第83話 ライーザ
折れた弓を見つめディード達は少し困惑気味だった。
ディードが恐る恐る手に取って確かめた所、罠の類では無いようだ。
弓の両端は鋭く刃のような物が付いているが、弓事体は持ち手の所が折れており弓としては使えない。
「魔武器だよね?」
「「さぁ・・・?」」
3人共初めて見る物に戸惑うばかりだった。
「とりあえずソレしまって1度ダンジョン出ようか。」
「賛成~私ゆっくりとベットで寝たい~。」
「いいですね。私はゆっくりとお風呂入りたいです。」
「それじゃ行こうか。」
ディードは双頭狼から得た物をアイテムボックスに収納すると3人は奥のへと進み扉を開ける。開けた先には下る階段と脇に光る魔法陣とその先に手が置けるくらいの石柱があった。
「あれが地上に戻る転送陣なのか。」
「らしいです。中に入って石柱に魔力を流せば1階に戻れると聞いています。」
「へーよく出来てるわね。」
「じゃぁそろそろ地上へと戻ろうか。」
3人は転送陣に乗りディードが石柱に魔力を込める。すると転送陣の外側から光りが溢れ出し3人を包み込む。
「ぬぉ眩しい!。」
「あ、ごめんなさい忘れてました。目を瞑らないといけないんでした!。」
「レミィちゃん、おっそーい。」
ディードは目を閉じそして立ち眩みのような感覚に襲われていた。
やがて目を瞑っても眩しかった光は収まり3人はゆっくりと目を開ける。
目を開けた3人はいきなり複数の兵士達から槍を突きつけられ驚いていた。
「え?ちょ?何コレ?。」
「え?どうし・・・ええ!?。」
「一体何なのよこれ!。」
「動くな貴様ら!。」
兵士達はそのまま槍を突きつける、それは変な動きをすればその場で刺すぞと言わんばかりに牽制している。突然のディード達の出現に驚いたのだろ。
だが警戒している兵士達を割って入る様に女性の声が聞こえてきた。
「お前達やめないか!その人達は冒険者だ。槍を収めよ。」
そう言われ兵士達は槍を下げ、声の主の方へと向く。
「ら、ラーイザ様、いきなりこいつらが。」
「そこは転送陣だ、先程説明しただろう。初陣だからと言って緊張し過ぎだ。」
「も、申し訳ありません。」
その女性は整った顔立ちで黒い瞳、真っ赤な髪を後ろで縛り、銀色のハーフプレートを装備した女騎士だった。
「すまないな、冒険者の諸君。彼等には悪気は無いんだ、転送陣に乗ろうとした時に丁度君達が転送されてきてね、警戒を込めて槍を向けてしまったんだ。許して欲しい。」
女騎士は丁寧に頭を下げディード達に謝罪する。すると周りの兵士達は慌ててそれを止めようとした。
「ら、ライーザ様、貴族である貴女様が簡単に頭を下げるなどしないでください。」
「こちらに非がある以上頭を下げる。それは貴族でもあってもちゃんと謝罪するべきだ。」
「しかし・・・。」
「お前達何を騒いでいる!。」
「ビクトール様。」
後ろから声のする方へと兵士達は一斉に敬礼をする。声の主は銀色の鎧を身に纏い、煌びやかなマントをなびかせこちらに向かってくる。
「ライーザ、何があった?。」
「ハッ、これから転送しようとした所、冒険者達が先に帰還し目の前に現れた為兵士達が驚き槍を向けてしまった為に私が代理で頭を下げていた所です。」
「スカーレット家が冒険者ごときに頭を下げるもんじゃない!。」
「しかし、ビクトール様。」
「クドイぞ、妾の子が!。」
「・・・・申し訳ありません。」
ライーザは拳を強く握り締めながらビクトールに頭を下げる。その姿を見てビクトールは鼻を鳴らす。そして懐から金貨を1枚取り出し親指でディード達に弾いた。
「フン!これでいいだろ、行くぞ。そこをどけ冒険者。」
ビクトールは威圧的な態度でディード達にどくように促す。
その様子にリリアが異論を唱えようとしたが、ディードに手を掴まれ首を横に振られる。それは相手をするなというジェスチャーだった。
「ライーザ、お前はインデス子爵の案内をしろ。奴はまだここのギルドマスターと話しているから俺は先に行く。」
「ビクトール様、それはなりません。今回はスカーレット家、インディス家共同でとの話となっております。先に行かれてはインディス家に不快な思いをさせてしまう事になり兼ねません。」
「黙れ、私に指図するなといつも言っているだろう!貴様は所詮妾の子であって俺に逆らうなといつも言っているだろう!。」
そう言うとライーザに近づき頬を叩く。バチーンと鳴り響き周囲に静寂が訪れる。
ビクトールは籠手を装備していた為なのか、ライーザの口角からは少し血が滲ん出て来ていた。
ライーザは俯き唇を噛みしめつつも深く頭を下げる。
「・・・・申し訳ありません。」
「だから貴様は出来の悪い妾の子なのだ。もっと身を弁えよ、行くぞお前等。」
そう言い残すとビクトールは先陣を切って転送陣に乗り込み、数人の兵士達と一緒に15階へ消えていく。
「何あの自分勝手で傲慢な人は、自分の妹の進言を効かない所か頬を引っ叩いて行くなんて・・・。」
「あれが貴族なのでしょうか・・・。だとしたらちょと近寄りたくないです。」
リリアは怒り、レミィは敬遠気味だ。だがライーザは1度深く深呼吸をし、先程ビクトールが投げた金貨を拾ってディード達に近寄ってきた。
