第76話 邪神ファグ
「邪神ファグ・・・。」
リリアはファグを見つめたままそう言葉を漏らしていた。
やがてリリアはハッと我に返り身構えようとした。
「ディー!会わせたい人ってこの邪神ファグの事?。」
「おい、リリア何を言ってるんだ?。」
「そうですよリリアさん。ファグ様を邪神だなんて酷いです。」
ディードとレミィはリリアに近寄り、宥めようとするが警戒を解かない。
「ディー、レミィ、いいんだ。リリアの言う通りだ。間違っていない。」
「「え?」」
否定せず認めるファグに2人は驚く。
「改めてよく来たな世界を翔ける翼を持つ者よ。こちらは君を害する気は無い、少し話に応じてくれまいか?。」
そう言ってファグはリリアの前に立ち、顔を屈め彼女と同じ視線に目を合わせた。
その行為は相手に敬意を払い対等な立場で話をしたいというファグの心遣いだ。
リリアは最初こそ警戒はしたが、ファグの誠実な態度により冷静さを取り戻し、片膝をつき挨拶を交わす。
「先程は取り乱して申し訳ございませんでした。獣神ファグ様。」
「こちらこそ、急に呼び出してすまないな。第4王女よ。不躾だが話はディーを通して全て見ている。話と言うのは君の固有魔法、『翼』についてだ。」
「・・・・!?どうしてそれを・・・私は誰にも言ってないのに。」
リリアは驚く。
リリアはディードにも自分の固有魔法の事を話していない。それをさも知っているかのように話すファグに驚いたのだ。
「驚かしてすまないな。君にコレを渡すように頼まれているんだ。受け取って欲しい。」
ファグはそう言うとディードが持っている物とは違う、2枚の大きなに白と黒の羽を彼女の前にそっと置いた。
「羽・・・ですか?。」
「ああ、それを肌身離さず持っていて欲しい。そのうちわかる日が来る、その対の羽は君の固有魔法に由来する物だ。」
「固有魔法・・・お聞きしますが、私の固有魔法を知っているのは何故です?。」
「ある人物に頼まれたのだ。すまんが名前は言えん。それに今はまだ固有魔法も開花していない状態だろ?。」
「ええ・・・私の固有魔法『翼』は私自身まだわかっておりません。翼に関する魔法も調べましたが、全てあてはまりませんでした。本当に『翼』という固有魔法が私の中にあるのか疑わしいくらいです。そして調べた結果、魔族の角が無いからあっても開花しないという結果になっていましたので。」
固有魔法を持っているのにも使えないと判断されれば、それは持ってないのと同じ事になる。リリアは固有能力を開花させたかったのだろう・・・。
周囲からは角無しと蔑まれ、それでも少しでも認めて貰いたくて、勉学に励み知識を取り入れ努力をしていたのだろう。
もし固有能力を開花さえていれば、彼女の周囲も少し変化したのかも知れない。そんな複雑な思いを胸にディードはリリアの話を聞いていた。
「そして私自身固有能力よりも、基礎的な魔術を覚え研鑽し使いこなせるように努力してきました。半ば忘れかけていた能力です。」
「そうか、辛い過去を思い出させてしまって悪いな。先程ディーに渡した物と一緒に持ち歩く事を願う。決して君に害を及ぼす物では無いと誓う。なんならディーを付属にあげちゃうぞ。」
最後の余計な一言にリリアは肩透かしを喰らい茫然とする。
「へ?ディーを?。」
「おい!ファグ。なんで最後の最後で余計な一言を付け加えるんだ?。」
「無駄な緊張を解す為だ。それに互いに好いているのなら別に問題なかろう?あの大喧嘩も中々の見物だったぞ。」
「今すぐその記憶を消し去ってやりたいわ!。」
「あ、あれをわたちはみられえてたのでございますd¥のでしょうか?。」
「落ち着けリリア。言葉がおかしい。」
