第87話 楽しい酒
「ふーん、要するにウチが体験した地震っぽいのは、後に関西大地震と呼ばれるもので、ディードはんはその15年後ぐらいの大地震で魂だけこっちに来たって事なんや・・・。」
199X年、後に関西大地震と呼ばれた大震災は、関西の人のみならず当時を知る日本人なら記憶の片隅に残る衝撃的な印象が残る大地震だった。
その地震は日が昇る前に起き、わずか数分にして近代化の景色を瓦礫の山に変え、交通機関、医療機関、流通などが全てストップされ近代化に慣れた人々にとって、避難生活の日々は過酷なものだった。
報道機関は連日この地震を取り上げ、特集を組み他局と悲惨さを競い合う様に報道されていく。
中でもヘリコプターで空からの中継映像は多くの人々を恐怖に陥れる。
焼けた家屋、倒壊したビル、そして架道橋と共に倒れる高速道路は強烈印象だった。
数か月の間、毎日報道のヘリコプターが飛び交い、地上の人々がその騒音に悩まされ、音によって崩れた家屋やビルなどを我先に映そうと報道の車で道を塞ぎ、流通を滞らせるという悪循環が行われていた。
「ああ、あの時は俺は子供だったけど衝撃的だった。連日報道される映像は記憶に残っているよ。」
「そっか・・・そうなんや。」
呟きながらエールを流し込む夢花は、何度も同じ言葉を口にしてはエールを飲む。
「すまない、嫌な思いをさせてしまったな。」
「いや、ええんや。ウチも気になってはいたんや。けど確認する事ができへん、それにな、あんまり実感が湧かないんや。」
「そうだよな。実感は湧かないよな、俺だって死んでこっちに来てるんだが、いまいち理解出来なかったし。」
「死んだ時の事覚えてないんか。そら実感湧かないやろな・・・。」
夢花は首を傾げつつもエールを口にする。
少し暗い雰囲気の中、少しでも流れを変えようとレミィは奮闘する。
「で、でもディードさんはここに生きています。私の事を助けれくれたり、他の人達を助けたじゃないですか。とてもとても凄い事です。だからそんなに暗くならないでください。」
「ありがとう。少し暗い雰囲気作っちゃった、ごめんね。」
そう言うとディードはレミィの頭を撫でる。少し照れながらそれを受け入れるレミィはディードに身を寄せ目を細めていた。
「おーおーお熱いな、兄さん両手に花で羨ましいわ、こんな美人2人を毎晩可愛がってるんやろ?ウチも男だったらなぁあああ。」
やけくそ気味でエールを飲みつつナッツを放り込む夢花。
「えへへへ、だから早くリリアさん、ディードさんとそういう仲になってくださいね。」
そう言われ口にしていた酒を思わずこぼしそうになるリリア。
「ちょっと何言ってるのレミィちゃん、いきなりそんな事言わないでよ恥ずかしい。」
「ん?なんや兄さん。この子達に手を付けてないんか勿体ない。」
「勿体ないって・・・・どこのエロ親父だよ。」
「そうじゃなければなんなん?・・・・はっ!?まさか・・・男の方が?。」
「断じて違う!。」
夢花のいじりにムキになって否定するディード。リリアとレミィは少し意味が解らずに首を傾げる。エールの一気に飲み干しディードは少し酔いが回ってきてる。
「一応な、前の記憶と合わせて40代後半なんだよ俺。それなのに10代と20代半ばに行かない子に手を出すのはなんか後ろめたい気持ちにもなるんだ。今はそれを克服中なんだよ。」
(それに、どっかの馬鹿親が見てるしな。)
そうディードが視線を落とし語るも、夢花は呆れたように言い放つ。
「兄さんアホちゃうか?。」
「は?なんでだよ?。」
