第8話 安息
8話です。 良かったら見てやってください。
ディードが母から頼まれた薬草を見つけ出し、持ち帰るまでに30分以上の時間が流れていた。
この薬草、結界の北と南に生え別れており、時間がかかるのだ。
摘み終えたディードは、一度広場へと顔を出した。
「おーディード。ご苦労さん獲物頂いてるよ。」 話しかけるは村人達面々いつもの調子に戻っている。
よかった、とホッと胸をなでおろすディード、だが一人だけディードに食って掛かる奴がいた。
幼馴染のアルフだ。ディードにとってはあんまり関わりたくない奴だ。
何故なら事あるごとに、自分が優位になろうとしてくるのだった。その一方、姉のエリンを慕っていて自分のよさをアピールする嫌な奴だ。姉弟揃って苦手なのがアルフだ。
「ディードさっきはよくも私をハメてくれたね。おかげで愛するエリンに要らぬ恥をかいてしまったじゃないか。」
「それは、不可抗力ってやつだ。すまん、困ってる子を助けるのが、家の教えなんだ。わかってくれ。」
「それはどーかな? 私とエリンの仲を嫉妬するあまりに、陥れようとしているのだろう。そんな浅はかな考えはやめたまえ。」
(あー面倒くせぇ) とジト目でアルフを見つつ、心の中で思うディード。
大体姉も嫌がってるのに・・・・昔、1度冗談でアルフと恋仲になる気はあるのかと聞いた所、
本気の【水槍】をぶつけられそうになったことがある。
エリンの得意魔法は水系の魔法で威力もかなり高い。母ファルナにはまだ遠いが、本人もまだまだ勉強中を自負してる。 いつか母の魔法を目標に頑張る姉は素直に尊敬できる。
そんな姉だが、自慢や家族を下げようとする、アルフははっきり言って嫌いなのである。
姉曰く「ゴブリンと恋仲になる方がマシ!」と 、とても素敵なお言葉を頂いたことがある。
しかもこのアルフ、めげない、くじけない、あきらめないと、どこぞの聖帝様の真似でもしてるのかと思うほどだ。 だが、今日は・・・・
「すまないが、母さんに頼まれている物を持って帰る最中だ。話はまた今度な。」
ディードはそそくさと立ち去ろうとする。しかし・・・
「待ちたまえ。私の話はまだ終わってない!そんな事より私のはなぢをぎがぐげごぉぉ」
グレイブの存在を忘れ失言を繰り返していたアルフ。遂に父の怒りが達し、アルフにアイアンクローした。
「アルフ、うちのファルナの邪魔をするとはいい度胸だな。それにエリンとの仲とやらも聞かせてくれるかな?」 グレイヴの笑顔のアイアンクローは、もはや村の名物である。ディードも1度喰らったことがあるが、アイアンクローをされそのまま宙吊りにされる技は生命の危機を感じる。
「お義父様、ぞんあづもりはせdrftgyふじおkpl」
「あっちで色々とお話しようか。アルフ」完全に捕獲され掴まれたまま移動する様は、自業自得とはいえ少し気の毒に感じた。
「お、ディー、そうだ。後で嬢ちゃんに折れた剣貰っていいか聞いてみてくれ。」
「師匠、アレを打ち直すの?」 ドルガの言葉に返すディード。
「おぅアレをそのままにしておくのは、勿体無いからな。俺が打ち直してやるよ。」
「わかった、聞いてみるよ。後で家に行くからな~」
「了解~。」互いに手を振り合う2人、弟子と師匠という関係よりも、同じ職場の仲間という感じだ。
家に着いたらエリンは外のテーブルで伏せながら水魔法で遊んでいた。 指でクルクルと渦を作ったり絵を描いているようだ。残念ながらディードには制御できない技だ。
「ただいまー」 「ん、おかえりー」 「姉さんコレ洗ってもらえる?」 「テーブルに置いて~」
エリンはテーブルに置かれた2種類の香草に、先程の水檻の簡易版をかける。
魔法の精度を上げるには詠唱、威力を上げるには魔力を込めるこの世界、
姉にとって洗う事はそれ程難しい技ではないようだ。
「ほい、出来たよ~、台所に置いといてね~。」 「ん?下の調合室じゃないの?」
「そこは、家妖精さんにお願いすると思うよ、お母さんが。」 「そうなの?わかった~。」
ディードはエリンに礼をいい、家の中に入る。エリンも中に入ろうと背伸びしつつ呟く。
「だってもう、終わってるはずだもん」
家の中に入ると、ファルナとリリアがテーブルで談笑しているのが見えた。
「ただいま~母さん取ってきたよ。台所に置いておけばいい?」
「ええ、ありがとうお願いね。」 ディードは台所へ香草を置き、テーブルに戻ってくる。
リリアとファルナの座っている対面側に腰をかけ、リリアに話しかける。 エリンも部屋に入ってきた。
「ねぇリリア、あの折れた剣なんだけど、一緒にいた師匠が貰いたいと言ってたけど大丈夫かな?」
