幕間 ララの思惑
迷宮都市グラドゥの端に住まいを佇む2人の夫婦。家は所々継ぎ接ぎが施されていて、時々雨風に家が悲鳴を上げる時もある。 そんなボロ屋にも太陽の光は平等に届けてくれる。 その光を浴び一人の獣人女性が目を覚ます、ララだ。
その姿は裸体であり、その豊満な胸は夏の朝日を浴びている。彼女は朝日を浴び大きく伸びをし、覚醒しようとしていた。
「ん~~。朝にゃ、気持ちのいい朝にゃ。いい事をした朝は格別にゃ~。」
いい事とは、脇で一緒に寝ているジロエモンが干物の状態になってるので察して欲しい。
朝食を用意し、ララはベットで干からびているジロエモンも起こす。
「ジロさん、朝ごはんできたにゃ、早く食べないとアイツ等来ちゃうにゃ。」
アイツ等とは勿論虹の翼の3人の事だ。現在ララ達は3人に鍛冶の手伝いと兵士蟻の素材採取をお願いしている。尤もその原因となったのはその3人なので彼等は文句を言うどころか、逆に手伝いを申し出ている状態だ。
「あ・・・あと1時間寝かせてくれ。」
ジロエモンが干からびた手で震えながら天に伸びている。彼は連日の作業と夜の作業に睡眠が十分取れずに疲労困憊だ。だがその伸びた手をララは両手で掴み、自分の胸へと押し付ける。
「1時間でいいのかにゃ?それともまだいい事したいのかにゃ?それともディード達に少し待ってもらうかにゃ?見られてするのも興奮していいのが出るかもしれないにゃ?。」
彼女は獲物を見るような目で舌を出し、自分の唇を湿らせている。その姿を見たジロエモンは色々な危機を感じ、即座に朝食が置いてあるテーブルへと向かう。 その姿を見てララはニヤっと笑いながら同じくテーブルに着くのだった。
3人が着いてから黙々と作業を開始する。ディードとジロエモンは加工、ララは素材の剥ぎ取り、レミィとリリアはその手伝いと剥ぎ取った素材の洗浄と手分けしての作業だ。
「それにしてもこの数は流石に疲れるにゃ。」
「・・・・そうね。同じ姿勢で作業していると腰にくるわね。」
「ですね。ダンジョンに素材を取りに行く事が楽に感じる日が来るなんて思っていなかったです。」
大量の注文を受け、朝から晩まで作業つ続ける5人。その原因となったのが先日の模擬戦だった。
ランクEの虹の翼が、ランクCの赤い爪に圧倒的な勝利を収めるという、前代未聞の珍事が起きていた。
そこで使われたディードの刀の『時雨』の下位互換の打刀の注文。それに3人が着ていたアントジャケット、そして一番多かったのがアントブーツの大量注文だ。数にして20個。その原因を作ったのが、先程から涙目でダンジョンの方が楽と寝言を言っている、兎獣人のレミィだ。
彼女は模擬戦に勝利し、その後さらにイチャモンを付けた奴を徹底的に蹴りのみで撃破し、アントブーツの有用性を証明してしまったのだ。このアントブーツ、多くは女性からの注文らしい。
「ほれほれ、そこの『玉蹴り兎のレミィ』頑張るにゃ。そこのは全部ブーツになるんだからしっかりやるにゃ。」
「変な2つ名で呼ばないでください。ただでさえこの仕事キツいんですから!。」
「その仕事を作ったのはお前にゃ。ちゃんと仕事した分料金も払うから頑張るにゃ。」
「うう・・・リリアさん・・・・。」
「まぁ・・・もうちょっとでお昼だから頑張ろうね。」
耳をしおらせ文句を言いつつも作業に戻るレミィにそれを励まし一緒に頑張るリリア。2人は仲が良く支え合っている。そんな2人を見てどことなく懐かしさと、羨ましいさが見え隠れする。
(懐かしい光景だにゃ。うちもアイツが生きていればもう少し違った人生を送ったかもしれいにゃ。でも今の生活もジロさんという旦那もゲット出来てるし、文句はないけどにゃ。)
そう心の中で呟き彼女も作業に入るのだった。
それから数日後、量の多かったアントブーツは数を揃える事が出来た。現在は他の材料を仕入れ中の中休み。ディード、リリア、レミィの3人はダンジョンへ向かい残りの装備分の素材を確保中、ララはジャケットに使う革紐や刀などの鞘の部品を調達、ジロエモンは鉄の調達など色々と忙しく回っている。
