第88話 アイリスからの呼び出し
夢花の店から出た3人はほろ酔い気分で自分達が宿泊している宿屋に戻る。
酒が楽しかったのかリリアは宿に着くまで終始上機嫌だった。
「明日は1日お休みしようか。ゆっくり休んで次に備えよう。」
「それなら3人でどっちかの部屋で飲みなおさない?。」
リリアの唐突な提案に残念そうにディードは首を横に振る。
「すまないが、アイリスが呼んでいるんだ。今夜はお開きだ。」
「それじゃ残念ですけど、今日はダメですね。」
「へたれよね~。レミィちゃん、こんな可愛い彼女2人が誘っているのに~。」
ディードに誘いを断られてレミィに抱きつき絡むリリア。レミィはそれを振りほどく事が出来ずに苦笑いをする。
「へたれの彼氏は嫌いかい?。」
「そうね、どうせなら男らしくちょっと強引にでも引っ張って欲しいって時もあるわね。特に今とかねー。」
「え・・・あはは・・。」
「そうか・・・それなら。」
ヘタレと呼ばれて癪に障ったのかディードがリリアの前に詰め寄る。
すると突然レミィごとリリアを抱きしめ彼女にキスをする。
「~~~~~!!!。」
「はわわわ・・。」
リリアはディードが大胆な行動に出るとは思っておらず不意を突かれビックリしている。レミィは2人に挟まれつつ自分の頭上で口づけを交わす2人に思わず声が震えていた。
少しの沈黙の後、ディードはゆっくりリリアの唇を離す。少し名残惜しそうな顔をしたリリアだったが、我に返り顔を赤らめる。
「これで満足かい?。」
「~~~!!!・・・・・ばか。」
リリアは何か言いたかったのだが、うまく口に出せずに自分の部屋へと逃げ込む。
「ははは、嫌われちゃったかな?ごめんねレミィちゃん挟んじゃって。」
「い、いえ、ちょっとビックリと、羨ましいかったです。あの出来ればわたしにも・・・」
「あははは・・・それじゃ部屋に戻るね。」
レミィのお願いだったが、そこは聞き流し自分の部屋に向かうディード。
彼女は去っていくディードの背中を見つめ少し寂しそうな顔をするが、仕方なく自分の部屋に戻って行った。
自分の部屋に戻ったディードは潜り込むようにベットに入る。
(それにしてもアイリスからの呼び出しか、珍しいな。)
ほろ酔い気分のままディードの≪住処≫へと誘われていく。
「何してんだ?ファグ。」
≪住処≫に入り最初に目にした光景は、ファグが横向けになりぐったりしている姿だった。
「来たか・・・、交代だな。」
「は?交代?。」
「ああ、お前があんな玩具を入れたから、アイリスがはしゃいでしょうがなかったんだ。今度はお前が付き合ってやれ。」
ファグはそう言うと鼻をアイリスの方へと向ける。ディードは彼女の持つ武器に見覚えがあった。それは15階のボス、双頭狼を倒した時に出た壊れた魔武器だった。
アイリスはその武器を持ちディードの方へと向かって行く。
「おーい、ディー。ちょっと付き合いなさい、この魔武器面白いわ。」
「あれ持ち手が壊れていて弓としては使えないだろ?それにアイリスは弓は専門外だろ?。」
「ええ、私は遠距離の武器が使えないわ、でもこれ接近戦用の弓っぽいのよ。」
「は?。」
「まぁいいわディー。論より実践よ!。」
アイリスは折れた弓へ魔力を供給する。弓は全体に魔力が巡回すると青白い光を放ち折れた部分は魔力で接続されて弓の形になっている。
そしてアイリスはディードに向って突進してくる。
「それを言うなら論より証拠だろ?。」
「いいから武器を取りなさい、怪我するわよ。」
「怪我させる気かよ。」
ディードは慌てて刀をアイテムボックスから取り出し応戦する。
アイリスの持つ弓がディードの持つ刀を互いにぶつかり合い激しい金属音が鳴り響く。
その音に驚いたディードだったが、すかさずアイリスは弓を左右に振りディードに襲い掛かる。アイリスの連撃にディードは防戦一方になるがその弓の性能を見定めていた。
