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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
堕ちた心と堕ちぬ心
95/221

第90話 嵐の前触れ

 

「ガロン。」


 ジロエモンの工房に入ってきた客はガロンであった。


「ここはお前達の店だったのか?。」

「いや、ここの工房に素材を提供したり、たまに工房を使わせてもらっているだけだ。ガロンは買い物か?。」


「ああ・・・まぁな、お前が使っている刀に興味が湧いてな。それでこの店に来たんだが・・・・まさかお前が居るとは思わなかったな。」

「ん?ガロンやて?。」


 リリアとレミィに引き剥がされ拘束されていた夢花がガロンの名前を聞き顔を上げる。

「確か赤い爪のリーダーやったな?。」

「そうだが・・・誰だ?。」

「ウチは酒場ドリームフラワーの店主、夢花っちゅーもんや。お宅のとこに()()()っちゅー奴おったろ?。あいつ少し前にウチの店来て、自棄酒で騒ぐわテーブルは蹴っ飛ばすわ、で散々な目に遭ったんよ。料金も足りんかったんや。文句の一つでも言わせてーな。」


 夢花は半ば八つ当たりに近い文句を言い放つ。ただ夢花はギロンが赤い爪を脱退させられている事を知らない。

 ガロンは夢花を見た後、少し視線をずらし遠い目をする。そして懐から銀貨数枚を取り出し、夢花の前に差し出した。


「俺の弟分が迷惑をかけた。()()()()()()()()()安心しろ、料金はこれで足りるか?。」

「・・・・へ?。」


 夢花は拍子抜けた顔をする。酔った勢いで文句をつけるだけで良かったのだが、料金を肩代わりして支払ってくれるとは思ってもいなかったのだ。


「・・・えっと、銀貨1枚だけええ。それ以上は貰いすぎや。」

「そうか・・・・。」


 ガロンは夢花に銀貨1枚を渡し、ジロエモンの方へと向かう。


「ウチ、夢でも見てるん?赤い爪のリーダーって言えば気性が荒いって聞いてたけど?。」

「ああ、()()()()()()()。色々とな。」

「そうですね、夢花さんもうそのギロンって人は来ないので大丈夫ですからその話はその・・・。」


 レミィが言葉を濁しながら会話を打ち切ろとする、しかしそれが夢花にとっては何を言いたいのかを察する。


「そうか・・・死んだか、アイツ。」

「・・・・・・はい。」


 夢花の言葉にレミィは視線を落とし肯定する。レミィだけでくリリアも視線を落としていた。 


「そっか・・・もう来んのか。その様子だと最後を見たんやな。」

「ええ・・・。」


 夢花の問いかけにリリアが答える。2人の拘束が弱まり、夢花はすっとディードの方へと寄っていく。

 彼女は指をパチンと鳴らし自分の魔法を解き、酔いを醒まし素面になっていた。


「なぁ兄さん、昨日渡した夢酒(ゆめざけ)まだ手元にあるん?あったら1本渡して欲しいんやけど、次会った時にまた作るさかい。」

「ああ、いいよ。何に使うんだい。」

「今のウチなら多分出来ると思うから、ちっと()()()()()()()()()。」


 ディードはアイテムボックスから夢酒を1本彼女に渡す。夢花はそれを地面に置き両手をかざし深く深呼吸すると魔力を込め始める。

 魔力を込め終え、一息つくと彼女はそれをガロンの目の前に差し出した。


「・・・・?なんだこれは?。」

「今夜か明日中には飲んどき。これは思い出酒っていってな、その人の事を思い浮かべて飲むと、忘れていた思い出が一時的に思い出せるようになってるわ。効果は一晩しかもたんけど、()()()()()ならこれがいいと思ってな。これはお釣りや取っとき。」