(それにしてもジロさん、少し落ち込んでいたにゃ・・・。でもあれはどーしもないにゃ・・)
ジロエモンが落ち込んでいる理由、それは彼の相棒と言うべき金槌が折れてしまったからだ。
勿論予備があるものの、父から受け継いだ金槌とあって年期もあり愛着も一入だった。
「まぁ寿命だったんじゃ仕方がない・・・。」
そう自分に言い聞かせすぐ他の金槌に持ち替えたジロエモンはどこなく寂しそうだった。
ララとしては、自分の旦那が落ち込んでいる姿は見たくなかった。ただでさえ自分が特殊奴隷に落ちてしまい、迷惑をかけたのだ。
自分の財産を捨て故郷を追われる事になっても自分を取ってくれたことに対する愛情や感謝は今でも忘れない。そう思うとララとしては何とかしたいと思うものだが現在の彼女は良い案が浮かばずモヤモヤしている状態であった。
「う~んう~ん。何とか元気にさせる方法はないかにゃ~・・・・あっちの方は元気にさせる方法はいくらでもあるんだけどなにゃ~。・・・。」
何を元気にさせるかはさておきララは工房の玄関先まで考え事をしながら辿り着いた。するとそこには一人の女性が座っていた。
(ん?お客さんかにゃ?)
ララは気づきその女性の方へと歩み寄る、女性の方もララの事に気づき正面を向き軽く会釈をする。
「こんにちはここの工房の関係者の方でしょうか?。」
「そうにゃ、うちの旦那がやってる工房だにゃ。」
「奥様でしたか。初めましてユメカとお申します。噂を聞いてここのアントブーツが欲しくて来たんですけど1足売って頂けませんか?」
丁寧に商品を求めてくるユメカにララは少し申し訳なさそうな顔をする。
「あーごめんにゃ・・・今生産が追い付かなくて注文を今断っているにゃ。しばらくしたらまた受け付けるにゃ・・・。」
「そうですか・・・・それはどの位になりますか?。」
「ん~そんなにかからないと思うにゃ。急ぎで欲しいのかにゃ?」
「あ~・・・実は私、酒場を経営してましてね。時々勘違いして言い寄ってくる客を蹴り飛ばすのにそのブーツが欲しいなと・・・・。」
視線を逸らし頬を掻くユメカ・・・・。まさかそんな用途で欲しがられると思っていなかったララは盛大に噴き出す。
「ぷっ・・・あはははは、そんな使い道を言うお客さんは貴方が初めてにゃ・・・・。」
「ですよね・・・・あははは。」
正直に話してしまった事を少し後悔しながらも、苦笑いでその場を過ごそうとするユメカ。だがそれが逆にララにはツボだったらしく、盛大に噴き出す。それに釣られてユメカも次第に苦笑いから笑いに変化していった。
「いいにゃ。お客さん凄くいいにゃ。特別に造るにゃ。」
しばらく笑っていたララだったが、ユメカを見つめそう伝える。
「え?いいんですか?今注文受け付けてないって・・・。」
「ユメカさんだっけかにゃ?気に入ったにゃ、特別に造るにゃ。それで張り切って客を蹴り飛ばすといいにゃ!。」
「それはどうかと思うけど、ありがとうございます。無理言ってすみません。お詫びという訳ではないんですが、私が造ったお酒です。良かったらどうぞ。」
そう言って差し出されたのは3本の酒瓶だった。オレンジ色、無色、琥珀色の3本の酒だ。どれも木札が紐にかけられている。
「おー綺麗な色にゃ。いいのかにゃ?これ貰っても?。」
「ええ、それと料金は別で構いません。もし気に入ったらうちの酒場に来てくれると嬉しいですね。」
「お客に店の宣伝されるとは色々面白いにゃ。3日後には出来上がる様にするにゃ。」
「ありがとうございます。それじゃ3日後にまた来ますね。」
「了解にゃ。」
ユメカは礼を言うと自分の店の場所を教え去っていく。ララは彼女から貰った酒見つめ工房の中へと入って行った。
(面白いお客さんだったにゃ。しかもお酒を造るって言ってた。今度その店にジロさんと飲みに行こうかにゃ~。・・・・・つくる・・・造るか!そうにゃ!)
