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新たな力


 二人の一時間にも及ぶ舌戦は、引き分けという形で終わった。

 とりあえず仲直りをした二人と一緒に、僕らはまた先へと進み始める。


 ちなみにシムルグさんは結界の外を飛んでいる。

 飛んでいるというか……浮かんでいるっていうのかな?

 どうやら僕達に足並みを揃えてくれているみたい。


「聖域にするにせよ、ある程度遠くまでは行っておきたいよね」


「はい、ここは完全に放棄された領外ですし、滅多なことで公爵の私兵が来るとは思えませんが……一応警戒はしておいた方がいいでしょう」


「聖域がどの程度の広さになるのかにもよるんじゃないか?」


「あ、そう言えばそうだね。シムルグさん、聖域ってどれくらいの広さになるんですか?」


「それは聖域の守護神獣となる我が自由に決められるのである。以前聖域を作った時は、とりあえず百万都市全域に広げられたのである」


 ひゃ、百万都市……ってことは一度聖域を設定すれば、いくらでも広げられるってことか。

 そもそもこんな砂漠に百万人も人は来ないだろうから、広さの問題はあまり気にする必要はなさそうかな。


「ただ、一度聖域とした場所は基本的にはしばらくの間は聖域のままになってしまうのである。領地でのいざこざが起こる場合に、そこだけは留意してほしいところであるな」


 なるほど……となると、奥に行けるだけ行っておいた方がよさそうだね。

 乱世のこの世の中、いつ誰に場所を奪われるかわからないし。


 そういえば、結構進んできたはずなんだけどまだ現地人とのコンタクトも取れてないんだよなぁ。

 お互いの生活領域とか、しっかり決められたらいいんだけど。


 ……ってそうだ、忘れてた。

 ナージャが再会して喜んでくれたり、シムルグさんと一緒に世界樹の実を食べたりしたことで、また笑顔ポイントが溜まった。

 多分だけど、レベルアップできるくらいには溜まってくれているはずだ。



植樹レベル 3


植樹数 7/10

笑顔ポイント 25(4消費につき1本)


スキル 自動植え替え



 うん、やっぱり。

 それならさっさとレベルを上げちゃおう。

 レベルが上がると何か特典が得られるみたいだしね。


 日が暮れる前に今日の宿泊場所を決め、腰を落ち着けてから『植樹』を発動させることにした。

 とりあえず、樹結界から離れて干渉しないくらい離れた場所に、足下に樹を三本植えてみる。


『植樹量が一定量に達しました。レベルアップ! 植樹が可能な新たな樹木が解放されます!』


 レベルが上がると、僕の目論見通りまた新たなスキルが手に入った。

 でも……新たな樹木?


 少しだけ怖くなりながら、再度『植樹』を使ってみることにした。




【植樹を行いますか はい/いいえ】



 うん、ここは前と同じ。

 慣れた手つきではいにタッチする。


 すると今までなら樹を植える位置を決めるところで、新たな文字が現れた。






【植える樹木を選んで下さい】


世界樹

桃の木

リンゴの木

梨の木

桑の木

柿の木

栗の木







 って、植えられる木の種類が増えてるっ!?

 新たな木って、そういうことか!


 後で『収納袋』に入れればいいし、とりあえず植えてみよっか。

 僕が知らない物もあるけど……とりあえずは桃とリンゴを植えてみようかな。


 というか世界樹って、こうやって見ると分類的には果樹になるのかな……?

 どうにもぴんとこないのは、一体どういうわけだろう。



【ここに樹を植えますか? はい/いいえ】



 場所を選択してからはいを選んで、『植樹』を使う。

 すると今まで植えてきた世界樹と比べると一回り小さな木がポコポコと生えてきた。


「きゅ、急に何か生えてきましたよっ!? ウッディ様、今度は何をやらかしたんですか?」


 ひどい言われようだ。

 ただ新しい力が手に入ったから、試してみただけなのに。

 果樹が植えられるようになったんだよ。


「新しい力……そう言えばこの木、どこかで見たことがあるような……?」


「これはリンゴの木であるな。我の好物の一つなので、よく覚えているのである」


 さすがシムルグさん、長い時間を生きてきた神獣だけあって物知りである。

 シムルグさんなら、僕が知らない木のことも知ってるだろうか?


「何っ、梨だけではなく桑や柿も植えられるのであるか? 後に聖域を作った時には是非とも沢山植えてほしいのである!」

 

 梨や柿はリンゴや桃のような大ぶりの果実らしい。

 梨はリンゴと結構似た使い方をすることが多くて、柿の方は桃と同じ感じで熟してから食べるのがいいらしい。

 僕は固い桃も結構好きだから、柿も固めの方が好きかもしれないな。


 そして桑や栗は小ぶりの代わりに沢山取れるタイプの果実なんだって。

 それ一つだと食べごたえがないから、沢山集めてむさぼり食うのが好きらしい。


 桑は砂糖で煮詰めてジャムに、栗は石の上なんかで砂糖を塗って焼いて食べたり、スイーツにもできたりするらしい。


 じゅるり……というアイラとナージャのよだれが垂れる音が聞こえた。

 女の子って甘い物大好きだよね。

 もちろん僕も好きだけどさ。


「そう言えば桑は人間界でも色々なことに使えた気がするのである。うむ、なんであったか……」


 シムルグさんは結構頭を悩ませていたが、思い出せなかったようだ。


「まったく思い出せないのである! 神獣などと崇められていても、所詮寄る年波には勝てないのである、ハッハッハッ!」


 よくわからないけれど、楽しそうならそれでOKです。

 ていうか、神獣も物忘れってするんだね。

 なんだかちょっと、親近感が湧いてくる。


 でもそっか、果樹ばっかりに意識が行っていたけれど、木がちゃんと育つなら木材としても使えたりとかもできて応用はできるよね。

 聖域で植樹がしっかりできるようになったら、林業とかもできるかも。

 こんな砂漠地帯で木材なんか稀少だろうから、交渉とか取引の材料として使えないかな。


「そう言えば、砂漠なのにこのリンゴと木は全然枯れないんだな」


 ナージャに言われて、今更ながらにハッとする。

 そう言えば世界樹が砂漠でもすくすくと育っていたから、つい感覚が麻痺していた。

 冷静に考えて、木が育つのって水が必要だよね。


 砂漠に木なんか植えても、枯れて終わるんじゃ……?

 だがどうやら見ている感じ全然しおれた様子はない。


 それから更に一時間後。


「ど、どういう理屈なんだ……既にリンゴが生っているぞ?」


 僕の『植樹』はそういったこととは無縁らしい。

 水がなくても育ってくれるようで一安心だ。


「私が水をあげなくていいのは正直助かりますね」


「というか桃ってこんなに簡単に生るんだな、桃農家って簡単そう」


「いやいやいや、桃は普通もっと木を生長させて、その上で年に一度採るものなのである! どうして三人ともそんな普通な顔をしているのであるか!?」


 シムルグさんが驚いている。

 どうしてって言われても……世界樹だって一日一個実をつけるし。

 世界樹の実と比べればレアじゃないリンゴと桃の果樹が一時間で実をつけても、別に何もおかしくはない気がするけど……。


 僕の説明に二人ともうんうんと頷いていた。

 やっぱりそう思うよね。


「こ、これって我がおかしいのであるか? うむむ……」


 シムルグさんが悩み始めてしまったので、とりあえず僕らは果実を取ってみることにした。

 リンゴと桃はそれぞれの木に五個ずつ生っている。

 一つずつ手でもいで、軽く水洗いしてから食べてみる。


「「「う……うっっまああああああああっっ!!」」」

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