「・・・そうか、すまんな。」

「気に入ったらウチの店に飲みに来てええで、ただし静かに飲む酒場やからそこだけは覚えておいてな。」


 差し出された1本の酒をガロンは受け取り礼を言う。

 夢花は満足した様子でリリアとレミィの所へと戻っていく。


「さて、ウチの用事はこれで済んだし、そろそろ店の仕込みに戻るとするわ。兄さんさっき言った事は嘘やないで、1発くらいはOKやで。ほなな。」


 夢花はそう言いつつ、笑いながら去って行った。



 「にゃはははは。随分面白い奴と知り合ったなディード。最初会った時とは印象がちがうけど、ウチと気が合いそうにゃ。」

「豪快な人よね・・・レミィちゃん。ディーが一人で飲みに行かない様に監視しないとね。」

「そうですね。浮気相手に先越されるのは正直、いい気がしませんからね。」

「なんでそうなるんだよ。」


 嵐の様に現れ、周りをまき散らし、そして去って行った彼女に対しそれぞれの感想を口々にこぼす面々。彼女の存在自体が一種の酒の様にも思えた。







「それでいいなら作るが、保証はせんぞ?」

「それでもいい、材料を取ってくる。」


 ガロンはジロエモンとの話を終え店を出る。

 彼は材料を持ち込みで刀を一振り打ってほしいとの事だった。期間は一ヶ月中に仕上がってくれれば問題ないという。

 そして持ってくる材料はミスリルを刀1個分のインゴットを持ち込むと言う。

 ジロエモンは最初難色を示した。彼は鉄の刀は打てるがミスリルの刀は打った事は無い。ましてや失敗するの方が大きいというガロンに説明したのだが、意外にもガロンはそれでも良いと言った。



「まぁ、最悪ディードにやらせるからジロさんはこの際思い切りやって見るといいにゃ。」

「なんで俺が・・・・って元凶は俺になるのか。」

「そうにゃ、お前がこの店で作ったなんて言うから、ジロさんが造ったなんて思われているにゃ。もしだめならまた材料を仕入れて来るからがんばるにゃ、ディード。」


 ララはディードに向い親指をたててそう言う。ディードも模擬戦で、ギロンのとの対峙で、この刀の性能をガロンに見せつけている。


「まぁダメだったらそうするからジロエモンさんは頑張って作って見て。」

「やらやれ重責だな。」



 その後はディード達はジロエモンの仕事を少し手伝い、4の鐘(午後3時)が鳴る頃に店を後にする。彼等は明日、再びダンジョンに挑むべく回復薬などを仕入れ、夕食を取り身体を休むべく宿へと向かっている。


「それにしても、まさか回復薬が売り切れなんてねぇ・・・・。」

「そうですね、回復薬全般に武具も品薄なんて思ってもいませんでした。」

「あの騎士団がほとんど買い占めたのが効いているね。」


 あの騎士団とは、ディード達が双頭狼を倒し、転送陣で戻って来た時に出会った騎士団の事だった。

 彼等は20階のボスを倒すべく、金に物言わせ都市の回復薬を買い漁って行った後であり、現在は品薄状態だった。 武具はそれなり数はあったが、質のいい武具はやはり騎士団に買われていった。


「まぁ彼等にも彼らなりの理由がある訳だし、俺等はその時にはダンジョンの中だったししょーがないさ。俺のアイテムボックスに少しだけ回復薬あるし、魔力が尽きなければ回復は出来る。」


 ディードの回復魔法、神聖回復(リジェネヒール)があれば失った部位を即座に回復できる。彼自身が魔法を使えない状況にない限り回復薬の心配はそれ程でも無い。あくまでも保険に欲しいのであって、緊急の要する訳でもない。 

 魔力に関してはリリアがいる、彼女の魔力譲渡でディードは例え魔力が空になっても回復魔法が使えるようになる、つまり両方が行動不能に陥ってなければ回復は出来る。

 武器に関しては3人の武器は、ほぼディードのお手製であり今の所、苦戦を強いられるほどの強固な魔物とは出会っておらず不自由はしていない。


「無い物は仕方が無いわよね、15階からは数が減る代わりに個々の強さが出て来るらしいから、危なそうだったら逃げるばいいし。」

「そうだな、俺達は何が何でも突破するしなくちゃ行けないわけじゃ無いからな。あの騎士団の様に・・・。」

「そうですね、貴族の方も苦労はしているんですね。」


 ディード達と入れ替わる様に入った騎士団達は、迷宮都市グラドゥから北に位置する城塞都市ゲートウォールの騎士団の面々だった。

彼等は数年に一度、20階のボスを倒しその素材を納品する事で城塞都市のすぐ近くにある鉱山の採掘権を取得している。そうする事によって王国に忠誠を誓い、王国は採掘の権利を許可している関係にある。

