第60話 直球ウサギ
虹の翼の3人は互いの奮闘を称えるかのように、ハイタッチを交わす。その姿に唖然としているのは周囲の人々。まさかランクEの虹の翼がランクCの赤い爪を完全勝利するなどだれが予測しただろう。
その周囲唖然とした空気など構うことなく、はしゃぐ3人。
『う・・・嘘だろ?アイツ等ガロン達に勝っちまいやがった・・・・』
『夢でも見ているのか?あのガロン達が手も足も出ずに負けたぞ・・・・。』
『それに、あの3人の武器はなんだ?エルフとウサギの武器は見た事無いし、あの黒髪の男のサーベルはガロンの大剣を打ち破ったぞ・・・・信じられん・・・・。』
たまたま居合わせた冒険者、賭けをしていた者達は未だにその光景を信じられないでいた。
片や、ランクCで暴れまわっている、良くも悪くも有名な赤き爪。
片やまったくの無名で一人はポーターから冒険者に逆戻りをした初心者集団。
予想はどう考えても赤き爪が3人を蹂躙しディード達が敗れ去る。・・・・・そんな目で見ていた周囲の人々からは次々と目の前に起こった光景を信じられずにいないでいた。
「ディードさん。これ凄いです。凄すぎます。」
レミィは大地の剣を持ち、輝いた目でディードに詰め寄る。彼女の持つ新しい装備、大地の剣改め、『大地の牙』は大地の短剣かをディードがチート改良した武器だ。その性能は魔武器と引けを取らないように作られている。
レミィが唱えた『大地の牙』は剣に魔力を込め、地面に突き刺すと数メートル先の目標付近から突如地面が盛り上がり石の牙を出現させる。 以前の大地の短剣だと地面を下げるだけだったのだが、今回の改良により性能を一変させた。 これはディードが意識的にしたわけでは無く、偶然の産物によるものだ。改良版アントブーツもレミィの脚力にへこたれる事無く、性能を発揮している。
「凄いじゃないレミィちゃん。チラっと見えたけど相手を圧倒してたじゃない。」
「えへへ、この武器も防具も全部ディードさんのおかげです。でもリリアさんもジロエモンさんから教えて貰った技使ったじゃないですか、かっこよかったです。」
「そ、そうかな?・・・」
レミィに褒められ照れるリリアに微笑ましく思い笑顔のディード。
「私これからももっともっと強くなりますので、ずっと傍に居させてくださいね。ディードさん。」
そう言うと彼女は顔を赤らめ上目遣いでディードに迫る。やや含みのある言い方だったのだが、ディードは苦笑いしつつ片手で頬を掻く。その姿にリリアは文句を言おうとしたのだが、ガロン達がうめき声を上げているのに視線を送る。よく見ればミロダは手から出血、ギロンはレミィの連続攻撃と仲間から板挟みを喰らいダウン。 ガロンはディードに斬られ出血をしていた。
「ディー、アイツ等そろそろ回復してあげない、少しヤバイかも・・・。」
「あー、そうだね。意識がある奴はリリアと戦っていた奴か・・・」
リリアに促されディードは、ガロン達3人を見る。2人は気絶、一人は手を抑えながらうめき声をあげている。ディードはミロダに近寄る。
「おぃ、一応こっちの勝ちでいいな?。まだやるって言うなら立つまで放って置くけど?。」
「馬鹿言え・・・・こっちは既にどうこう出来る状態じゃない。お前らの勝ちだ。こっちは2人を治療しに神殿に連れて行かなければならん。」
そうミロダはディードを睨みつつガロンとギロンを見つめる、自身の怪我も放置する訳にも行かないが、倒れている2人の方が重症のように彼は思えた。
「まぁ、自業自得なんだろうけど、そのままにしておくのも後味が悪いから回復はさせておくよ。あー武器は無理だけどね。」
「・・・・は?。」
ディードの言葉にミロダは、何を言っているんだ?とい言うようなそぶりも見せる。しかしディードはお構いなしに、仰向けになっているガロン傷口付近に手をかざす。手からは淡い光が差し込みその光に当てられたガロンの傷は徐々に傷口を塞いでいく。
「詠唱も無しで【回復】・・・・だと?。」
ミロダはただただその光景に驚いていた。自分達が格下と侮っていた者が、実はとんでもない実力者に気づく、ただそれは少し遅かった。瞬く間に仲間が倒れ、自慢も武器も防具も壊されたのだから。
