出発
ウッディが収めている領地の情報は、簡単に手に入れることができた。
何せ王国に生まれた新たな領土だ、話し好きの街の住民からいくらでも情報は仕入れることができる。
だが当然ながら街の人間の噂話がついていて、尾ひれ背ひれがついたむちゃくちゃなものばかりだった。
「神獣が暮らしてるだとか、果物が爆発するとか、馬鹿でかい樹が光ってるだとか……んなわけないだろうが、常識でもの考えろよ」
アシッドは現在、貸し切りにした酒場のフロアで演説をしている最中だった。
彼の周りには、南部戦線を共に駆けたアシッド子飼いの兵士達が立っている。
その主立った構成員は貴族の三男四男などであり、兵士達の実に九割以上が素養を持っている。
彼らがアシッドへ向ける視線は熱い。
ここにいるのは皆、コンラート公爵家ではなくアシッドに忠誠を誓っている兵士達である。
アシッドは既に結果を出し、そして最前線で戦い続けてきた。
彼は気前も良く、成果を出した兵士達にはしっかりと報酬を与えてきた。
彼についていけば成り上がることができる。
そう信じることができるだけのカリスマ性が、たしかにアシッドには備わっていた。
「アシッド様、だがなぜそんな噂ばかりが横行しているのでしょうか?」
己の副官であるカリオンの言葉に、アシッドは頷いた。
二人の言葉に、口を挟む者は居ない。
ここにいるのは二人で選別を行った、今回戦場に同行した中でも特にアシッドへの忠誠心の高い者ばかりだ。
コンラート公爵にバレる前に動き出さねばならぬ関係上、父に報告する可能性のあるような自家と関わりの深い者は避けている。
平均年齢もかなり若めであり、中には貴族家でない者すら少なくない。
「ウェンティの領地に関しては、やってくる情報やってくる情報全てが荒唐無稽でむちゃくちゃなものばかりだっただ。だがこれは恐らく、情報攪乱の一種だろう」
戦場においても、自軍の実数を知られないように虚偽を含めた情報を流すのは良くあることだった。
ウッディは下手に自分達の内情を知られないように、大量の嘘や過大なを交えて情報を拡散しているのだろう。
なかなかにこしゃくな真似をする。
「だがそれはつまり、知られたら困るようなもんがあるってこと……つまりウェンティはたしかに食料生産はすげぇのかもしれねぇが、実際の戦力は大したことがねぇってことだ!」
彼の言葉に、部下達がそうだそうだと気炎をあげる。
気合いが入っている部下達の様子を見て、アシッドの顔に笑みが浮かぶ。
そうだ、自分は間違っていない。
正しいのはこの俺様だ……。
(及び腰の父上から許可が出ることはまずないだろう。だが出発してから気付いてももう遅い。その時には俺が全てを終わらせているからな)
アシッドには勝算があった。
向こう側に村があるといっても、所詮は砂漠にある寒村。
大した兵数もいないだろうし、奇襲をして数を減らしてしまえば問題はない。
生産系の素養であるウッディは戦力になるはずがないので問題外。
向こう側の戦力で気を付けなくてはいけないのは、『水魔導師』のアイラと『剣聖』のナージャの二人だけだ。
まずは速攻でアイラを潰し、そのままナージャとやり合えばいい。
どちらと戦っても、一対一であれば負けるはずがない。
部下達が時間稼ぎさえ二人と同時に戦うことさえ避けてしまえば、アシッドに負ける道理がないのだ。
「行くぞ野郎共! 俺たちの公爵領を取り戻すんだ!」
「「「おおおおおおおおっっっ!!」」」
こうしてアシッド達は、公爵が気付かぬうちに領都を抜け出し、ウェンティへと出発するのであった――。
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