第86話 多智花 夢花
「へーそんな事あるんやな。」
「随分あっさりと理解するんだね。」
ディードはユメカに話をしている。それは転生してこちらの世界に来た事、他のに転生者が居た事など色々とかいつまんで話をしている。
両隣には大人しくしているリリアとレミィも同席しており、酒場はユメカの意向で貸し切り状態にして貰っている。リリアは少しだけ罰が悪そうな顔をしている。
それは事の詳細を聞かずにディードを殴ってしまった事に対する罪悪感で彼女は委縮している。
ディードは、リリアの封印を解く旅もしているが、同時にこっちの世界に飛ばされて来た同じ日本人を探す旅もしている。
今回は酒場にいるという情報を聞いたディードが、リリア、レミィの酒癖の悪さを懸念して一人で来たのだが、それが結果的に悪い方向になってしまった。
なので両隣の2人は酒抜きのジュースを出されている。
「うちも最初は半信半疑やったんやで?いきなり知らない場所で目が覚めて、最初は夢かと思ったんや。でもここに5年も入れば嫌でもここが現実ってわかるし、幻想じゃないんだって判るわ。それにこっちの世界は悪い事ばっかりじゃあらへん。女のウチでもやればこうして店もてたしな。まぁあっちの世界では面倒な事ばかりで店持つ夢なんて持てへんかったからなぁ。」
ユメカはそういいながら片手でエールを飲みディードにそう告げる。
彼女の名前は 多智花 夢花と言う。
「へぇ夢花さんは5年で店を開いたのか、それだけの腕ならあっちの世界でも店は持てたんじゃないの?。」
「ん-多分持てたと思うけどなぁ、でもウチしがないOLやったんよ?ただ飲むのが好きなだけでな、店を持つ事なんてあっちに居た時は考えた事もあらへんかったんや。」
ディードの魔法によって程良く冷やされたエールを彼女は飲み干す。
冷たいエールが喉を気持ちよく通る音を聞き釣られてエールを飲むディード。
つまみはナッツの乾物、それだけでも酒は美味しく感じている2人。
リリアとレミィも2人のエールを飲む音を聞き、自分達も飲みたそうな顔をするがディードに酒癖の悪さを指摘され、今はお預け状態を喰らっている。
そんな2人を見て夢花は少し笑いディードに視線を戻す。
「ウチの話もいいんやけんど、そろそろ許したって?目の前でそんな顔されているとウチも飲みずらいわ。」
夢花の助け舟に目の輝かせるリリアとレミィだが、ディードはそれを良しとしなかった。
「酒癖が悪くなければいいんだけどな。夢花さん、この2人は酔うとドアとか躊躇せずに斬るけどいいの?店壊されるよ?。」
「あはははは、なんやそれ。こんな可愛い嬢ちゃん達そんな凄い事するんか。気に入ったわ。ウチに任しとき、要は酒癖が悪くなければいいんやろ?。」
そう言うと夢花はカウンターからカクテルグラスを2人分用意し、そこに水を注ぐ。
「これはウチの企業秘密やけんど、特別やまずは1杯飲んどき。」
差し出された飲み物を喜んで飲む2人。しかし飲み始めたらは顔をしかめる。何故なら・・・
「え?これって・・・。」
「水ですよね?。」
出されたのはカクテルグラスに注がれた1杯の水だった。
「そう、水や。これなら酔わへん。」
そう言いながら笑い声をあげる夢花。リリアもレミィも少し不機嫌そうに頬を膨らませる。
「まぁそれは冗談や、本番はこれからや。よう見ときビックリするで。」
再度カクテルグラスに同じ水を入れる。そして今度は夢花がグラスに両手を置き、彼女は小さく呪文を呟き手を光らせた。
「ほれ、こいつでどうや?。」
「ほれって水じゃない?。」
「いいから飲んでみ?。」
目の前に差し出されたカクテルグラスを飲むように煽る夢花に対し2人は少し困惑気味だ。
それでも彼女達は夢花に勧めがれるがままに水を飲む。
「!?・・・・お酒!?。」
「キツ!・・・随分強いお酒じゃないこれ?。」
「あははは、よう吹かなかったなぁ。それはギムレットや覚えとき。」
「ギムレットだって!。一体どうやって?。」
夢花が勧めた水がいつの間にかに度数の高いカクテルに変わっている事にビックリしたディードは、リリアが飲んでいたそのカクテルを手に取り飲み干す。
ジンとライムが折なう酒は最初こそキツ目だが喉を通り抜けた後には爽やかなライムが鼻腔を通り抜けていった。
「夢花さん、もしかして水を酒に変化させる魔法を?。」
「さすがやな。ディードはん。いや高樹さんか?まぁどっちもでええわ。その通りや、ウチ専用の魔法とも言うべきなのか、こんな事が出来る様になったんやで。どや面白いやろ?。」
そう言うと彼女はカラカラと笑いエールを飲む。
「凄いなこれ夢花さんの固有魔法か。これを使いこなせばどんな場所でも水が酒に変えられるって事か・・・。」
「残念やけんど、この魔法は3日しか持たへんのや。それにな・・・。」
夢花はギムレットを少しづつ飲んでいるレミィを見て指をパチンと鳴らす。
