鍛錬
無事にツリー村に全員を転移させた僕は、まずはナージャと一緒に近接戦闘組の様子を見ていくことにした。
「ウッディ様、私がいなくても達者でやるんですよ……」
「そんな今生の別れみたいな言い方しなくても、後ですぐ合流するんだし……」
「ウッディ様はわかっていないのです! 置いていかれる私が一体どれだけ寂しい思いをしているか!」
だんだんっと地面を叩くアイラのことは放置して、先に進む。
「おいウッディ、流石に無視はかわいそうなんじゃ……」
「ナージャ、あれを良く見てみて」
僕が指さした先――アイラの周囲は微妙に湿っており、よくよく観察してみると服が汚れないように薄い水の膜ができているのがわかった。
手の込んだ演技をしたところまでは良かったけれど、服を汚れないように気を付けすぎたのが失敗だったね。
ナージャがハッとした顔をすると、アイラはむむむ……と唸りながら演技を止めた。
「というわけでお願いね」
「……不承不承ながら、引き受けました」
アイラには、魔法組の人達に先に案内をしてもらう。
彼らはサンドストームとは違ってアイラの直弟子という形になるので、諸々の面倒を兄弟子となるフィオナちゃんやマクレー君達に見てもらうつもりだ。
「よし、それじゃあ行こう!」
ギネアから連れてきた皆と向かう先は、サンドストームの皆が使っている宿舎である。
宿舎はツリー村の東の端っこの方に位置しており、あまり人目につかないような場所に建っている。
エレメントフルーツを使った危ないフルーツ兵器なんかを使うので、なるべく人に迷惑をかけないように少し離れた場所に作ったというのが一つ。
そして二つ目の理由は住民感情を意識してというものだ。
サンドストームに所属している兵士たちは、素養持ちを除くとほとんどが盗賊上がりで改心した人達ばかりだ(中には志願して入隊した人もいるけれど、その数は全体からすれば微々たるものだ)。
彼らのことはもちろん僕も信頼しているし、村の人達からも頼れる兵士兼狩人として認められつつはあるんけれど……まだ完全に信頼を得られているわけじゃない。
いずれは好きなところに住んでもらえればと思うけど、今はまだ時期尚早な気がしている。
こういうのは急いでこちらがお膳立てしてもろくなことにならないから、長い目で見ていこうかなと思っているよ。ちなみにこれは、ナージャも同じ意見みたいだ。
「とりあえず彼らにはサンドストームと同じ内容の訓練を受けてもらうつもりだ」
「さっきも言ったけど、あんまり扱きすぎないようにしてね」
「もちろんだとも! そこら辺のさじ加減は、既にあいつらで学んできたからな!」
にっこりいい笑顔でそんなことをぶちまけてくるナージャ。
さじ加減を学ぶ実験台にされてしまった兵士の皆に、僕は心の中で合掌をした。
「お久しぶりです、ウッディ様!」
「ぜひ見学していって下さい!」
僕達の姿が見えると、サンドストームの皆は快く歓迎してくれた。
「それならまずは、お前達の力を見せてもらおうか。もちろん、自主練はしていただろう?」
「はい、もちろんです!」
ナージャの発破に答えるように、ギネア出身の皆が自信ありげに胸を張る。
それを見てナージャはにやりと笑う。
「よし……カディン!」
「――はいっ!」
「一丁もんでやれ」
「もちろんでさ!」
彼女に釣られるように、前に出てきたカディンもニヤリと笑う。
そして模擬戦をすることになったんだけど……結果だけ言えば、カディンの圧勝だ。
素養持ちの皆はほとんど為す術もなく、一方的にやられてしまっていた。
「「「はあっ、はあっ……」」」
こっぴどくやられ、地面に転がされている村人達。
カディンは特に素養を持っていない。
それにエレメントフルーツも使わない、純粋に木剣を使った模擬戦だ。
だというのに素養持ちを相手にしても一歩も引けを取らないどころか、ほとんど何もさせずに完封してしまった。
膝立ちになったり、地面に仰向けになって横になっていた村人達の下へナージャが歩いて行く。
彼女は毅然とした表情で胸を張りながら告げた。
「お前らが今戦ったカディンは、戦闘系の素養を持っていない! これがどういうことかわかるか!? ――徹底した鍛練とやる気さえあれば、素養がなくともいっぱしの兵士にはなれるということだ!」
ナージャの言葉に、ハッとして立ち上がる彼ら。
まだまだ未熟ではあるけれど、彼らはたしかに兵士の顔をしていた。
この調子なら問題はなさそうだ。
「何より肝要なのは走り込みだ! お前らの顔を覚えてもらうためにも、ランニングコースを十周する! お前ら、私についてこい!」
ナージャに引き連れられる形で、新兵になった素養持ちの皆が走り出す。
去り際、ナージャはこちらを見てパチリとウィンクをした。
どうやらあとは任せろということらしい。
それならお言葉に甘えて、次はアイラのところに行かせてもらうことにしよう。