「ええか?記憶を持って生まれ変わったからかといって、その知識を使い生きる事は別にかまへん。使える物は使っとき。だけどな、変な倫理観なんぞに引っ張られるんやない、ここは日本じゃなんやで?リリアちゃんもレミィちゃんもこの世界に生きている子や。夢や幻想やない、そんな変な考えで凝ってて前が見えないならウチが貰うわ。」
夢花は言い切ると両手を腰に当て自信満々な顔をする。その姿に唖然とするディードにリリアとレミィが苦笑いをしていた。
「俺ってそんなに偏屈だったか・・・・?。」
「どうかしらね、でもディーが男の方に興味が無いって事だけでも言って貰えて安心したわ。」
「ふふふ、リリアさんそれは酷いですよ。私はいつでもいいですけどね。」
リリアが少し皮肉を込め、レミィは素直に答える。
「不能じゃないんやろ?兄さん?。」
「それはない!。」
「ならええやん。毎日どっちかとやってもええんやで、若い色々溜まってるやろ?いっその3人でってのもあるしな。それかどうて・・・」
「それもない!。」
酒が回ってきたのか上機嫌に下品な会話を弾ませる夢花。リリアやレミィもこればかりは苦笑いでやり過ごすしかななさそうだった。
「まったく、俺が色々考えてるのに・・・振り回してくれるよ。」
「それは考えてるんやない。ヘタレや。」
「ヘタレね。」
「あ・・・あはははは・・・。」
ディードをいじくりながら夢花とリリアは酒が進む。レミィは苦笑いしつつもその様子は楽しそうだった。
そして夜は更けていく・・・
「久しぶりに良い夜やったわ。」
ほろ酔いで上機嫌の夢花、久しぶりに同郷のディードとの話も盛り上がり話も弾んだ。
「ああ、最初はいじられ過ぎて、ムっと来たが楽しかったよ。」
「ええ、楽しかったわ。」
「夜とはいえ少し暑いですね。」
酒が進み酔いが回ってきたせいかレミィは少し暑そうに手うちわで風を仰ぐ。
「ほんなら魔法を解除しよっか?酔いは醒めてしまうけど、暑さはなくなるで?。」
「それは勿体ない気がする・・・あ、ディーまたアレを作ってくれない?あの氷のやつ。」
「あ、それいいですね。お願いできませんか?。」
「ああ、〆にそれは面白そうだね。夢花さんも一緒に。」
「ん?なんやぁ?。」
夢花が気の抜けた返事をしていると、ディードが彼女の目の前でアイテムボックスからカキ氷機を取りだす。 そして魔法で氷を作り目の前でカキ氷を作り出していた。
「な、な、なんやそれ~~!?目の前にカキ氷機が現れた!。」
「どう?ビックリした?それはアイテムボックスって言ってディーの魔法なのよ?。しかも中は時間が経過しないから食べ物とか出来立てのままなのよ。」
「なんでリリアが誇ってるんだよ・・・。」
リリアが自分の事に様に誇らしげに語る、そんな彼女に文句を言いつつも準備するディードに夢花はただ驚いていた。
「なんやねんそれ?それは無限に入るやつか?。」
「まさか、俺の魔力で内容量は前後するけど、いまなら4トントラック1台分くらいって言えばわかる?。」
「なんちゅー量持ち運べるねん。それに時間停止?チートやチートがここにおる。」
夢花が頭を抱えながら理不尽さを叫ぶ、その姿を苦笑いしながらディードはカキ氷を人数分作っていた。
「ああ、これやこれ、この頭にキーンと来るのがええねん。ほんま生き返るわぁ。」
そう言いながらアイスムリーム病に対し頭を拳でトントンと叩く夢花。
余程嬉しかったのか、それとも懐かしさだったからなのか、カキ氷を3杯も食べる。
「ふぅ・・・風が心地いいわぁ。こんな気分久しぶりや、ありがとな兄さんウチを訪ねて来てくれてホンマ感謝や。・・・・あ、そうだ。」
