第61話 兎と盾
頬にキスをされ唖然とするディードに、頬を染め潤んだ瞳でディードを見つ照れ笑いするレミィ。
周囲からは黄色い声や口笛を鳴り響かせる音や囃し立てる声と、妬みつらみを含んだ視線が贈られる。
ディードも決して悪い気分ではなく頬を指で掻き少し照れる。レミィは美少女だ、白い毛に淡い色の緑の瞳、桜色に潤んだ唇、熱を帯びた上目遣いは、周囲がいなければ理性が崩壊し、思わず抱きつきたくなるくらいだ。
心落ち着かせようとするディードを横目に、リリアがレミィに詰め寄る。耳まで真っ赤にした彼女は興奮しすぎているせいか、意味不明の言葉が混じっている。
「なななんあなな、レミxちゃん。あんたなにしばっと?こんな公衆の面前でキキキキ、なんてはじゅかしいじゃない?。」
「リリアは落ち着け、言葉になってない。」
「そうですよ、リリアさん。そりゃ少しは恥ずかしいですけど、私とディードさんの仲を知って貰う機会になりますし、リリアさんもこの機会にどうですか?」
「そんな事できるわけねいでしゅー!。」
リリアが噛みに噛んでレミィに抗議をするが、彼女はその度にリリアに振る。すると彼女が固まりそして振り出しに戻るというループを2度程続けた後に、ガロン達が荷物を抱え帰ってきた。
「なんの騒ぎだ?これは。」
「ああ、気にしないでくれ。少し気持ちが昂っているだけだ。」
周囲もガロン達を見ると囃し立てていた声は次第に聞こえなくなり、視線も無くなっていた。
ガロン達は気にする事をやめ、抱えていた荷物をディードの前におろす。
「そうか?これで良かったのか?」
そう言うと、ガロン達3人が置いた荷物は、砂糖と牛乳と卵の3種類だった。それも結構な量だ。
実はディード、模擬戦で勝った時に、1つ言う事を聞くとガロンに告げられた。最初は断っていたのだが、少し考えた後に、この食材を買って来てもらえるように頼んでいた。
「ああ、予想以上だ。こんなに良かったのか?。」
「負けは負けだ。対価がこれで済むならまだマシだと思う事にする。お前みたいなおかしなエルフを相手にする程、馬鹿じゃないと思う。」
「地味に傷つくな・・・・。取りあえず収納させてもらう。これでいがみ合う事が無ければいいんだがな。」
「また力を付けて挑むまでは、いがみ合うつもりはない。それまでは負けないでいろ。」
「俺としては面倒なのでお断りなんだけどね。」
いつかは噛みついてると牙を出すガロンに対し、ディードはいやなこったと言わんばかりの表情で対応する。 その姿を見てギロンが表情を歪ませ拳を強く握り、怒りを抑えきれずにいた。
ディードはガロン達の持ってきた食材をアイテムボックスに順にしまい込みはじめる。
アイテムボックスに次々と食料をしまい込んだ後、ふとギロンが声を張り上げた。
「おい!そこのヤサ男、もう1度そこのウサギと一対一で勝負させろ!。賭けるのは俺の剣だ。
俺は納得いかないんだ。お前等に負けるのも、ガロンの兄貴に買い物を行かせたのも何もかも、お前が邪魔をしなければ、そこのウサギなんかに負けるはずがないんだ!それを証明してやる!。そして次にエルフ女、最後にお前だ!」
声を上げて吠えるギロンに対してディードは冷ややかな視線を送る。既に勝負がついており、回復までかけて貰っておいて負けを認めないその姿に、ある意味賞賛すら覚えるが・・・・それを止めに入ったのはガロンであった。
「ギロン!見苦しいぞ!既に勝負は着いている。回復までかけて貰っておいて恥を知れ!。」
「兄貴!それは違う!こいつらは勝負の最中に何か俺達が弱体化する何かを使ったんだ、間違いない!じゃなければあのポーターあがりのウサギに俺が負けるはずがないんだ。だってポーターだったんだぜ?ついこの間まで。それは少し見ない内に俺を超える力を付けているなんて絶対信じられない!だから俺は戦う!狼人族の意地にかけて。」
