第59話 模擬戦
「なんでリリアがそこで出てくるんだよ?」
「当たり前でしょ?ファルナさんを乏しめる奴なんて絶対許せないわ。」
リリアの興奮した様子を見つめ逆に冷静になって行くディード。彼女もまた無関係のディードの母ファルナを乏しめられ興奮している。 リリアにとっては敬愛する人を言葉の刃で傷つけられディードよりも先に我慢が出来ない状態だったらしい。
ディードはそんな彼女の興奮し眉を吊り上げている姿を見て、微笑みがこぼれる。
「ありがとな、母さんの為に怒ってくれて。」
彼女の肩を軽く叩いた。
「ならこっちだ、ついて来い。」
そう言ってガロンたちはギルドの奥にある練習場へと向かう。その場所は意外にも広くテニスコート3面分はあろうかというものだった。そこへガロン達がズカズカと無遠慮に入って行くと何かを察したのか周囲にいた数人が道を開ける様に移動していく。
中央辺りにガロン達は陣取り不敵な笑みを浮かべる。こまるでこれから公開処刑を行う執行人であるかのように、声を張り上げ演説モドキを行い始めた。
「これから《赤き爪》は《虹の翼》と模擬戦を行う。あくまでも模擬戦だ。多少の怪我はあるが命までは取りはしないと誓う。準備が出来次第開始する。」
ガロンの声と共に彼のメンバー達だろうか、数人がガロン達の装備を運び数人が出入口に立った。ディード達が逃げるのを防止する為だろう。
装備を受け取ったガロン達は次々と準備を終え戦闘態勢に入って行く。ディード達は各自装備をしているので準備らしい準備は必要なくいつでも始められる状態だった。 するとガロンのメンバーの一人がディードを見て思い出したようにガロンに話しかけて来た。
「あ!兄貴、あいつです。アイテムボックス持ちの奴、ギルドの受付で魔物を出してたの見てました。」
ディードを指差し声を上げた。 するとガロンは獲物を見つけたかのような鋭い目つきに変わる。
「・・・という事なんだが実際はどうなんだ?。」
「ギルドの奥に通られる前に受付で何度か見せているからな。間違っては無いよ。」
「ほう。」
ディードはまだレミィがポーターの時に、持ち込んだ魔物を換金する際に受付で何度か目の前で出している。今では奥に通されるようになったが、数度そのやり取りを見られていたのだろうと推測する。
すると、ガロンは口角を上げ笑みを上げる。
「それじゃ模擬戦だけではつまらないから一つ賭けをしようじゃないか。」
「賭け・・・?。ああ今の流れがすると勝ったら配下になれとか?。」
「察しがいいなその通りだ。俺が勝ったらお前はメンバーのポーターとして使ってやる。何、そこの女共はそこそこ使ってやるし、会わせてやるから安心しろ。」
卑下た笑みがディード達に届く、何を使うとか直接的な事は言わないが暗に性的な事を醸し出している様だった。周囲にもそれが伝わっているのだろう、ガロンのメンバーは笑みを浮かべるが他の冒険者は嫌な物を見てしまったような顔をしている。
「断る。・・・・って言ってもしつこく付きまとうんだろうな。それこそこの街に居る限りは狙い続けるようだな。」
「そうともよ。こんな美味しい獲物を誰が逃がすと思うか?黙って俺等に狩られればいいのさ。全ては『力』が物を言うのだ。力無き者は力ある者に搾取されるのが世の常だ。」
「弱肉強食か・・・まぁ間違ってはいないが一つ違う事は、立場が逆という事だ。出来れば弱い者虐めはしたくなかったんだが、五月蠅い犬には少し躾が必要かもな。」
「この期に及んでも俺を犬扱いとは余程痛い目に遭うのが好きらしいな。」
先程までの卑下た笑みが、今度は奥歯をギリギリと軋ませ顔を歪ませているガロン。いつでも噛みつけるぞ言わんばかりに低く唸る。 ディードは呆れてリリアとレミィの方を見る。リリアは準備万端なのだが、レミィはどうも落ち着かない様子で双剣を見つめては持ち手を変え素振りをしてる。
「レミィちゃん準備は出来た?」
「ディードさん、ええ一応は・・・。ただアレがうまく使えるか心配で・・・。」