(なんて弓だ。両端の刃がついている部分は兎も角、弦にまで俺の刀が弾かれている。これが魔武器なのか。)
「ほらほら受けてばかりじゃなくて、たまにはかかって来なさいヘタレ。」
「安い挑発だけど受けてやるよ。」
ディードはアイリスに反撃するべく、足から火球を出し蹴る様に放つ、彼女はそれが来るのを当然の様に避ける。
避けられたてもディードは体勢を崩したアイリスを追撃するべく刀を振るう。
「甘いわよ。」
アイリスは崩れた体制から弓を振り回す。すると弓は持ち手の所から2つに割れ、まるで鞭のようにディードの刀に絡みついた。
「な!。」
「そ~れ~。」
アイリスは軽い口調で腕を上にあげると、ディードの刀をまるで一本釣りの様に宙へと投げ出す。ディードの刀はあっさりとアイリスに奪われ、正直な気持ちを口にする。
「悔しいというより、さすが戦乙女だな、アイリス。」
「褒めても何も出ないわよ。さ、もう1戦よ。」
アイリスはディードに刀を投げ返しもう1度構えを取る。ディードは嫌々ながらも刀を受け取り再び構えを取りアイリスに向かって行った。
やがて夜も明けようとする頃、≪住処≫では息を切らし仰向けで倒れているディードの姿あった。
「はぁはぁはぁ・・・・・一本も取れないのかよ。」
「まだまだね、ディー。刀の使い方も魔法も巧くなってるけど、出す時に力を込める癖を直しなさい。もう少し流れるように出せばもっと強くなれるわ。」
「無茶言うなよ、これでもわからない様に色々と工夫しているんだ。撃つ時に力を込めないと威力が下がるだろ?。」
「それを見せないのが一流なのよ、もっと精進しなさい。」
そう言うとアイリスはディードに近づき、仰向けに倒れている彼を自分の膝に乗せ優しく頭を撫でる。
「なんだよ、もうさすがに魔力切れで動けないぞ。」
「分かってるわよ、だからこうして上げているんじゃない。今日は私に付き合ってくれてありがとね。」
「ああ、たまになら大丈夫さ。先約はいなかったしな。」
「先約が居ても強引に呼び出すかもよ。」
「それは親としてどーなんだ?。」
「ふふ、それはどーなんでしょうね?。」
ディードとアイリスは他愛もない会話をしていた頃、ファグが近寄ってくる。
「アイリスよ、そろそろ本題に入ってはどうだ?流石にディーも疲れておるぞ。」
「あ、そうね。すっかり忘れていたわ。」
ファグに促され、アイリスは手をポンと叩く。
「この魔武器の事ですっかり忘れてたけどディー、私ね、少し懐かしさを感じたの。」
「懐かしさ?。」
「そう、なんて言えばいいんだろ。妙な懐かしさだったの。私がまだ戦乙女の頃にあったようなそんなふと思う懐かしさだったの。」
「なんだよ。その曖昧な言葉は・・・・。」
「ふふ、ごめんね。でも悪い意味じゃないのよ、出来ればその懐かしさを探して欲しいんだけど。」
「・・・・ああ、よくわから・・・ないけど、探してみ・・・・・。」
ディードは最後まで言い切る事なく深い眠りに落ち≪住処≫を出て行ってしまった。
膝枕をしていたアイリスはディードが消えると名残惜しそうに自分の膝を軽く触れる。その姿は優しく微笑む母親のようでもあった。
だがそれも束の間、起き上がったアイリスは軽く伸びをした後、再び壊れた弓を手にしファグに向き直る。
「さてと、この玩具でもう少し遊びたいんだけど相手してくれるよねファグ。十分休んだでしょ?。」
「・・・・いや、もう十分遊んだろ?。」
「これね、多分ディーが近いうちに素材にして違う武器にしちゃうと思うから、遊べるうちは存分に遊んでおきたいのよ。ささ戦りましょう。」
アイリスは笑顔でファグに突進してくる。その時にファグ諦めた様子で深いため息をつく。
(ディー、早くこれをなんとかしてくれ。)
そして夜が明ける。




