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序章 「世界が違えど」

痛い、熱い、辛い。


わかってはいたが、あまりに耐え難い。

身体じゅうに張り裂けるような激痛が走り、息をすることさえままならない。


自分もかつて、自ら命を絶とうとしていたのだと思うと、さらに胸が苦しくなる。

あの時飛び降りようと思った勇気は、どこに行っちゃったんだよ。

比べて今は、こんなに死ぬのが怖いとはなぁーー。


両目から大粒の涙が溢れる。

どろりとした血が全身を包む。全部自分の()()だ。あいつの()()は微塵もない。


「っっあ、あぅあああアアア!」


ものすごい痛みで、体を捩らせた。束帯ももう燃え去る寸前だ。


「どうしたよ、キモオタ君。」


声が聞こえる。また()()()の声だ。

あの時とそっくり。今は幻聴じゃないけど。


「また前みたいに、顔面に唾吐きかけてやろうか?ちっとは涼しくなるかもな」


そう言って、大声で特徴的な高笑いをする。あいつの癖だ、嫌と言うほど知っている。



「無理なんだよ、何もかも。キモオタの分際でこの国を正す? なんで急にさァ、気持ち悪りぃ正義ヅラしてご立派なこと言っちゃってんの。お前は昔みたいに、俺のパシリとサンドバックだけやってりゃいいんだって。今日から俺がこの国の王だから」



息ができない。首を掴まれている。

抵抗したい。でも、もう術を使う気力は残っていない。詠唱なんてすれば、寿命が縮むだけだろう。


「今から土下座して、一発芸でもしろよ。そしたら、俺も許そうって気になるかもなァ!」


今度は俺の髪を掴んで、頭を燃える木の板に叩きつけた。


意識が遠のく。なんで、俺がこんな目に。俺じゃなくたって、俺じゃなくたってよかった。


俺は、俺は、俺はーーー、



親友の笑顔が脳裏に鮮やかに蘇る。

もう仕組まれてんじゃないかってくらいあの日と同じだ。



親友の笑顔が浮かんだ時、ふと意識を取り戻した。

俺は絶対に死なない、死ねない。たった一つの俺の命には、星の数ほどの民の命がかかってるんだ。



こんなこと言ったら、大袈裟に笑われて、身体に傷がつく回数が増えるだけだ。

でも、本当だ。俺は、この世界で、やらなきゃいけないことがまだまだある。



視界がぼやける。もう、痛いという感覚は消えていた。



「ーー君!」



あいつの拳の鈍い感触の中に、かすかに俺の名前を呼ぶ声がする。

この声、誰だっけ。耳ももうほとんど聞こえない。




目が自然に、ゆっくりと閉じた。底無し沼に落ちていくような感覚の中、やがて外界からはあらゆるものを感じなくなった。




「絶対に、このクソッタレな社会を変えてやる!」




いつか言った言葉を反芻する。今の俺は、はたから見たらただの肉塊なんだろうな。

自分以外いない空間で、言葉にならない叫びをしたのち、考えることもできなくなった。



さようなら、八辻寛嗣(やつじひろつぐ)ーー、いや、八辻ヒロ(やつじひろ)

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