「別に無理をする事無いさ、この模擬戦で使えなくても別に問題ないし、むしろレミィちゃんに怪我がない様にしないとね。」
そう言うとレミィの頭を撫でている。彼女は少し恥ずかしそうにしていたが次第に表情が柔らかくなりしまいには『えへへへへ』と笑みをこぼした。
その姿に少しの間頬を緩ませるディードだったのだが外野から複数の鋭い視線を感じる。嫉妬や妬みなのどの感情だ。 その中の一人ギロンがレミィを指差し思い出したように語る。
「あのウサギ、クラックのとこのポーターだった奴じゃね?。」
その言葉に促されるように、レミィは複数の好奇の目に晒される。一気に注目を浴びたせいか、先程までの柔らかい表情が一変し緊張で顔を強張らせる。
「やっぱあのウサギなのか、クラックの所から身請けでもしてもらったのか?アイツもうすぐ娼館にウサギを並ばせるとかほざいてたのになんだ失敗したのかアイツ。それにしてもウサギちゃん、ご主人様に拾って貰ったのか?ヨカッタネ~ギャッハハハハハ。」
ギロンの笑い声を皮切りに複数の笑い声がレミィの耳に届く。クラックにされた事を思い出したのか、それとも先程の言葉に傷ついたのか、彼女は身体を振舞わせ悔しそうに俯く、まるでポーターだった時を恨むように。 ディードはそんな俯き震える彼女の手の上に自分の手を添える。
「レミィちゃんはなんで悔しそうな顔をするの?」
「だってポーターだった弱い時の私を知っているから。」
「それは俺だって知ってるよ?俺だけじゃなくてリリアも知っている。それは悔しい事なの?。」
「そうじゃないです!ディードさん達はポーターの私を助けてくれたばかりか、仲間まで入れて貰ってるのにそれを馬鹿にしてして嘲笑うのが悔しいんです。ウサギ、ウサギ、ウサギって・・・・兎獣人は馬鹿にされる為にいるんじゃないです。」
暗い過去が影を落とし、彼女の手や指が小太刀の柄に深く食い込む、ディードはそんな彼女を見て笑顔で返す。
「それなら簡単じゃない、今ここでアイツ等を見返してやればいいんだ。アイツ等なんて簡単にやっつけられる、虹の翼のレミィここに在りってね。」
彼の言葉にレミィは先程の悔しそうな険しいから顔から一変、ストンと納得したような顔になる。その可愛い顔からは小さくそっかと呟きが聞こえ、彼女は俯くのやめいつもの可愛い笑みをする彼女に戻る。
「あと1つだけ。仲間に入れて貰ったんじゃなくて、俺が入って貰えるようにお願いしたんだ。そこは譲れないよ。それにこんな弱い奴らに負ける程君は弱くない。それは俺だけじゃなくて、あの狼もそう思ってる。」
あの狼とわざと言葉を濁すディードに彼の意図が見え隠れしていた。目の前の威嚇して吠え散らす狼より、スキルの使い方を教えてくれた狼ほうが強く優しくそして加護まで与えてくれたのだと、レミィはその意図を汲み取ったのか、その顔は自信とやる気に満ち溢れ相手を見据えていた。
「そうですね、私は何を思い悩んでいたんでしょうね。こんな弱い方々に俯く必要はなかった。すみませんディードさんわざわざ気づかせてくれて、もう大丈夫です。」
レミィは双剣を軽く握り絞め笑顔でディードに言葉を返した。
それを快くないと思っていたのは先程から笑っていたギロンだ。彼女を嘲笑っていたはずなのに、いつの間にか弱い者に弱い者と決めつけられ不快感と怒りを表面に出していた。
「あ?てめえ調子に乗るなよ、ウサギの癖に泣き喚いたって許さないからな。」
「ディードさんの言う通り、キャンキャン吠えるうるさい犬ですね。始まったら相手してあげますんでそれまでお座りでもしてたらどうです?」
「このクソウサギ言わせておけば・・・・!。」
レミィの挑発に怒り心頭のギロン。模擬戦開始直後に彼女と対峙する事が決まったように思える。
そのレミィとディードのやり取りに面白くない顔をするリリアがいた。彼女は頬をプクっと膨らませ、不満を露わにしていた。
「リリアどうした?なにか不満なのか?」
