第66話 ギロン
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数日前
「チクショウ!どいつもこいつも使えない奴らめ!。」
酒場で乱暴にエールを飲み干し、テーブルに叩きつける様に置くギロンが居た。時刻は5の鐘が鳴る前、夏の日差しがまだ高い位置に彼は酒場で自棄酒を飲んでいた。
「ポーターは使えない、武器はすぐダメになる、一人で狩りして持って帰ろうすれば匂いに釣られてわんさか魔物が沸きやがる・・・・素材も安く買い叩かれるし、散々だ。」
ギロンは赤き爪を追放された後、一人でダンジョンに挑んでいた。結果は思わしくない、赤き爪の後ろ盾があったからこそ彼は戦闘にだけに専念出来ていた。
しかし今の彼には何も無い、いつもメンテナンスされている武器、食事、素材や荷物を持つポーターなど手配などしたことが無かった。
現在は低階層の魔物の素材を雑に剥ぎ取り、持てるだけ持ってダンジョンを往復する日々が数日続いている。 当然雑に扱った素材は査定が安い、当の本人は悪びれる事無く査定が低いとギルドの受付に文句を言い恫喝する。
ギルドは、素材の扱い方などを指示しているのだが、それに従わずただただ持ち運びやすいように雑に切り取られた素材を売りつけてくる冒険者には警告を発している。 ギロンもそのうちの一人だ。
大声で恫喝し査定を覆そうとするので、ギルドでは買取不可の措置を取ると警告されている。
ギロンにはギルド以外の販路を持っている訳ではないので、現在は査定通りの金額で渋々ながらも買取をして貰っている。
ソロになり一人でやる事の多さ、厳しさを痛感している、そうなると赤い爪に居た時の事を思いだし、不貞腐れてはエールを煽り込む。そして身勝手な独り言を放つ。
「それもこれも全部あのウサギとヤサ男のせいだ・・・・。アイツらがアイツらが現れなければ俺は赤い爪のままでいられたのに・・・・・。」
一人身勝手な怒りを表すギロン。勝手な思い込みで再戦し、模擬戦にもかかわらず意図的に急所を狙った事によりガロンの逆鱗に触れ赤き爪を追放された。
その事を逆恨みし復讐心を駆り立てる彼を周囲は、より一層に孤立させた。
「お客さん、ここは静かに酒を楽しむ酒場なんです。もう少し静かにしてくれませんか?。」
ここの店長であろう女性がギロンに話しかけている。しかし酔いが回っているせいか気が大きくなり大声で叫ぶ。
「うるせ――!だまって酒持って来い!酒を運ぶしか出来ない人間族の女が何を気取ってやがる!。」
「これでもこの酒場を経営しているんですけどね。あんまり騒ぐようだと出て行ってもらいますが?」
「あん?お前女の癖にここの主人なのか・・・・人間族の女の癖に生意気だな・・・。」
「生意気で結構。努力した結果お店を開くことが出来たのよ。静かに酒を楽しみたい人だけに来て欲しいの。自棄酒を飲む気持ちも分からなく無いけど。ここは店のルールを守って欲しいの。」
そう人間の女性店主がギロンに諭すが、彼はそれを嘲笑いテーブルを蹴っ飛ばす。テーブルに乗っていた物は床に落ち、つまみは散乱していた。ギロンはそれをさらに踏み潰し手持ちの銀貨を店主に投げつける。
「いいから酒を持って来いよ!人間風情が!お前に俺の何がわかる?。」
ギロンは声を荒げ、女性店主に酒を要求する。彼女は彼の顔を無言で見つめため息をつき、テーブルなどを直し奥へ引っ込む、その後エールを運ぶ。それと乾いたナッツのつまみを一緒に持って来た。
「わかればいいんだよ、わかれば。それに女・・・ここの主人と言ったな。ここを贔屓にしてやるから俺にドンドン酒を持ってきな。」
そう言い放つと女主人の尻を撫でまわした。
「――――!!!この!。」
女主人はギロンに平手打ちを放つが彼は難なく躱す。 さらにギロンの座っている椅子に蹴りを入れようとしたが、あっさりとギロンに受け流された女主人は転んでしまいそうになった。
ギロンはその姿を見て笑いながらエールを流し込んだ。
しかし飲み終えた直後、彼は意識を失うようにテーブルに突っ伏した。
