激突
「なんだこいつら、強っ――ぐあああああああっっ!!」
突如として現れたゴーレム達。
その身体は縦にも横にも大きく、とても木の陰に隠れられるサイズではない。
アシッドが周囲を確認すると、そこには気を取り込んでめきめきと大きくなっているウッドゴーレム達の姿があった。
(小さなウッドゴーレムを、樹を使ってデカくしてやがるのか!)
ウッドゴーレムの不意打ちを食らったアシッドの部下達が、後方に吹っ飛んでいく。
だが彼らの救護に向かえるだけの余裕はない。
「安心しろ! こいつら自体は大した強さじゃない!」
そういうと配下の一人が、ウッドゴーレムの身体を胴から真っ二つにした。
既に馬から下りている彼は、『剣術』の素養を持っている。
どうやらウッドゴーレム一体一体の硬度はそれほど高くはないらしい。
それを見てそうだそうだと馬上から槍を振り下ろそうとした男達だったが――。
「「「あおおおおおおんっっ!!」」」
「「「ぶうううううううっっ!!」」」
先ほどの剣持ちの男は、飛んできた火炎放射を食らい炎に包まれる。
炎の槍が兵を貫き、水の球が窒息させ、不可視の風の刃が切り刻み、土の穴に落ちて落馬してしまう。
見れば木の影や茂みの間に、動物達の姿が見えていた。
犬に猫、豚にもぐら……ファンシーな見た目のくせに、使える攻撃はなかなかに強力だ。
既にアシッドの部下達は下馬せざるを得ない状態に陥ってしまっており、既に戦闘不能になっているものも少なくなかった。
その様子を見て、アシッドは思わず舌打ちをしてしまう。
「使えねぇ……しゃあねぇ、俺がやるか」
アシッドがゴーレム達へと手をかざす。
「テンペストタイフーン」
彼が放った上級魔法であるテンペストタイフーンが、ゴーレムと動物たちを巻き込む暴風となって吹き荒れる。
精密な彼の魔力操作は、味方を巻き込むことなく敵だけをその颶風の標的にしてみせた。
風は敵と味方をしっかりと区別し、アシッドの配下達はウッドゴーレム達が魔法の嵐に飲み込まれていくのを見つめながら、歓声を上げる。
「戦闘不能になって動けねぇのは……半数程度か。こんな雑魚相手に……情けねぇ」
「も、申し訳ございません!」
「御託はいい……チッ、しゃあねぇか。あんまり得意じゃねぇんだが……」
アシッドが意識を集中させるために目を閉じる。
三秒ほどかけてゆっくりと準備を整えてから、カッと目を開く。
彼がパチリと指を鳴らすと、怪我をした兵達の頭上から光が降り注いだ。
「オールオーバー」
光属性の全体回復魔法であるオールオーバー。
聖なる光は癒やしの波動を伴い怪我や火傷を治していく。
戦闘不能になっている者達も、一応軽く動ける程度には回復した。
「お前ら働け、まだまだここからだぞ」
彼らの前に立ち、再び先頭を行くアシッドが配下達にその背中をみせる。
「「「アシッド様に、続けええええええっ!!」」」
皆が村の中目指して駆けていく。
襲ってくるウッドゴーレム達や魔力攻撃をしてくる謎の魔物達の攻撃を受け、一人また一人と数が減っていく。
最前線で魔法を使いながらなので、アシッドも彼らを回復させる余裕はない。
犠牲を払いながらようやく村の中に入ることができたアシッド一行。
村にたどり着いた時には、既にその数は半数以下にまで減っていた。
彼らはなんとかたどり着いたツリー村へ入り、ぐるりと見渡してから気付く。
「人が居ねぇ、だと……?」
ツリー村の中には、村人が一人としていなかったのだ。
どこにも明かりもついておらず、煙突から煙も出ていない。
先を見通すのも厳しい砂漠の中で、自分達の姿を捉えるのは困難だったはず。
よしんば捉えることができたとしても、そこから一瞬で避難を完了させるのは不可能だろう。
ではなぜ、誰一人として人がいないのだ……。
「うん、僕が避難させたからね」
突然聞こえてきた声に、アシッドがピキリと眉間に青筋を立てる。
その妙に高い声は、彼が何より嫌っている男のものだったからだ。
声のする後方へ、くるりと振り返る。
そしてそこにいる人物を見て、アシッドの顔が憤怒に染まった。
「ウッディイイイイイイイッ!」
「安心して、君の部下は誰も殺してないから」
「むかつくんだよ、この偽善者がああああああっっ!!」
アシッドがウッディへと手をかざす。
そして同じタイミングで、ウッディは頭上に何かを放り投げた。
ウッディ目掛けて炎弾が放たれる。
彼はそれを目の前に出現させたウッドゴーレムで弾いてみせた。
そして……アシッドの後ろで、大量の爆発が起こる。
「「「ぐああああああああっっ!!」」」
後ろを向けば、自分の部下達がやられていた。
威力はかなり高い飛び道具のようだった。
小規模に弾けている何かと、大きな爆発を起こす大きな球形の何か。
みるみるうちに部下を戦闘不能にさせているそれがなんなのか。
目を凝らしてよく見ると……フルーツだった。
「安心して、彼らも殺さないようにちゃんと加減してるから」
「てめぇ……どれだけ俺のことを虚仮にすれば気が済みやがるっ!」
アシッドが睨んでも、ウッディは飄々とした態度を崩さない。
気付けばウッディの隣に、ナージャが立っていた。
そして逆サイドにはアイラが。
「女の影に隠れて、卑怯な手で倒して……俺はお前のそういうところが、大っ嫌いなんだよ!」
「それなら安心してほしい」
そう言うと、ウッディは彼を引き留めようとする二人を後ろに置いて前に出た。
そしてアシッドが初めて見る、気合いの入ったような顔をして……
「ここから先は僕がやる。――サシで戦おう、アシッド」
「てめぇ……舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!」
こうしてウッディとアシッドの戦いが始まった――。