理解
アシッドの戦闘スタイルはゴリゴリのアウトレンジだ。
彼は素養に任せて大魔法を使い、その圧倒的な火力で敵をねじ伏せる戦い方を好む。
そしてそういった手合いは、僕と非常に相性がいい。
「カオスフレアッ!」
アシッドが魔法を放つのに合わせて、収穫袋から大量のウッドゴーレムを出す。
アシッドの魔法はウッドゴーレムの五体目を貫通したところで、威力を失った。
なんだ、思ってたより威力は高くないみたいだ。
収穫袋からダークウッドゴーレムを取り出し、
「打て!」
アシッドは手加減して戦うことは難しいから、僕の全力で相手をさせてもらう。
ダークウッドゴーレムを収穫袋から取り出し、黒弾を打たせる。
「チッ、ウィンドブラスト!」
アシッドは攻撃魔法で黒弾を迎え撃った。
威力はあちらの方が高いらしく、彼の風魔法は全ての黒弾を打ち落としそのまま真っ直ぐ突き進んでいく。
けれどその先には、既にウッドゴーレムの姿はない。
僕が彼らを再び収穫袋に入れてから、転移を使って距離を取ったからだ。
「それじゃあ次は時間を稼ごう」
百を超えるウッドゴーレムを、転移を使いながらアシッドを囲むように取り出していく。
「テンペストサイクロン! タイダルウェイブ! グランドバインドオオオオオッ!!」
アシッドが彼らを攻撃しているうちにダークウッドゴーレムを遠距離に配置し、ひたすら黒弾を打ち続ける。
ウッドゴーレム達が減ったらその数を戻しつつ、僕は準備を整えていく。
――結合によって出せるゴーレム達には、ホーリーウッドゴーレムとダークウッドゴーレムという新たなバリエーションが増えた。
これらを全て出すことで、僕はフレイザードウッドゴーレムを超える新たなゴーレムを生み出すことに成功していた。
火・水・風・土・光・闇。
六つの属性のエレメントウッドゴーレムを交配、結合させて作り上げる最強のウッドゴーレム。
その名は――
「イリデスントウッドゴーレム!」
ズズゥンと地響きを伴いながら現れたそのゴーレムの高さは、普通のウッドゴーレムよりも小さい。
その体色は虹色に光っており、隣に立つ僕と同じ程度の身長しかない。
けれどその身体はとても重く、土に足がめり込んでしまっている。
なぜかはわからないけれど、ダークウッドゴーレムを掛け合わせると身体が小さくなってしまうのだ。
その分密度が上がるらしく、重さはむしろ増えているんだけどね。
このイリデスントウッドゴーレムを一体生み出すためには、実に14000ものポイントを使用する。
だけどその強さは折り紙付き。
生み出すまでに時間がかかるし収穫袋に収納することもできないけれど、このゴーレムは単体でAランクを超える強さを発揮してくれる。
「行って、イリデスントウッドゴーレム!」
虹色に輝くゴーレムはこくりと頷いて、アシッドの方へ向かっていく。
僕がイリデスントウッドゴーレムを出すことに意識を集中させすぎていたせいで、アシッドは既にウッドゴーレムの輪を超え、ダークウッドゴーレム達に攻撃を仕掛けている最中だった。
「ちいっ!」
流石にアシッドも一目見てそのやばさに気付いたのか、ダークウッドゴーレムへの攻撃を止めて完全にイリデスントウッドゴーレムへとターゲットをしぼる。
炎の槍、氷の刃の雨、鋭利な土の礫……あらゆる攻撃がイリデスントウッドゴーレムへ襲いかかる。
イリデスントウッドゴーレムが手を掲げ、迎撃態勢に入った。
全てのエレメントウッドゴーレムの特徴を持つこの個体は、当然ながら黒弾を放つことができる。
ドドドドドッ!
連発された黒弾が、全ての魔法攻撃を打ち落とす。
「へっ、これでもくらいやがれ――スピットファイア!」
けれどその間にアシッドは攻撃の準備を整えており、超速で飛翔する火魔法を放っていた。 火の鳥を模したその攻撃がイリデスントウッドゴーレムに当たり、貫通する。
けれどさしてダメージを受けた様子もなく、自身の手を空いた穴へと当てた。
すると回復の光が生み出され、みるみるうちにつけられた傷が癒えていく。
当然ながらホーリーウッドゴーレムの性質も兼ね備えているため、回復をするのもお手の物。
フレイザードウッドゴーレムとは違い、戦闘に崩壊するまでの時間制限もないため、使い勝手は格段に向がってくれている。
「なん……だと……っ!? アースニードル!」
アシッドが呆れている間にも、イリデスントウッドゴーレムは接近を続けていた。
その移動速度は速く、あっという間にアシッドに肉薄する。
アシッドは自分の周囲に土の針を生み出して、ハリネズミのように接近を避けようとする。
けれど傷を回復させることのできるイリデスントウッドゴーレムは、自身が傷を負うことも気にせずに攻撃を続けることができる。
振りかぶって放った拳が、見事にアシッドの腹部を捉えた。
「がはっ!」
吹っ飛んでいくアシッド。
彼の目は驚愕に見開かれていた。
そしてこちらに親の敵を見るような視線をくれてから、
「卑怯だぞ、ウッディ! こんな勝ち方をして、恥ずかしくないのか!?」
「うーん……別に? 素養を使って戦ってるだけなんだから、僕とアシッドは同じ土俵に立ってるわけだし」
「ちっ、この卑怯も……ぎゃあああああああっっ!」
僕を罵っている間に、イリデスントウッドゴーレムの二撃目が入る。
遠距離攻撃での火力に関しては右に勝るもののいない『大魔導』の素養だけれど、当然ながら弱点はある。
それは懐に入られてしまうと、使える魔法が一気に限られてしまうということ。
そのためとにかくインファイトに持ち込んでしまえば、遠距離最強という強みは一気に弱みへと変わる。
恐らく抱けど父さんがトリスタン家と関係を持とうとしたのには、この対近距離戦での弱点を克服するためでもあったんじゃないだろうか。
何十年も『大魔導』の素養で戦い抜いてきた彼には、色々と見えているものがあったんだろうな。
少休憩を取ってからアイラ達に確認してみると、一人も死者を出すことなく無事に終えることができたようだった。
なんにせよ、これで万事解決である。
……僕とアシッドの関係を除けば、だけど。
しかし、アシッドがなんでこんな無茶をしようとしたんだろう。
弟ではあるけれど、僕はアシッドのこと、全然知らないんだよな……。
目が覚めたら一度、話をしてみようかな。
僕達は男の子同士だからさ。
戦ったからこそ言えることって、きっとあると思うから。