「確かに不満ね、ディー達を見ているとなんか私だけ仲間外れにされた感もあるし、ただそれだけじゃないのよね。外野に不満なのよ。」
「外野?」
ディードはリリアの指さす方に視線を向ける。そこには数人の人だかりが出来ており、何やら賭けをしてみる様だった。
「私達の勝敗を賭けいるらしいんだけど、私達の勝ちにかける人がいなくて賭けが成立しないっぽいのよ。失礼しちゃうわ。」
「なら、リリア自分に賭けてくればいいんじゃない?」
「あーその手があったか。」
リリアは手をポンと叩き、その賭けをしている集団に顔を並ばせるべく歩きはじめる。
「さぁ、虹の翼に賭ける者はいないのかね、今ならほぼ総取りだよ~。」
「それ私も賭けていいの?」
「え?ああいいけど嬢ちゃん負ける方に賭けるのはダメだな。八百長になっちまう。」
「勝つ方に決まってるじゃない。何をいっているの?」
「へ?。まぁいいけど、いくらかけるんだい?」
「手持ちの銀貨5枚でどう?」
「それなら大丈夫だ。まぁ精々怪我だけはしない様に頑張んな。」
「んーそれもちょっと違うかな、怪我をさせないように頑張ってくるね。」
そう言い残しリリアは軽い足取りでディードとレミィの方に歩みよる。それを見ていたミロダが笑みを浮かべながら言い放つ。
「ウッハハハハおい。あの女わざわざ俺等に銀貨までくれるってよ。こりゃ手加減してやらないと可哀そうかもな。」
卑下た笑みを浮かべながらリリアを指差し声を上げて笑い上げる。しかしリリアは、
「私達が勝つのに手加減なんてしなくてもいいわよ。それに大怪我させたらごめんなさいね。一応治療はしてあげるから。・・・・ディーが。」
あざとく舌をだし手を合わせて先に謝るリリアに対しミロダは不快な顔をする。
「舐めた真似しやがって・・・兄貴!こいつは俺がやる。とっつ構えて顔の形が変わるまで殴る。」
「あら怖いわね。私の可愛い顔がダメにされたらショックで寝込んじゃうじゃない。・・・ディーが。」
「俺かよ!」
安い挑発に簡単に乗ってしまうガロン達3人。その怒りは凄まじく、模擬戦開始を今か今かと待ち構えていた。
やがて双方準備が出来、模擬戦開始としようとした時に、ガロンが不意に言葉を放つ。
「これだけ挑発したんだ、負けた後の事を考えておけよ。お前は一生ポーターでそこの女は娼館で働いてもらうぞ。それが俺たちの賭けだ。」
「なんでそんなに一方的に決めつけるんだよ。この犬共は・・・。まぁ俺達が勝ったら何してもらうかな。」
考えようとするディードに対しガロンが笑みを浮かべる。
「勝つことはあり得ないのに、恐怖でおかしくなったか?今なら土下座で謝れば、手加減はしてやるぞ。一応はウチで下働きだが、働きによっては昇格も考えてやるよ。」
するとディードは大きなため息をつき、リリアとレミィの腰を抱き寄せ不敵な笑みを浮かべる。
「お前らみたいな暑苦しいパーティーなんて御免だね。どうせなら強くて可愛い2人と一緒に冒険したいさ。モテないお前らにはわからないだろうな。 ふとした時にかき揚げられた金の髪がサラサラと落ちていく綺麗さ、魔物を一閃し優雅に戻ってくる美しさ、白い綿毛のような兎耳がぴょんぴょんと跳ね回り、あどけない可愛さで敵を倒していく姿は戦闘中なのに癒されるんだぞ。お前らにこの感動を見せられないのが残念だ。」
「綺麗・・・。」
「可愛い・・・。」
そう言われたリリアとレミィは頬を赤く染め、照れ笑いする。それを見たガロン達は怒りを抑える事しか出来ないでいた。
「おい!誰かコインを投げろ!落ちた時が勝負だ虹の翼!。」
「ご指導おねがいしますね。赤い爪さん。」
両者が見合った時にガロンの手下から1枚のコインが投げ出された。 そのコインが落ち瞬間3対3の模擬戦の開始が告げられた。
先手を取ったのはガロンであった。挨拶代わりにとディードに対して投げナイフを左肩に投げて来た。ディードはそれを半身でかわし正面を見据える。 ガロンは人差し指を動かし不敵な笑みを浮かべながら『来い』と合図する。
