第93話 代償
インディス騎士団が一点集中で魔物を討伐し、東の方へと抜けていく。
それをただ見守ることしか出来なかったライーザは悔しくて拳を強く握りしめていた。
するとそこへ兵士が駆け寄り新たな魔物出現を報告しに来た。
「南より新たな魔物出現!こちらは完全に手薄状態であり、至急支援をお願いします!。」
「ここに来て新たな魔物だと!種類は?。」
「そ、それが見た事が無い魔物でして変異種だと思われます。それとロックゴーレムが一緒に向かっております。」
「馬鹿な、また変異種だと?ありえん。」
「で、ですが我々は確かに見たのです。黒い大きな蛇を・・・。」
報告した兵士はそう伝えると、その状況を思い出したのか恐怖で身体が震えていた。
その様子を見たビクトールは忌々しく舌打ちをする。
「現在北と西からも魔物と戦闘を行っている。これ以上は兵士は割けられない、今の人数で死守しろ。」
報告をしに来た兵士の顔に絶望の表情が現れる。兵士達が居た南は既に半壊状態、支援も無く死守しろと言うのは余りにも無謀な策であり、事実上の死刑宣告に等しい。
「び、ビクトール様・・・それは既に我々の部隊は半壊状態です。お願いします。どうか再考を!」
「ならん。北と西の魔物が片付いたら支援に向かわせる。それまで持ち堪えろ。」
「そ、そんなどうかお願いします。ここにはまだ動ける兵がいるじゃありませんか。どうかお願いします。」
「くどい!。」
ビクトールは頭を下げ懇願する兵士に対しその顔を蹴り上げようとした。
だが、顔に当たる直前に阻まれた。
「何の真似だ、ライーザ。」
それはライーザの左手であった。
「それはこちらのセリフです、ビクトール様。懇願している兵士を足蹴りしようとするとは、指揮官にあるまじき行為です。」
「俺に指図するなと言っただろう。」
ビクトールはそのまま足を蹴り上げようとするが、ライーザの左手はまるでそこに固定されたかの様にピクリともしなかった。
蹴り上げる事を諦めたビクトールは足をおろし、忌々しく舌打ちしながら彼女を睨みつける。
「私が南に加勢します。3名で死守しますので北と西の討伐を急いでください。」
「ライーザ様!。」
兵士は顔をあげ喜びの声を上げる。
「メイ、リン、出撃します。メイあなたの大盾を私に預けなさい。可能な限り攻撃を防ぎます。リンとメイの槍で魔物を制します、急ぎなさい。」
「は、はい!。」
強めの口調でライーザは2人に命令する。2人は急いで準備をはじめ、ライーザは報告に来た兵士を立たせていた。
「さぁ立ちなさい、最後の最後まで諦めるんじゃありません。」
「ライーザ様。・・・ありがとうございます!。」
兵士は涙ぐみながら感謝を述べメイとリンの準備を待っていた。だがその様子をビクトールは良しとしなかった。
「勝手な行動をするな妾の子。」
「ビクトール様こそ冷静になられては?、南の兵士達が全滅し魔物がこちらに向かってこられた場合挟み撃ちになります。ここは守りを少し割いてでも向かわせるべきです。」
「俺に指図するなといつも言っているだろう!貴様みたいに汚れた血の娘が、高貴な俺に指図するなど100年早い!。男を助けては囲い込むつもりか!?・・・はん!お前の母親もそーやって父上を骨抜きにして結婚まで漕ぎつけたのか?売女の娘はやっぱり売女の道を歩むんだな!。」
まるで子供の癇癪の様な言動を取り、ここが戦場と言うのもすっかり忘れているのか、我を忘れ罵るビクトール。
言い切った瞬間、ビクトールの顔はライーザの左拳によって横に吹っ飛んでいた。
ライーザは堪えきれず怒りの余りビクトールを殴ってしまった。
