幕間 ギロンの思いと雨
ガロン視点です。
「はぁ・・・確かに出来ますがいいんですか?。」
「ああ・・・・頼む。」
俺は今、グラドゥの錬金術師の所にある物を持って仕事を頼んでいた。
それは位牌にある細工をして貰う事だった。
グラドゥの北側にある小さな丘に建っている大きな石碑、ここはダンジョン内で命を落とした者を弔う為に作られた場所だ。別名、鎮魂の丘だ。
この石碑を中心にした周囲には小さなプレートが埋め込められている。
名前の書いてあるプレートだ。
俺はそこに小さな細工をして貰った。今はこの場所に埋め込められる場所を確保している。
(こんな場所、俺達には無縁だって笑っていたのだったがな。)
あの日、ギロンが死んだ日、俺は自分の無力さを痛感した。
自分の弟分に負け、ケジメをつけさせる所か死なれ、敵討ちすら出来ない自分。
出てくるのは、悔しさと後悔と涙だけだった。
俺達獣人は人間よりも身体能力が高くそれを武器にダンジョンに挑む者が多い。
俺もその一人だった。 碌な技術を持たず身体任せ、力任せに武器を振るう。
冒険者になってからCランクまでは一気に駆け上がってきた。
ダンジョンに挑んでは討伐を繰り返し持ち帰る素材を金に変え、酒を飲み、娼館へ通う、力こそが全てで俺にはその素質があると奢っていた。
このままAランクまで余裕だとすら感じていた。
だがアイツが現れて大きな変化があった、ディードだ。
アイテムボックスという特殊な能力で物を持ち運べる能力。
ポーターとしての能力としては破格だった。何が何でも欲しかった。
アイツが居れば今までの稼ぎの何倍、いやなん十倍にもなる。装備も酒も女もさらに自由になると思ってた。
だが、アイツは俺に臆することなく勝負を受け入れそして俺達に圧勝していった。
恐らく半分の力も出していなかっただろう・・・
ひ弱に見えるその姿から、どこに俺達獣人の力を超える能力があるのだろう?
もしかすればこれは夢か幻影かと思う程だった。
だが現実だった。魔力を巧みに使いこなし、圧倒する様は悔しいというより感服すら覚えた。2人の女もそうだった。
俺は井戸の中の蛙だった事を痛感された。
悔しいが、もっと鍛え直す事にし再び挑むと心に誓った。
俺達は生きている、もっと強くなってディードを従えさせる力を手に入れようと思った。
だが、あのバカはそう思ってなかった。
俺はアイツを甘やかしすぎた、今ならそう思える。
アイツは一人でもう1度挑み、そして兎獣人のレミィに完膚なきまで叩きのめされた。 しかも最低限のマナーすら捨てて。
俺は激怒しアイツを見捨てた。いや、見捨てた振りをした。
腐った根性を一度治す為には、俺から離れて1から苦労をさせるべきだと、勝手に判断してしまった。
そしてアイツは死んでしまった。
ちゃんと道を示してやればよかったのだろうか?