左右ではレミィとリリアがそれぞれの相手に向かって行く。先に動きがあったのはレミィ。
彼女を同じ双剣の使い手であるギロンがレミィに襲い掛かる。初撃は剣をクロスさせぶつかり合ったいた2人だが、ギロンの双剣が先行し始める。彼の2本の腕が別々の生き物であるかのようにレミィに襲い掛かる。しかしレミィはそれに対応する技術はまだ持っていないのか防戦一方となる。
剣戟が繰り広げられる中で防戦一方のレミィに対し、余裕が出来ているギロンは高らかに笑い始めた。
「ハーーッハハハハ!俺の双剣の動きにどこまでこれるか?ポーターウサギ?。」
「・・・別に付き合う程暇じゃないですよ。」
そう言うとレミィは大きく後方に宙返りをした、3mとあろうかと宙に浮く彼女をギロンは見逃さない。着地と同時に追撃をかける・・・・つもりだった。
(俺の攻撃にたまらず後方に逃げたか、バカめ・・・着地と同時に攻撃されればさらに苦境に立たされるとも知らずに・・・・。)
しかしギロンの予想は大きく外れる、彼がレミィの着地地点を予測し一気に詰めようと前のめりに体勢を屈めたその時だった。 レミィは宙に【兎の盾】を展開しそれを足場に宙からギロン目掛けて強襲する。
「な!。」
予想外の攻撃に思わず声が漏れる、双剣をクロスさせ防御に回るギロン、レミィの双剣と刃を合わせるが宙からの彼女の体重を乗せた攻撃と、屈んだ状態での防御では彼の方が分が悪い。ギロンは後方へと弾かれてしまう。それでも転ばなかったのは流石獣人だろうか、大きく仰け反る形になっても何とか体制を整えようとした。・・・・だがそれが命取りになった。
レミィは強襲した後、ギロンを見ながら目視で距離を測る。そして射程範囲と認識した後、突如魔力を込め大地の剣を地面に突き刺す。
「行け!大地の牙!。」
レミィの言葉の後ギロンの真下の地面から、突如大地が盛り上がり彼を襲う。その襲う様は大地から牙が生え彼を貫こうする勢いだ。
「くっ!。」
体勢を崩された状態からまさかの地中からの攻撃に辛うじて双剣で防御をするギロンだったが、その牙に押し上げられ彼の身体は宙へと出される。防御はしたももの地中からの攻撃は全てを防ぐことは出来ずダメージを喰らいっている。 そこへさらにレミィは半回転しつつギロンへと追撃する。
(な、何が起こっている?こんな波状攻撃・・・本当にあのウサギがやっているのか?)
一瞬の事に思考が回らず、彼は打ち上げられた状態で一瞬レミィを見失ってしまう。次に彼女を視界に捉えた時は、既に回転蹴りが放たれていた。そのウサギの蹴りはギロンの顔を完全に捉え後方へと勢いよく飛ばそうとしていた。飛ばされるギロンにさらなる追い打ちが襲い掛かる。蹴られ後方に飛び始めたと思ったら数メートル先で赤い壁に激突する。そう【兎の盾】だ。彼女は回し蹴りをする前に後方に【兎の盾】を展開、蹴った直後に盾にぶつかる様に狙いを定めていた。
前からの蹴りと盾による障害物による衝撃は、ギロンの意識を遠のかせるのに十分な威力を発揮する。
盾にぶつかりそのまま下に落とされるギロン、意識は朦朧とするが手にはまだ双剣を握っている。
だが、それもそこまでだった。
朦朧とした意識の中でレミィを探すが視界に捉える事無く。ギロンが吹っ飛ぶ。レミィが更なる追い打ちを行っていた。着地と同時に彼女はギロンにドロップキックを放っていた。
防御する事すら叶わず、意識を刈り取られ遠く後方へと飛ばされるギロン。レミィの足元には彼の双剣が残されていた。彼女は双剣の片方を誰もいない方へと蹴り飛ばす。
「どうです?新装備大地の牙と、改良アントブーツのお味は?お披露目出来てたので感想を聞きたいのですけど?。」
だが、ギロンは既に意識を刈られ仰向けで倒れていて返事は出来ない。それを見たレミィは小さくため息を吐き、
「これからは、ウサギのポーターじゃなくて、虹の翼のレミィと呼んでくださいね。」
そう言うと彼女は微笑み、ギロンに背を向け歩き始めた。
一方リリアは、ミロダの猛攻を回避し続けていた。
