急ぎ
めっちゃ偉い鳥こと神鳥シムルグさんの神々しさにより、危ういところで領地とエルフとの間の種族間抗争に陥るという最悪の事態は避けることができた。
けれど以前僕らはダークエルフという爆弾を抱えているということは変わらず、そしてウテナさんの僕ら人間に対する態度はこちらのことを対等と思っていない。
恐らく、今の僕が何かを言っても無駄だろう。
問題になる気配しかしないので、とりあえずシムルグさんとウテナさんの話を聞かせてもらうことにする。
「この聖域と世界樹は我が地脈の流れを完璧に制御している。地脈の乱れが生じるはずがないのである」
「な、なんと……流石シムルグ様です!」
「だから地脈の乱れが生じるはずがないと言わせてもらうのである。まあたしかに以前より吸い出せる魔力が若干少なくなる……くらいの変化はあると思うのだが」
「で、ではあの世界樹のせいではないのですね!?」
「恐らく。詳しい話を聞かせてもらえると嬉しいのである。えっと、名前は……」
「ウテナ! ウテナ・ビビ・フォントゥトゥ・ガビル……(以下略)と申します!」
「ふむ、ではウテナ・ビビ・フォントゥトゥ・ガビル……(以下略)。詳しい話を聞かせてくれるかな」
「フ、フルネームで……感無量です!」
抜群の記憶力を持ち、一発でウテナさんのフルネームを暗記してしまったシムルグさん……流石である。
間違いなく彼はイケメン神鳥だ。
僕なんかもう、ウテナ・ビビの後に続く言葉を忘れてしまっているというのに。
そこからシムルグさんを見て目をキラキラ輝かせているウテナさんは、自分から色々な話をしてくれた(もちろんシムルグさんに対してであって、僕の方なんか欠片ほども見ていない)。
どうやら現在、彼女達が暮らしているビビの里という場所に異変が起きているらしい。
そしてその原因は、地脈の乱れによるものだということはわかった。
その原因を特定するために、ウテナさん達エルフは魔法を駆使した。
彼女達はダークエルフと違い、全員が素養なしで魔法を使いこなすことができる、魔法のエキスパートだ。
そんなエルフ達が魔法を使って探知してみたところ、地脈の異変の原因とおぼしきものが発見された。
それが大量の魔力を地脈から吸い上げている世界樹……つまりツリー村の大きな世界樹だったというわけだ。
ウテナさんはその調査隊の隊長を務めており、単身でツリー村にやってきたのだという。
「他のエルフ達はどうしたのであるか?」
「異変が起きているのはここだけではありません。他にもそこにも何かがあると思い、別行動を取らせています」
(それってもしかして、ギネアのことなんじゃ……)
どうやら地脈の流れの変化が起こっているのは、ここだけではないということだった。
どうしよう、心当たりがありすぎる。
色んなところに世界樹を植えたり、その場所を樹木配置(改)で動かしたり、ギネアの村を作ったり……地脈を使ったという自覚はなかったけれど、色々と使ってしまっている。
そのせいで問題が起こっているのかも……。
たらりと流れた冷や汗を、アイラが拭ってくれる。
「我の友じ……悪ゆ……知り合いの神獣も村を作っていてな。そこでも地脈の吸い出しは行われているはずだが、あいつも馬鹿ではない。よそに影響が出るレベルでやらかしているはずはないのである」
ホイールさんが友人だということを認めなくないのか、何度も言い直すシムルグさんだったが、どうやら信頼はしているみたいだ。
付き合いも長いみたいだし、端から見てるとなんやかんや仲良しだよね、シムルグさん達って。
「ウッディ、なので恐らくエルフの里に起こっている異変の原因は我らではない。心配しなくて良いのである」
「ほっ……それなら良かったです」
「少し思い出してほしいのである。ホイールと一緒にギネアの候補地へたどり着いたとき、地脈とつながる地点をタイクーンウルフという魔物が陣取っていたことがあっただろう?」
僕らがホイールさん達と一緒に新たな聖域を作るための旅をしていた時のことか。
聖域を作ろうとしたら、その場所にタイクーンウルフが居座っているせいでなんとかして倒さなくちゃいけなくなっちゃったんだよね。
シムルグさんが言うことには、あのように魔物が地脈の湧き出る点を抑えてしまうと、余所へ与える影響のことなど考えず、考えなしに地脈を使ってしまう。
地脈の恩恵を受けているところで異変が起こってしまうのは、そういう場合の時に割を食っているパターンが多いのだという。
「なので恐らくは、エルフの里の地脈とつながるどこかの地脈に、タイクーンウルフのような魔物が陣取っているのであろうな」
「なるほど……」
シムルグさんの出した結論からすると、今回の一件は僕らとはまったく関係がないみたいで一安心だ。
いや、エルフ達的には問題なのかもしれないけど……。
「異変があるのがどのあたりなのか、目星はついているのであるか?」
「え、あ、はい……」
ウテナさんが取り出したのは、世界地図だった。
王国の地図なんかよりはるかに広い範囲が記されている、かなり精度の高そうな地図だ。
そこにある印は、このツリー村を合わせて四点。
そのうちの一つはギネアだったので、問題は残る二つのうちのどちらかということになる。
そこにいる魔物は、恐らく地脈から大量の魔力を吸い上げて強力になっているだろう。
実際タイクーンウルフも、かなりの強敵だったしね。
「……」
シムルグさんの話を聞いていたウテナさんは、意気消沈している様子だった。
どうやら完全に予想が外れ、無関係の僕らを糾弾してしまっていた自分が許せないようだ。 エルフのプライドが高いというのは本当みたいだ。
「ウッディ。彼女の話では、ギネアにもエルフが向かっているという話だ。そちらの対応をしておいた方がいいのではないか? ……ここは我に任せておくのである」
「――はっ、そうですね! わかりました!」
こうしちゃいられない。
もしけんか腰なエルフ達が僕のいないギネアでいちゃもんでもつけてきようものなら、大変なことになりかねない。
僕は慌ててギネアに転移し、ホイールさんに事情を説明しに向かうのだった――。




