は人口が増えてきたことで、区画整理が進んでいる。
当初住んでいた人は村の中心部で暮らしており、そこから新しくやってきたものがその外側に住んでいくような形になっていて、ハウスツリーが放射状に広がっている。
だったら中心部が一番栄えているのかと言われると、決してそんなことはなく。
最近世界樹の実やピーチ軟膏、ウェンティ印のフルーツなど色々と売れる商品を商い始め、きちんと儲かることができるようになっているランさんが構えている商店の付近が一番人通りが多くなっている。
そのあたりにウェンティのフルーツを使ったスイーツを出したりする店やちょっとオシャレなパン屋さんなども出店しており、恐らくはあそこ一帯がツリー村の目抜き通りになっている。
現在、ウェンティの住民の数は大きく増え続けている。
いざという時の決戦のためということで、僕がなりふり構わず奴隷を購入しては解放したり、未だ編入を渋っていた砂漠の民をじゃんじゃかウェンティへと連れて来ているからね。
そのおかげで得ることのできる笑顔ポイントは現在では既に3000を超えており、今ではポイントの枯渇を気にすることなく力を使えるような状態になっているし、選定した枝木以外にも樹木のうちのいくつかを木材として住民達に提供できるくらいの余裕が出てきた。
人が増えれば、その分だけ問題も発生する。
最近ではあまり村の人達の陳情が上がらなくなってきているけれど、きっとマトンが僕の知らないところで作業の効率化をしてサボってくれているおかげだろう。
そして人が増えるのは、何も悪いことばかりではない。
歩いてると金属を叩くカンカンという甲高い音が聞こえてくる。
外から覗いてみると金物屋のようで、鍋からフライパンまで色んな商品が並んでいた。
採れた鉄は、こんな風に人々の生活に使われているんだ。
目抜き通りを抜けると、井戸端会議をしている主婦の方がいる。
少し外れたところにいくと、解放奴隷であり現自由民の皆がせっせと労働を行っていた。
この村はどんどんと大きくなっている。
規模的にはそろそろ、村を卒業して街に足を突っ込んでいるかもしれない。
そしてあまりにも渾然としていて、今後どんな風になっていくのかは今の僕には想像もつかない。
「こっちとか、ちょっと路地が入り組みすぎてるね」
「死角や人目につかない場所が結構多いですので、今後不心得者が流入して治安が悪化した場合、少し危険かもしれません」
「もう少し区画整理、ちゃんとしないとダメかもなぁ」
こうして視察をしていると、色々なことが見えてくる。
僕は上から強引に何かをするのはあまり好きではないので、基本的に下からの意見はなるべく吸い上げて、可能な限り採用するようにしてきた。
でも色んな意見を取り入れすぎたせいで、なんか全体的にごちゃっとしすぎてるかも。
なるべく反感が出ない形で、もう少し外観とかを調整する必要がありそうだ。
マトンに言っておかなくちゃなぁ。
皆に納得してもらうために、シェクリィさんに調整役をお願いする必要もあるかもしれない。
「植林を順調に進めて、いずれはウッディ様が力を使わなくても暮らしていけるようにしなくてはいけませんね」
「そうだねぇ。できれば息子には、何もしなくても上手く運営していける領地を渡さなくちゃいけないし」
「息子、ですか……」
『植樹』の力が子供に引き継がれるかは完全な未知数だ。
そして僕は父さんのように、子供の扱いを素養で変えるようなことはしたくない。
だから僕は子供が大きくなるまでに、『植樹』の素養がなくてもなんとか回っていくような村作りを目指すつもりだ。
製鉄業は、自給自足や外貨獲得のために必要不可欠なステップ。
気を抜かずに挑まなくちゃいけない。
そんなことを考えているうちに、ミリアさん達が狩りから帰ってきた。
疲れているところに申し訳ないと断りを入れてから、話を聞かせてもらうことにした。
するとミリアさんとルルさんは、こくりと頷く。
「ええ、うちとドワーフは交流がありましたので住んでいる場所も知っていますよ。何かが起きていなければ、ドワーフは私達が住んでいたより更に北にあるマグロス火山というところにいるはずです」
交流があったというのなら話は早い。
僕達は領内で発生しつつある鉄のだぶつきを解消するため、急ぎドワーフ達とアポイントを取るための準備に奔走することになった。
――ドワーフというのは、エルフやダークエルフ達と同じ亜人のうちの一種族だ。
その特徴はずんぐりむっくりな体つきと、力の強さ、そして手先の器用さにある。
男の場合は巌のような筋肉だるまのひげもじゃおじさんになり、女性の場合は成人を過ぎても幼女のような見た目になるのだ。
彼らの中には鍛冶を得意とする者が多く、ドワーフは寝ている時でも金槌を握っている、なんて言われるほど。
ドワーフが作った逸品だというだけで価値が上がるほどであり、ある種のブランドとして作用するほどの効果を持っているのだ。
彼らを味方につけることができれば、たしかに鉄のだぶつきは解決してくれるだろう。
それが細工師であるにしろ、武器や防具を作る鍛冶師であるにしろ、鉄を使う加工品のスペシャリストであることに変わりはない。
できればドワーフも、ウェンティに招き入れてしまいたい。
シェクリィさん達ウェンティの有力者達に話し合いをしてみたところ……
「いいのではないでしょうか? ギネアの振興を考えれば鉄の加工業は今すぐにでも発展させるべきですし」
「また私の仕事が増えますね……なんとかして他人に任せなければ!」
「鉄が使えるようになるのは良いことなのは間違いない!」