「この、この、ちょこまかと。いい加減に当たれ!。」
息を切らし大きな盾とハンマーを交互に振る、その姿は圧巻とも言える。だが当たらなければそれは意味がなさない。
「そんな大きな攻撃、当たれば痛いでしょ。嫌よ、痛くて涙が出ちゃうじゃない。」
ミロダの大振りの猛攻にリリアは涼しい顔で回避している。それに彼女はまだ剣を抜いていない。最初は抜けないほどの猛攻だと嘲笑っていたミロダだったのだが、余裕を持って回避されているリリアに焦りを感じている。
そしてこの攻撃に痺れを切らし、ミロダは大きく仕掛ける。大盾を彼女目掛けて投げつけ大きく回避させることにした。 リリアは大盾を投げつけられ大きく回避する為に右へと飛び込む、それを待っていたかのようにミロダのハンマーが彼女を待ち構える。だが・・・
キン! と金属音を響かせハンマーが2つに割れる。ゴトリと大きく音を立て落ちるハンマーの残骸、斬ったのは勿論リリアだ。 ミロダはハンマーが斬られた事に呆気に取られその場で彼女を見つめてしまう。 彼女の持つ剣は光を帯び煌々と輝いている。
「んー。もうちょっと出力を抑え気味でもハンマー切れたかな?。ねぇねぇそこのデカブツさん。そこの盾も練習がてらに真っ二つにさせてくれないかしら?勿論タダで。」
リリアは可愛らしく笑顔で問いかけたが、内容が内容だ。とても容認される訳もなくミロダは我に返り怒りを込み上げる。 自分の武器を壊され更に盾までも壊していいかと聞かれればそうなる。
「良い訳ないだろう、このアマ!。ぶっ飛ばしてやる。」
「ですよね~。」
ハンマーを突き出し突進するミロダにリリアは再び大きく回避する。ミロダは盾を拾い再びリリアへと突進していった。
「もう面倒だからいいや。私の強化はそれ程でもないし、少し痛むけど後で治療はしてあげるわよ。ディーが。」
その場にディードがいれば突っ込むだろうが彼は、近くに居ない。その代わりにミロダが突進してくる。
「やっちゃって~シフォン。威力3割増しで。」
「何をごちゃごちゃ言っている。これでも喰らえ!。」
ミロダはリリアを挟み込むようにハンマーと大盾を同時に振るう。だがリリアは回避できるギリギリの所で彼女の愛剣シフォンを振るう。
「漣斬り!。」
その言葉と共にリリアの2度の剣閃が飛び交う。その直後、ハンマーと大盾は音を立てて3等分にされる。ハンマーは重りを斬り落とされ、ただの棒に。大盾は上半分が2つに斬られ取手の下しか残っていない。そしてミロダの腕からは血が流れ始める。
「ぐあああああ。」
低くぐもったその声は、右手を左手を抑え出血を止めようとしていた。ミロダの右手は大きく傷を負い行動不能にするには十分だった。 その姿を見て、リリアは剣を収める。
「安心しなさい、腕の腱までは斬ってないから。模擬戦が終われば治療してあげるわよ、ディーがね。」
そう言い残し、リリアもディードの所へ向かう。
(こんな馬鹿な事があってたまるか!こんな事は認めん!認めんぞ!!。)
ガロンは大剣でディードを左右から猛攻する。大きな音を立てる大剣と刀は時折り、火花を散らせ激しく打ち合っていた。 一見するとガロンが優勢とも見れるが、ディードに焦燥の色はなく、淡々とガロンの大剣と打ち合う。
普通ならば大剣の猛攻を受け、刀が悲鳴を上げ折れる事が予想されるがその期待は虚しく、未だに刃こぼれは起きていない。 それどころか、ガロンの大剣から刃こぼれと共に嫌な音が聞こえてる。
(くそ!俺の大剣が悲鳴を上げてやがる。あんな細いサーベルに負けていやがる。)
するとそこへ戦闘の終えたレミィとリリアがディードの背後に立ち様子を伺っていた。
2人の姿が視界に入ったのを驚いたガロンは大きく後退する。後退しつつもナイフを投げ間合いを保つ。
ディードは投げられたナイフを弾き飛ばし、その場で刀を前に置きガロンを見据えている。
後退したガロンは2人の姿を見て驚愕する。 同じ狼の獣人ギロンは後方で仰向けになって倒れうめき声をあげ、大男のミロダは右手を斬られ出血を抑えている。