「気持ちはわからなくないが、仮にそうだとしてもそれは彼等の技術だ、そして俺達は負けたんだ。1度決まった事を覆すなんて往生際が悪いぞ。」
「だから俺は一人で戦うんだ!。見ててくれ兄貴。絶対に倒してる!そして目を覚まさせてやるから。それに俺にも策は一つ練ってある。」
兄貴分であるガロンの話を全く聞き入れないギロンは、剣をディードに向け突き出す。
「そういう訳だ、勝負をさせろ!虹の翼。まずはそこのウサギだ。お前等の化けの皮を剥がしてやる!」
諦めきれないその姿を見て、大きくため息を吐く。
「レミィちゃん、そういう訳なんだけどお願い出来る?。」
「はい、いいですよ。」
レミィはあっさりと承諾し前へ出る。
2人は数メートル先正面に対峙し、先程の模擬戦と同じ位置に着く。
「今度はちゃんと負けを言わせればいいんですか?」
レミィは首を傾げ、ギロンに問う。それが面白くないギロンは、
「さっきのはマグレだし、あのヤサ男が何かしたんだろう?。お前みたいなウサギなんかに、俺を超える能力は無い。」
「ウサギ、ウサギって・・・そのウサギに気絶させられたのを覚えてないんですか?。」
レミィは大きくため息を漏らし、ジト目状態でギロンに言い放つ。
「そう言ってられるのも今だけだ、助けを求めても気を失うまでは手を休めてやらん。ここに立っている事さえ舐めているんだ。さっさと負けて家族の所にでも帰るんだな。」
「・・・家族・・・。」
ギロンの出したその言葉に、ピクリと釣られ独り言のように呟くレミィ。双剣を持つ手は強張り、視線が少し泳ぐ。 その反応を見たディードとリリアが少しだけ表情が険しくなる。
その反応を見てしまったギロンはそこが彼女に取って言われたくない所だと思ったのか、更に余計な事を話してしまう。
「なんだ?今更家族が恋しくなったのか?それとも捨てられたのか?・・・ああそうか、そっちか。だからポーターなんぞやって、娼館落ち間際にそこのヤサ男に拾われたのか。それともアレか?娼館でそのヤサ男に見初められたのか?良かったな、そいつに甘えていれば飽きられるまでは抱いてもらえそうだしな。ウサギはいいな楽そうで、精々媚び「黙れ!!。」
ギロンがヘラヘラと喋っている最中に、突如レミィが言葉を遮るように声を上げる。その姿は先程までとは打って変わって、怒りに満ち双剣の持つ手を震わせていた。レミィの怒気にあてられ、少しだけ怯む。
「へっ、ウサギが怒ってら・・・まぁもういいや。そろそろ始めようぜ今回は全力で行くからな。その顔に傷を負ってヤサ男に捨てられても恨むなよ。」
煽りたてるギロンに、レミィはずっと睨みつけつつもディードに声をかける。普段と全く違い、低く、その声からも怒りの感情を滲み込ませているのがわかる。
「ディードさん。申し訳ありませんが、回復薬を少し譲っていただけませんか?。」
「・・・・わかった。今3つあるから好きに使っていいよ。レミィちゃん程々にね。」
「分かってます。そしてごめんなさい。」
「大丈夫。やりすぎてもちゃんとフォローするから。」
ディードはレミィの意図を感じ取り、アイテムボックスから回復薬を取り出しその場に置く。レミィは1度視線を回復薬に送りそして視線をギロンに戻した。
「始めてください。」
その言葉にディードは銀貨を取り出し、指で弾こうとする。周囲はそれをただ見つめその指から銀貨が放たれるのを待っている。
落ちる瞬間にギロンはレミィに向かって仕掛ける。勿論、模擬戦に置いて開始前に動くことはマナー違反。しかし、特に決めている訳でもなくグレーな状態だ。 ギロンは勝てれば卑怯でもなんでいいというのが信条のようだ。
