表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

道中、水を飲む

「本当についてくるんだ」

「もちろんです。それが私の役目ですから」

「役目なら別に無理しなくてもいいじゃないの? わざわざ危険なところに一緒についてくるなんて、俺だったら絶対避けるけど?」

「私は草摩湊さんの守護天使ですよ? あなたの進む先に私もついていかなくてはいけません」

「ですよ? と言われてもな。知らないし」

「だったら色々尋ねればいいじゃないですか。出会った時から思いましたが、あなたには関心というものがないんですか? 普通は色々気になるものですよ」

「だって興味ないし」

「もうっ。駄目ですよ、それでは。好奇心であれ、警戒であれ、環境に注意を向けなくては、魔物にぱくっと食べられてしまいます」

 投げやりな俺の態度に、メールは口をとがらせて、説教してくる。

 元いた崖から出発して、すぐの会話。

 メールとはてっきり別れるものだと思っていた俺は、一緒に行こうとしていたメールに対して間の抜けた表情をとっていた。そこに若干起こり気味のメールが強引に手をとって、今はこうやって二人で目的地にむかっている。

 まずは崖を降りている。

 無味乾燥な大地。緑がどこにも見えず、植物に足を取られなんてことはないけど、赤茶色の、ごつごつとした肌を露出をして、注意していないと躓いてしまう。

 時間にして三十分もすると、崖を降り切り、これからは起伏の富んだ平野を突き進むことになる。

「注意点は二つあります」

 歩みを続けながら、メールが切り出した。

「一つは当然ながら魔物。出会ったらぱくっですから、注意してください」

「俺はともかく、メールもなのか? 守護天使ってのは魔物は追っ払えないの?」

「上級以上なら可能ですが、中級は厳しいです。それに私が得意とするのは回復や結界です。力を使っても、延命処置にすぎません」

「もしかして天使ってあんまり大したことない?」

「失礼なこといいますね。そうではなくて、ここが魔境すぎるんです。地獄とか、暗黒大陸とか非常に恐れられているところなんですよ、ここは?」

「へえ……ん? 暗黒大陸? ってことは他にも大陸があるのか?」

「二つ目!」

 メールが突然声のボリュームを大きくした。

「亀裂付近には極力近づかないでください。万一足元が崩れて落ちたら、絶対に助からないので」

 どうやら俺の質問には答えくれないらしい。

「なんか隠してるの?」

 ギクッと、メールが体が硬直する。視線もそらしているし、わざとやっているのかというほどそわそわしだす。

「……なんでそういうことだけは聞いてくるのよ」

「聞こえてるんだけど」

 問い詰めようかと思ったけど、直後に、ノイズの混じった金切り声が耳に飛び込んだ。

 声のしたほうを向くと、遥か先の小高い丘の上、巨大な四足歩行の獣が遠吠えを上げていた。

 空気を裂くような咆哮。そうとう距離が離れているはずなのに、肌をビリビリとさしてくる。

 感覚に刺激をぶっ刺されて、どこか遠くの夢みたいな場所だったここが、現実であるとの無理やり認識させられる。

「やっぱりやばい場所なんだな、ここ」

「それも今更、ですよ」

 俺の感想に、メールは呆れてしまっていた。

「さ、行きましょう。立ち止まっても、進んでもリスクはあります。そうでしたら、ゴールがあるほうを選びましょう」

 その言葉に促されて、いつの間にか止まっていた足を再び動かす。

 それから、暫く歩き続けた。

 時々、小休憩をとって体をいたわるけど、正直芳しくない。

「……喉が渇くな」

 少し肌寒い温度は体を動かしていれば、自然と熱くなる。

 どちらかというと湿度が低く、体の水分が徐々に枯渇していっている。

「目的地まではまだまだです。このままでは少しまずいですね」

 冷静に分析しているメールは平気そうだ。

「メールは平気そうだけど、やっぱり天使だから?」

「人間とは構成が異なりますから」

 と、メールは答えながら、両手を自身の口元に寄せた。

 そして、微かな声で何かを囁いて、手の平にそっと息を吹きかける。

 すると、水の一滴が生まれ、膨張し始めて、あっという間に両手から零れるぐらいの水がたまった。

「飲んでください。コップもないので、このままぐびっと」

 そういって、メールは両手を差し出してきた。

「…………」

「どうしたんですか? 早く飲んでください。水を出し続けるのも力を消費するんですから。さあ」

「あ、ああ」

「さあさあ」

 俺がためらっていると、メールは一歩踏み出して、口に指先を突っ込んできた。

 む、無理やりすぎる……。

 一度、口に入ってしまうと、無理に閉じるわけにもいかず、強制的に冷たい水がガバガバと喉を通っていく。

 全部が全部口に入らないから、零れた水が頬を伝って、衣服に落ちていく。

 頑張って、水を飲みこんでいったけど、やがて限界がきて、

「ゲホゲホっ」

 せき込んでしまった。

 吹き出す瞬間に、後ろに引いたから、メールには水がかかっていない。

「あーあ、もったいないですね」

 まだ両手に残っている水をメールはそっと口につけて飲み込む。

「あんまり行使できませんが、喉が渇いたら言ってくださいね。水分摂取は大事です」

「わ、わかった」

「なんだか、初めて素直な返事を聞いた気がします」

 きょとんとしているメールを見ていると、女の子の手に口をつけるということに戸惑っていた俺がばかみたいだった。

「よし、行こう」

「え、もう少し休憩してもいいのではないでしょうか」

「いや、いい」

 ついぶっきらぼうな態度をとってしまいながら、また歩き始めた。

 不意打ちのような出来事もあったけど、お陰で体に活力が生じてきた。

 さすがに食料は出せないそうだけど、水だけで少なくとも、あの高い山までに向かうのはしのげそうだ。

 ここまでは幸いことに、接敵せずにやり通してこれた。できるだけ、物陰に隠れるように歩いており、平たいところには極力歩かないようにしてきた。

 けど、高い山の手前にある山々の前まで着くと、ここまでの道中は序の口だったと知る。

 大きな岩々に隠れて、小さい山の頂上を見ると、無数の黒い影が飛び回っている。

「フォビドゥンワイバーンですね。幼い龍よりよっぽど厄介な存在です」

 メールの口調が固い。

「マジか」

 そんなのが数えきれないほど見えるんだけど、どうしろと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