女主人はギロンを指で突いて反応が無い事を確認してから、ホッと胸を撫でおろした。
「まったく、店開けてすぐに来た客がこれじゃねぇ・・・私の『魔法』まで使わせて、娼館のすぐ近くの酒場だからって盛っちゃってさ・・・・はぁ・・・今日はもう店閉めようかしら。」
女主人は大きくため息とつきギロンをどうするか悩んでいた。
「それなら俺等が裏にでも捨ててくるぞ。やっとくか?ユメカちゃん?」
「そうそう、俺等を止めておいて店閉めるのはちょっとまってくれよー。」
「そうね、1杯サービスするからこれどっかに捨てて来てくれる?少し時間が経てば目を覚ますから。」
「話が分かるじゃないか。おいコイツ捨ててこようぜ。」
女主人の所の常連の客がギロンを運び出してくれた。彼女はそれを見送り、後片付けをし始める。
「今度は尻蹴っても椅子蹴っても痛くならない安全靴みたいな靴でも買っておこうかしら。」
ギロンは酒場の裏側に捨てられ、1時間もしないうちに目が覚める。そして周囲を見渡し自分が店から追い出されたことを知る。
「・・・・ちっ・・・もう行かねーよ、あんな話も分からない人間の女風情の酒場なんぞ。」
ギロンは壁にもたれかかり、その場で愚痴をこぼしていた。
「おや?ギロンさんじゃありませんか?こんな所で何を?。」
「あん?・・・・ああゾクマだっけか?。」
悪態をつき起き上がろうとした時、ギロンは見知った顔に呼び止められた。
ゾクマと呼ばれていた彼は恰幅のいい人間族の商人だ。
「そうです商人のゾクマです。どうなされました?ギロンさん、こんなに酔いつぶれる程飲んでしまって・・・誇り高い狼人族で赤き爪のナンバー2とあろうお方が・・・。」
ゾクマと呼ばれた男は、壁にもたれかかっているギロンを起こそうと手を差し伸べる、しかしギロンはそれを払いのけ酔いの回る身体でなんとか自力で立ち上がった。
「へ、赤き爪は爪を抜かれてしまって、ヘタレ集団になったからこっちから辞めてやったんだよ。今はフリーだ。」
「おやまぁ、そうでしたか・・・それは知らずに飛んだご無礼を。」
ゾクマはやや大袈裟気味に身体を動かし頭をさげる、傍から見ればその動作はまるでサーカスのピエロの様にも思えた。
「そのわざとらしい動作が嫌いなんだよ。・・・・・少しイライラしててな、それで飲み過ぎちまったみてーだ。どっかで飲みなおすか武器屋で武器でも見てくるかな・・・・。」
「おおぅ、武器ですか?それはそれは、私丁度いい武器を持っておりますが御覧になりますか?。」
ゾクマは両手を大きく広げ、わざとらしくギロンの行く手を塞ぐ。ギロンはその動作にイラつきながらもゾクマの話に耳を聞いていた。」
「そーいやお前も商人だったな。俺は今赤き爪を脱退して手持ちがあんまりねーんだ。しょぼい武器なんか見せたら承知しねーぞ。」
「ふぉふぉふぉ、怖いですなぁ。いやしかし今はソロでございますか・・・おお!ギロンさん貴方は運がいい、実にいい。丁度私の伝手で手に入れたばかりの武器があるんですが御覧になりますかな?。」
「あん?」
ゾクマは自分の手荷物からいそいそと商品を探し出す。そして取り出したのが布に撒かれた双剣だった。
「こちらはつい最近入荷した武器で、ダンジョンさんの魔武器でございます。ギロンさんのお眼鏡に適うかと・・・便宜上私は黒牙と名付けました。」
「ダンジョン産の魔武器だって!見せて見ろ!。」
魔武器と聞き、一気に酔いが醒めるギロン。ゾクマの手から布に巻かれた剣を取り出した。
それは、黒い刀身に1本赤い線が入った双剣だった。
「これが魔武器・・・・・黒牙・・・素晴らしい。」
ギロンはその双剣を手に取り、その黒き刀身に見惚れていた。強く握れば力が湧き、一振りすれば空を斬り裂く音がギロンを魅了していく。
「ふぉふぉふぉ、ギロンさんどうやらその魔武器が大変お気に入りなようで・・・。」
「ああ、実にいい魔武器だこれは他の奴らに渡すには勿体ない、これはいくらだ?。」
「ふむ、そうですね・・・・・。」
