スキル
「ウッディ君、一つ提案なんだけど……どうせなら他の貴族達も、ギガファウナの討伐に参加させてみないか?」
伯爵の提案は、なるほど僕の望むものであった。
巨人族というのは、ドラゴンやヴァンパイアなどと同じくこの世界にいる最強種の一角を成している。
それを倒すことができるというのはかなり大きなインパクトになる。
僕らの力を見せつけることができれば、そう簡単に攻め込もうと考えることはなくなるだろう。
更にそこで僕らの村で生産している各種特産品や近頃では採掘量も増えている鉄資源などのやりとりも行っていけば、恐怖と実利の二つで他の貴族達を縛ることができるからね。
けれど僕が想像していた以上に、ギガファウナの討伐は大事になっていった。
その大がかりっぷりは少し怖くなってくるほどで、伯爵の寄子である貴族達の軍の参戦だけにとどまらず、他領からの観戦武官までどんどんと決まるほど。
そのために必要は手続きはどんどんと増えたため、ギガファウナ討伐までに少しの猶予ができた。
そちらで時間がかかっている間に、僕はエルフ達の問題を解決させてもらうことにする。
「これが、ビビの里の世界樹……」
「大きいですわぁ……」
僕らはファナさんの強引なオハナシによって、エルフの里の奥深くにある世界樹への立ち入りを許可されていた。
ちなみに色々と煩雑な手続きが必要らしく、立ち入りを許可された人間は僕だけだ。
こんな言い方をしたのは、今回の同行者にあのリボンを付けた神鼠の女の子のレベッカがいるからだ。
その世界樹の大きさは、僕らのツリー村のそれと比較にならないほどに大きい。
恐らくだけどエルフ達と共に、何百年、何千年という時を歩んできたのだろう。
樹木の周囲の地面には複雑な文様が刻まれ、それを内包するようにとてつもなく巨大な魔法陣が記されている。
どうやらかなり高度な魔法的効果があるらしいけれど、僕にはさっぱり理解できない。
ただなんでも収穫高が増えたり周囲の魔物を寄せ付けなかったりといった、聖域に及ぼす効果を強化する役割があるらしい。
けれどその周囲に巡らせている魔法陣の光と比べると、樹木から発される光はひどく弱々しく見える。
ついている葉もどこか黒みがかっていて、その先端はわずかに黄色くなっている。
「してウッディさん、どのような形で世界樹を治すおつもりで?」
「僕の力とレベッカの力を合わせて、なんとかしてみようかと思いまして」
僕が今回レベッカを連れて来たのは、もちろん伊達や酔狂からではない。
シムルグさんが聖域を作りオアシスを生み出したり、ホイールさんが鉄鉱山を生み出したように、神獣様には地脈を操ってその魔力を利用することができる。
けれど聖域を守護しているシムルグさん達は、聖域を出ることができない。
なので現在でもフリー(って言っていいのかな?)なレベッカを連れて来て、彼女に手伝ってもらうことにしたのだ。
「まずは僕が素養の力を使って色々試してみて、そこからはレベッカに頑張ってもらう形にしようかと」
「微力ながら、私もお手伝い致します」
シムルグさんやホイールさんほどの存在であっても、一度聖域を生み出せばそこから長時間出るのは難しくなる。
現在ビビの里の結界を維持しているファナさんもまた、里を出ることができない状態だ。
もうずっと里の外に出れていないらしい。
里のためとはいえ、あまりにも不憫だ。
それに……ギガファウナ討伐のためには、強力な力を持つファナさんの手も借りたいし、頑張らなくっちゃね。
「よし、それじゃあ……」
今回僕が世界樹をなんとかできると考えている理由は、合わせて三つある。
そのうちの一つ目――樹木守護獣を発動させる。
念じると、脳内に選択肢が浮かんでくる。
【召喚可能な守護獣】
ファイアキャット
ウォータードッグ
ウィンドピッグ
アースモール
脳内に浮かび上がる選択肢を見ながら、考える。
世界樹を再び元気にするために必要な守護獣は一体どの子になるだろうか。
ファイアキャットは樹が燃えちゃうかもだから論外で、同じく風も必要なさそうだからウィンドピッグも除外。
世界樹が枯れかけている理由は水不足というより地脈からの魔力不足の方にあるから……それならアースモールにしようかな。
「きゅうっ!」
「あら、かわいらしい」
「きゅきゅっ!」
ファナさんがパンと手を叩くと、褒められたアースモールは少し鼻高々な様子だった。
それを見て、なぜか悔しそうな顔をするレベッカ。
なんで彼女が悔しそうにするんだろう。
モグラとカピバラって、ジャンルが違くないかな……?
