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【第3巻6/10発売!】スキル『植樹』を使って追放先でのんびり開拓はじめます  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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イラつき

「――ちいっ! イラつくイラつくっ!」


 自室に帰ってきたアシッドは、手当たり次第に目に付いたものを壊し始めた。

 家具を風の刃で切り刻み、意味もわからない表現技法で描かれた絵画は燃やし、壁には殴って穴を空ける。


 けれどどれだけものにあたっても、アシッドの機嫌が良くなることはなかった。


「ふうううううううっ……」


 自室をめちゃくちゃにして、ベッドのシーツを切り刻んだところで、アシッドは少しだけ冷静になることができた。

 後ろを見ると、ヒッという声が聞こえてくる。


 見ればそこには、自分と同じ年かさのメイドがいた。

 今まで見たことのない顔だ。恐らく新たに入った新人だろう。


 大きな音がしたために様子を見に来たものと考えられる。

 アシッドの癇癪の最中には人を寄せ付けぬというコンラート家の掟を知らぬ娘のようだ。


 そういえば……とアシッドは手付けにしようとしていたメイドが一人、屋敷を抜けたことを思い出す。

 ウッディについていったあのアイラとかいうメイドだ。

 アシッドが誘い出そうとしてものらりくらりとかわされるが故に、結局のところ手込めにすることもできなかった。


 こちらをぷるぷると震えながら見つめるメイドを見る。

 嗜虐心に任せて乱暴を働こうかとも思ったが……やめた。


 今は女などにうつつを抜かしている場合ではないからだ。

 アシッドはメイドの下まで駆け寄ってから、彼女の頬を思い切り叩いた。


「出て行け! 俺の許可なくドアを開くなど、どういう了見だ!」


「は、はいっ! 大変申し訳ございませんでした! 失礼致します!」


 部屋が丸見えになっていたのはアシッドがドアを破壊したからなのだが、メイドは何一つ口答えはせずに、赤く腫れた頬に手を当てながら走って去っていった。


 再び一人になれたところで、アシッドはどかりと椅子に倒れ込む。

 手を後ろに回し、上体を反らしながら机の上へと足を載せる。

 履いているブーツの底を机にぶつけるとカツカツと音が鳴った。


 舌打ちをしながら、ポケットに入れている飴を舐める。

 糖分だけは、いつどんな時も自分を裏切らない。

 ものに当たって甘いものを食べれば、アシッドは何時だって冷静な自分を取り戻すことができるのだ。


「父上の軟弱なこと……流石に息子の俺といえど、あきれ果てる」


 たった紙ペラ一枚だけで怖じ気づくとは、王国の杖とまで呼ばれるコンラートの当主としてはあまりにも惰弱な態度である。


 周囲からの軋轢というのなら、既に南部地域を併合しようとしている時点で生まれている。

 元からコンラート公爵領であった場所を再占領するだけのことが、それほど大きな問題になるはずがない。

 あれが王国の杖とまで呼ばれる父の姿なのか!


 先ほどの猛禽のような瞳を思い出してから、首を振ってそのことを頭から追い出す。

 あんな男、何するものぞ。


 一に武力に二に武力がコンラート家の家訓だろう。

 あんな男に認められようと思っていた自分が馬鹿らしくなってくる。


「それに父さんだけじゃねぇ国王も……あの樹を植えるしか能がないカスに何ビビってやがる!」


 アシッドがここまでブチ切れている一番の理由は、当然ながら元嫡子であるウッディにある。


 アシッドはウッディのことが大嫌いだ。


 自分は平和主義者です、みたいないかにも人畜無害な顔をしながら、アイラのことはしっかりと連れていくその浅ましさ。

 ただ一番最初に正妻から生まれたというだけでちやほやされ、将来を嘱望され、両親の愛を一身に受けてきたというその運の良さ。


 全てが嫌いで、憎んでいて、疎ましく思っていた。


 父には何度そのうちの十分の一でいいから、アシッドとその母を愛してくれと何度も思った。

 けどその願いはただの一度も、叶うことがなかった。


 屋敷住みは許されず離れと離宮での生活を余儀なくされてきた生活も、あの博愛主義者の自己満足に心底うんざりする生活も、『大魔導』をもらったあの日に終わりを告げた。

 そう思っていたというのに……。


「なんで嫡男になってまで、あいつのウザい顔を思い出さなくちゃならねぇ……」


 いつもヘラヘラとした笑顔を浮かべているあの偽善者のことを思い出すだけで、イラついてくる。


 けれど彼の冷静な部分は、こうしている間もしっかりと考えを巡らせていた。


「しかしあの偽善者が国王を簡単に説得させることができたとも思えねぇ……いや、そうか! 後見人であるトリスタン伯爵も一枚噛んでるとなると……チッ!」


 次に浮かんでくるのは、自分がどれだけ探しても見つけることのできなかった婚約者の姿だった。


 アシッドはナージャのことが好きだった。

 屋敷の外で彼女のことを一目見かけた瞬間に、一目惚れしたのだ。


 なんとしてでも俺の女にしてやる。

 最初は妄想でしか叶うことはないだろうと思えたその思いは、祝福の儀を受けたあの日から、現実味を帯びるようになった。


 話はトントン拍子に進み、『大魔導』を手に入れ、コンラート公爵家の嫡子にもなることができた。

 だから当然、ナージャは自分の手元に転がり込んでくるものだとばかり思っていた。


「だってのにあのカスは、俺からナージャまで奪っていきやがった! 絶ってぇに許さねぇ……」


 ナージャが消えたあの日、もしかしたらとは思っていた。

 けれどいくらなんでもウッディについていくとは思っていなかったのだ。


 少し天秤にかければわかることだ。

 樹を植えるしかない『植樹』の素養と、コンラート嫡男に相応しい強力な『大魔導』の素養。

 どちらを選んだ方が幸せになれるかなど、自明の理だ。


 にもかかわらずナージャは、アシッドではなくウッディを選んだ。

 その行動は、何よりアシッドの自尊心を逆撫で、心をささくれ立たせる。


「殺す! ウッディは俺が殺し、あいつから全てを奪ってやる! そして俺が――全てを手に入れるんだ! 父さんからの愛も、ウッディが奪い取った女どもも、皆からの尊敬も……全部、全部!」


 目を血走らせ、口から泡を飛ばしながら、アシッドは机に拳を叩きつける。

 こうしてアシッドは父に反抗し、一人でウェンティ襲撃を行う決意を固めた。


 ここからはとにかく時間との戦いだ。

 父上に気付かれる前に、なんとしてでも兵を揃えなければ……。


 アシッドは頭の中でそろばんを弾きながら、早速自分の子飼いの部下達を選び、作戦会議に入るのだった――。


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