「あの変なの出させる前に動けばいいんだ。ウサギ、お前は俺に狩られるのが当たり前なんだよ。オラオラオラー!。」
出鼻を不意打ちで砕かれまたも開始直後防戦一方のレミィ。だが彼女はギロンの双剣を自身の双剣で捌き続けている。 防戦一方の状態が続き、レミィが少しづつ手数で押され気味になってきているのだが、彼女は突如ギロンに問いかける。
「最後に聞きますが、ウサギに何か恨みでもあるんですか?。」
「あ?んなもんある訳ねーよ。ウサギは狼に狩られるのが当たり前だ。文句ならウサギに生まれた事を恨み、親に文句でも言えばいい。どうして狼に産んでくれなかったのってなああ。」
その言葉を聞き、レミィは左手に持つ大地の牙に、一気に魔力を注ぎ込む。淡い光を覆った牙はレミィの手から投げ出され地面に突き刺さる。それを見たギロンは舌打ちし、大きく右に逸れる。先程までギロンが立っていた場所に大地の牙が地面から石の牙が飛び出し、人の高さまで競りあがるが獲物を捕らえていない。
右に大きく逸れたギロンはすぐさまレミィに近づく、それを見て彼女は左手を出し正面に【兎の盾】を展開する。
「そんな物回り込めばいいだk――ごべぁ。」
ギロンはレミィとの正面に【兎の盾】を出され左に迂回し襲い掛かろうとしていた。彼女の左手には武器が無く、回り込めば自分の出した盾に右手の行動に制限をかけると読んでいたからだ。
だがギロンは喋っている最中に突如正面から、レミィの蹴りを顔面に喰らい吹き飛ばされる。 正面から盾を貫通し飛び出してきたレミィの蹴りに対応できずそれを顔面で受ける形となった。
彼女は【兎の盾】を囮に使った。正面に展開された【兎の盾】は軽く叩けば簡単に壊れる程度の強度にしてあった。それを知るはずの無いギロンは敢えて左に誘導され蹴り飛ばされるハメになる。
蹴り飛ばされたギロンは大地の牙にぶつかり2度の衝撃を受けるが、すぐさまレミィを見据え攻撃へと転じようとしたが既に彼女は居ない。
「くそ!どこ―――。」
喋る暇を与えずにレミィは大地の牙の先端に掴まり、それを軸に一回転。勢いをつけ彼女の膝蹴りがギロンの横顔を直撃する。 ギロンは吹き飛ばされ地面滑り込むように倒される。すぐさま起き上がろうと四つん這いの状態になるがレミィに蹴り上げられる。
「ぐっふっ!・・・。」
蹴り上げられ肺の中にあった空気が強制的に出され変な声を上げるギロンに、レミィは追撃の手を緩めなかった。彼女は自分の半分の高さぐらいの所に【兎の盾】を水平に展開しギロンを受け取める台にした。
やがて彼女の狙い通りにギロンはそこに打ち付けられ、バウンドしたその直後レミィはその場で大きく縦回転をし全体重を乗せたかかと落としを腹部に喰らわせた。
ギロンの身体はくの字に曲がり【兎の盾】も耐久限度を超えたのか消失しそのまま地面に叩きつけられる。
「ごっ・・ふっ・・・ぐは。」
連続攻撃をまともに喰らいギロンは、呼吸すらもまとも出来ずにその場で苦しむ。
(馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な・・・・・あのウサギにこんな力があるなんて信じられない。)
苦しみ蹲るギロンは何とか立ち上がろうとするも、身体に力が入らない。そこへレミィが近づきギロンを仰向けになる様に蹴り転がす。
彼女は無言でギロンの顔に先程ディードから出してもらった回復薬をかける。冷ややかに見るその目はギロンに屈辱を与える十分だった。
「ウサギの癖に見下しやがって・・・・、チクショウ。殺してやる・・・・。」
