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耳をすまして

作者: 武田道子

耳をすまして




「もしもし、聞こえる?」遠いところからの声が隣の部屋から聞こえてくるように。それは50年も前の声と抑揚。タイムマシンは一瞬に50年前に遡る。



電話のコードを伸ばせるだけ伸ばして、長電話をした夜々。公衆電話ボックスに3人でぎゅうぎゅう詰めに入って電話をした日々。気兼ねをしながら会社や下宿で呼び出しをしてもらったり、家族が寝静まった後を見計らい真夜中に悩み事を小声で話したり、今思えば不便な時代だったのだけれど、なんだかその不器用な不便さが微笑ましい。



毎週土曜の夜9時半、ラインで国際会議が開かれる。「こんばんは!」と「こんにちは!」時間の差がその時だけ一瞬遠距離電話を感じさせる。けれども大抵は挨拶なしで会話が始まる。嬉しい時も、悲しい時も、辛い時も、病気の時も・・・ いや結婚の誓いとは全然関係なく、指切りげんまんをしたわけでもなく、引力か磁気か、物理的か精神的か。太平洋を横断して地球の真反対側から聞こえてくる温かな声。フェースタイムもヴィデオコールもできるのに、あえて声だけなのは?耳をすますと昔の懐かしが深々と伝わってくるとか。

会談は常時2時間。議題なし、目的なし、ファシリテーターなし、筆記者なし。あっちに飛びこっちに飛び、話の内容はほぼ支離滅裂。気づいているのかいないのか、花火のように彩豊かな話は弾けてはすぐに消え、また弾けては消える。 



今この次元今日と明日を共有している同じ瞬間;月を眺めている側と太陽が西側に傾き始めた側を素直に受け止めながら魔法なのかSFなのか、ファンタジーなのかと疑いながら、それぞれが主人公になって、これこそ本当のロマンスではないか。


時間を超え、年月を超え、場所を越え、耳をすます。鼓膜を震わせる声は、真っ青な空と紺碧の海、真っ白の砂浜にゆらゆらと押し寄せる波のようにすぎて行った時間と今をなおかつつなぎ続けている。



インターネット、携帯にライン、テクノロジーの波に乗ってゆらゆらと漂いながら、公衆電話ボックスに乗っていた時代があったのだと、微笑ましくおもいながら、いきわいわいと国際会議中の隣の部屋の声に耳をちょっとだけすます。


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