そんな相手が、倒した相手に後味が悪いからと傷を癒し塞いでてくれてる。しかも回復魔法を詠唱も無く使う。 きっと彼には大した事ではないのだろう、その姿にミロダは後悔するばかりだ。
ガロンの傷もある程度癒えた後、ギロン、ミロダも同様に回復してあげるディード、やがて回復が終わる頃にガロンが意識と取り戻した。
「・・・・ここは?・・・っつ!そうだ俺はアイツに!?。」
勢いよく立ち上がるガロン。すぐ近くにディードがミロダの治療を終えようとしているがディードの背後にミロダがいる為何をしているのがわからない、そしてミロダは手を目を瞑っている。
ガロンから見れば、ディードがミロダにトドメを刺そうとしてミロダはそれを受け入れ最後の瞬間を待っているようにも見えた。
「ま、まてこの野郎!ミロダを殺すんじゃねぇー!。」
「あ、兄貴待っ――。」
ガロンは武器も持たずに咄嗟にディードに殴りかかろうとしていた、だが彼の振り上げた右手は降りる事無く宙で停止する。何故ならばガロンの喉元に『時雨』の刃先が突きつけられているからだ。
「勘違いするな、こっちは怪我の手当をしてるだけだ。こっちの怪我で死なれると後が面倒だからな、お前の傷も塞いでいるだけだし、無理に動くとまた出血が出るぞ?。」
振り上げた拳もそのままに、ガロンは自身の胸を確認した。そこにはディードに斬られた傷が薄っすらと残っているが出血は止まっており、斬られた事を物語っている。
(あの傷は結構深かったはず・・・・それなのに塞がっている。あいつ【回復】まで使えるのか・・・剣といい、魔法といいなんなんだアイツ・・・・あんなのエルフじゃねぇ・・)
ガロンは刀を突きつけられ動けないでいたが、振り上げた拳は取りあえず下げる事が出来た。
下げられた拳を見て大きくため息をつくディード、彼も刀をしまいゆっくりとガロンと対峙するように見えたが、次の言葉にガロンは驚愕する。
「そういう訳だから、もう大丈夫だよレミィちゃん。武器を収めて。」
「はい。」
「いつの間に!!!。」
レミィはガロンの背後に刃を突きつけいつでも貫けるような状況にあった。ディードの言葉を突きつけいたミスリルの小太刀を下ろし、不満なのかプクっと膨れた頬のままディードの傍に歩み寄った。
(あのウサギいつ背後を取っていた?全く気が付かなった・・・もしアイツに攻撃しようものなら間違いなく俺は背後から攻撃を受けていたと言う事か。)
ガロンはディードを正面に見据え、やがて考えがまとまったのか小さなため息を吐き両手を上げる。
「すまなかった。今のは俺の完全な勘違いだった。それとこの模擬戦はそっちの勝利で決着がついていると思うが一言言わせろ・・・・・完敗だ。」
ガロンが完全に負けを認め、この模擬戦は終了しようとしていた。周囲の人々もそれに納得するかのような雰囲気を醸し出していた時に、一人の男が異議を唱え始めていた。
「嘘だ、兄貴俺達は負けてない!俺はもう1度奴らとやる。!」
それは先に意識を取り戻し辛うじて立ち上がっていたギロンだった。彼だけはこの模擬戦の結果に納得がいかず異議を唱える。
「そいつらが俺等に毒か何かを盛って動きを鈍くしたんに違いない。じゃなければ俺等が手も足も出ずに負けるなんてありなえい!そうだろ?兄貴。」
先程の戦闘でガロンが言い出しだ『何かをされた』というのを信じてしまったのだろう。ギロンは戦闘態勢を中々解かないでいる。そして半ば無茶な言い訳を展開する。負けた事が信じられない、そんな異議を唱え喚くギロンの気持ちも分からなくもないと思うガロン。だがこれ以上は無意味だと感じギロンを諭すように問いかける。
「ギロン、今俺の声が聞こえなかったのか?俺達は負けたんだ。あいつらの実力は間違いなく俺達を上回っている。それだけだ。」
「嘘だ。そんな事俺は認めない!何か方法を用いてこんな結果になってるように見せかけているだけだ。もう1度やればわかる。」
「ギロン、そう思うのならもう1度やればいい。ただし俺を倒してからだ。」
ガロンのその言葉に狼狽えるギロン。『俺を倒してからだ。』その言葉はあまりにも重い。
