第62話 堕ちた者
「どうして・・・・・?。」
「これは俺の物だぁあああ!俺様だけの物だぁあああ!。」
一人の男が黒い剣を持ち辺りを振り回す。その黒い剣は柄から刃先まで全て真っ黒に塗りつぶされていて、時折禍々しいオーラを放っている。
どうして・・・どうして・・・と呟く女性はその騒がしい男に真正面から斬り裂かれ、かなりの血を流している。良く見ると他にも3人の男女が横たわっていた。
「私達5人でいつも一緒に戦ってきたじゃない・・・・どうして・・・?。」
そんな呟く彼女など気にした様子も無く、黒き剣を振り回す男。その目は既に焦点が合わさておらず、叫び続けている。
「アヒャヒャヒャヒャハ・・・・邪魔する奴は消えればいいんだ!。俺の・・・俺様の邪魔をする奴は全て斬る。全てだぁぁぁ。だよなぁ、ルニス!」
叫んでいる男は横たわっている仲間をその黒き剣で突き刺す。突き刺す。突き刺す。
確実に仲間は死を迎えているはずなのに、その肉の斬る感触を楽しむかのように何度も突き刺す。
「お前は何度も俺を止めたよなぁ!いっつもお前は先行しすぎだって・・・・だけどそれはただの嫉妬なんだろ?俺が強くなっていくのを見て、自分が追い付けないと悟って嫉妬のあまりに俺の邪魔ばっかしたんだよなぁ。・・・なぁルニス?聞いてるか?なんで応えてくれないんだ?。」
何度も突き刺し、やがてルニスと呼ばれていた男の周りは血で染まっていた。突き刺していた男もまた返り血で、血まみれになっていた。
そして男は飽きたのか、返事の無いかつて無残に斬り裂かれたかつての仲間を見て大きくため息をつく。
「それじゃ、あばよルニス。あの世でケニアとよろしくな、今そっちに送ってやっから・・・・よ!。」
〆の言葉と共に黒き剣を心臓に突き刺し、これでもかと言わんばかりにねじ込む。
「どうしてこんな事を・・・・・?。」
倒れている女性は今自分が見ている光景が信じられないでいた。ついさっきまでダンジョンのスケルトンを倒していたはずなのに、この先の階層へ向かう予定だったのに突如メンバーからいきなり刺され、彼以外全員がその場に倒されていた。
「どうして?それはお前たちがもう足手まといになったからよ?。テレア」
男は声の主、テレアの声を聞き返事をする。その顔は返り血を浴びて表情が良く見れない。だがそれでもその顔から出た笑みは酷く印象的だった。
「足手まとい?・・・・イセン・・・・なんで・・・みんな・・を?。わたした・・・ちあ・・」
テレアは意識が途切れがちになりながらも彼、イセンに問いかけている。彼女もイセンに右胸を刺されかなりの出血をしている。 呼吸も小さく早く治療をしないと危険な状況にもあるのに関わらず、彼に問いかけている。
彼女は自分の死期を悟ったのだろうか?間もなく自分が迎えるだろう〝死〟を前にどうして彼のこの凶行に走ったのか知りたかった。
「なぁテレア俺達のパーティーは本当に仲が良かったのか?」
「・・も・・・ちろん・・・そ・・は・・・。」
「嘘だな、俺はお前等に悩まされていたんだ。いつも俺だけ邪魔者扱いしやがって、知ってるぞお前等2組は俺に隠れて仲良くよろしくやっている事を!そして一人別れ宿に帰る俺をみて嘲笑っている事も。」
「・・・そん・・・な・・・こt・・。」
「ああ!もううっさい黙れ黙れ!!お前ももうすぐ死ぬんだし黙って死んで行け!。」
イセンは頭を振りながら、耳を塞ぎテレアの声を遮った。
彼女の声が煩わしくなったのか、トドメを刺そうとルニスに刺さっている黒き剣に手をかけようとしたその時、黒き剣は柄から突如と黒い霧を放つ。その姿を見てイセンは数歩下がりつつ、嬉々としてその状況を楽しんでいた。
「おお!これが進化か!待ちわびたぞ。」
周囲の霧は横たわっているイセンの仲間も取り込み霧はそこで止まる。その霧の中では小さな音が木霊していた。
やがてその音も聞こえなくなり周囲の霧が徐々に薄くなり晴れようとしていた。
徐々に黒い霧が晴れるその様をイセンは今か今かと待ちわびていた。
「おお・・・待ちわびたぞ。さぁその姿を現してくれ。」
周囲の霧が晴れそこにあったのは、黒いオーラを放ち柄に赤い模様が入った双剣だった。そこにイセンの仲間達の姿は無かった。代わりにほとんど原型をとどめてい居ないボロボロの装備品が転がっていた。
「おお!2つなったのか、これで俺はもっと強くなれる!強くなれるぞ!もっともっと魔物や人を斬って成長して行ってくれ・・・・・まず腹が減っただろう?そこに餌を用意してあるぞ。遠慮なく喰らうがいい。」
イセンは双剣を手に取りテレアに刃先を向け、彼女を餌と称した。その残酷な言葉をテレアは耳にしたが、逃げる事はおろ、動くとすらできずにいる。彼女は既に意識も混沌としている状態で小さな呼吸も止まりかけようとしていた。イセンはそんな気にする事なく突き刺しやすい様に双剣を逆手に持ち振りかざそうとしていた。
「じゃぁな、テレア。恨むなら己の不幸を恨むがいい、だが同時に名誉だ。この双剣の初の餌になるしなぁ・・・。」
イセンはそう言い放ち双剣を振り下ろそうとしたが、テレアにその刃は届かなかった。
なぜならば、その双剣は持ち主の胸を貫いているからだ。イセンは訳が分からずに止まり混乱している。
「・・・・は?なんで俺が俺を貫いているんだ?・・・意味が・・・マテ・・・お前等!餌はあっちだ俺じゃな・・・・・・あ・・・ぎゃ・・。」
自分で胸を貫き、何かと喋るやりとりをした時イセンの身体は所々形を変えていく。
それは内側から何かが這いずる様に駆け巡られていく、肉は裂かれ血は吹き出し彼の身体を巡る。
イセンは声を上げ切る前にその何かによって絶命させられる。その後も何かはイセンの全身を駆け巡り彼を侵食しそして喰らい始めた。徐々に体の部位が内側から吸われるように消えていく。
そして残ったのは、彼の装備品と2本の双剣がそこに横たわっていた。
(ああ・・・・何て事なの・・・・・)
テレアはその光景を否応なしに見せつけられる、突然の仲間の裏切りから始まり、終わる。
その光景を最後まで見た彼女は、何かが近づいてくる音が聞こえたが、意識はもう無かった。
「・・・・ふむ。進化したが持ち主を喰らうのはダメだな。それに・・・これ以上は進化せぬか・・・。ふむ、身体能力強化か・・・まぁいいか。これはこれで使い道があるであろう。」
そう言い放ち双剣を見つめるその人影はテレア見て呟く。
「ああ、こっちにもいい餌があったのか。すまないね、この剣を見てて気が付かなかったよ。お詫びにこれを持って逝きなさい。」
そう言うと、その人物は袋から黒い結晶を取り出し彼女の刺し傷ある胸に強引に押し込んだ。
「感想は後で聞くとしようか・・・・もっとも聞ければの話だが。」
そう言いつつその人物は去って行った。
やがてダンジョンは彼女をゆっくりと飲み込んでいく。その黒い結晶と共に・・・・