ゾクマはギロンとその黒い双剣を見つめながら顎に手をあて考え込むような仕草を見せる。
時にチラチラと見つめ、考える素振りをしてはその場で意味のない動きをして見せた。やがて意を決したのか、ギロンに答える。
「こうゆうのはどうでしょうか?今後も私の所で商品を買って頂けるのであれば、今回はそれを金貨10枚でお譲りしましょう。しかも月賦で。」
「なに!そんなのでいいのか?わかったこれを買わせて貰う!それと回復薬を2~3本、食料を少し売ってくれ。これだけの魔武器だ、直ぐに金貨10枚以上を稼いでやるさ!。」
「ふぉふぉふぉそれは頼もしい、その際には是非ゾクマの商品を是非ともよろしくお願いしますぞ。ギロンさんなら、兄貴分であるガロンさんをそれで追い抜けることでしょう。」
「俺が兄貴を・・・超える・・・。」
その言葉を聞きギロンの双剣を持つ手には一層力が入る。そしてその双剣は力を入れれば入れる程、ギロンの心の中に双剣の存在が入って行くのを感じた。
「ええ、行く行くはギロンさんがAランクも夢じゃない気がしますぞ。それを後押した商人が私と言う事ならば私も鼻が高い。しいては私の所への商売ももっと広がります。互いに持ちつ持たれつやって来ましょう。」
「ああ、必ずこれでAランクになってやる。待っていろよヤサ男にウサギ、そしてガロン・・・。」
決意を言葉にしギロンはその後ゾクマから荷物を受け取りダンジョンへと走って行った。
その姿を見送りながらもゾクマの口元には、三日月を逆さまにしたような笑みだった。
(いい実験になってくださいよ、ギロンさん・・・・くっくっくっく)
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あれから数日ギロンは少しぼんやりとしたまま、ダンジョンを彷徨っていた。
彼はあの日からダンジョンを出ていない。 昼夜も日時感覚も分からずに彷徨っている、既に食料も尽きたのだが、双剣を強く握れば眠気や空腹感に襲われることは無いのでダンジョンにとどまっている。
(俺はなにをしてるんだっけ?・・・女王蟻を一人で倒してから・・・・ああそうか、この黒牙に餌をやる為に人間を探してるんだっけか?黒牙がお腹空いたって言ってたから餌を探してやらないと・・・あれ?俺は何かをしようと思ってたんだが・・・・なんだっけか?・・・まぁいいや・・・餌を探さないと・・・)
ギロンの瞳には強い意思などは無く、心もここにあらずと言った感じになり、虚ろな目で餌を探し求めていた。のたり、のたりと歩く姿はまるでゾンビの様にも思える程だ。
やがて正面から数人の冒険者たちがこちらに向かって来た。
「お、おいアレはなんだ?怪我をしているのか?」
「かなりボロボロの様だぞ、助けてやらないと。」
「おーい!大丈夫か?そこの獣じ――――。」
ふらふらしているギロンに声をかける面々、だが声をかけている冒険者の一人が最後まで言葉を発する事無かった。
何故ならば・・・ギロンがいつの間にか冒険者の前に居てその双剣で喉を貫いていたからだ。
「な!お前何をしている!!正気か。」
仲間の喉を貫かれ慌ててギロンに斬りかかろうとした冒険者。だが彼も双剣の餌食となる。
彼はギロンの双剣を狙い上から剣を振り下ろしていたのだが、そこには自分の腕は既になく切り落とされていた。
「ぐぁあああああ!腕が腕があああああ!。」
突然腕を切り落とされ叫ぶ冒険者にギロンは容赦なく首を刎ね飛ばす。あっと言う間に2人が殺されそれを見ていた冒険者が叫びながらギロンに背を向ける。
「うぁああああ!こいつ俺達を狙ってるぞ!逃げろ、逃げるんだ!。」
叫ぶ冒険者、同じ仲間の冒険者も突然の出来事に驚きつつも来た道を戻り逃げ始めた。
逃げる冒険者を横目に同じパーティーにいたポーターは恐怖で逃げ出すのが遅れてしまい。ギロンに双剣で心臓を刺し抉られてしまう。
「待ってろ。この3匹食べ終わったら次はお前らだ。」
ギロンは返り血を浴びながらもニタニタを笑い、獲物に狙いを定めていた。