満足した夢花は、ディードに感謝し礼を述べる。そして何か思いついたのかおもむろに瓶を取り出し水を入れ、魔法をかけ始める。
夢花の手からは虹色の光が溢れ出し瓶を光らせる。その光が消えた頃、額に汗を流し大きく一息ついた夢花はそれを差し出す。
「これはお礼や。兄さんのアイテムボックスは時間が止まるんやろ?ならこれを持って行き。冒険の役に立つで!。」
「綺麗~。」
「本当に綺麗ね。」
「これは何だい?。」
1本の虹色の液体が入った瓶を興味深そうに見るリリアとレミィ。ディードが夢花に問いかけると、彼女は腕を組みながら威張る様に説明する。
「それはな、神酒や。うちの魔法で作れる最高の1品やで。」
「神酒!?それは随分と大きく出たな。」
「まぁ冗談や。名前つけるとしたら、夢酒や。一応幻覚と麻痺、混乱や恐怖とかの精神に作用する状態を元に戻せる優れ物や。」
「すごいじゃない。そんな高価な物貰っていいの?。」
「ええで、ええで気にせんとき。ただそれな日持ちが悪いんや。持って2日だから売れないんや。せやけど兄さんアイテムボックスの中に入れとけば時間がたたんのやろ?持ってき。」
ディードのアイテムボックスの中は時間が経過はしない。温かい物は温かいまま、冷たい物は冷たい物のまま取り出すことが出来る。だから夢花はそこに収納しておけば劣化しないと考えた。ただし、ファグとアイリスによるつまみ食いが発生するのを彼女は知らない。
「ありがとう助かるよ。ってかお金払うから何本か作って欲しい。」
「おおーやってみるもんやな。ただウチがそれを作れるのは1日に2本までが限界なんや、後は魔力がスッカラカンになってしまうからなぁ~。」
「つまりは魔力が補充されれば作れるって事?。」
リリアが笑顔で問いかける、ディードとレミィはリリアのその笑顔に嫌な予感が走ったが、夢花はその笑顔に応じる様に胸を張る。
「まぁ魔力が補充されれば作れるで。」
「そう。なら作って貰おうかディー。」
「リリア、ゆっくり流してやるんだぞ。いきなりやると夢花さんが壊れる可能性あるからな。」
「は~い。」
「は?壊れる?何?なんや。ちょおおおおなにこれぇええええ。」
リリアは夢花に近寄り肩に手を当て【魔力譲渡】を施す。
肩からリリアの魔力を流され始めた夢花は、今までにない感覚に襲われ思わず声に出る。それは快楽にも似た拷問にも似た光景だった。
夢酒を1つ作っては補充されていく魔力。補充される度に夢花の顔が変化していくのをディードとレミィは見守っていた。
合計5本の夢酒が作り上げた時に、夢花がその場で座り込んだ。
「あ、アカンこれ以上は無理や。腰が抜けた・・・。」
「ありがとう。これは貰って行くね。ディー、アイテムボックスにしまうついでに何かお礼を出してあげて。」
「・・・・鬼だな。」
「何か言った?」
「いや?何も?。」
ディードは惚けながらも夢花が造った夢酒をアイテムボックスに収納していく。
その時、お礼にと1本の蜂蜜酒を取り出す。それはディードの母ファルナが造った蜂蜜酒だった。
「これはお礼に、蜂蜜酒だ。口に合うといいけど。それと今夜の代金はこれで足りるかな?」
夢花の前に蜂蜜酒を置き、ディードは代金と彼女に手渡しする。
「へ?金貨・・・兄さんこれは貰いすぎやで?。」
「いや、今日は本当に楽しかったし、また寄らせてもらうから今日はそれを受け取って貰えると嬉しいな。」
「おおきに。BARドリームフラワーはいつでも歓迎しまっせ。」
そう笑顔で応える夢花。
今後ディード達がお酒を飲みに行く時、必ずこの店に行く事になる。