「私だけならいざ知らず、母上も父上も侮辱して・・・・汚れた血だ?その汚れた血に殴られてるお前はなんだ?。 父上・・・ハヴィ様はいつも言ってたじゃないか。血が民を作るんじゃない。民によって血は守られ導くんだって・・・。民が自分の住む地を守る為に兵士になり、そして領地を守るそれを纏め導くのが貴族の仕事だって。
貴方のやっている事は、思いやりもない、民も大事にしない愚かな貴族だ。」
殴られたビクトールは殴られた所を抑えながら立ち上がろうとしていた。その目の葉怒りに満ち溢れ、腰に挿している剣を抜く勢いだ。
「「ライーザ様準備整いました。」」
「・・・・わかりました。それではここから3名、助勢しに行ってまいります。」
ライーザはメイから大盾を受け取ると、1度怒りに満ち溢れているビクトールを見つめるが、すぐさま視線を逸らし報告に来た兵士に道案内と頼み急ぎ足で南側に向かって行った。
「・・・・ライーザめ、覚えていろよ・・・・。」
報告に来た兵士の案内で急いで南側に戻ってみると、立っている兵士が3人だけになっており、他の兵士の姿は物言わぬ骸と化していた。
今なお兵士達は気力を振り絞り、体長2mを超える岩の巨体ロックゴーレムと、黒く全長5mはあるかという不格好な蛇と対峙していた。
「黒い蛇・・・・しかも足が生えているだと?。これが変異種?」
その黒い蛇には下半身辺りからかなり大きな両足が生えており、2足歩行を可能にしている。しかもその生物の足では無く、人間の足に近い色をしていた。
「あの黒蛇は私が相手する。メイ、リン。お前達はロックゴーレムを相手しろ。倒したらこっちを手伝え!。」
「無茶です!ライーザ様。」
「いいからやれ!出なきゃ全滅だぞ。」
ライーザは2人に指示を与え、単身盾を構えながら黒蛇へと向かって行く。
「おおおお!お前の相手は私だぁああ。」
わざと大声を上げ盾ごと黒蛇へと体当たりをするライーザ。黒蛇はその体当たりに弾かれよろめき転げる。
「「ライーザ様!。」」
「こいつは私が引き付ける。お前達は体勢を立て直しゴーレムを討て!、それまでは引き受ける。速やかに行動せよ!。」
「・・・はっ!。」
急な命令で困惑しつつも兵士達はロックゴーレムへと向かって行く。
弾き飛ばされ立ち上がり敵意を向ける黒蛇、ライーザはさらに黒蛇へと突進して行く。
「はぁはぁはぁ・・・・。」
最初の体当たりから10数分後、黒蛇の攻撃を掻い潜り、盾を巧みに扱い体当たりや攻撃を与えるライーザだったが、黒蛇の身体は硬く大したダメージを与えられていなかった。
(せめて右手がまともに使えたならな・・・・)
肘から先が動かない右手を恨めしく思いながら黒蛇と対峙していると後の方から聞きなれた声が聞こえてきた。
「「ライーザさまああああ!。」」
メイとリンだ。彼女達は槍を携えライーザに向って一直線にかけより加勢する。
「ご無事ですか?ライーザ様。」
「見ての通りだ、攻勢にでるぞ。左右に展開し隙を狙え。」
「はい!。」
3人になったライーザ達、少しづつだが黒蛇にダメージを与えていく。
形成を逆転つつある状況に黒蛇は苛立ち、攻撃が雑になって行く。
攻撃すればライーザに防がれ、その隙に喉元や目などを攻撃される。
彼女達3人の連携により次第にダメージを負っていく黒蛇。
だが、優勢だったのはここまでだった。
黒蛇は突如身を屈めライーザの右側に居たメイに毒霧を吐き出す。
「きゃっ!。」
「メイ!。」
不意を突かれ対応しきれなかったメイは咄嗟に目を閉じる。
すぐに目を開けらられず1歩1歩後ろに下がるメイを黒蛇は逃さなかった。
彼女に狙いを定め、その巨体に似合わず矢のような速度で彼女を喰らおうとした黒蛇。それを阻もうとするライーザは咄嗟に右手でメイを突き飛ばした。
そしてライーザはメイの代わりに右手を黒蛇に捉えられてしまったのだ。