回復薬の効果でダメージをある程度回復させてもらったギロンは、その屈辱に心を燃やしレミィを睨みつける。全身に魔力を注ぎ込み肉体に変化を促している。ガロンがディードに使っていた狂暴化と同じように見えた。
「やめろ!ギロンお前はまだそれを使えないだろ!。」
ガロンがギロンにその技を使う様に声を上げる。だがギロンはそれを聞き入れず全身に魔力を張り巡らせている。ガロンはたまらずに飛び出し止めようと試みようとしたのだが、レミィの片手がガロンの方へ向き制止する。
「まだ回復薬は2つありますので大丈夫です。」
「は?。」
ガロンはその場で立ち止まる。そして彼女を一瞬だけ視線を合わせる。何か言おうと声を出そうとしたがギロンに阻まれる。
「ウサギィィィ~~~!!。」
ギロンは駆け出しレミィに詰め寄り双剣を振りかざす。彼女は【兎の盾】を正面に展開させ行く手を阻む、ギロンはそれを今度は避けずに真正面から突撃してくる。破壊するつもりだ。
だが・・・・鳴り響くはギロンの剣が弾かれる音。正面に作られた盾はギロンの攻撃にもビクともしない。その強度に戸惑いならば本体を攻撃するまでと動くギロンだったが、一瞬の隙を突いてレミィは、・・・・股間を蹴り上げるのだった。
「ぐ・・・・が・・・・。」
ギロンの声にならない声が周囲の男達を恐怖に陥れる。ある者は自分の股間を抑え、ある者は目を細め背筋の凍る思いもする。 股間を強打され、前屈みに倒れ込もうとするギロンにレミィは胸部付近を蹴り飛ばし仰向けに転倒させる。 急所を攻撃、さらに胸部への蹴り込みを喰らい、強化した身体もあっさり解けてしまい意識を手放さそうとするギロン。だが彼女はそれを許さなかった。
2本目の回復薬を股間に胸部にかけられ、追撃に片手を蹴り飛ばされ剣を吹き飛ばされる。
レミィはギロンを見据えたまま傷が回復を待っていた。その姿を見たギロンは恐怖し心が折れかかる・・・
(なんだこのウサギ・・・何故俺がここまでやられる?こんなウサギに何故俺はここまで痛めつけられる?在り得ない、あり得ない、アリエナイ・・・。)
狼人が兎人に追い詰められる。それは聞いたことがない。あってはならないとギロンは心の中で唱え続ける。この間見たウサギは確かにコイツだった。本人もそれを認めている、だから姿を見なかったほんの数日にここまで急成長する彼女に疑問を持ち、何かトリックがあると踏んだのだ。だが実際にはこのありさま。不意打ちで仕掛けて、何かされる前に叩いてしまえばいいと策を練り強行したのに、今は回復薬をかけられ立つのをじっと見つめられている。
ギロンはこの屈辱を晴らすべく立ち上がろうとするが、まだダメージは抜けきらない。それだけ彼女の攻撃が勝っているという事が証明されている。それでもなんとか立ち上がろうとする彼の前にふと小瓶が投げ込まれる、回復薬だ。
レミィはギロンの前に3つ目の回復薬を割れないように投げ込んだ。それを見たギロンは彼女を睨みつけるが、彼女はただただ立ち上がるのを待っている。
「ちくしょう、チクショウ、舐めやがって・・・・。」
ギロンは投げ出された回復薬を一気に飲み干し、立ち上がる。
最早ギロンに成す術は無い、狂暴化の魔法も簡単に解かれ持っているのは片手の剣と、回復薬の瓶。
ギロンは回復薬を彼女に勢いよく投げつける。それを難なく回避されつつも彼女に詰め寄る。そして間合いが詰め寄りかけたその時、ギロンは地面を浅く蹴り土を彼女の顔目掛けて飛ばした、目潰しだ。
彼女は咄嗟の事で【兎の盾】を展開する事は出来ずに腕で、土を防ぐ。それを確認しギロンは片手で双剣を突き刺すように彼女の心臓を狙った。
(もうここに来て模擬戦なんて関係ねぇ・・・こいつだけは俺が始末しないと俺のプライドが!!)
