第64話 短剣
アイテムボックスに入れようと押し込むとそれに反発して中に入らない武器、それは黒い短剣の様な物だった。
「なんで入らないんだ?この短剣・・・っく・・・この。」
ディードは入れようとしても入らないアイテムボックスに少し苛立ちを覚え始めている。
最初は投擲用に黒く塗りつぶされている短剣だと思ったのがどうやら違うらしい。段々と苛立っているディードに対しリリアとレミィは少し違和感を感じ始めた。
「ねぇディー、どうしたの?そんなにムキになって詰め込もうとして?入らないなら私達が持ち歩こうか?」
「そうですよ、ディードさん。ギルドに着くまで私が持っていましょうか?。」
「うるさい!これは俺の物だ!。」
咄嗟に身を挺して黒い短剣を2人に見せない様に隠すディード。だが彼も自身が放った言葉に違和感を感じていた。
(俺・・・なんでこの短剣を自分の物だと思ったのだろう?しかもアイテムボックスに入らないって自体凄くおかしい事なんじゃ?)
自分の苛立ちや違和感に戸惑いながらも、ディードは再度アイテムボックスに短剣を今度はゆっくりと入れ込もうとする。だがしかしアイテムボックスにその短剣は入らなかった。
(何故入らない?空きはまだあるのに入らない理由があるとすれば1つ・・・・)
ディードの中に嫌な予感が走り、思わず短剣を手放そうとするが、その手が中々離れない。
その剣を離そうとすると焦燥感に駆られ情緒不安定になりそうになる。今すぐこの短剣で魔物を突き刺したい、攻撃したい・・・そして血が流れる所を見たい・・・そんな破壊衝動に駆られていた。
そんな中、突如ディードに念話が届く。
『いやん、そんなにガンガン突いちゃ私壊れちゃうぅぅぅ~~~。らめぇ~』
突如棒読みで頭の中に鳴り響くファグの声に、ディードは一気に落胆しその短剣を手放した。
『何言ってるんだファグ?そんなアホなセリフだして・・・』
『突っ込みを入れられるぐらいには心の余裕が取り戻せたようだな、バカたれが・・・。その剣の邪な波動ごときに心奪われよって・・・・。』
大きなため息交じりの声にディードはハッと我に返る。
『そうかなんかすごく苛立つからおかしいとは思っていたんだが、あの剣のせいなのか・・・・すまないファグ落ち着いたよ。』
『礼を言うより、2人に謝罪しろ。今も心配そうな顔をしておる。後は夜にでも≪住処≫に来い。アイリスと説教してやるからの・・・・。』
そう言って念話を切るファグ。その言葉に促され顔を上げると心配そうに見る2人の姿があった。
リリアは心配そうな顔で、レミィはディードの怒号で涙目になりつつも同じく心配そうに見つめていた。
『氷獄』
ディードは魔法で剣の周囲を凍らせ一つの氷の塊を作りそれを手に取る。持ってはおろしを数回繰り返す事で直接触らなければ、干渉されない事を確認する。そしてディードはリリアとレミィに頭を下げ謝罪する。
「すまない2人共。少し心を囚われそうになっていた。心配する2人に心無い事を放ってしまって申し訳ない。」
素直に頭を下げ謝罪するディードに2人はほっと心を撫でおろす。
「いきなりうるさいなんて言われてびっくりしたけど、もう大丈夫なのよね?。」
「びっくりしました。本当にもう大丈夫ですか?もし調子悪いようでしたら、今日は無理なさらずにダンジョンを出ますか?。」
「ああ、もう大丈夫だ。この剣さえ持たなければ、こんな焦る気持ちにはならなかったから。そうそう、こいつには直接触らないでね。」
そう言いつつディードは黒い短剣を指差した。2人はその短剣を見つめ、何やら不思議そうに見つめている。
「それで、その剣は一体なんなの?。」
「トラップの一種だと思ったけど、多分違うな・・・正確な事は鑑定出来る人を探さないと何とも言えないけど・・・・多分コイツ魔物だ。そして生きている・・・・。」
「その短剣生きているの!?。」
「ああ、今は氷獄で閉じ込めているけど、こいつはまだ生きている。」
「トラップモンスター・・・・ミミックですか!おかしいですこの階層には居ませんよ!。」
アイテムボックスには生き物は入らない。これはアイリスやファグから前に説明を受けている。
アイリスから間借りしてるアイテムボックスは中の物は時が止まり、熱い物は熱いまま、冷たい物も冷たいままの状態で出し入れが出来る。なので生命という生きている限り動くものに関してはアイテムボックスでは管理出来ない為に弾かれてしまう。
