神
「ミリアさん、お久しぶりです」
「ウッディ殿こそ。息災でしたか?」
「ええ、おかげさまで」
挨拶もそこそこに本題を切り出す。
僕は人間の事情しか知らないから、ダークエルフを始めとする亜人の人達の素養事情に関してはほとんど未知数だ。
なので聞いてみたのだけれど、帰ってきたのは意外な答えだった。
「スキルのことですか。それでしたら基本的にダークエルフにスキル持ちはおりません」
素養……もっと砕けた言い方をすればスキルとも呼ばれるこの力を、ダークエルフは持っていないのだという。
「その代わり我らは皆魔法を使うことができます。そもそもの話をすれば、人とダークエルフでは信仰している神も違いますしね」
「……え、そうなの?」
祝福の儀で得られる後天的な才能。
これは王国の国教で信仰を義務づけられている、一神教である女神様によって授けられるものだ(ちなみに女神様は名前を持っていない。その解釈は未だに統一されていないけれど、一般的にただ女神様と言われることが多い)。
僕は皆がこの女神様を信仰しているものだとばかり思っていたけれど、どうやらそんなことはないらしい。
彼女達ダークエルフが信仰しているのは、名もなき森の神らしい。
ちなみに僕らの女神様と同様、彼女たちの神様にも名前はないんだって。
「ただエルフの中でも森の女神様に愛されている者の中には、スキル持ちもいるということです」
「なるほど、だからミリアさんもスキルのことは知ってたわけだ」
これは僕が女神様を信仰しているからかもしれないけど、なんだか森の神様ってひいきをしているように思える。
エルフにはスキル持ちがいるけれど、ダークエルフにはスキル持ちは出たことがないんらしいんだって。
なんだか理不尽じゃない?
まあでも、血統とかによってスキルに如実に差が出るうちの女神様はもそれはそれで残酷か……。どっちの方がいいとかはなくて、単に好みの問題なのかもしれない。
そんな風に結論を出したところで、また新たな疑問が沸いた。
「ダークエルフの人たちが身体強化を使えるのはスキルの力じゃないの? ただ何もない状態で魔法を使っているにしては、効果が高すぎるような気がするけれど……」
「さて……そもそもの話、そんなに深く考えたことがありませんでした。森の神の恩寵だとばかり思っていましたが……」
もしスキルの力ならそれはそれで問題がないと思うんだけど。
それがダークエルフが元々持っている力なんだとしたら、神様は何もしてないってことになる。
それってちょっと、職務怠慢じゃない?
うちの女神様に鞍替えしちゃえばいいのに。
……あれ、でもその場合はどうなるんだろう?
「ねぇアイラ、もし信じる神様を変えちゃった場合って……どうなるのかな?」
「不敬すぎて考えたこともない質問ですねぇ……うむむ……」
少し考えてから、アイラがハッとひらめいた。
彼女は遠くにあるエレメントフルーツ園を見つめながら、
「幸い、うちには神様という存在に近く、そういったことを聞くのにうってつけな者がいるではないですか。彼らに話を聞いてみるのがいいんじゃないですか?」
言われてみればたしかにそうだ。
僕はシムルグさんに話を聞いてみることにした。
だがシムルグさんから返ってきた答えは……。
「うーむ……禁則事項なのである。神に関する質問には基本的に答える権限がないのだ」
考えてみればシムルグさんは神獣として、その行動にいくつもの制限がかかっていた。
神に関する話題は、またその制限にひっかかってしまうらしい。
神様に関することは気になったけれど、結局問題は棚上げにするしかなかった。
こういうのは最後まで答えを出したい派の僕だったけれど、僕なりに結論を出すことはなかった。
地脈の異変に気付いたらしいエルフ達がこのツリー村にやってきたせいで、それどころではなくなってしまったのである――。




