第82話 双頭狼
ダンジョンの14階に降り立った3人に待ち構えている景色は、11階から今までの集大成と言うべきなのか、全ての景色が揃っているように見えた。
正面には平原、右わきには湖があり周囲には木々が鬱蒼している。左には膝上ほどまでに伸びた草が生繁っている。
「なんていうか・・・ここまで出てきた魔物が一斉に出てきますよ!って感じの場所だな・・・・。」
「ディー、変な事言わないでよ。本当に出て来るかも知れないじゃない。」
「いえ、出てきますよ、ここ・・・。」
ディードの率直な感想にリリアが突っ込み、それをあっさり肯定するレミィ。
「ここを抜けると15階なのですが、一番の激戦区がここらしいです。このまままっすぐ行けば15階へ辿り着く事が出来ますが、左右から挟み撃ちされる可能性が高いと言われました。」
「左右から挟み撃ちか・・・。やはり数の暴力に押し切られたらたまったもんじゃないな・・・。」
「だね、未だに戦いの後が残っているもの・・・弓矢とか折れた剣とか。」
リリアが指差す方向には、折れた剣や弓矢などがあちらこちらに落ちていた。
迫りくる数の暴力に屈した残骸なのか、武具はほとんどが使い物にはならなかった。
「正面突破で最短で突っ切るか・・・絶対罠がありそうだな。う~ん、それとも草原方面に向かって先にそこを潰すか。もしくは湖方面で・・・う~ん。」
ディードが首を傾げ唸っていると、リリアが横から顔を覗かせ問いかけて来る。
「ディー、私の魔法で片側を焼き払う?。」
「片側?一体どれくらいあると思っているんだリリア?。」
「全部じゃないわよ、魔力の3分の1くらいを杖に込めて湖側を焼き尽くすの。」
リリアは自信たっぷりに湖側を指差す。彼女の気持ちを察すると水蛙と芋虫が居そうな場所には近づくどころか、焼き尽くしてしまいたいという気持ちのようだ。
ディードは苦笑いをしつつリリアを止める。
「・・・・却下だ。水蛙と芋虫を狙う気持ちも分からなく無いが、先に紅玉の杖が持つ保証が無い。壊れても今は直せないんだぞ?。」
「ぶぅ・・・でも足止めの炎の大鷹ぐらいなら2発は杖が耐えてくれるし、行けると思うよ。」
「あの魔法を足止めって・・・・・リリアさんの魔力は凄いですね。」
「もっと褒めてもいいのよレミィちゃん。」
リリアはレミィに抱き着き彼女の耳を触っている。玩具にされているレミィだが彼女もまんざらでもないといった表情だ。
「さて、じゃれ合うのはそこまでにして話を進めようか。リリアの提案はありだと思う。湖側にリリアが1度魔法を放ちその間に中央突破、襲って来る奴を適宜に相手し15階へと目指す。・・・・こんな感じかな?まぁなんとかなるだろ。」
「なんか最後の方投げやりな感じがするけど・・・・?。」
「別に命を捨てる覚悟どうこうって訳じゃないぞ。最悪もう1つの切り札も使う事も視野に入れているだけだ。」
「それってあの光る矢みたいなの?。」
光る矢とはディードがレミィを助ける為に使った【アイリスの光の矢】の事だ。
リリアは眉をひそめる、理由は1つ使った後の反動が酷い事だ。使えば魔力切れで数時間動けなくスキル故にリリアは心配しているのだろう。
「ああ、だけど今回は逃げる場所もあるし、本当に危なくなった時だけだ。それは約束する。」
「それならいいわ。とりあえず私は紅玉の杖に魔力を入れて準備するから。」
紅玉の杖に魔力を流し込みはじめるリリア。紅玉は紅く輝きを放つ。だがしばらくすると小さな異変が起こった。 キーンという小さな甲高い聞きなれない音だ。
それに真っ先に反応したのがレミィだ。彼女にはその音が不快だったらしくは耳を塞ぎながら問いかける。
「リリアさんその音なんですか?、かなり耳障りな音ですけど。」