「あの剣をどーするの?」 「師匠が打ち直すらしい。多分俺も手伝う。」
「そう・・・なら持っていっていいよ。でも、私の武器が無くなっちゃうから何か貰えないかな?」
そう言うと、リリアはディードと面を向き合って話す。彼女の瞳は少し赤く泣き腫らした跡が見かけられたが、ディードはその事には触れずに話を続ける。
「多分、師匠の事だから打ち直した剣はそのままリリアに戻ると思うよ。あの人作る事に興味がある人だから。」
「そうなの?」
「もし、そうじゃなかったら俺が何か見合った物を作るよ。何か欲しい武器はあるかい?」
ディードの問いに彼女は困惑する。何故なら・・・
「あのね、私、今まで武器らしい武器を使ったことが無いの。大体魔法で戦っていたから。それでね、この封印が解ければ杖でいいし、解けなかったらどんな武器を使えばいいかわからないの。」
リリアは武器の類を扱えなかったのだった。魔力が多いとされる魔族では主に戦闘スタイルは魔法だ。
基本的は魔法で、補助で武器を扱うのである。
「そっか、なら封印も母さんに解いてもら「ディー、ごめんなさいね。それは無理なの」
ファルナがディードの言葉を遮り否定する。母からの否定的な言葉を聞き驚く、何故なら否定される事案とは思ってないからだ。
「母さん、リリアの封印ってそれ程重い魔法なの?」
「ええ、少なくとも私一人で解除できる魔法じゃないわね。やろうと思えば出来なくもないけど、対価が大きくてねぇ。」 「そんなにか・・・ちなみに対価は?」 「私の命」
「そ「「絶対にダメ!!」です!!」 姉エリンとリリアが同時に叫んだ。
ディードは言う前に2人に叫ばれ言うに言えずにいた。 確かに対価が大きすぎる。もしそんな事をしたら彼女も大きな十字架を背負うことになるだろう。その前に姉や父が命を張ってでも阻止するであろうし、俺も止める。
ファルナの言葉に即座に反応したリリアが意外な行動にでる。
イスから崩れ落ちるかのように床に座り込み。涙を流しながら講義をしてきたのだ。
「お願いですから、私の為にそんな事をしないでくだざい。わだじがいなぐなればいいんですがら。やめでくだざい。おねがいです。」彼女の涙に混じった声はもう聞き取れない位わからなくなっていた。
何故だろう、母と会ってからほんのひとときしか経ってないのに、彼女に何があったのか、2人の間に何があったのか、語られる事はないだろう。 そんなリリアを見つめファルナは、
「ごめんなさいね。意地悪な事言って貴方を傷つけてしまって、優しい子。出来れば封印の方も力になってあげたいだけど、私にはまだやらなければいけない事があるから。」
ファルナは泣き崩れるリリアの頭にそっと触れる。リリアが泣きながら顔を上げるとファルナが優しく微笑む。
「さぁ泣き止んで優しいリリア。貴方がここを離れるまでは出来る限り力になるわ。だから泣き止んでね。封印の方は力になれないけど、方法は調べてみるわ。だからお願いね。」
「・・・はい・・・」 泣き止もうとする彼女に対し、ファルナの右手にはいつの間にかハンカチが添えられていた。
唖然とするディードとエリンはお互いを見つめる。この状況を説明してほしいが思考が停滞している。
十数分後・・・・
「見苦しい所をお見せしました。」 リリアは泣き止み再び椅子に座った。
落ち着きを取り戻したが、泣き顔を見られ恥ずかしそうに赤面するリリア、エリンは良いものが見れたとご満悦だ。
「ねぇリリア今日はここに泊って行って。勿論明日も明後日も気の済むまで。ねぇいいでしょ?お母さん。」 「ええ、それは勿論よ。」 エリンとファルナのやり取りに対しリリアは、
「いえ、それはご迷惑がかかりますので、明日にでも・・・それにお代もありませんので。」
赤面しつつ持ち合わせが無い事を恥ずかしそうにモジモジとするリリア。
エリンがえらく気に入ってしまい、突如抱き着く。
「あーもー可愛い~~ こんな子なら毎日いてもいい。むしろ妹でいい。妹にするぅ。」
「ぎゃーー」 姉よ、貴方にそんな趣味があったのでしたか。弟はハジメテシリマシタ。
母優しく微笑み、姉は今日あった旅人に抱きつき、弟は茫然とするカオスの中、
父グレイヴとドルガが家に入ってくれば、彼等もまた混乱するだろう。
その後、ディードは許可を貰った折れた剣を渡し、後日一緒に打ち直す約束をする。
帰り際に母から結晶と手紙を渡されたドルガは、深く考え渋い顔付きで帰宅するのであった。
夜も更け、それぞれ眠りにつく中、ディードは夢の中≪住処≫へとアクセスするのであった。
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