「この世界樹を守護できる?」
「きゅ……」
アースモールが近づいていき、世界樹に触れる。
僕が植えた樹以外でもできるのかはちょっぴり不安だったけど……自信ありげに駆けていったもぐらさんが樹を叩くと、無事ポンッと鋭い爪のマークが世界樹に浮かんでくれた。
「ん、なんだろうこれ……」
マークが浮かぶところまでは僕が知っている通りなんだけど、よく見るとマークの横に十字が切られているのだ。
四分割のうちの一つが、もぐらとでも言っているような状態になっている。
(これってもしかして……守護獣が四体登録できるってことなのかな?)
物は試しともう一匹守護獣を出して登録させてみると……できた。
予想を裏付けるように、今度は十字の右側にモグラのマークが出てくる。
どうせならもぐらで統一するかと、残りの二匹も呼び出して同じく守護の登録をさせる。
「――こ、これはっ!?」
ファナさんが言葉を失いながら見上げる先。
首が痛くなるほどにそそり立っている世界樹が、明滅を始めていた。
樹木守護獣四匹分の加護を得た世界樹の様子が目に見えて変わり始めている。
最初はチカチカッと切れかけのランプのように瞬いていたけれど、その感覚が徐々に長くなっていく。そして数分もすると、最初と変わらぬ光り続ける状態に戻った。
世界樹が発する光は、明らかに強くなっていた。
心なしか葉の緑の鮮やかさも増したように思う。
けれどそれも、考えてみれば当然のこと。
守護を与えればウッドゴーレムは三倍の強さになるのだ。
それが四匹分だから、単純計算なら十二倍のパワフルさを手に入れている。
しかし、樹齢が長いと複数の守護獣が登録できるというのは新たな発見だなぁ。
もしかしたらツリー村の一番大きなあの世界樹なら、二匹くらい登録ができるかもしれない。帰ってみたら、試してみることにしよっと。
「ファナさん、世界樹の様子はどうでしょうか?」
「以前と比べると明らかに元気になっています! そうですね、大体……三百年前と同じくらいでしょうか」
彼女の話では、元気を取り戻してはいるもののまだ全快ではないらしい。
それなら用意していた二の矢三の矢を使うべきだね。
「この周囲に樹を植えても問題ないですか?」
「それは……はい、問題ないですが……」
よし、許可が取れた。
世界樹の周りをぐるりと周り、張り巡らされている魔法陣の外側まで歩いて行ってから、候補地を選定する。
ファナさんにそこなら魔法陣の効果から外れるとお墨付きをいただいてから、僕は『植樹』の素養を使い――新たな世界樹を植えた。
二つ目の策というのは、この地に新たな世界樹を植えることだ。
樹結界が世界樹同士でくっついてより大きなものに変化していくように、世界樹は互いにその力を分け合う……とまではいかないけれど、助け合うようなことができる。
だから一本の世界樹が枯れかけているのなら、別の世界樹を置いておけばいい。
それにこれには、今の問題に対応するじゃない今後のための狙いもある。
もし今後何か問題が起こってあの一番大きな世界樹が枯れたとしても、その頃にはこちらの世界樹もかなり大きく育っているはずだ。
あの魔法陣を見ているから簡単に木の植え替えができるようにも思えないけれど、僕にできることはしておきたくてさ。
それとこっちは言うつもりはないけれど、いざという時のために里の内側にすぐに転移できるようにもしておこうと思ってね。
トリスタン伯爵の時もそうだったけど、転移できる場所は可能なら増やせるだけ増やしておいた方が色々と有効だ。
「こ、これは……」
ファナさんは僕が世界樹を植えるのを見て、言葉を失っていた。
そういえばエルフやダークエルフの人達に、この素養をみせるのは始めてのことだ。
今回ばかりは、流石に素養を使わないとどうしようもなさそうだったからね。
それにしても、とんでもない驚きようである。
「これは……スキル……?」
疑問形なファナさん。
どこからどう見たってスキルだと思うんだけど、なんだか彼女の表情は真剣だった。
尋ねてみると、驚きの答えが返ってくる。
「素養とスキルはまったく違うものなのです。ウッディ殿のそれは素養の域を完全に超えている……これは完全に、スキルに違いありません」
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