「ああ、多分こいつの正体は・・・・罠魔物だと思う。直接触れなければ効果がないと思うから布に包んでギルドに運んで鑑定できる人に頼んでみようか。」
「そう・・・ならこれはどうする?氷で閉じ込めているけど布に包んで持って行く?。」
「そうですね。そうしないと手が冷たくて持ち続けてられないですもんね。直接持つと混乱してしまうようなので、布に包んだ方がいいかもしれませんね。」
「確かにこれを知らない人が持ったら、おそらく魔物や身近な人に攻撃してしまうだろうね。それぐらいきょうりょくな・・・・・。」
ディードは言葉途中で考え込む。
(低ランク冒険者の全滅・・集団で倒れている・・そしてミミック・・・・もしかして・・・)
ディードは浮かび上がる問題を一つ一つ繋げいく、そこから導き出される答えに不安を感じていた。そして
その姿を見て2人はまた何かあったのだろうかと心配しディードの顔を覗き込む。
「2人共1度ダンジョンに出よう。そしてこの短剣は布に包んでギルドに持ち込む。これ結構重要な事っぽい・・・・急ごう。」
「え?ちょっと待ってディー。何かわかったの?。」
「とりあえずダンジョンを出ながら話す。付いてきて。」
「え・・・・・あ、待って下さ~い。」
持つと破壊衝動に駆られてしまう・・・そんな危険な武器は今すぐ処分したい所だが、この事はギルドに伝えた方がいいと判断しディード達はダンジョンの出口へと向かう。
3人は来た道を戻りダンジョン出口へと向かうその姿を、少し遠い所から青白いスケルトンが様子を見ていた。
ダンジョンから出た3人、既にもう夕暮れに近づき6の鐘が鳴る頃ギルドに辿り着く。
ギルドの受付に本日のクエストの成果と、誰か鑑定の出来る人を紹介してくれと頼む。
「鑑定ですか?できますが有料になりますがよろしいでしょうか?。」
ギルドの受付の女性はそう3人に告げる。
「ああ構わない、これ今日のクエストの報告と納品。これで足りなかったら言ってくれれば出すから急いで欲しい。」
そう言うとディードは目の前に今日の受注したクエストの素材である部位を受付の手前に積み上げる。
突然現れた素材に受付嬢はビックリし、その場で固まる。
「ディードさん、慌てすぎですよ。こんな所でアイテムボックスを使うとまた揉め事が起きますよ。」
「ああ・・・そうだった。迂闊だった・・・すまない。一度しまおうか?」
茫然とする受付嬢にそう問いかけると、彼女は我に返り慌てて業務に取り掛かろうとする。
「し、失礼しました。そうですね1度しまって頂いてギルドの奥の置き場にお願いします。」
「ありがとう。それと鑑定に伴いギルドでも上に方と話をしたいんだけどお願い出来るかな?」
ディードはギルドに納品する素材を次々にしまい込み、そう問いかける。
「あ、はいそれでしたら鑑定出来る方が、私の上司なので聞いてみます。」
そう言い伝え彼女はディード達をギルド奥へと案内した。
少し待たされ、ギルドの倉庫に不機嫌な男が現れる。どうやら寝不足らしく大きな欠伸をしながらこちらに歩いてくる。年は40前後だろうか・・・所々に白髪交じりの中年はディード達見定めていた。
「君達か?鑑定して欲しいっていうのは・・・・こちらも忙しい身でね。ここの所寝不足なんだよ、明日も早いし鑑定はクエストの報酬から引くけど、いいのかい?君達の稼ぎだと逆にマイナスになるかもしれないが?。」
「そうは言ってもファリップさん。この方達、先程3つのクエストを完了させてきたんですから1つ鑑定してもこちらがまだ支払う事になりますよ?。」
「3つ?そりゃまたがんばったねぇ・・・今低ランクの冒険者が今あんまり仕事してくれないからね。それで俺も明日から調査に同行しなきゃいけないし・・・・・それでココル・・・・なんで俺ここに来たんだっけ?。」
「もう寝ぼけないでください。鑑定ですよ鑑定!?。眠いなら早く仕事終わらせてから寝てください。」
ココルに揺さぶられまだ寝ぼけている状態のファリップ。この人が上司で間違いなさそうだが・・・・
ディードは氷と布に包まれた短剣をファリップの目の前に差し出す。
「お疲れの所申し訳ないのですが、これでまた仕事が増えると思いますのでご了承下さい。それと布は取りますが、実際に手に取るのは危険ですので避けて欲しいのですが可能ですか?。」
ディードはそう言い放つと、その言葉に反応したのかファリップの目に力が籠る。
「ほう、鑑定すると今の仕事が増えるのか・・・・面白な君。一応手に取らなくても視る事は可能だから見せてごらんよ。」
