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平和主義な魔人

「魔人?」

「そうそう。そうなんだよ」

 クラレットは興味深げに俺の反応をうかがっている。

 なるほど。魔人か。魔人ねえ。

「…………って何?」

 頬杖ついていた彼女の顔がずり落ちた。

「君……もしかして世間知らず?」

 瞳を見開かせて、驚いているような、呆れているような表情をしているクラレット。

「確かに世間知らずだけど。魔人に会ったら驚かないといけないの?」

「少なくとも隣の大陸では、いい子にしていないと、魔人が現れるぞとか。おとぎ話でも恐れられる存在だね」

「マジか。そうなると今ってピンチなの?」

 そう尋ねたら、何故か知らないけど、クラレットが微かに笑った。

「ふふふ。面白い人だね。さすがは天使と愛の逃避行としてきたというだけのことはあるね」

「…………」

 今度は俺が驚く番だった。

 え、今、なんだって? どうしてそうなるの?

 咄嗟にメールのほうを見ると、天使らしく清楚そうな佇まいをしている。

「……なあ、変なことを聞いたんだけど?」

 クラレット達に聞こえないように、小声で問い詰める。

「そういう設定にしておいたわ」

 彼女の素知らぬ顔で言った。

「なんで」

「異世界転移してきましたっていわれて、まず信じられないし、信じられるのもどうかと思うわ」

「言わないほうがいいの?」

「あまりね。注目されるだろうし、変な存在に目をつけられるわ」

「そうか」

 若干、含むところはあるものの、彼女の意図には一理あるところもある。

 再び、クラレットのほうを向くと、

「逃避行してきました」

 メールに合わせることにした。

「す、すごい」

 アリアが驚愕している。

 驚くだけじゃなく、なんとなく尊敬の眼差しもこちらに向けており、ちょっと気まずい気持ちになった。

 クラレットはうんうんと納得気に頷く。

「はみ出し者であるならここ君にとって過ごしやすい場所だよ。なにせ、ここは異端者の集まりだ。例えば、ここにいるアリアはサキュバスであるのに、その吸精の習性を嫌がってここに来たのだし」

 クラレットが流し目でアリアを見ると、彼女は恥ずかしそうにしている。

「私だって他の魔人と比べて、はるかに気質が緩くてね。他の破壊衝動的な魔人達からは厳しい目で見られていたものさ。それがうっとうしくて、辺鄙なとこで自炊していたら、徐々に人が集まりだして、今やこんな大所帯だ」

 ここがいかに特異な場所なのかを説明するクラレット。

 発端が発端なので、隠れ家のような場所だと思ったけど、周りから人が集まってきたり、規格外の存在とはいえ、天使がこの場所を知っていたりと、ここは知名度があるみたいだった。

「君たちが望むなら、労働を条件にここにいてもいいよ? どうする?」

 やはり天使と逃避行する人間はレアケースであり、クラレットからお誘いがあった

 非常に魅力的な提案だった。

 とりあえず、この世界で生きてみようと決めたのだから、衣食住の確保は最優先事項だ。ここでなら、それらを賄えるという期待がある。

 どうせほかに行く場所なんてないのだから、お世話になってもらうほうがいいのだろう。

 当面の生活を確保してから、その先のことを考えてみよう。今は知らないことが多すぎて、うかつに動き回っても知らぬ間に地雷を踏みぬくだけだ。暗黒大陸と呼ばれるこの場所にいることが安全とは限らないのであれば、人間がいるといわれる大陸に引っ越してみることも検討する余地もある。

「暫くの間お願いしてもいいですか? ここがどういうところなのかもよくわかっていない自分です。腰を落ち着けて、色々見て回って知りたい」

「じゃあ、決まりだね」

 クラレットはにやりとわらった。

「セカッドホータにようこそ。ミナトにメール。歓迎するよ」

 

 こうして、俺は奇妙な村の住民となった。

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