「え?何コレ?今までこんな反応無かったけど?。」
「魔力の注入をやめるんだ。限界なのかも知れない。」
リリアは慌てて魔力を込めるのやめる。すると徐々にだが音が小さくなりやがて聞こえなくなる。
「今のは何だったんだ?。」
「わからないわ。この杖まだ使い始めて日も浅いし、魔力を込めすぎるとダメなのかもしれないわ。」
「蟻の巣の時に込めた時は鳴りませんでしたけど、どうなんでしょうね。」
3人が杖を見つめながら首を傾げていると、レミィが何かを察知したのか突然臨戦態勢を取る。
「魔物が来るみたいです。」
「さっきの音に引き寄せられたか。」
近づいてくるのはオーク3匹だった。身体には緑色の模様が入っている。
オーク達は3人を見つけると、すぐさま顔を真上に上げ悲鳴のような声を上げる。
「「「ピギイイイ!!」」」
「!まずい。」
ディードとレミィはすぐさまオーク3匹に駆け寄り即座に斬り払う。
「今のは敵がここに居ると知らせるスキル何かだと思う。」
「ええ、あの音を不審に思い来たら私達が居て警報を鳴らしたって事でしょうか。」
「だとするとかなりヤバイんじゃ・・・・。」
緑のオークをアイテムボックスに収納し辺りを見回す3人。するとどこからともなく足音が近づいてくる。左右から押し寄せて来る足音は次第に大きく聞こえてくる。
「や・・・やばい。やっぱりさっきのは仲間を呼ぶ合図だったか。」
「こうなったら数だけでも減らす!炎の大鷹よ、行って!」
即座に湖方面に炎の大鷹を羽ばたかせ、炎の絨毯爆撃を行う。
爆撃が行われた場所では大きな炎が立ちがあり、爆発に巻き込まれ水蛙などが焼けながら宙を舞っている光景が見れた。
「リリア反対がもう1発いけるか?。」
「ええ、撃ったら魔力を込めるから少しだけ前をお願い。」
リリアは続けざま反対側の草原が生繁っている場所に炎の大鷹を打ち込む。
こちらも同じように炎による爆撃が行われ、魔物達が泡目ふためく様子がうかがえた。
「ディードさん正面からオークが来ます!。」
「正面は俺が引き受ける、レミィちゃんはリリアの援護に回って。」
ディードは正面が来るオーク5匹に正面から向かって行く。
「悪いがお前達に構ってる暇は無いんだ。」
ディードは棍棒を振りかぶって襲って来るオークに対し、1匹は顔に火球を投げつけ、火を見て怯んだ1匹を刀で斬り落とす。 顔に火球をくらい藻掻いてるオークの首を刎ね堕とす。 反撃に転じたオークは3匹固まってディードに襲って来る。
「面倒だ、これでも喰らえ。」
ディードは残り3匹のオーク地面から膝までの高さの氷獄を放つ。オークは突然足元から現れた氷から足を抜こうと必死に藻掻く。
その間にディードは氷に手を当て呪文を放つ。
「轟け雷鳴よ、雷。」
ディードの手から放たれた雷は瞬き間に、氷を駆け巡りオーク達に襲い掛かる。オーク達は防ぐ手段などなく直撃しあっさりと命を落とす。
倒したオークをアイテムボックスに収納しリリア達の元に戻ろうとするが、先に彼女達がディードの元にやってきた。
「ディー大丈夫?。」
「ああ、問題ない。そっちは?。」
「ええ、いつでも行けるわ。」
「なら正面突破しよう、幸いまだ炎に翻弄されて、草原と湖側の魔物達が出てこない内に15階に行こう。」
3人はそのまま正面から走り込む、途中行く手を阻む魔物が居たが、数は多くなくディード達に倒されて強引に突破を試みる。
やがて15階への階段が見え始めた時にディードが叫ぶ。
「リリア後方に炎の大鷹を放ってくれ。」
「わかったわ、【紅蓮の大鷹】。」
後方に向けて放たれた炎の大鷹は、ディード達に追い付こうとす魔物達を蹂躙し炭に代えて行った。
追っ手はいないと判断したディードは階段を降り通路で休憩することにした。
