14 無事
どうしよ、
本当どうしよう俺、
おめでたいにも程があるよ俺、
いや、本当にめでたいんだけどさ、
準備しなきゃ、
今すぐマリネで王都にすっ飛んでってベビー用品とかなんとかって、
いや待て俺、こういうのは旦那が勝手に選ぶと後で揉めるって会社の先輩たちが言ってた、
だよな、ちゃんと夫婦で決めないとな、
夫婦って言えば、リリシア喜んでくれるかな、
大丈夫だよな、なんせあのふたり、俺なんかよりも絆が堅いし、
逆に考えろって、
リリシアが先だったからってマユリが嫌がるわけないだろ、
ちくしょう、なんで俺なんかにあんな良い娘たちがついてきてくれるんだろ、
ネガティブしてる場合じゃないだろ、俺、
夫からパパにランクアップなんだぜ、
無い知恵絞って家族のためになること考えろって、
パパって言えばやっぱりロイさんだよな
マクラちゃん、抱っこされててすっごい安心してたもん、
良し決まりっ、報告第一号はロイさんで、
当然リノアさんにもだよな、
なんせ俺の知り合いでは貴重な子育て経験者だぜ、
すごいよな、あの夫婦、最強だよ、
そりゃあアイネさんもあんな良い娘に育っちゃうよ、
おっと、大事なこと忘れるとこだったよ、
アリシエラさんっ、
マリネ1号作ってもらったばかりで悪いんだけど、
馬車、お願いしなくちゃ、
家族五人と子どもがゆったり乗れて、
とびっきり乗り心地良いやつ、
シブマ1号も良かったけどさ、
ちゃんとベビーベッドとかチャイルドシートとかばっちり付けてもらって、
みんなでのんびり安全に旅できるやつ、
そういや会社の先輩の気持ち、今ごろになって分かったよ、
カッコ良い外車のスポーツカーやめて四角いワゴン車買っちゃったの、
あの頃は馬鹿にしてたけどさ、
馬鹿は俺の方だよな、
家族のためならってやつだよな、
それにしてもふたりとも遅いな、
大丈夫だよな母子共に、
「ご主人さまぁ、お客さまですよぅ」
誰だよ、この忙しい時にって、
「黒井先生!」
すみません、急いでこっちきて、
妻が一大事なんですっ、
説明は中で聞いてっ、すぐ見てあげてくださいっ、
やったよ、このタイミングで先生来てくれたよ、
神さま、ありがと、愛してるっ、
いや、ごめんね、もちろん家族の次だってば、
あとは、先生の診察っ、
大事には至りませんようにっ、
「アラン」
「リリシア、マユリ大丈夫なのかっ」
「……」
神さま、恨むぞっ、おいっ、
「その、すごく言いづらいのだが……」
「王都のな」
「屋台でな」
「食べ過ぎてな」
「いや、もう大丈夫なのだ、黒井先生のお薬を飲む前にしっかりすっきりと」
「ほら、ここに来るまでずっとシブマ1号での長旅だったであろう」
「いろいろと気を使ったのだよ、マユリも女の子だからな」
「で、王都で久しぶりに祭りの屋台を見て張り切ってしまったそうなのだ」
「すまん、私も近くにいたのに気付けなくて」
「ステージに夢中になり過ぎたのは私の責任だ」
「何か言ってくれないか、アラン」
「……何かいろいろとごめん」