ララは彼女の何気ない一言から、ある事を思いつく。
後日作業の合間にディードにすり寄る。
「ディードちょっと頼みごとがあるんだけどいいかにゃ?表まで来てくれにゃ。」
「どうしたの?ララさん、強引に外に連れ出して。」
半ば強引に連れてこられたディードはララを見つめ、怪訝な顔をする。ララは袋から取り出した物を見せる。
それはジロエモンが先日壊してしまった金槌だ。
「お願いがあるにゃ。この間の方法でこの金槌を作り直して欲しいにゃ。材料は揃えてあるにゃ。これはジロさんがお父さんから受け継いだ最後の金槌で、ジロさん大事にしてたけど壊れて少し落ち込んでいるにゃ。だからこれを生まれ変わらせてほしいにゃ。」
そう願うララはいつになく真剣な表情だった。普段はレミィやリリアをからかい、飄々とする態度だったが今はそれはなく真剣な目つきだった。 その目を見たディードは少し考ええやがて・・・
「わかったそれじゃその金槌をベースにやって見るよ。勿論ジロエモンさんには内緒に・・・でしょ?」
ディードは人差し指を口にあてシーっ内緒のポーズをしてみせ、笑顔でララの意図を汲み取った。
ララは笑顔でディードに片腕に抱き着き、こっそり耳打ちをする。
「よくわかってるじゃないかにゃ。やっぱりいい男だにゃお前さんは、1回くらいはしてもいいけどどうするにゃ?。溜まっているならたっぷりサービスするにゃ。」
「ララさん、そうゆう悪戯はやめてください。溜まってませんし後ろの2人がいるのを知っててやってるでしょ?。」
「やっぱりバレたか。・・・・でも何かお礼は後でさせてくれにゃ。」
後ろの2人とは勿論リリアとレミィだ。2人は強引に連れていかれるディードを不審に思い、後を付けていた。一応隠れているつもりが、レミィの耳が飛び出ていてバレバレなのは愛嬌である。
その後2人に説明をし協力を仰ぐ事に成功する。そしてジロエモンが居ない隙にディードはこっそり完成させララに渡したのだ。
ディード達が帰る時にララはリリアとレミィを呼びつけ2階へと呼び込む。そこで2人に差し出したのは2本の酒。先日ユメカから貰った酒だった。
「これはお礼にゃ、夜寝る前にでも飲んでくれにゃ。」
リリアには透明な酒をレミィにはオレンジ色の酒を渡した。2人は物珍しそうに見つめながら受け取る。
先に階段を降りたリリア、次に降りようとした時にレミィを捕まえ彼女にこっそり耳打ちをした。
「――――にゃ。」
「何言ってるんですか!そんな――――。」
「――――練習にゃ。」
「・・・・・ダメです。そんな事。」
「なら――――にゃ。」
「・・・うう、――――。」
レミィは顔を赤くし、工房を出て行く。その姿を見つめララは満足気に見つめ、これから起こりそうな事に思いを馳せ小さく笑みを浮かべた。
(ディード。これがウチのお礼にゃ。ありがたく受け取るにゃ。)
夜、ララはジロエモンと食事を終え、一緒に酒を飲み始める。
「ほう、随分といい酒だな。」
「かなり強いにゃ・・・でも香りもいいし、いいお酒だにゃ。ジロさんこの注文が終わったら一緒に飲みに行こうにゃ。」
「ああ、珍しいな。ララから飲みに行こうなんて、さては俺の目を盗んで何かやってた事が繋がるのか?。」
「げ・・・バレてたのかにゃ・・・。」
「何年お前の旦那やっていると思うんだ。お前の悪戯する時の顔や癖も見抜けないで鍛冶なんぞ出来んわ。」
「さすがうちの旦那さんにゃ。でもこれはどうかにゃ?。」
そう言いつつララは袋から1本の金槌を取り出す。それは蒼く光り輝を放つ1本の金槌。
「おい・・これは?。」
「ディードに頼んで打って貰ったにゃ。ジロさんお父さんの金槌が壊れて少し寂しそうだったにゃ。その金槌を元に造って貰ったにゃ。」
「お前・・・・あれは時間がある時にもう1度鋳つぶして作り直す予定だったのに・・・・。」
「そうすると思ったにゃ。でもにゃジロさん。ジロさんこれから大きな仕事が来るにゃ。ディード達のせいでいっぱい仕事くるにゃ。その時に使える金槌もあった方がいいにゃ。これは今、うちが出来る精一杯のお礼にゃ。アクアを追い出される事になっても見捨てず、ウチを選んでくれた事。本当に感謝にゃ。これでまた頑張っていい物を作るにゃ。」
「お前・・・。」
そう言われ受け取るジロエモン。その金槌を見つめ感慨深く思いを馳せる。
少しの間目を閉じ、2人の間に静寂が訪れる。
(・・・・ありゃ?怒らせちゃったかにゃ?)