階段を降りた3人はその先を見ると1本道になっており、視線の先には大きな扉が待ち構えている。
「ふぅ、とりあえずなんとかなったな・・・。」
「そうね、あの変な音が無ければもっと楽に行けたかもしれないけど。」
「でも、結果的には3人共無事だったのでいいじゃないですか。」
「だな、少し休憩してから双頭狼に挑むとしよう。」
3人は休憩した後、通路の先となる道へと進む。辿り着いた先には2メートル四方はあろうかと思う大きな扉が待ち構えていた。その鉄の扉には頭が2つの狼の装飾が施されていた。
「ここがボスの待ち構える部屋なのか。」
「らしいです、15階のボスは先程も言いましたが双頭狼です。」
「行きましょう。」
ディードが鉄の扉を開け3人は中に入る。中は大きなドーム状の石の洞窟
でかなりの高さ10m左右は100mはあろうかという広さの空間だった。
奥には扉の守護者と思わしき双頭狼が、ディード達を見つめながらゆっくりと起き上がってきた。
体長は3mとあるかという巨体で、体毛は灰色、赤と青の左右の瞳を持つ顔が、獲物が来たことに喜んでいる様に見える。
ディード達の後ろの扉が自動で閉まる、それが開戦の合図と言わんばかりに双頭狼が大きく声を上がる。
「グガアアアアアアアア!!。」
「来るぞ!。」
双頭狼は3人のいる方向に氷球を片方の口から発射する。3人はそれに命中する事なく左右に分かれる。
「私は右の頭を狙うわ。」
「なら俺は左。」
「私はかき回します。」
左右に分かれたと同時に互いが声を掛け合い行動を開始する。
レミィは突然方向転換し双頭狼の方へ真向から走り込む、それを捕えようと双頭狼はもう片方の口から火球を吐き出しレミィを狙う。
「そんなの当たりません。」
レミィは兎の盾を目の前に展開させ、足場を作り宙へと舞う。それに釣られて上を向いた双頭狼はディードとリリアが左右から迫っているのを見逃してしまった。
「うおおおお。」
「はああああ。」
ディードとリリアは双頭狼の前足を片側づつ切り落とし地面にひれ伏させる。
ギャン!と悲鳴を上げた双頭狼は、すれ違うディードとリリアを捕えようと双方の口から炎と氷を吐き出そうとするが、宙を舞っていたレミィが落ちてくると双頭狼の背中を突き刺す。
「ギャイン!。」
背中を刺され悲鳴をあげ振りほ解こうとする双頭狼に、ディード達はさらに追い打ちをかける。
ディードは双頭狼の脇腹を刀で深く突き立てリリアに合図する。
「リリア!今だ。」
「喰らいなさい!チャージ!」
ギミックを発動させたリリアの剣は、大きく魔力の幅を広げ一気に双頭狼の首を斬り落とす。
首を落とされ命尽きた双頭狼はその場に倒れ込みディード達が勝利する。
「お疲れ様。これで15階はクリアーかな?。」
「ええ多分そうだと思います。奥の扉を開けると転送陣があるので・・・・。」
「ディー!この双頭狼何か光っている!。」
レミィと話していたディードはリリアの声に声に反応し即座に戦闘態勢に入る。
双頭狼だったものは、身体を光らせその肉体が光となり消えていく。
「レミィちゃんこれは?。」
「分かりません。ボスは倒すと消えるとは聞いてませんでしたし・・・。」
「徐々に小さくなっていく・・・・。ただ襲って来るとかそんなんじゃないと思うけど。」
3人はその光景に見惚れていたがその光は徐々に小さくなりやがて一つの形ある物に変形していった。
「これって・・・。」
「もしかして魔武器か?。」
「かもしれません。」
ディードは恐る恐る近づいて行き、そこにあった物を確認する。
「・・・・嫌がらせか?。」
「・・・え?。」
そこに落ちていたのは、折れて曲がっている灰色の弓だった。