 採掘された鉱石は純度の高い物が多く、ミスリル関連の製品はほぼここで採掘されて多くの品物は王国へと流れ、巨大な富を生み出している。非常に有用は場所であるが鉱山の魔物は強く、採掘に関しては命がけである。

 20階のボスを討伐し、その証拠と共に様々な品物を王国へ納品しないと採掘権が取り上げられる。取り上げられれば貴族達にとっては死活問題であり意地でも成し遂げならければならない状況にある。


「明日は15階から16階への下見って感じかな。無理はせずに戻って来られるようなら戻ろう。」


 


 ディード提案に2人は頷き宿に戻る。夕食を終え3人はそれぞれの部屋に戻る為に階段へとあがる。


「それじゃお休み。」

「あら・・・お休みのキスは無いの?。ダメな彼氏ね。」

「・・・・してくれないんですか?。」


 リリアが冗談交じりでディードをからかう。それに便乗するようにレミィは少し寂しそうな顔をする。


「絶対俺で遊んでるだろ?。」

「そんな事はないわよね?レミィちゃん。」

「そうですね、リリアさん。」


 ディードは少し困った表情をしたが2人の彼女にせがまれ嫌な気分ではなかった。

 最初はリリアに次にレミィへとキスをし軽く抱きしめる。



「それじゃ明日ね。」

「おやすみなさいです。」


 2人は少し顔を赤らめ部屋へと戻っていく、それを見送ったディードは自分の部屋に入りベットへと潜り込む。


(そういえば、アイリスに言われた懐かしさを探してくれって頼みは、どうすればいいんだろうか・・・15階辺り何かあったっけな?)


 ディードはそんな事を考えながら目を閉じると、疲れが溜まっていたのかすぐに深い眠りへとついていった。



 翌朝、2の鐘(午前9時)が鳴る頃、ディード達は冒険者ギルドへと足を運ぶ。あわよくば前日に他の商人、もしくは薬師などがギルドに回復薬を卸しているのでは?と、15階からのクエストで何か依頼があればついでに受けようと思い寄ったのである。

 しかしギルドの中に入ってみると、ギルド職員と冒険者が大急ぎで走り回っている姿が見受けられた。


「準備は整ったか?。」

「まだだ、人でが足りない。ポーターが揃わないぞ。」

「騎士団の方でかなりの人数のポーターを連れて行っているから厳しいぞ。」

「低ランクの冒険者をポーターに、ギルドからの緊急依頼にすればいいだろう!。」

「この時間じゃ既に他のクエストやっている頃だ、それより物資の方も足りてないぞ!」

「急げ!間に合わなくなっても知らんぞ!。」



 右往左往するギルド職員、指示を受け大急ぎで準備する冒険者やポーター達がギルドの中で忙しそうに準備をしている。


「なんだこの鉄火場は・・・・?。」

「何かあったのかしら?。」

「ちょっと声が飛び交いすぎて聞き取れないですね。」


 ディード達3人はその様子を茫然と見ていると、見知った顔が通り過ぎていく。


「あ、ココルさん。」

 その声を聞いたココルは振り向き様に笑顔で会釈をする。彼女は忙しくとも礼儀は欠かさないように見れたのだが、次の瞬間。


「あああああ!ディードさん。丁度いい所に!!。」

 持っていた荷物らしき物を放り投げ、大声でココルはディードに向って走り寄って来る。

 彼女は即座にディードの手を握り懇願する。


「ディードさん!まだ何もクエスト受けてないですよね。受けてもキャンセル可能なクエストですよね?ね?ね?。」

「え・・・何?どうしたの?今来たばっかりだけど、この状況は?。」

「良かった!!お願いがあります。ちょっと来てください。大至急ギルドマスターに取り次ぎますので。」

「え?何で?ちょっと待って。いだだだ、そんなに引っ張らないで。」


 ココルはディードの手を掴みながらギルド奥へと進んで行く。

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