傍若無人とはギロンの事を言わんばかりの身勝手極まりない行為。だが彼の何もかも捨てた攻撃は、彼女に辺り事はなく空を突き刺す。 レミィは突き刺した剣より高く飛び上がり彼の顔を目掛けて両足で蹴りを打ち放つ。
「ごばぁ!。」
ギロンは再びレミィによって吹き飛ばされ、地面に滑るよう倒れ込んだ。最早彼に打つ手は無い。不意打ちに、目潰し、そして心臓を突き刺そうした行為は誰が見ても反則行為。例えそれで勝利しても彼の勝利を祝う者はおらずその後は街を追い出されるか、奴隷行きが決まるかだった。 だがそれでも、そんな事をしても彼女に何一つ届かなかった・・・・
近づいてくる足音に、ギロンは上体を起こし剣を突きつける。しかし突き出した剣も手首ごと蹴られ弾き飛ばされた。
「ぐぁ・・・・。」
痛みで鈍い声が出る。そして彼女は再び彼を見下ろしていた。 ギロンはさすがにこれ以上は敵わないと悟るが降参という言葉を出せないでいた。
「ま、待て・・・提案をき――。」
ギロンはレミィに何かを提案しようとしたのだが、時既に遅く彼女の蹴りを横顔で受ける。
その場に崩され、再びギロンは彼女の顔を見ようとし、声をかけようとしたが今度は足を勢いよく踏まれる。
「あああ、ま、待ってくれ。俺の提案を。」
そして再び蹴られる横顔、ギロンの心は完全に砕かれ地面に縫い付けられるように顔を打ち付けていた。
その一切容赦ないレミィの姿に周囲の人々は、恐怖し引いていた。ギロンさえも背筋に冷たい物が走り過ぎ去る感覚をえている。
ギロンは起き上がれずにいる、まだ意識があるが彼女を見る事ができない。正直に降参を伝えれば攻撃をやめてくれるだろうが、それでも彼の些細なプライドが許さなかった。
やがて少しの静寂が訪れる。 周囲の空気が冷え込む中、その雰囲気を壊したのもレミィだった。
「私の親は、突如現れた魔物に私達を守り、そして逃がす為に立ち向かってくれました。そしてこの世を去りました。他の大人達も戦えない私達を逃がす為に散って行きました。私達に未来を託した親に文句を言え?どうしてそんな事が言えるんですか? 私達兎人族は、確かに弱いです。大した力も無く、日々の生活も決して豊かな物じゃなかったです。でも、それでも皆前を向き生きてました。それの何がいけなかったですか?奪われるのがウサギの役目なんですか?兎人族は生まれながら不幸に生きる為に産まれたのですか?教えてくださいよ。狼さん。」
その重い告白を聞き、ギロンは何も答えずにはいられなかった。そして再び静寂が訪れようとした時に、再び彼女の口は言葉を紡ぎ出した。
「少し前に私は2人に無理を言って私が住んでいた村に行きました。そしたら誰も居ないんですよ?わかります?誰も居ないんです。隣に住んでいたヨージュちゃんも、少し意地悪だったカノト君も、よく一緒に山菜を取りに行ったワーズダさんも、誰一人居なかったんですよ。身元も分かる物も無く、遺体はおろか、骨もほとんど無かったです。ねぇなんで皆いい人だったのに突然の暴力で全てを奪われなければいけなかったのですか?。 奪われるのが当たり前の事なんですか?教えてくださいよ狼さん?。」
周囲が無言の中、一人声を出さずに涙を流す者が居た、リリアだ。 彼女はレミィの心情を察し涙を流している。
レミィは今孤独ではない、安らぎをそして居場所を与えてくれる2人の存在がいる。だがこの世を去って行ってた彼女の村の住民は・・・そう思うと彼女は涙を流し冥福を祈る。
「ねぇ狼さん、負けを認めたくなくて何か言おうとしてましたよね?もしかして引き分けとか言うですか?ダメじゃないですか。ちゃんとウサギは狩らないと・・・・それが狩る立場の狼さんの言葉じゃでしょ?そんなのは狼じゃないですよ。ただただ自分を強く見せたい、威張りたいだけの生き物ですよ。
私の知っている狼さんは、気高く優しい方です。ちょっぴりお茶目な所もあるけれど、私にとっては敬愛する方です。」
敬愛する方、それは紛れもなくファグの事を示している。彼はレミィに【兎の盾】の使い方を教えた一人だ。そのスキルを短期間で使いこなせるように伝授し知識を与えた。