「あ・・・あれ?また水に戻ってる?。」
レミィは少しづつ飲んでいた酒の味が変わりまた元の水に戻る。すると彼女に変化が訪れる。先程まで少し赤みがさしていた頬が元の色に戻り素面をなった。
「こうやって解除すれば2日酔いにもならへん、便利やろ?」
「これなら酒癖の悪さは関係ないな。夢花さん、これなら飲みたい放題じゃないか。」
そう言われ嬉しそうな顔をする夢花だったのだが、段々とトーンを落としていく。
「そうやろ?そう思うやろ?実際はそうやったんや!・・・・・・。けどなぁ・・・1年ぐらい飲み放題だったんやけど、次第に自分の魔法に耐性がついたのか、いくら飲んでも水にしか感じなくなってなぁ・・・今は魔法はウチ以外にしか効果あらへんのや。手作りのエールとかは味がするんやけどななぁ。」
そう言うと少ししょんぼりとした顔をしながらもエールを飲む夢花。
「そうなのか、それでも凄いじゃないですか。」
「おおきに。ディードはんはええ人やわ。美人さんが惚れてまうのも分かる気がするわ。」
「そんなお世辞を言える夢花さんもモテるんじゃないですか?。」
「いや、ウチは振られっぱなしや。酒が恋人や。この間は変な狼の獣人に絡まれるわウチの人生、男には縁がないんや。」
そう言って夢花は手を振り再びエールを流し込む。その時の事を思い出したのか、苦い顔をしている。
「割と苦労してますね夢花さん。」
「まぁそこそこや。それになウチの酒を気に入ってくれて通ってくれるお客もいる事だし、割とこっちの世界も楽しんでるんや。今あっちの世界に戻れって言われても嫌やわ。」
「あっちの世界ではOLとか言ってましたけど、OLってなんですか?。」
レミィがOLという言葉に興味深々に聞く。夢花はそれを少し苦笑いしながら答える。
「そやなぁ・・・スケベな爺共に気を使って仕事する仕事やなぁ。」
「え?なんですかそれ?」
レミィは理解できないと言った顔で驚きつつも夢花に問い質す。
夢花は大げさに手振り身振り話をする。
「色々な小さな仕事をな、何時間もかけて遠回りをしてやる仕事なんや、あっちの世界は。時には理不尽にセクハラ・・・・あー簡単に言えば、尻や胸触られても怒らないでその場を収めるって言えばいいのか、けったいな仕事やったでぇ。」
遠い目をしながら語る彼女に、益々理解が及ばないレミィ。リリアはそんな馬鹿な話があるかと言わんばかりにジト目をしているが、ディードは小さく頷く。
「本当、あっちの世界は1つの事に何重にも逃げ道作ったりして面倒だったよねぇ・・・。」
「ディーそれ本当なの!?。なんでそんな面倒くさい事をするの?。」
「リリア、それはね面倒くさいからなんだよ。誰もが仕事の責任を逃れる方法を作ってから他の仕事をするから、面倒そのものなんだ・・・・。」
「・・・・ごめん。本当に理解出来ないわ。」
リリアはディード達が居た世界を理解する事が出来ず、両手を上げ降参ポーズをとる。
「便利になればなる分だけ不自由になる。誰かが言った言葉や。」
「幸せを求める事に貪欲になり、足元の幸せに気付かない。そんな世界だったのかもしれないな。嫌いじゃ無かったけどね。」
そうしみじみと呟きエールを飲むディード。少しだけあの世界が懐かしく思う2人。
戻らない、戻れない世界に思いを馳せて飲む酒は少し苦みが効いた。
「話は変わるけど、夢花さんはどんな風にこの世界に来たの?。」
その言葉を聞き、夢花は思い出そうと唸る。
「ん-ようわからんのや。ただわかっているのはウチが朝まで飲んで、それから・・・・・あーなんかごっつう揺れた事だけやな。あれは地震だったと思う。ウチがあっちの世界で見た景色は、店や高速道路がバンバン倒れて来て下敷きになる~ってな、そんでまだ色んな酒飲んでないのに~って目を瞑ったら、朝になってこっちの世界に来てたんや。」
「やっぱり地震が関係しているのか・・・・。」
ディードはポツリとこぼす。
(多分時空振でこっちの世界に来たんだ。何人かはそうやって偶然に異世界に来てるんだろう。まぁ意図的に出来るものじゃないってファグが言ってたけど、それにしても高速道路が倒れる程の地震で、夢花さんは話方からすると関西の人・・・・あれ?)
「もしかして関西大地震?。」
「なんやそれ?。」
「そっか、その後に付けられた名前だからわからないよな。俺が知っている大きな地震で15年以上前にあった大地震がそれでね・・・・あれ?計算が合わない。」
ディードはふと頭の中で計算している。彼の知っている情報ではその地震は15年以上前の出来事だ。だが夢花は5年前にこちらに来たと言ってるので、計算上時間が合わない。間違っているだけか、それともどちらかの情報が違っているのかそれは分からない。だがディードは不意に言葉をもらす。
「夢花さんもしかして40歳過ぎてる?。」
「なんでやねん!。」
そう彼女に突っ込まれ、バチンと頭を叩かれるのであった。




