第91話 救出要請
「マスター失礼します!大至急伝えたいことがあります、お話よろしいでしょうか?」
ココルは強引にディードの手を引っ張りながらギルドマスターのいる部屋のドアをノックする。
「大丈夫だよ、入って。」
ドア越しから聞こえてきた声にココルはドアを開ける。机の上に載っている大量の書類に目を通しているイーグ。その手前の数人が掛けられるソファにはファリップが同じく書類と格闘していた。ココルは開口一番、声を荒らげる。
「マスター!彼なら適任です。指名依頼をお願いします。」
「ちょっと、ココルさんいきなり連れ出してきて何言ってるの?。」
「ディードさん、一刻も時間が無いんです。お願いしますギルドからの指名依頼を受けてください。」
「ココル、どうやら何も説明しないで連れて来てるね。それじゃ彼も混乱するだけだよ?ちゃんと説明しようね。それと・・・彼の仲間も呼んできてもらえるかな?。下にいるようだし。」
「は、はい!?今すぐに!。」
イーグの言葉に勢いよく返事をするココル。彼女は慌てて頭を下げリリアとレミィを連れてくるべく急ぎ足で向かって行く。
「すまないね、彼女には悪気はないんだ許してやって欲しい。」
「は、はぁ・・・。」
「すまんなディード。ココルには後でちゃんと言っておくから。アイツ基本は優秀なんだが時々抜けてるからな。そこに掛けてくれ」
書類を一纏めにしながらファリップはソファの開いている方に座る様に促す。
ディードがソファに座るとほぼ同時にドアの向こうから声が聞こえてくる。
「そんなに引っ張らないでココルさん。別に逃げないから。」
「そうですよ、そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。」
「いいから、早く来てください大事にな話があるんです。お願いします。」
外から聞こえる声にファリップは頭を抱え、イーグは涼しい顔でポーカーフェイスをしている。ディードは苦笑いをしながらその様子を伺っていた。
3人が中に入りドアを閉められる、ディードの脇にリリアとレミィが座りファリップの横にココルが座る。落ち着かない様子のココルを落ち着かせて、イーグは机の小さな水晶に手を触れてから話を切り出す。
「急に呼び出してすまないね。自己紹介は・・・必要ないね。それじゃ本題に入る。実は先日君達とすれ違った騎士団の事を覚えているかい?。あの騎士団が今現在壊滅の危機に瀕しているだ、それの救出に向かって欲しい。」
「壊滅?何があったんですか?かなりの人数で向かっていたはずですが?。」
「17階で変異種の魔物が現れた、これがかなり厄介な奴だったらしく、騎士団でも1匹の魔物に大分損傷を受けたらしい。」
「その魔物は今もそこに?。」
「いや、騎士団によって討伐されたらしいんだが、問題はそこからなんだ。」
ファリップが深くため息をつく。
「変異種の魔物からドロップ品が出たんだ、これが罠だった。」
「罠?。」
「ああ、ダンジョンにはたまに魔武器や魔道具が魔物から取れる事がある。特に階層主、15階や20階などの魔物は確率は低いがドロップする。その他にも魔物が変異した変異種とかにも魔道具が出る場合がある、ただし呪われた道具などもある。」
「呪われた道具?。」
ディードがその言葉に眉をひそめファリップの言葉を繰り返す。
「ああ、今回はそれに当たった可能性がある。変異種から出た魔道具はとても強力だ。それだけで一財を築けるほど高価な物もある。ただ、呪われていてすぐには使えない場合もあるんだ。欲に任せて開けてみるとその場で全滅って事もあり得るからな。」
「全滅・・・・・そんな事があるんですか?。」
レミィはその言葉に疑いを持つ、だがファリップは続ける。
「あったんだよ実際。【宵の月】というランクAのパーティーが昔あってな、30階辺りで出現した変異種を討伐したら魔道具が出てきたんだ。それで欲に負けたポーターがそれを持ち出して逃げようとした所、パーティーに見つかってな、そこで使ってしまったんだ。その魔道具は、呪われていて使った本人は毒まみれになり、皮膚が溶け出し断末魔をあげながら死んでいったそうだ。パーティーはなんとか転送陣で戻ってきたんだけど、全員が呪いを受けてな、毒、石化、麻痺、病気などの症状で1週間たたずに全員が死んでいったよ。」
その説明を聞くとイーグ以外全員が苦い顔し沈黙する。重い空気が流れる中イーグが話を切り出す。
「今回はそれだけじゃなく、魔族の関与も疑っている。理由は言うまでもないね。」
魔族の関与・・・それは低ランクの冒険者達の命を使い、人工的な魔武器を作る計画。それはディード達によって解決の糸口を見出していたが、首謀者である魔族のゾクマに逃げられてしまった為、解決できずにいる。
今回の変異種の事も、関与が疑われているが証拠が無い。支援要請の為に戻ってきた兵士だけの証言しか現状を把握しきれていないからだ。
「戻ってきた兵士の報告だと、討伐した後に出た魔道具を開封してしまった為、階層の魔物が湧き出したそうだ。その魔物に騎士団は分断され支援要請が来た・・・と言う訳なんだ。」
イーグは表情を変えずに淡々と語る。それに付け加える様にココルが口を挟む。