ララはジロエモンを怒らせてしまったのでないかと内心ヒヤヒヤしていた。だがそれも杞憂に終わる。
「ララよありがとう。」
その一言を聞きララはホッと胸を撫でおろす。そしてジロエモンはララの手を握りしめ
「お前はいい女だ。時々しょーもない事をするが、俺には勿体ないな。俺に出来る事があるとするなら、いい仕事をし、お前と一緒に年を取る事ぐらいだが・・・これからも付いてきてくれるか?。」
「勿論だにゃ。」
ララはジロエモンに抱きつきそっと唇を重ねそれからまた抱き合う。それはララとジロエモンは幸せな時間であった。
だがそれは束の間だけだった。
「ジロさん、ジロさんが出来る事1つあるにゃ。それをお願いしてもいいかにゃ?」
「俺に出来る事?出来る事ならやってやる。言ってみ?。」
「言ったにゃ・・・・確かに言ったにゃ・・・。」
ララの笑顔がジロエモンに突き刺さる。その笑顔を見たジロエモンが嫌な予感が横切り顔を青ざめていた。ララの笑顔・・・それは目は優しいが口は三日月の様に笑っている。
「ちょ、お前まさか・・・やめろ・・・ここ数日碌にお前のせいで寝れてないんだ。」
「ふふふ、逃がさないにゃ。ジロさん・・・・今日も協力して貰うにゃ・・・子作りに。」
「おま・・・ばか・・・酒も入ってるのに、そんな事出来る訳ないだろう。」
「それは身体に聞いてみるにゃ。口では言ってるけど身体は正直だからにゃ。」
「そのセリフは男が言うセリフだ。バカやめろ。服を脱がすな!。」
「いただきますにゃーーー!!!。」
「アッ――――――――!!!。」
次の日
寝不足のディード、2日酔いのリリアとレミィは重い足取りで工房へと向かう。
朝方、ディードは2人に強制リフォームされたドアを宿の従業員に謝罪、追加料金と直るまでの宿泊を支払い不機嫌な様子。 リリアとレミィは2日酔いが抜けず、ポーションや回復をディードに求めたのだが、工房に入るまでお仕置きと言われ青ざめた顔で工房へ入って行った。
「ララさん!ちょっと話「でぃーぃぃぃどぉおおおお。」」
ディードの言葉を遮り、地の底から唸るような声が聞こえる。声の主はジロエモン、彼はカラカラになっている干物のような状態でディードに抱き着く。
「え?ちょ・・・ジロエモンさん?どうしたの?。」
「でぃいいどぉお、丁度良かった。素材が足りないんだ、2人で取りに行こう。お願いだ、採取に連れてって言ってくれぇぇぇ。」
「え?昨日これで揃うって言ってじゃない?どうし「そうか、OKかそれじゃ早速行こう、わが友よぉぉ。」
悲痛な叫びと共に、干からびかけたジロエモンが強制的にディードを連行。
その姿を見たリリアとレミィは顔を合わせ頷き、ララに言葉を放つ。
「ララさん・・・私達2人が帰って来るまで宿で寝てるね。帰ってきたら起こしに来てってディードに伝えて・・・・。」
そう言い残すと、リリアとレミィは再び重い足取りでゾンビの様に宿へと戻って行った。
一人残されたララ・・・・彼女だけは色艶が鮮やかで元気いっぱいだった。




