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聖域


 歩き出すこと半日ほど。

 樹結界のおかげでサクサク進めた僕らは、昼休憩を挟みながらも無事に集落に辿り着くことに成功した。


「これは……」


「ボロいな……砂の侵食がひどいようだが、まともに修繕もされていないように見える」



 外は砂除けのための砂壁で囲われているのだが、既に虫食いのように穴が空いていたり、崩れている場所が何ヶ所もある。

 崩れている壁の隙間からは、たしかに、村らしきものが見えている。

 けれどその村は、ナージャの言う通りにひどくボロボロだった。


 家屋があるのではなく、テントが疎らに立っている感じだ。

 見ればテントもかなりボロい。


 恐らくは、あらゆることに手が回っていないんだろう。

 人手不足ってことなんだろうか。


 シムルグさんに言われなければ、間違いなく廃村だと思ってたよ。


「とりあえず、行こっか」


「ウッディは私の後ろに居てくれ。何人たりとも後ろには通さん」


「いえ、ウッディ様は私の後ろに。なんならうなじとか、なめ回すように見ていただいてかまいませんよ?」


 ゴゴゴ……と僕の前を行く二人からすごいプレッシャーを感じる。

 なんだか怖くなった僕は、シムルグさんの後ろに行くことにした。


「我の後ろが最も安全なのは間違いないのである!」


 これには流石のアイラ達もぐうの音も出ないようで、僕らは喧嘩をすることなくゆっくりと進んでいくのだった。







 僕らは何事もなく、村の中へ入ることができた。

 見れば住んでいるのは老人や女子供ばかりで、若い男手はほとんどいない。


 徴兵に次ぐ徴兵で、まともな労働力が残らなくなる……公爵領ではよく見た光景だ。

 この村の働き手がいない理由は、どこにあるんだろうか?


 案内された先に居たのは、三十代くらいに見えるおじさんだった。

 シェクリィさんという名前らしい彼は、ここの村長さんだった。


「すまんが、今の我々に旅人の方をおもてなしするだけの余裕はないのだ。申し訳ない」


 砂漠に住む彼らの流儀では、村にやってきた人間はたとえそれが敵であろうが歓待するというルールがあるのだという。


 だが今は食料も水もほとんどなく、それも難しいということだった。

 ちなみに男手が少ない理由は、彼らが近くの現地人の集落と争い、負けたかららしい。


「戦いに負けて男手がほとんどなくなったこの村は滅びゆく運命にある。勝てなかった我らが悪いのだが、子供達の未来を奪ってしまったのはやるせない……」


 砂漠の民は結構弱肉強食なようだ。

 いきなりの異文化に触れてちょっとビビりながらも提案することにした。


 少なくとも僕らが力を合わせれば、子供達のお先が真っ暗な未来なんて簡単に吹き飛ばせるはずだ。


 僕はまず、村長さんに村の皆を集めてもらうことにした。


 その間に、会場設営の準備を始める。


 まず最初に簡単にお腹がいっぱいになるリンゴや桃、梨の樹を植え。

 世界樹を『収納袋』から取り出し、大きな樹結界を作っていく。

 村長さんから聞いていた村人達全員が入ってこれるようなサイズの樹結界を作るには今ある分だけでは足りず、更に数本の世界樹を追加で植えた。


 溜まっていた植樹ポイントは、準備が完了した時にはほとんどなくなってしまっていた。

 けどなんとか完成したぞ。



植樹レベル 4


植樹数 24/30

笑顔ポイント 2(4消費につき1本)