「それでディードさんにお願いしたいのは、分断された騎士団への支援物資、もしくは救出をお願いしたいんです。このままだと全滅の可能性もあると兵士からの報告も受けています。ディードさんのアイテムボックスなら救援物資も大量に運べますし、何よりも少数精鋭でランクCの実力を持ってます。・・・ですから!。」
ココルが懇願するようにテーブルに手をつき前のめりになる。だがすぐさまファリップに手で制止される。
「ココル落ち着け!簡単に言うものじゃない、これはリスクが高すぎるんだ、確かに彼等の実力はランクCかそれ以上の実力もある。アイテムボックスとういう有能な能力もある。だが初めて行く場所に3人で行かせるには危険だ。それに彼等だけに頼るわけには行かないんだ。もし彼等に何かあった場合どうする?騎士団に支援物資は届かず最悪の場合双方全滅の場合もあるんだぞ!。」
ファリップはココルに厳しい口調で言い放つ。彼女も分かっているつもりではあったが、感情的になってしまい視野が狭くなっていた。
「・・・・・申し訳ありません、軽率でした。」
「焦る気持ちは分かる。だが、だからこそ冷静に対処しなければならない時もある。広い視野を持ち思考を重ね最善を導くように努力しなさい、君にはそれが出来るから。」
「・・・は、はい・・がんばります。」
イーグに笑顔で諭されココルは少し顔を赤らめ返事をする。
「さて、現状は分かってもらえたかな?出来れば協力してもらいたい。もちろんギルドからの指名依頼として報酬も用意するけどどうかな?。」
イーグは表情を変えずに依頼を申し出た、ディードは少し目を瞑り考える。
少しの沈黙の後、ディードは質問する。
「聞いていいか?。」
「どうぞ。」
「もし依頼を受けなかった場合は?。」
イーグは少しだけ眉をひそめたが、すぐ戻し淡々と語る。
「拒否しても構わないよ、それは正解だと思う。勿論ペナルティーは無いから安心して。その代わりなんだけど、数日はダンジョンに入る事を控えて貰うよ。15階への転送陣は一時封鎖の処置をするからね。多分厳しい展開になると思うから。」
「厳しい展開?。」
「今こちらでやろうとしてる事は、冒険者とポーターを集め救出隊を出すんだ。しかし集まるまでに時間もかかる、その間は騎士団の救出は出来ない。数は減るだろうね。そして即席で作られた救出隊は、ポーターを護りながら進まらなければならない、進行速度は遅いが確実に進ませるしかないね。間に合うといいけどね。」
それは半ば脅迫じみた言葉だった。時間が無く直ぐに出ないと全滅すると、被害を抑えるに為に受けてくれと暗に示している。
「脅迫にしか聞こえないんだけどな。」
「一応マスターだからね。酸いも甘いも嚙み分けるよ。」
「喰えない人だな。」
「ディー・・・。」
「ディードさん。」
リリアとレミィの声に彼は彼女達に振り向く。彼女達は既に覚悟を決めているようだった。ディードは二人の意思を確認したところで深いため息を吐き返事をする。
「・・・・・わかった、協力する。」
「ありがとうございます。」
ココルはソファから立ち上がり頭を下げる。ファリップは少し安堵したのか息をもらす。
「すまないね、報酬は弾むから。それと現時点を持って君達をランクCに昇格するね。緊急の指名依頼を受けられるのはランクCからだからね。」
「やっぱ喰えない人だな。」
「それは誉め言葉として取っておくよ。」
ディードの呆れたような口調に、笑顔で返すイーグ。こうしてディート達3人は騎士団を救うべく準備を始めるのであった。
――――
――
ダンジョン16階、通称【荒野】
このエリアは見渡す限りの荒野が続いている、日中30度は優に超える暑さ、太陽が照り続け、赤茶色の大地は乾き、所々荒れ果てる不毛な地帯だ。
ディード達が依頼を受けている同時刻、ダンジョンの17階では3人の兵士が荒野の平地で魔物の猛攻を受けていた。
「ぐぅぅうう。」
「ライーザ様!」
「大丈夫だ。お前たちは少しでも休んでいろ。ここは私が凌ぐ。」
ライーザ達は切り立った崖の根元にある小さな穴に身を寄せていた。その穴は人が2人は入れれば狭い空間であり他に何も無い。ライーザはそこに入り内側から大盾を構え、ストーンゴーレムの拳を受けていた。
「無理です、ライーザ様どうか私達を置いてお逃げください。ライーザ様の実力ならその片腕でも逃げ切る事は可能なはずです。どうか・・・。」
「そうです、私達が囮になっているそのうちにお逃げください。」
ライーザは右手を肘から先を失っていた。それでも彼女は盾を構え、魔物の攻撃を受けている。彼女は正面を見据えたまま声を荒げる。
「そんな事出来るか!メイ、リン、良く聞け。私達は生きて、生きてここから出るぞ。3人でだ!死ぬ事は許さない!。」
「ライーザ様・・・。」
メイ、リンと呼ばれた女性はライーザを見つめ弱々しく言葉を吐く。2人はここで命が散る事を覚悟してはいる、だがせめてライーザだけでも逃がしたいと思っていた。
しかし、ライーザは絶対に生きてここから出る事を信じて疑わなかった。
「私は、ここで死ぬ訳にはいかない、絶対に死ねない!私はハヴィ様にもう1度会うまでは絶対に!。例え腕が無くなっても、足が無くなっても、ここから生きて出るぞ!絶対に心を折れてやるもんか!。」
ゴーレムの攻撃を気迫を込めて盾で受けるライーザの心は、その赤い髪と同様に何時までも燃え上がっていた。




