第75話 夢の中へ
バチン!! と部屋に鳴り響く音、その音と共にディードの視界はずれた。
正面を向いて話していたはずなのだが、今は頬に残る痛みに視界の端に映るリリアの姿あった。彼女は肩を震わせて顔を真っ赤にしている。
「馬鹿じゃないの!?ディー!ベットに誘うになら時と場合とムードを知りなさいよ!。」
「は?リリア何言って・・・。」
ディードはリリアの言葉に疑問を抱き聞き返そうとしたのだが、彼女の怒りは止まらない。
「そりゃ確かにディーの事が好きよ?色々知っていて頼りになるし顔もそこそこ良いし、でも私が困って悩んで泣いている所に欲情して一緒に寝てくれは酷いわよ。ムードも考えなさいよ!泣いた女の顔が好みなわけ!?このスケベ、変態!。最近はレミィちゃんに言い寄られて鼻の下伸ばしちゃって、だらしがない!それにあの時だって私は勝手に勘違いして、その時が来るのかって少し緊張してたのに!そしたら先に寝るし!。何よ何よ何よ!。」
色々と自爆告白をしているリリア。
怒涛の罵声にディードは驚くが、不意に頬を叩かれた事により冷静になれず反論してしまった。
「なんだよ!リリアを助けようと思って色々考えた末にだした答えを、勝手に勘違いして頬を叩きやがって!もう少し冷静になれよ。つか、あの時ってなんだよ?いつだよ?わかんねーよ。ああ確かにレミィちゃんに言い寄られて少し気持ちが浮ついたさ。あの可愛さに心動かない奴はいるか?ふわふわの耳に潤んだ瞳、ぷにぷにの柔らかいほっぺに言い寄られてみろ!こっちは堪えるのに必死なんだよ。」
「何それ羨ましい!ええ!レミィちゃんは可愛いわよ。あの子のふさふさの毛といい、柔らかくてすべすべとした肌といい、寝顔なんて可愛くて仕方が無いもの!兎獣人じゃないわあれは天使そのものよ!私よりも可愛い。それは間違ってないわよ!でもね私だって女よ?2人旅の時だって色々あっても、見向きもしなかったわよね?私そんなに魅力が無くてごめんねさいね!この変態さん。」
「ああ?誰が変態だって?。」
「なによ!。」
「何さ!。」
2人は互いに睨み合い意味不明の罵声を浴びせ続けた。しばらく続くかと思われたのだが、不意に大声と壁を叩く衝撃音が飛び込んできた。
「「うるせー!!!」」
「こんな夜中に騒いでるんじゃねーよ。」
「痴話喧嘩は外でやれ!。」
「もげろ!。」
隣の宿泊客だろうか。自分達の部屋のドアを開け大声で叫んでいた。上の方からはドンドンと床を叩いている音が聞こえてくる。
「「あ・・・」」
二人は同時に声を揃えて言葉を漏らす。どうやら声が大きすぎて他の人達に聞こえてしまっていたらしい。
さらに外からは小さい声で誰かが謝っている声が聞こえてくる。
「すみません・・・ごめんなさい・・・静かにしますから・・・ゴメンナサイ。」
レミィだ、彼女はリリアの事が心配で後をついてきたのだろう、だが2人の喧嘩に巻き込まれた上に、周囲の宿泊客に頭を下げざるを得ない状況に彼女は置かれていた。
ディードはそっと扉を開け隙間からレミィを見つめる。彼女はしきりに頭をさげ謝っているようだ。やがて他の宿泊客も自分達の部屋に戻ったのか、レミィが大きくため息をつく。すかさずディードは扉を開けレミィの腕を掴み部屋に引き入れた。
「ひゃぅう!ディー、ディードさん。」
「すまないレミィちゃん。代わりに謝らせちゃって。」
「ごめんねレミィちゃん。」
ディードとリリアは共にレミィに頭を下げる。
「あの・・その・・喧嘩は良くないですかやめてください。それと私の事を大声で言い合うのは、恥ずかしいのでやめてください。」
口論の半分がレミィの魅力を伝える事だったので、彼女は嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な顔で2人に告げた。