シェクリィさんやマトンさん、ジンガさん達を含め、皆が賛成だった。
自分達の中の世界で長い年月を積み上げてきたエルフやダークエルフ達と違い、ドワーフは比較的人間と共に歴史を歩んできている種族である。
実際、アリエス王国の中でもドワーフはそこまで珍しいわけではない。
ドワーフは基本的に人間との交流を絶つことがない。
なぜかと言うと、ドワーフ単体ではそこまで高い製鉄技術を持っていないからだ。
彼らが納得する水準の製品を作るためには、鉄の加工品に対する高い需要から日々生産性や質の向上に努めている人間側の技術が不可欠なのである。
「何かドワーフ達を引き込めるようなものを用意できるといいんだがな……」
そう言って頭を悩ませてるナージャ。
なんとかしてドワーフを、自領に引き入れることができないか。
それは王国中の貴族という貴族が全員頭を悩ませている問題だったりする。
彼らはどちらかと言えば職人気質で、自分が好きなことを突き詰めることを好む。
エルフにも増してこだわりが強く妥協ができない彼らは、基本的によほどの条件を出さない限り力を貸してくれることはない。
彼らはそもそも金銭に無頓着な者が多く、稀少素材を買うためのものくらいにしか思っていない節がある。
ドワーフが求めるのは自分の技術を高めることができるだけの素材と環境だ。
僕も攻める糸口があるなら、そこだと思っている。
実際王国の中にはドワーフが開いている武器防具屋なんかもある程度存在しているらしいし、中には貴族に仕官しているお抱え鍛冶師なんかもいると聞く。
ドワーフの誘致は、決して不可能ごとではないと僕は思っているのだ。
「というか、ドワーフを引き抜くだけなら、結構簡単だと思ってるんだよね」
「何だと!? もしかして何か妙案でもあるのか、ウッディ?」
「うん、まあ妙案っていうほどのものでもないけど……要は最高の仕事場を提供できればいいわけじゃない?」
ドワーフが求めているのは各種金属と、高温での加工に耐えることができる炉だ。
前者については、ホイールさんにお願いをすればいい。
ある程度時間をかければ好きな金属を生み出すことができるようになるという話だから、金属素材に関しては鍛冶職人としてそれ以上は見込めないくらいの好待遇で迎え入れることができるはずだ。
好きな素材を好きなだけ使えるなんて、他ではありえないと思うしね。
それと後者の炉の問題だけど……これは僕がかつていたコンラート領で使われている、高炉という秘匿技術を使って解決しようと思う。
これは簡単に言うと、従来よりも耐熱性の高い素材を使ってより高温での作業を可能とする炉だ。
純度の高い鉄を作ったり、ミスリルやオリハルコンといった魔法金属を融解させるには、この高炉の技術が使われている。
その肝は炉に使われる耐熱レンガにあり、僕はよくわからないけれど耐熱レンガをレンガの中に混ぜ込むことで作ることができるようだ。
この説明を聞く度にいつも思うんだけど、これって一番最初の耐熱レンガはどこからやってきたんだろう。
って、それは今はいいか。
父さんから使用の許可は既に出ていて、そのための耐熱レンガのいくつかは既に保管してある。
全部の炉に使えるほどの量がないため使いどころを考えていたんだけど……ドワーフを引き抜くことができるのならここが使いどころだと思う。
「腕の良いドワーフ達に使ってもらえるなら、高炉もそっちの方が嬉しいだろうし」
「炉がどう思うかを考えるのはウッディぐらいだと思うぞ……」
「でも、ウッディ様らしいです」
というわけで僕らはこの二つのカードを持って、ドワーフへ殴り込みをかけることにした。
「その前に、エルフ達への確認ですね」
「うん、今日アカバネさん達がいるのは確認してるから、今から行っちゃおう」
ドワーフの誘致にあたって一番難点となるのは、やはりエルフ達のことだ。
エルフとドワーフが犬猿の仲だというのは、亜人についてあまり詳しくない人達であっても知っているくらい有名な話。
僕らは念のためにアカバネさんとアポを取りにいき、大丈夫か伺いを立てておくことにした。
一応エルフの交流団の中では、彼がリーダーになるから、その方が後々の話もしやすいだろうしね。
「ふむ……まあ居住区画を分けて、問題を起こさなければ問題はないと思うでござるよ。もっとも、エルフの中にはドワーフのことを土踏みなどと呼ぶ輩が未だにいるのも事実でござるが……」
こないだウテナさんが言っていた土踏み……あれってドワーフのことを指す言葉だったんだ。
ウテナさんとドワーフを近づけたら間違いなく喧嘩するだろうな……うーん、やっぱり人員の交代を打診すべきかな?
「ウテナさんやメゴさんがドワーフと会っても、問題ないと思いますか?」
「うむ、問題のうござろう。エルフとドワーフの仲が悪いのは、樹木を守ろうとするエルフと伐採して火にくべようとするドワーフのその国民性の違い故。ウッディ殿の力があるこの場所では、きっと口げんか以上のことにはならないと思うでござるよ」
なるほど……そんなものなのかな。
エルフとドワーフは仲が悪いと言い聞かせられてきた僕からすると、ちょっと想像がつかないけど……アカバネさんがそういうなら、きっと大丈夫なんだろう。
「もしエルフのことで難癖をつけられそうになったのなら、まずはこのアカバネを呼んでくだされ。最初に拙者が話を通しておいた方が、他の者達もやりやすいと思うので」
「ありがとうございます!」
ということでエルフ達の許可も無事にゲットした僕らは、北にあるというマグロス火山目指して歩いていくのだった――。