示せば死なずに済んだのだろうか?そんな考えが浮かんでは消えて行った。
今も答えは出ない、出ないからこそ生きて証明するしかないのかもしれない。
再び俺は武器を取り、ダンジョンに挑もうと思う。
新しい武器が欲しかった。そしてその武器を扱う技術も欲しかった。
大剣で力任せに叩き斬るのでは無く、双剣みたいにガムシャラに振り回すだけじゃなく、剣を受けても折れない、振り回しの効くディードの持っている武器が欲しかった。
子供じみた考えかもしれないが、アイツの持つ武器を持ち、技術を学べばアイツと同じ強さを得るのではないか?馬鹿な考えだと笑いたければ笑えばいい。
最後まで立ってる奴が強く生きている証明だ、と俺は思う。
工房へ行くと、会いたくて会いたくないディード達と出会った。
何やらやかましく騒ぎ3人の女に囲まれている。
俺は気にせずに工房の親父に話をしようとしたが、変な言葉の女にに絡まれた。
それはギロンの事だった。
その時俺はどんな顔をしていたのだろう、俺はその女にもうアイツは2度と来ないと伝え、迷惑料として銀貨を渡した。
正直に言えば、アイツを脱退させて俺には責任を負う必要はない。
そう伝えても良かったのだが、何故だろうな、俺はその時払うべきと思っていた。
そうしたらあの女、お釣りを持って来た。
「今夜か明日中には飲んどき。これは思い出酒っていってな、その人の事を思い浮かべて飲むと、忘れていた思い出が一時的に思い出せるようになってるわ。効果は一晩しかもたんけど、故人を偲ぶならこれがいいと思ってな。これはお釣りや取っとき。」
変な言葉を使う不思議な女だったが、何故かその酒を見た時俺は受け取っていた。
俺は工房の親父に強い刀が欲しいと頼んだ。それと刀の扱い方を知っている奴を紹介して欲しと願った。
ディードより強い刀を願ったがそれは出来ないと言われた。
あの刀はディードが打った物で、それ以上の物は今の素材と技術じゃ出来ないと言われた。
それでも欲しいと願った、今打てる技術で作って欲しいと材料も用意すると頼んだ。
工房の親父は出来る可能性は低いと言ったが俺はそれでも構わないと答えた。
不承不承だったが、作って貰える事になった。刀技も少しは教えられると。
俺は店を出て後日持って来ることにした。
その夜、俺はあの変な言葉の女に渡された酒を飲んだ。
口当たりは良く、スッと身体に入って行く。
飲んでいるとギロンの顔を思い出した。
それも昔、俺達が村に居た頃の思い出だ。
アイツは身体が一回り小さくよく標的にされていた。
獣人の力は他の奴らよりまだ弱く、村の奴らによく泣かされていた。
あだ名が『泣き虫グリエ』を呼ばれる位、アイツはよく泣かされていた。
「俺は、ガロンの兄貴の様に強くなりたい。」
いつも泣かされては俺にそう言ってきた。
「だったら鍛えろ、強くなる為に早く動け。大猪ぐらい一人で狩れる様になれ。」
「狩れる様になったら、俺もダンジョンに連れて行ってくれる?。」
「ああ、ただしそんなに長くは待たないからな。」
「・・・・・うん!俺がんばる。」
それがいつものやり取りだった。それからアイツは一人で狩れる様になるまで必死に努力をしていた。武器も俺の真似をするのじゃなく、手数の多い双剣を使えと教えた。
アイツはその教えを笑顔で応え、ナイフを2本持つようになった。
懐かしい思い出だ。
俺はまた酒を飲む。心なしか少し味が変わった気がする。
浮かんでは消えていく思い出に酒は進む。
強い酒なのだろうか?視界がぼやける。
切ない気持ちになるのもきっと酒のせいだろう。
今夜の酒は、飲む度に味が変わっていく気がした。
翌日俺は錬金術師の所に頼みいった。
それは位牌のプレートに細工をしてもらう為だ。
錬金術師は首を傾げ不思議そうな顔をし、俺に確認してくる。
俺もこんな事を頼むのは正直バカらしいと思っている。
後日出来上がったプレートを受け取り、俺は再び鎮魂の丘に立っていた。
プレートをはめ込み、そこに数滴酒を雨に見立てて掛けてみた。
錬金術師はちゃんと仕事をしたようだ。
濡れたプレートは隠された文字を浮かび出していた。
『泣き虫グリエここに眠る。』と・・・・
ギルドで登録した名前だけじゃなく、俺はこっちの名前も残したかった。
雨が降るたびにアイツは泣くのかもしれない・・・そう思うとなんだか少しだけ笑えて来た。
鎮魂の丘を去ろうとしていた時、遠く東の空から雨雲がこちら向かって来るのが見えた。