顔を真っ赤にさせ今にも爆発しそうなリリア、落ち着かせようと必死になるディード、尻尾を振りながら2人を見つめるファグ。3人のやり取りをクスクスと笑うレミィ。それぞれが緊張が解けているように思われた。
「大分落ち着いた様ね、それじゃ私も中に入れて貰おうかしら。」
そう言ってファグの後ろから出てきたのは、白銀の槍を持ち、銀色のマントに黒い盾を装備したアイリスだった。
ここまで武装したアイリスを見るのは初めてだったディードは驚きを隠せない様だった。
「あ、アイリスどうしたんだ?そんな装備をして。」
「一応保険って感じかな。無いとは思うけどここでリリアちゃんの大魔法をぶっ放なされると最悪、全員が『死』の可能性もあるしね。」
そう言ってからアイリスは目の前にアイテムボックスを出現させ装備を全部仕舞い込む。ディードが普段見ている彼女の姿になった。
「初めまして、リリアちゃん。私はアイリス・・・ファグと同じ邪神よ。」
敢えて目の前で武装を解いて近寄ったアイリス。リリアにこちらには敵意が無い事をしめしたのだろう。リリアもまた彼女の前で片膝を付け挨拶をする。
「先程は動揺と偏見のあまり失態を犯し申し訳ありませんでした。私はゾルティア王国第4王女リリアーナ・フィーア・ゾルティアです。以後お見知りおきを。」
「こちらこそ、よろしくね。リリアちゃん畏まった挨拶はこれきりにして、普段とディー達と同じように話してくれるとありがたいわ。」
「わかりました。そうさせていただきますね。」
リリアは少し驚いたようだったが、事前にファグは緊張を解いてくれた為にすんなりと受け入れる事が出来たようだ。だがそのやりとりにディードは引っ掛かる物を感じつい口に出してしまう。
「リリア聞いていいか?何故ファグを邪神って言ったんだ?エルフも獣人もドワーフも神として崇めている存在らしいけど?。」
「それは・・・。」
リリアが少し困った様にファグとアイリスを交互に見つめる。
「馬鹿な息子ね。ディー、よく聞きなさい。私達が神を崇められているのはエルフ、獣人、ドワーフだけ。人間族には英雄程度、そして魔族には魔族の国に重大な打撃を与えた奴を神として崇める訳ないわ。邪神扱いされても当然なのよ。」
「「え?」」
どう答えようと困っていたリリアに代わりアイリスが答える。その答えを聞きディードとレミィは驚く。
「初耳だぞ?」
「わ、私もです。」
「でしょうね。でもねこれは1つの事実なの。世間的には私達は他の種族と力を合わせ邪龍を討ち滅ぼしたと言われているわ。それも嘘じゃないけど一つだけ隠されている事があるの。」
「隠されている事?。」
「ええ、その邪龍は私達のかつての仲間でありリリアと同じ魔族、しかも当時の王子を討ったの。」
「は?ええええええええ!。」
3人は驚き声を出す。
「ど、どう言う事なんだ?。」
「それについては少しだけ教えようか。」
ファグが思い出すように視線を上に向け語り始める。
「あれは今から36万と少し前だったか、いや1万と2千年前だったか、まぁいい私にとっては「ボケようとしてるのだったら、アイテムボックスから食料全部抜くぞ?」」
ディードの指摘によりファグは大人しく昔を語る。
「・・・・数百年前になるのか、当時暴れていた邪龍ヴェフボロイスを討つ為に色々な種族が集まり力を合わせ討伐しようとしていた。あれは討伐というよりも1体多数の戦争だった。一番被害が大きかったのが人間族だ。戦いは何日にも及び最終的には邪龍を倒した形で戦争は終わったのだ。」
「だけどね、その邪龍が死ぬ間際に置いて行った物が問題だったのよ。それは『魔神核』とも呼べばいいかしら。それを手に入れてしまったにが当時の魔族の王子だったの・・・彼はその魔神核を使い自らの種族を超えて邪龍になってしまったのよ。そして姿を変えた彼は自分の国に帰り破壊を繰り返し、ある物をばら撒いた。」