「あ~・・・ごめん。そのつい・・・・。」
「ごめんねレミィちゃん、ディーにレミィちゃんの魅力をね・・・ってか聞いてレミィちゃん、ディーがね酷いの。」
「待って下さい、話は部屋の外で聞いていました。ごめんなさい。」
リリアはレミィに同意を求めるように話しかけたが、彼女はリリアを手で制止話を中断させる。
「ディードさん、その一緒に寝てくれってのはもしかしてあの場所へ?。」
「ああ、そうだ。そこに行って聞こうとしたんだが、アイツが一緒に連れて来いって言うからさ。」
「ディードさん。あの言い方だと誤解されやすいですよ。そしてリリアさんは、聞き返さずに平手打ちはダメですよ。」
レミィは2人の間に入り互いの話を聞きダメな所を優しく指摘する。指摘された2人は確かに互いに非があった事を認め謝り始める。
「そうだな。・・・・ごめんリリア、誤解するような事を言っちゃって。」
「私もよく話を聞かずに、いきなり叩いてごめんなさい。」
その姿を見てレミィは2人の手を握り笑顔で重ね合わせる。
「二人ともちゃんと謝ったんですからここまでにしましょう。言い争っても私達に良い事はありません。それよりも前に進みましょう。」
「やっぱ天使じゃない?レミィちゃん。」
「・・・・かもな。」
「それはすっごく恥ずかしいのでやめてください。」
レミィが顔を赤らめ、恥ずかしそうにそう言った。
3人は1つのベットに仰向けになっている。ディードの両隣りにリリアとレミィがこちらを向いて横たわっている、言わば両手に花状態だ。
「それで夢の世界に行く為に寝ればいいのね?。」
「ああ、さすがに直ぐに寝れる訳ないから俺が魔法で眠りに誘う。抗わないでくれればこっちに誘い込めるようにする。」
「3人で行くのは初めてですね。楽しみです。」
「出来るかどうか心配なんだけどね。それじゃいくぞ。」
ディードは3人密接した状態で眠りの魔法をかける。3人は次第に意識が遠のいていく。
――――
「あ、ディードさん、リリアさんも来れたみたいですよ。」
「ここは・・・?さっきまで宿のベットに居たのに・・・草原?。」
リリアは目を開けるとそこは辺り一面が草原だった。
「ここがディーの言ってた夢の中なの?。」
「そうだ。それでこの先に俺のもう一つの親がいる。一緒に来てくれ。」
ディードに手を引かれリリアは草原を進む。
草原の中央には外壁の無い部屋みたいな場所がある。そこに居るのはファグとアイリスだ。
リリアはその2人を見て茫然としている。
「お久しぶりです、ファグ様。」
レミィは片膝をつきファグに頭を下げる。
「兎の盾は使いこなせているようだな。元気そうで何よりだ。」
「はい、ありがとうございます。これからもがんばります。」
レミィの笑顔に終始大きな尻尾を振るファグにディード若干呆れつつも話しかける。
「それで、なんの用だよファグ。リリアの事ならずっと見ていたのに今更なんで≪住処≫に呼んだんだ?。」
「ああ、ある物を渡したかったのでな。このタイミングが一番いいと思ってな。」
「ある物?。」
「ああ、これだ。」
ファグは黒い渦から一つの物をディードの前に落とした。それは白く輝く魔石と黒い1枚の羽根だ。よく見ると魔石と羽は1つになっている。
「これは・・・?。」
「それを渡したくてこちらに呼んだのだが、彼女は少し呆けているな。」
「え?」
ディード達がリリアの方を見ると、彼女は未だにファグを見つめたまま茫然としてた。
「あーリリア?大丈夫か?。」
「リリアさん?大丈夫ですか?。」
レミィが手を振って視界を遮ったり、軽く揺すってみたがリリアは茫然としていた。そしてリリアはファグを見つめながら一言だけ言葉を発した。
「邪神ファグ・・・・。」




