09 会場
どうしてこうなった。
目の前のステージでは、屈強な男衆が自慢の肉体を見せつけて思い思いのポーズ。
すごい数の観客が、ひいきの戦士が登場するたびに歓声をあげる。
男女問わずの結構な数の審査員が、遠視付与の魔導具を熱心に覗き込んで採点している。
一段と目立つ一段高い特設特別審査員席に座らされているのが、
俺とリリシアとマユリ。
リリシアは、食い入るように遠視魔導具を覗いて、とても熱心に採点している。
マユリは、遠視魔導具を覗いた目をバレないようにつぶって、たまに数字を書いている。
俺は、遠視魔導具を除くのも採点するのもとっくに諦めて、適当な数字を書き込んでいる。
本当、どうしてこうなった。
当日、リリシアにくっ付いてきた俺とマユリは、
あれよあれよという間に特設特別審査員席に座らされて、
この異世界に来たことを後悔する羽目になっている。
「先日の魔族内乱鎮圧のご褒美なのだそうだ!」
ご褒美っていう言葉の使い方、間違ってないかリリシア。
あまりにも嬉しそうなリリシアの満面の笑顔に、エスケープは不可と諦める。
何でこんなに喉が乾くのだろう。
目の前の空になった水差しを見たら、突然猛烈にトイレに行きたくなった。
「すまん、ちょっと席を外す」
ちょっとだけ不満そうなリリシアに、マユリがちいさく首を振って合図。
すぐに何かに気付いたリリシアが、すまなそうな顔を見せた。
ふたりの気遣いに、感謝しながらトイレを目指す。
俺の召喚直後の有り様を直接は見ていないふたりだったが、やはりまだ気を使わせてしまうのが少しだけ悔しい。