「誇り無く負けを認めるだけも無く、ただウサギだから傷つけてもいいだなんて狼じゃないですよね?聞こえてますか?。」
彼女は問いかけるがギロンは俯いたまま何も答えない、そしてレミィが近づき目の前に来た時にギロンは行動に出る。
「ただの八つ当たりじゃないか、このクソウサギ!。」
そう言いながら上体を起こし片手に持った土をレミィに投げつける。しかし今度は【兎の盾】それを待っていたかのように土を跳ねのける。 そしてレミィは彼の顎を蹴り上げた。
ギロンは仰向けの状態に最早まともに声を出せずに、小さなうめき声を上げていた。
そしてレミィは再び彼を見下ろしていた。
「もう・・・いいです。これは私のただの八つ当たりです。どんな事をしたって村の人達は帰って来ませんし、奪う者の気持ちを少し知りたかっただけです。もう眠ってください。」
そう言うと彼女はギロンを見つめたまま足をあげ、ギロンの顔を目掛けて振り落とそうとした。だが彼女の身体はふわっと宙を浮きギロンから数メートル離される。
引き離したのはディードだ。彼はレミィを横側から飛び込み彼女を抱きしめながら引き離したのだった。
「これ以上はいけないよ。レミィちゃん。」
「・・・はい。」
「気が済んだかい?。」
「・・・少しは。」
「ごめんね、無理させちゃって。」
「・・・ディードさんが謝る事じゃないですよ。」
「そうかい?。」
「・・・はい。」
レミィは静かに目を瞑りディードを抱きしめていた。彼もまた彼女を抱きしめ少しの静寂が訪れる。
2人の間には心穏やかな空気が訪れ、彼女の怒りや荒んだ心は沈められていく。
しかし、その空間を破った者がいた。リリアだ、彼女は泣きながら2人に抱き着き文句を言う。
「わだじも入れてよぉぉ。」
泣きながら抱き着くリリアに2人は苦笑いし3人で抱き合った。
「今度は俺達がレミィちゃんの盾になるね。」
「大丈夫です。私の盾はこんな事じゃ壊れませんよ。」
「でも言葉の刃にはその盾は脆い。もし今度があれば俺が魔法で相手の口を塞いであげるね。」
「そしたら私はレミィちゃんに変わってボッコボコにしてあげる。」
「ボッコボコって・・・・何ですか?それ~。ふふふ・・・でもありがとうございます。」
3人はクスクスと笑い合い抱き合っていた。
少しの静寂が訪れたが、ディードはこの模擬戦の終止符を打つべくガロンに問いかける。
「一応聞いておくけど勝負はあったよな?」
「勿論だ、ギロンの負けでいい。奴の武器も持って行ってくれ。」
ガロンは特に異議は無くギロンの負けを認め応える。だがギロンはそれが面白くも無くまるで駄々をこねる子供のように不貞腐れていた。
「それとコレなんだけどギロン、君に返すね。」
そう言ってアイテムボックスから取り出したのは1本の牛乳が入っている瓶だった。
実はディード、ファグの念話で食材に何か変なものが入っていないかチェックをして貰っていた。
それで発覚したのがこの牛乳であった。
「・・・・!!どうして?。」
ディードは彼に近寄りその牛乳を置いた。ガロンは不信に思い問いかける。
「それは一体何だ?何故ギロンにそれを置く?。」
「それは彼が知っているが、答えてくれるかな?。」
「・・・・・・・。」
「ぉぃ!ギロンこれに何を入れたか言え!何をしたんだ。」
ガロンがギロンの胸倉をつかみ怒号を発する。しかし当の本人は答える事も出来ず目を逸らしたまま、無言でいる。 これでは埒が明かないとガロンはディードに問いかける。
「おい、これに何が入ってるのか分かっているんだろう?教えてくれ。ギロンは一体何をした?。」
「痺れ薬が入っている。しかも結構な量だ。丁寧に匂い消しも施されていて気が付きにくい。」
「なんだと!!それをギロンが仕込んだというのか?。おいギロン答えろ!。」
「・・・・う、嘘だそんなの出まかせだ。兄貴奴の言葉を信じちゃだめだ。」
そう言ってギロンはガロンに伝えるが、言葉には力が無く視線も動揺し揺れ動いてガロンをしっかりと見る事が出来ない。
「なら、この場でそれを飲んでみろギロン。もし痺れ薬で無かったとすれば俺は全力で奴らに歯向かう。それも差し違える覚悟だ。ただし嘘だった場合はわかっているな?。」