「ある物?。」
「・・・・その話は後でするわ。それで私達が彼を討つことにしたの。私達が呼びかけても彼は自分の国を破壊し暴れまわっていたわ。そして私達が彼を討ってそして帰ったの。まぁ魔族の国からしたら厄災を持ち込んだ者だったでしょうね。いくら彼の事を説明したって信じる者は居なかったわ。」
ファグの話を途中から割り込み話しを進めるアイリス。やがて彼女は大きくため息をつき続きを話す。
「そして私達は魔族の国から去ったわ。この時にね、もう肉体は限界を超えていたの、私は肉体を捨て精神体に、ファグは1度森に帰りあの村を作った。って訳。そして歴史にはどういう訳か魔族の国に邪龍を放した邪神ファグとアイリスって話が国全体に教育として知れ渡っている訳。だからリリアちゃんもとっさに身構えた。って訳、そうでしょ?。」
「・・・はい。私の知っている内容とは少し異なりますが、邪神アイリスとファグは邪龍を使役し、魔族の国攻め込もうとした。しかし勇敢な魔族の王子によって撃退し、王子はそこで命を落とした。と言う事になっています。」
「話が組み替えられているじゃないか!ファグ達はこの事を知ってて放置したのか?。」
ディードはアイリスに詰め寄る。だがその前にファグがディード近づいてくる。
「抗議したとて変わらなかっただろうな。ディーよ歴史とはそんな物だ、勝者の立場から見れば神として崇められるが、敗者の立場からしてみれば邪神として扱われる。互いが都合よく事実を湾曲し、後世に伝えるのだ。」
ファグは淡々と語りディード達を諭す。それは長く生きる者にとってさも当然のように語るその姿は、若干の諦めもはいっていたのだろうか2人共あまりいい顔はしなかった。
「そうだったのか、だから俺がお前達の昔の事を聞こうとしても話を逸らしたのか。」
「すまぬな。良き思い出では無いものでな。良かれと思ってやったことが、結果はいいものではなかったのでな。」
「こちらこそ、嫌な思い出を語ってくれてありがとう。」
ディードが礼を述べ頭を下げるとレミィとリリアが続けて頭を下げた。
そしてふと疑問に思ったディードが不意にアイリスに尋ねた。
「それで話を少し戻すが、なんでアイリスは武装してたの?。」
「そりゃリリアちゃんが全力でここを魔法で破壊しようとしたら止めようと思ってね。ここの世界を崩壊させる程の魔力を持つし、封印はここじゃ効かないからね。」
その言葉にディードが固まる、ここの世界つまりディードの精神世界とも言える場所≪住処≫を破壊できると公言された。しかもここは封印が効かないと言われたのだ。
「だからリリアを見守るだけでこっちに呼ばなかった訳か。」
「そうゆう事、一応リリアちゃんの性格を知る限りはそんな事をしないと思うけどね、ここは不安定な世界なの。ここを破壊すれば間違いなくディーは何も考えられない廃人になるか死ぬかになる訳だし。勿論私達にも影響がでるしね。」
「さらっと怖い事言うなよ。」
「あら、事実よ?だから守ろうとしたんじゃない?。それとも実際にリリアちゃんにここを破壊してもらう?」
「しません!絶対にしませんから!」
リリアは力一杯否定する。その姿に安堵し胸を撫でおろすディーと傍らで苦笑いをするレミィ。
「まぁ、そんな訳でもう少し話したいところだったけど・・・どうやら時間切れかな?少し透けて来てるわね貴方達。」
アイリスに言われディード達は少しづつ自分達の色が褪せてきた事を確認する。
「待ってくれ聞きたいことがあるんだ。」
「ダンジョンコアを破壊する事による封印の解除、もしくは破壊でしょ?一応出来るわよ。ただしそれは簡単な道じゃないわよ。頑張りなさい。」
ディードが求めていた問いに、アイリスは答える。
ディードとリリアはその答えに少しだけ希望の光を見出しかのように互いに見つめ合い微笑み合う。