ディードは包んでいた布を外し、氷と共に短剣を置く。氷は多少融けているものの、未だにその中に閉じ込めてある短剣には触れない程度厚さを持っている。
「随分厳重にしてある短剣だね?魔武器でも拾った・・・・・・。」
言葉半ばにして、ファリップの口が止まる。その目は先程までの寝ぼけ姿とは違い、獲物を見るような鋭い目つきで短剣を覗き込む。
「・・・・おい。これをどこで拾った?中層あたりか?。」
「いいえ、6階から7階にかけての入口付近でコレと一緒に見つけました。」
そう言ってディードはファリップの目の前で数枚のギルドカードを見せた。突然目の前に出たギルドカードに驚きを隠せないファリップであったが、ディードが見せたカードの意味を知る。
「アイテムボックスか・・・・いや今それ所じゃないな・・・そのギルドカードはこちらで預かっても?」
「はいその為にここに相談来ましたので、それでどうですか?仕事は増えそうですか?。」
「ああ、有難い事に今夜は寝れそうにないな。だけどこれは急いだ方がいい案件だな。」
「では・・・やはりこれは?。」
「ああ、魔物だ。しかもまだ生きている。」
「魔物!。」
そう叫び口を抑え後退りする、ココル。周囲のギルド職員は何事かと様子を伺い始めている。
ファリップは周囲のギルド職員に対し、手を挙げ周囲に呼び込んだ。
「皆、聞いてくれ。今低ランクの冒険者が次々と全滅する事件の事だが、解決の糸口になりかもしれない事が発見された、至急サブマスターとマスターを連絡を。・・・そして会議室を抑えてくれ至急だ。」
「「「了解しました。」」」
ファリップはサブマスター程ではないようだが、それなりにギルド内で上の地位にいる人だったようで、周囲に居たギルド職員に声をかけると、その指示に従い急いでその場を離れ準備に取り掛かっているようだった。
ファリップはディード達3人に深々と頭を下げ謝罪する。
「ぞんざいな扱いをしてすまなかった。貴重な情報を持ち込んでくれて礼を言う。そしてこの短剣なんだが、こちらで証拠として買い取らせて貰いたいのだが可能だろうか?」
「ええ、構いません。それで少しでも犠牲になる冒険者が少しでも減るのであれば・・・それに今は武器は要らないので。」
そう言うとディードは2人の装備と自分の刀を見つめている。それに釣られるようにファリップは思わず鑑定をしてしまう。
「なるほど・・・・どうやら君達は高ランクの冒険者だったのか。防具がアント装備だったので、てっきり低ランクの冒険者だと思っていたが、何かのクエストか任務でそれを着こんでいたのか。」
そう言って一人ウンウンと頷くファリップだったが、ココルに腕を掴まれ再び揺さぶられる。
「違いますよ。ファリップさん。ディードさん達はランクDの方々なんです。それで報酬の件なのですが私一人だとコレわかんないのでファリップさん手伝ってくださいよ~。」
「え?君達ランクDなの?だってその武器凄いじゃないか!ミスリル製の武器に魔武器に・・・・・あ!。」
ディード達の事を見て勝手に解釈+鑑定していたファリップは思わず口を滑らせる。その事に気づいたディードは笑顔でファリップに問いかける。 ただし笑顔でも目は笑っていなかった。
「ファリップさん・・・・ダメじゃないですか勝手に鑑定しちゃ、ギルドの信用に関わりますよ?」
「あ~~~そのつまりだな・・・つい勝手に鑑定しちゃってだな・・・。」
「そうなんですか、勝手にねぇ・・・それで?その鑑定は人のサイズなんかも測れるですか?例えばココルさんとか?。」
「それは勿論!男のロマンだからな。ギルド内の女性たちは全部服の上からだけど、男達にじょうほ・・・・・・。」
ファリップが口を滑らせ喋っている最中だったが、ガツンと大きな衝撃音と共に彼は倒れる。思いっきり頭を殴られ気を失ったようだ。その音の出元は顔を真っ赤にし、怒りを露わにしているココルだった。
「・・・・いい情報をありがとうございます上司・・・・少し・お・は・な・し・・しましょうか?。」
ファリップは首を掴まれ、ズルズルとギルド奥に連行される。途中ディード達の事を思い出したようで、物凄い勢いで3人の元に駆け寄った。
「これから少し上司とギルドの内の大事なお話をしますので、少々お待ちいただけますでしょうか?」
「・・・・・あ、はい査定終わるまでギルド内で待たせてイタダキマス。」
「ありがとうございますね、それと先程の魔物の鑑定は無料にさせていただきますので安心してくださいね。」