「う・・・・。」
ガロンに凄まれ、言葉を無くし不意に出た言葉が全てを物語っている。ガロンは手を放し牛乳瓶の前にギロンを置くが彼はそれを手に出来ないでいる。」
「ディード、どうやらお前の言った通りの様だな。こいつは恥の上塗りばかりかこんな、姑息な事を仕込んでいたのか・・・・済まないこの通りだ。」
深々と頭を下げるガロンに対し、ディードはそれを止める様に促す。
「ガロンが指示してやっている訳じゃないって事がわかればそれでいいさ。俺達はもう行く。後は好きにしてくれ。」
「待ってくれ。」
ディード達3人は訓練所を出ようとするが、ガロンに止められる。彼は地面に落ちているギロンの双剣を拾いディードに渡そうとしていた。
「これを持って行ってくれ。俺達の持ち物じゃない既に賭けに負け権利はお前たちの物だ。」
「いらないよ。持っているだけでもレミィちゃんが嫌な思いするかもしれないじゃないか。仮にそれが魔武器だとしても要らないよ。」
「そうか、ならばここで壊してくれないか?そこの確かリリアだったな。ミロダの盾とハンマーを壊したように同じくやってくれ。」
「あ、兄貴それは!。」
「いいよー。それじゃその武器はこっちに投げて。」
そう言われガロンはリリアの方に向けて双剣を投げる。宙を舞う双剣はリリアの抜刀の一撃であっさり刃が砕かれた。
「ああ・・・俺の双剣が・・・。」
あっさり砕け散った双剣を前にギロンは崩れ去る。だがさらに彼には厳しい言葉が待っていた。
「ギロン。お前は今日この場を持って《赤い爪》から追放する。どこへでも好きにするがいい。」
「!あ、兄貴・・何を言っているんだ?・・・・冗談が過ぎるぜ・・・。」
顔を引き攣りながらガロンを見つける。しかし・・・
「開始前の不意打ち、模擬戦での卑劣な行為、そして毒を仕込む行為・・・お前は赤い爪の威厳を地にまで堕とす行為。 追放するだけもありがたいと思え。 もし街の中じゃ無かったら俺がお前の殺していたぞ。」
「――っつ!。」
ガロンの怒りの声に言葉が出ず。ただその場に崩れるギロン。だが彼はここでも自分は悪くないと心の中で叫び続ける。
(俺は悪くない、悪くないんだ!すべてはあのウサギ、いやその飼い主が悪い!待っていろいつか復讐してやる・・・・・絶対に!!)
ギロンの瞳の奥には反省の色は無く、身勝手な復讐と憎悪の炎が渦巻いていた。
ディート達はその場を後にしギルドの外に出る。既に日は高く強い日差しが彼等を容赦なく照り付けていた。
「さすがにこんな気分じゃダンジョンは潜る気ないな~。」
「そうね・・なんだか疲れちゃったし、いっその事今日はお休みして屋台巡りでもする?」
「あ、それいいですね。でもさっきのディードさんの作ってくれた、あの冷たい食べ物もまだ欲しいな~。」
上目遣いで強請るレミィにディードは微笑み応える。
「そうだね。あんまり食べ過ぎるのも良くないけど、レミィちゃん今日は頑張ったしもう少し作ろうか?」
「わーありがとうございます。それじゃ早速何処かに行って作って貰いましょうか。ね?リリアさん。」
「そうね。さぁディード頑張って私達のアイスを作るのデス。」
「なんで命令口調なんだよ。まぁそれじゃ行こうか。」
和気藹々としゃべりながら何処か静かに休める場所を探す3人。この日を境に虹の翼の名前は有名になり3人に2つ名がこっそり付けられる事になる。
『蹴り兎のレミィ』『武器破壊のリリア』そして・・・『女たらしのディード』と・・・・
ディードがその2つ名を知るのが後になるが、それを知った彼は納得がいかないと叫ぶのであった。
後書きの様な物
どうも弱火です。最後まで見てくださってありがとうございます。
この前の話で、PV10000、ユニーク2500を超えました。この場を借りてお礼を申しあげます。
これで3章が終わり、閑話を少し書いてから4章に移りたいと思います。
まだまだ未熟で拙い物語を紡ぐ弱火ですがよかったら、ブックマーク及び評価などをして頂けるとありがたいです。最後まで見ていただきありがとうございます。
(`・ω・´)ゞ