「それは過酷な道よ。それともう一つ同じような道があるわ。」
「同じ道?。」
「それはね、種族を変える事。リリアちゃんが他の種族になれば狙われる事無いんじゃない?。」
思いも寄らなかった言葉が3人伝えられる。その言葉に少し動揺しその事について聞こうと思ったのだが、完全に時間切れのようで身体が透けてしまい、ノイズのような物が走る。
「頑張りなさいディー、それと2人共。仲間を信頼し力を合わせればどんな困難にも立ち向かえるでしょう。・・・あとそれと仲間は増やしたほうがいい・・・ってもう遅かったみたいね。」
アイリスの前にはディード達の姿は既に無く、最後は独り言のように終わってしまった。
「もう少しディーの魔力が増えないと3人来ても夜明けまでは持たないかもな。」
「そうね。少し鍛えてあげようかしら。」
「手厳しいな。」
「あんな勘違いさせるような馬鹿息子には少しお仕置きが必要だしね。」
「おー怖い怖い。・・・・そして俺達の約束は一応果たせたな。」
「・・・・そうね。こっからはまさに見物ね。」
ファグとアイリスは互いに身を寄せ、ディード達の事を思いこれから先の事憂いれていた。
――――
――
「うう・・・。」
≪住処≫から戻ったディードはリリア、レミィを連れていった反動の為か魔力切れを起こしかけていた。
「ごめんねディー。無理させちゃって。」
「すみません。ディードさん。」
「いや、大丈夫だ。今はまだ夜明け前だ。約束の3の鐘まで寝ていれば魔力も回復するから気にすんな。それよりリリアの心配事を解消できるかもしれない、色々収穫もあったしな。」
ディードはファグから貰ったアイテムを見つめリリアに渡す。それを受け取ったリリアは微かな希望を噛みしめるように優しく抱きしめる。
「とりあえず、今は寝ましょう話は明日以降だね。」
「そうですね、そうしましょう。おやすみなさい。」
「そうね。お休み。」
ディードの部屋を出る2人。部屋の窓から薄っすらと光が差し込み、1の鐘が鳴り響いた。ディードは再び寝ようと思ってベットに潜り込もうとした時、リリアが部屋に入ってきた。
「ん?どうしたリリア忘れ物か?。」
「ええ・・・確かに忘れ物よあの時は頬を引っ張だいてごめんなさい。」
「こっちこそ誤解させてごめんな。」
「・・・・ううん。そしてこれはお詫び。」
「?どうし・・・」
リリアはディードに近寄り両手で頬を押さえながら彼の唇に自分の唇を重ねキスをした。突然の事で固まるディード、そして2人のキスは1の鐘が鳴り終わると同時に離れる。リリアは耳まで真っ赤にさせ、潤んだ瞳で小さな声を囀る。
「ありがとう、ディーそして好きよ。今まで王国の事もあって隠していたけど、これが私の本音。」
リリアはそういい残し恥ずかしさのあまりその場から逃げ出すように去ろうとしたのだが、ディードに手を掴まれる。
「ちょっ、ディー?。」
「俺は初めて会った時からリリアに魅了されていたのかもしれないな。」
ディードはそう言いリリアを抱きしめる。
突然の抱擁にビックリしたリリアだったがそれを受け入れ、小さな声で返す。
「それはズルくない?ディー?。」
「じゃぁ言いなおす。リリア、お前の事だ好きだ。誰に渡したくない。」
「嬉しいわ、ありがとう。」
2人は目を合わせ口づけを交わす。
しばらく2人は抱き合っていたが、恥ずかしくなったのかリリアは小走りするように部屋を出る。
そして一言、おやすみと振り向かず告げ自分達の部屋に戻って行った。
ディードはベットに倒れ込むようになだれ込む。
(こんな感情はいつ以来だろう・・・転生してからは無かったかな。・・・未だに心臓がうるさい。俺今から寝れるのかな?)
そう心の中で呟き、朝を迎える。