「見苦しい所を見せてしまったな。すまない、それとこれはビクトール様からの謝罪金だ、受け取ってくれ。」
「嫌よ、女性を公衆の面前で平気で叩くような男から渡されるお金なんて。」
「リリア、それは言いすぎだぞ。ライーザさんが困っているじゃないか。」
ライーザが少し困った顔をしてたのに気づき、ディードがリリアを止める。
「でも、ディー。」
「リリア、気持ちは分かるけど、ライーザさんの気持ちも分かってやってくれ。ここで拒絶してしまうと、あの兄の怒りを買いライーザさんが叱られるだけだ。」
「う・・・ごめんなさい。」
「いや、気にしないでくれ。これが私の仕事だから。」
ライーザはそう言ってディードの手を取り金貨を渡す。
ディードはそれを受け取ると彼女の頬の近くに手を近づける。
「!?・・な、何を!。」
「そのままで・・・少し頬と口の中を切ったでしょう?今【回復】をかけますので。」
ディードはライーザの頬が少し腫れているのを見逃がさなかった。先程のビクトールの平手打ちで少し切ったのだろう。
「はい、腫れは引きましたから。」
「そ、そうかすまないな。あ、ありがとう・・。」
ライーザは戸惑いながらもディードに礼を言う。その様子にリリアとレミィがジト目でディードを見つめている。
「彼女が目の前にいるのに、他の女性を口説いてますわよ。兎さん。」
「まぁ~節操ない彼氏ですわね。お嬢さん。」
「茶化すのはやめてくれ。」
「ふ、ふふふ、仲が良いのだな君達は。・・・名を聞いてもいいかい?。」
「ディードだ。そしてリリアとレミィだ。虹の翼と言うパーティーを組んでいる。まだ駆け出しだけどね。」
「ふふふ、謙遜するな。15階からほぼ無傷で戻ってくる冒険者などほんの一握りだけだ、しかも貴公らは3人で挑んで戻ってきたと言う感じだな。各々が秀でた強さの持ち主だろう?」
ライーザは少しの会話と、外見で3人の強さを測ったのか、冷静に物事を見ている様だ。
「そう言う貴女もお強いですよ。特に心が、」
「褒めてもこれ以上は何も出ないぞ。」
「そうですか、それは残念だ。」
ディードの冗談に笑みのこぼれるライーザ、しかし束の間の談笑もそこで終わる。
「何やら楽しそうですな、ライーザさん。」
「インディス子爵。・・・すみません、ビクトール様は先に15階へと行ってしまいました。」
「血の気盛んな兄を持つと苦労しますね。ライーザさん、別にいいのですよ貴女さえよければインディス家に嫁いでも・・・ふふふ。」
インディス子爵と呼ばれた男は、そう言いつつライーザに近寄る。
ライーザはその気は一切ないのか、冷たい視線を彼に送った。
「申し訳ありませんが、私はスカーレット家の一兵士として生涯を終えるつもりなので。」
「そんな勿体ない事を、貴女の美貌がどれだけの貴族を見惚れさせているのかご存じでしょう?。貴女さえその気なら引く手は数多なのに。」
「先程も申し上げましたが、私はスカーレット家の一兵士です。ハヴィ様に忠義を尽くし生涯を終える予定ですので。」
「・・・・病に伏せがちな子爵に忠義を尽くすとは・・・・健気な事ですな。まぁそれはよろしい、そろそろ私達も行きましょう。ビクトール殿を待たせすぎるのも悪いですからな。」
インディスはそのまま転送陣に乗り込み15階へと向かって行く。それについて行くように次々と彼等の兵士達が後をついて行った。
「それじゃ私もこれで失礼する。また何か縁があれば会う事もあるだろう。」
「あ、待って下さい。ついでにコレを。」
ディードがライーザを呼び止めアイテムボックスからポーションを取り出し彼女に差し出す。
「これはポーションか?。」
「ええ、これは幾つあっても問題ないでしょう。良ければ持っていってください、先程の金貨のお礼って事で。」
「謝罪金なのにお礼なのか、ふふふ、面白いな貴殿は・・・わかった有難く使わせて貰おう。それじゃ。」
ライーザはポーションを受け取り転送陣へと乗り込む。彼女が転送される瞬間ディード達に笑顔を見せそのまま転送されていった。
「ねぇ、ディー?今のハイポーションよね?。」
「ああ、彼女に必要だと思ってな。」
「へー。ああいうのが好みなわけ?。」
「茶化すなよ。これから16階以降と挑む人達にささやかなエールを送ったまでだろ?。」
「やさしいですね、ディードさん。」
「ふーん、まぁそういう事にしておくわ。」
少しだけリリアは納得いかない表情だったが、それ以上は口にするつもりは無いらしく大人しく出口へを向かう。その後もゾロゾロと入って来る兵士達に戸惑いながらもディード達は扉を開け部屋をでる。
そこはいつも入るダンジョンの入り口の裏側に位置する場所だった。
「む、そこの3人は初めてここから出たのか?。」
ここの裏側の入り口を守護する門番のようだ。
「ああそうだ。」
「そうか15階から生還したのか、おめでとう。これを持ってギルドに行くといい。」
その兵士が渡したものは、黒く光沢のある1枚のカードだった。
「これは15階踏破証明のカードだ。これをもってギルドにいくと次回からはこっち側から15階へと通れるようになる。」
「そうなのか、それは便利だありがとう。」
「私からも祝福を言っておきましょうか。踏破おめでとう。」
その声の持ち主は、緑色の瞳を持ち、金色の髪を後ろに流したエルフだった。