スキル 自動植え替え



 そろそろレベルも上がりそうだなぁなんて考えていると、村人達が続々とやって来る。

 強い陽光を浴びているからだろうか、皆地肌が黒めだ。


 やってきた人達は聞いていた通り、女子供と老人が多い。

 何人かいる若い男達は片目がなかったり身体に包帯を巻いていたりと、生々しい傷が残っている人がほとんどだった。


 ちゃんとご飯を食べることは出来ていなかったのだろう。

 皆血色がかなり悪く、明らかな飢餓状態だった。


「とりあえず言われた通りに皆を集めたが……これはなんだ?」


 シェクリィさんは僕達が入っている樹結界を見て不思議そうな顔をしている。 

 善は急げということで、とりあえず中へ入ってもらう。


「これは……?」


 シェクリィさんを始めとして、大人達はかなり躊躇っている様子だった。


「ねえパパ、砂がバチバチって!」


「わあっ、フルーツが生ってる!」


 好奇心旺盛な二人の子供が、駆けだして僕らの近くまでやってきた。

 どうやら彼らは、シェクリィさんの子供らしい。

 彼らに釣られて、他の子供達もやってくる。


 そして自分達の子供にこっちこっちと引き寄せられる形で、大人達も樹結界の中に入った。

「すごいな、砂がまったく入ってこないぞ!」


「一体ここはどうなってるんだ!?」


 大人達があれこれと驚いているうちに、子供達はドダダッと果樹の方へと駆けだしていた。

 そして果実の前まで走って行ってから、僕の方をちらりと見た。

 僕がこくりと頷くと、皆思い思いの果実をもぎって食べ始めた。


「お…………おいしいいいいいいいいいっっ!!」


「何これ、こんなフルーツ食べたことない!」


「手が、手が止まらないよっ!」


 子供達の異常な様子を見て、父兄さん達はちょっと引いていた。

 けれど彼らもかなりお腹が空いていたようで、美味しそうなフルーツを前にして我慢の限界が来たようだった。


 そして、


「「「うんめえええええええっっ!!」」」


 子供達に負けず劣らずのペースで果樹を平らげ始めるのだった……。





 皆がフルーツの虜になり三時間ほどが経過した。

 植えた木々が三回実らせた果実を全部食べきった頃には、全員にしっかりと果物が行き渡ったようだった。

 お腹をパンパンに膨れさせて、幸せそうな顔をして地面に横になっている。


「礼を言う、ウッディ殿」


「あ、シェクリィさん」


 どうやらシェクリィさんはある程度自制が利くようで、見た目に大きな変化はなかった。

 ただ、会ったばかりの頃よりもずっとエネルギッシュになったように見える。

 恐らくはこっちが本来の姿なんだろうね。


「ただ、これだけの物をもらってしまったのに申し訳ない。今の我らには、貴殿に返せるような何かがないのだ……」


「いえいえ、僕の方でも結構もらっちゃいましたから」


「……?」


 シェクリィさんは意味がわからないと、不思議そうな顔をしていた。

 けれど僕の方からすると、本当に何も返してもらう必要などないのだ。


 いや……というか僕の方がもらいすぎと言ってもいいかもしれない。



植樹レベル 4


植樹数 24/30

笑顔ポイント 158(4消費につき1本)


スキル 自動植え替え



 僕がここに来てから植えた樹の本数は二十本弱。

 それで四十本近く植えられる笑顔ポイントが手に入ったんだから、むしろ僕としてはプラスなんだよね。


 多分だけど、餓死しかけるほどにお腹が減っていたシェクリィさん達に食料を与えたっていうのが大きいんだと思う。

 僕に対する尊敬度みたいなものがぐんっと上がった結果の、このポイント爆増具合と見た。

 でもこの感じだと、もしかすると現地の人にフルーツを渡しているだけでポイントが無限に溜められるようになるんじゃないかな……?


 って、今はそれはいっか。


「アイラ」


「全てはウッディ様の御心のままに」


「ナージャ」


「ウッディ、私は君が進むと決めた道に、黙ってついていくだけだ」


 二人がこちらを見て頷く。

 僕に全幅の信頼を寄せてくれている彼女達を見れば覚悟は固まった。


 シェクリィさん達が果物を夢中になって食べていた間、当たり前だけど僕らはバカみたいにただ口を開いて待っていたわけじゃない。


 僕らは話し合いをして――そして決めたのだ。


 この場所を僕らの新たな出発地点にしようと。


「シェクリィさん」


「なんだろうか、ウッディ殿」


「もしよければここを、僕が治める領土という形にしてはもらえませんか? もちろん村長は、引き続きシェクリィさんに続投してもらうつもりです」


「む……? それは我らがウッディ殿の下につくということだろうか?」


「はい、その認識で問題ありません。僕は自らの領民を安んじ、そのために労力を惜しみません。それこそが貴族として生まれた……僕、ウッディ・コンラートの義務であり責任。僕は父上から、そうやって教わりました」


 実家から追放された僕ではあるけれど、幸いなことに家名を名乗ることを禁じられたわけではない。

 僕が父上から常々教えられて、口ぐせのように言っていた言葉を耳にすると、アイラが痛ましい顔をするのが見えた。


 そんな顔をしないでほしい。

 僕はもう大丈夫だから。


「九死に一生を得た我らは、ウッディ殿に返しきれない恩義がある。あなたの言うことには従うと、既に村の皆で結論を出してもいる」


 どうやら僕らが話をしている間に、彼らの方でも話は済んでいたらしい。

 それなら話は早いね。


「シムルグさん」


「うむ、なんであるか?」


「なっ、鳥が、喋って――っ!?」


 今まで姿を消していたシムルグさんが、とぼけたような顔をして現れる。

 シェクリィさん達が腰を抜かしそうなほど驚いている。


「ここを聖域にします。神鳥シムルグ、ここを僕らの安住の地にしてください」


「――うむっ、心得た!」


 シムルグさんが、バッと翼を拡げる。


 ぶわっ!


 緑色の光が周囲に広がっていく!

 すると目を疑うようなことが起こった。


 先ほどまで砂しかなかったはずの空き地に、草が生え始めたのだ。

 そして魔法のように、砂場にぽっかり穴が空いたかと思うと、そこに水が溜まっていく。

 あっという間に、オアシスができてしまった。


「す、すごい……」


「なんだ、これは……まるでおとぎ話でも見ているみたいだ……」


 アイラとナージャが呆けたような顔をしている。

 けど多分、僕も似たような顔をしていると思う。


 これが、聖域……あ、よく見ると村の端の方まで結界が張られてる。


 あれが樹結界じゃない、本物の聖域の結界なんだ。

 たしかに言われてみると、なんだか神々しさを感じるな。



「では改めて、よろしくお願いします」


「あ、ああ……我らはもしかすると、とんでもない人に拾われたのかもしれんな……」


 驚きすぎて逆に落ち着いた様子のシェクリィさんと握手を交わす。


 こうしてシェクリィさん達の暮らす村は聖域となり、僕らには安住の地ができた。

 そして僕はこの砂漠の村の領主となり、砂漠の緑化が正式に始まるのだった。

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