何故ならばギロンは幸か不幸か、ガロンを超える人物をギロンは知らない。自身も越えられない壁である人物を超えてから行けと言われれば、それは『お前には不可能だ』と言われれているのと同義なのだから。
その重い言葉受け入れず言葉を詰まらせ立ち尽くすギロン。そんな事はお構いなしにガロンがディードに問いかける。
「それで、回復までして貰って俺達は何をすればいい?パーティーの解散か?それとも傘下に下ればいいのか?それともこの街を出て行くのを望みか?」
「兄貴!それは!。」
更なる衝撃な言葉を前にギロンはガロンを止めようと身を乗り出そうとするが、ガロンに睨みつけられその動きを止められる。しかしディードからはそんな重い会話なんぞ気にしてない風だった。
「そんな事は俺達は望んでない。現状俺達のせいでパーティーをどうにかしたらそこの奴に四六時中付け回されかねないしなぁ。・・・こっちとしては装備の性能が確認出来たし気にはしてないけど?。」
「そんな事はさせない。ただこのままでは俺達もはいそうですか帰りますって訳にも行かないから、何かあるなら言え。応えられる範囲でな。」
そう言われどうしたもんかと頭を捻らせるディード、するとそこへリリアがほくほくした顔で空気を読まずにやってきた。
「ディード、見て見て銀貨5枚がこんなになって帰ってきた。」
彼女は両手いっぱいに銀貨を持ちディードに見せつけにきた。金額にすると恐らく1金貨ぐらいには届くかどうかの金額なのだが、元でが銀貨5枚で短時間でこの金額になったのは嬉しかったのだろう。
両手一杯になった彼女はディードに『はい』と渡す。ディードはそれを受け取りアイテムボックスに入れ込んだ。
「金貨に両替してくれって言ったけど無理だと言われて困ってたの、ありがとう。そして蒸し暑いから冷たい飲み物が欲しいんだけど、そろそろここを出ない?。」
「あーもう少し待ってね。今勝ったから何か貰えるらしいんだけど少し面倒で。」
「要らないって言えばいいだけじゃない?。」
「それもダメなんだよ。」
「えー面倒くさいじゃない。早く行こうよ。じゃないとレミィちゃんのあの頬が破裂しちゃうかもよ?」
「そっちも面倒な状態なんだな・・・リリアすまないレミィちゃん連れて冷たい物・・・・ああそうかそれでもいいのか。」
2人のやり取りをただ茫然と見るガロン、にディードが不思議な要求をしてきた。
「そうだな、取りあえず今回は3つの物を買って来て欲しい。自分達の買える範囲と3の鐘が鳴り終える前に――――。」
そう告げられガロン達は、ディード達がそれを望むならと、頭をかしげながら市場へと繰り出して行った。
ガロン達が去り未だに周囲が騒めく中、ディードは突如【石の壁】を唱え小さな作業台を作る。そこにボウル、空の空き瓶と果物と牛乳、砂糖をアイテムボックスから取り出しボウルに入れ適当にかき混ぜ始めていた。かき混ぜた物を空の空き瓶に入れ、瓶の中央付近に串刺しディードは片手で凍らせる。即席のアイスキャンディーの出来上がりだ。
それを数回繰り返し、数本のアイスキャンディーを完成させ、リリアとレミィの所に持って行く。
「はいリリア、レミィちゃん。アイツ等が帰って来るまでこれでも食べて待っていよう。」
差し出された凍った棒を不思議に眺める2人だったが、恐る恐る口に入れる。 口に入れた瞬間、飛び込んで来るのは冷たい食感、その後に入って来るのは果実と砂糖の甘い味が味覚を刺激する。
それは今まで食べた事の無い食感だった。ディード達のいる世界はもうすぐ夏本番を迎える。それなのに季節外れの氷菓子は珍しい事この上ないのだ。
「ん~~~。冷たくて美味しい。ナニこれ!。クレープとは違う。」
「ふぁぁ美味しいです、冷たくて甘くて。」
2人共好評のようだ。その後彼女達は黙々とアイスキャンディーに喰らい付いていく。
「ゆっくり食べてね、急いで食べると頭痛くなるし、お腹も壊すよ。」
そう優しくディードが促すと、2人は無言でコクコクと頷き口に入れては涼を感じ、前歯で少しかじっては、甘く冷たい感触を楽しんでいた。
そしてガロン達を待つことにしたのだが、ディードの周りに周囲から人々が徐々に押し寄せてきた。