そう言うとココルは再び、ファリップの首を掴みズルズルと引きずりながらギルド奥に消えて行った。
(何を安心すればいいんだろ・・・・。)
そう思うディードに若干置いてけぼりを喰らっているリリアとレミィは話しかけて来た。
「ちょっとディー・・・詳しく説明してくれないかしら?そっちの3人で話が終わっちゃったみたいだけどこっちにも説明してほしいわ。」
「そうですね・・・ダンジョンから出る時に説明はして貰ったんですけど、鑑定の結果とこれからどうするか聞きたいのですけど?。」
「そうだね、査定の結果を待つまで一応ギルド内で待ってようか。その時に話すよ。」
ギルド内ではディード達が持ち帰った短剣と情報で慌ただしくなっていた。時折女性ギルド員の怒号が聞こえ会議室から出てくるのを見なかったことにしているディード。
「つまり、あの短剣には混乱か魅了が付加されていて、それを持ってしまった冒険者が仲間割れを起こしていると?」
ディード達はテーブルに座りサンドイッチなどで軽食をしながら先程の短剣に着いた話をしている。
「簡単に言えばそうなるけど、かなり疑問が残るんだよね。」
「疑問?ディードさんそれは?。」
「う~ん。だってアレ魔物だろ?なんでトラップが出ないはずの低階層にそんな物があるんだ?。それに本来ミミックってあんな風に内部から敵を支配するタイプじゃない。宝箱を開ける冒険者を待ち構え捕食するんじゃないかな?。そして・・・多分だけど数は結構あると思う。」
その言葉にリリア、レミィ2人の表情が凍り付く。
「数があるの?」
「ああ、誰がどんな意図かわからないがそれなりにあると思う。」
「そうですか・・・あの時ディードさんが最初に手に取ってよかったのかもしれませんね。私達が取ったらそのまま同士討ちになったのかも知れませんし。」
その時の様子を想像するレミィは少し身震いをする仕草でそう語る、リリアも悪寒が走ったように自分の腕を抱き合わせ小刻みに震えていた。
そんな会話をしている中、先程のギルド女性のココルが少し申し訳なさそうな表情で3人に近づいてきた。
「虹の翼の方々。報酬の件なのですが、現在確認作業が大変な為に本日中の査定は無理との事です。明日また来ていただけないでしょうか?申し訳ないです。」
ココルは丁寧に頭を下げ、3人に説明をする。3人は特に反論をする事なく頷き合い了承する事にした。
「構いませんよ。それで明日の朝にでも来ればいいんですか?」
「はい。ありがとうございます。つきましては本日の情報量だけでもと、金貨1枚の報酬を預かっております。お受け取り下さい。」
そう説明しながらココルは3人の目の前に金貨を差し出した。ディードはそれを受け取りギルドを後にすることにした。
「ありがとう。それじゃ明日の2の鐘がなく頃にギルドに寄る事にしますね。」
「はい、お待ちしております。本日はお疲れ様でした。」
そう言って丁寧にお辞儀をするココルに、なんだかこそばゆい思いをする3人であった。
3人は宿へと戻り、一夜を明かし翌朝再びギルドに戻ってきた。2の鐘が鳴る頃のギルドは一段落をしているようで人もそれなりにまばらだだった。だがギルドの職員達は皆忙しそうだった、職員達が慌ただしくする中でクエストボードの所に2人の顔見知りと出会う。赤い爪のガロンとミロダだ。
「む、貴様らか・・・・。」
「ああ、そっちは早・・・くはないかダンジョンに?。」
「ああ、やっと全部の武具の修理が終わってな今日から再びダンジョンだ。その前に稼げるクエストがあるか見に来たのだ。尤も今日は遠出は厳しそうだから10階の女王蟻狙いだ。そっちは?」
「ああ、ちょっとギルドに用があってね。」
「そうか・・・。」
そう言うとガロンは再びクエストボードを確認する、ディード達も特に言うことなくギルドの受付嬢に話をしようと昨日のココルを探す。
受付のカウンターで彼女を発見、声をかけようとしたのだが背後から騒々しい声が聞こえてきた。
「おい!この中で回復使える奴いるか?いたらダンジョン入口まで来てくれ、緊急事態だ。そしてギルド嬢もダンジョンまで来てくれ。どうやら同士討ちらしい。」
「ディー・・・同士討ちってまさか・・・」
「ああ、可能性は高いね。彼等は被害者だ助けられるなら助けに行こう。」
一抹の不安に駆られつつもディード達は様子を見に行く。
4章に突入する時に登場人物を書くのを忘れてた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