彼たちの熱気はまだ醒めあがらずやや興奮気味でディードに問いかける。 勿論リリアとレミィに直接話しかける者もいたが、彼女達はディードの作ったアイスキャンディーに夢中で問いかけに応じてくれなかった。
『おい凄いじゃないかアンタら、赤い爪の連中を倒して。』
「はぁ、どうも・・・。」
『その武器凄いじゃないか。どこで売ってたんだい?。」
「これは自作です。」
『HAHAHAHAH中々面白いな少年。うちのメンバーにならないか?』
「いえ、虹の翼がありますから無理です。」
『ならば俺がそこに加入してあげてもいいんだ。役に立つぜ!。』
「いや、うちは今3人で間に合ってますので。」
『じゃぁそこの2人紹介してよ。可愛くて強いなんて最強じゃない。君にはもったいないYO。』
「・・・・・・」
一斉に押し掛ける集団にさすがのディードも対処できずに困っている。質問も段々上から目線の物にシフトチェンジしていく勢いだったが・・・・
「「うるさい!!」」
リリアとレミィの一言で周囲を沈黙させる。そしてまたアイスキャンディーを食べ始めた。
沈黙する集団は一応熱気は醒め彼女達やパーティー入りを熱望する者は引き下がったが、ディードの持っている武器に興味ある者は、問いかけてきた。 そこでディードはジロエモンの店を紹介する。
ただし、ディードの持つ『時雨』は一点物で希少な素材を使っており現在入手出来ないとのこと、アントジャケットとアントブーツは購入できる。刀に関しては、量産品の打刀がまだ少しあるのと、少し時間がかかるが手に入る事を伝えた。 それを聞いた一部の冒険者が我先にとジロエモンの店へと向かって行ったが、そこでディードは思い出した。
(あ・・・・今徹夜明けで寝てるんだっけ・・・?ってか寝れたのか?)
ジロエモンには後で謝っておこうと心の中で決めるディード。
一方リリア、レミィの2人はアイスキャンディーを食べ終わり、ディードの元に近寄る。
ガロン達を待つのだけになるのだが、さすがに直ぐにはやってこないだろうと、2本目のアイスキャンディーを2人に渡し、2人もまた黙々を食べ始める。その姿が可愛らしく、残っていた一部の冒険者たちから熱い視線が2人に注がれる。さすがに鬱陶しくなったのか時折、厳しい視線を送るのだが、その視線を受けた冒険者が身悶えさらに熱い視線を送る。 嫌な物を見てしまったと顔をそむける2人だったが、その仕草が一部の冒険者にはご褒美だったららしく、更に身悶えながら危ない吐息を吐き続けた。
これに対しディードもドン引きであった。
(我々の業界では、それはむしろご褒美です・・・みたいな者がこの世界にもいるのか・・・・)
さすがに2人が不憫に思いディードは2人の肩に手をかけ熱い視線を送る一部の冒険者に対して釘を刺す。
「うちのメンバーに手を出す事は許さない。まずは俺を通してからにして貰おうか。」
2人の肩を抱き寄せ、中の良い事をアピールするつもりでいたのだが、これが大失敗に終わる。
「さぁ2人共今のうちに何か言っておいた方がいいよ。」
ディードに促されて、先に口を開いたのは頬を染め恥じらいを見せるレミィ。
「そうですね・・・・私はディードさんの2番目のお嫁さんの予定なので、期待には応えられません!。」
レミィの口から放たれた衝撃の言葉に周囲が沈黙する。ディードは片手で顔を覆い、そうじゃないと呟くが、リリアが慌てた様子でレミィの言葉に食いつく。
「ちょ!レミィちゃん!何さりげなく人を巻き込んでいるのよ?1番目って私の事でしょ?。だから私とディーはそんな関係じゃないって。それにメンバー内は恋愛禁止って・・・。」
「そうでしたっけ?でもディードさんの事は好きじゃないですか?違うんですか?。」
「う・・・あ・・その・・・・。~~~~~。」
リリアは赤面しその場での答えはだせずに身悶えるような状態で困惑していた。
「だから私は2番目で良いっていってるじゃないですか?早く素直になってください。待ってる私も身も少し考えてくれると助かります。」
レミィの直球攻撃にリリアは赤面しその場で蹲り小さく頭を抱えていた。
「ディードさん、私はこれから虹の翼のレミィとして、そして貴方の2番目の彼女として頑張りますね。」そう言うとレミィはディードの頬にキスをし、周囲を驚かすのであった。