「何がどうなってる。!おいギロン!ミロダ!立て!まだ終わってないぞ。」
ガロンに促されミロダは半分になった盾を持ち、ギロンは片手を腹部を抑えながら自分の双剣の片方を拾い上げガロンに近寄る。
「お前ら油断し過ぎだ。何格下のランクDに良い様にやられている。」
「あ、兄貴アイツ等マジで強い。」
「格下なんて嘘だ。きっとどっかの上級パーティーから抜け出して新たに組んだ奴だよ。」
そう言いながらほぼ戦闘不能状態でガロンに応える。しかし、
「お前らそんなはずはないだろ!しっかりしろ。あのウサギはクラックの所に居た奴だろ?兎の獣人で冒険者なんてそうそういないぞ。あのヤサ男が幻術で何かしてるだけだ。あの自信たっぷりの笑みはそうゆう事なんだよ。アイツさえ倒せればそれがわかる。アレを使うぞ!。」
ガロンに促され2人は互いの顔を見たが、打破できる展開を思い浮かべずにガロンの言う通りにする。
ギロンはガロンの前に立ちその前をミロダが立つ。大男の背後に見えなくなった。
「そこのヤサ男よ。ウチ等のとっておきをくれてやる、感謝しながら苦痛を味わえ。」
ミロダの足元は大盾で隠され2人の動向が読めない。すると次の瞬間ミロダが苦痛に満ちた表情で突進してきた。
「うおおおおお、喰らえ!トリプルアタック!。」
そう叫ばれ突進してくるその姿は、某機動戦士に出てくるジェット〇トリームアタックその物だった。
「おお、ジェットス〇リームアタックだ。懐かしい。」
懐かしいアニメの技によく似た突進をしてくる3人に対し、ディードは感動すら覚える。迫りくる3人に対しリリアとレミィは前に出ようとしたが、ディードに制止される。
「大丈夫。別にアレに付き合う必要ないよ。」
ディードはそう言ってゆっくりと前に歩み寄る。3人の前にゆっくりと歩み寄る姿は、ただの自殺行為にしか見えなかった。
「ディードさん!。」
「ディー!。」
リリアとレミィは心配そうに声を上げるが、ディードは片手をあげ大丈夫と合図する、そしてそのまま片手は地面に手を置く。そして距離が縮まり2メートルない所まで来た時それは起こる。
「石の壁!。」
突如目の前に立ちはだかる自分より大きな石の壁にミロダは驚き急ブレーキをかけるが間に合わない。
後ろの2人もミロダの急ブレーキに対応できずそのまま壁へと吸い込まれ様に向かってしまった。
ドン!という衝撃音と共にミロダは石の壁に激突、そのままギロンも彼にぶつかり、さらにガロンに挟まれる。2人はこの衝撃に耐え切れず、その場で崩れ落ちる。唯一軽傷だったギロンは胸を抑えつつも脇から出てきた。
「馬鹿な、詠唱は無かったぞ。いつの間に唱えた?・・・・チクショウ!エルフの分際で・・。」
そう言いつつも、ダメージを看過できない状態のガロン。その隙をディードは逃さない。
「俺はエルフじゃない、ハーフエルフだ。覚えておきな!。」
突如目の前に現れたディードに、防御が間に合わずガロンは胸を斬り裂かれた。
手加減をされたのだろう、大きな傷ではないが正面から斬られたガロンはその光景を信じる事が出来ずに驚愕し震えている。
「俺が、斬られる・・・・しかも成す術なく・・・。」
両膝を尽き、茫然とするガロン。ディードは彼の目の前に刀を突きつける。それはディードの勝利を意味するものであった。 そして彼は勝ちを確信したのか刀をしまう。
「俺達の勝ちだな。」
その言葉を聞きガロンが身体を震わせる。
「俺がこんな奴らに負ける・・・負ける・・・負ける・・・いやそんな訳ないこれは夢。夢なんだ。」
うわ言のように繰り返す、ガロン。その姿を見たディードは後ろに下がる。
「あってたまるか!俺が負ける事は無い!これは夢だ。夢ならば払えばいい。貴様は俺の悪夢だ消え去るがいい。」
突如ガロンは叫び全身の魔力を注ぐ、彼の身体は徐々に大きくなり一回り大きくなる。その姿に警戒しディードはさらに下がる。しかし下がった瞬間にガロンの大剣が彼を襲う。
「くっ!重い!。」
大剣の一撃を刀で受け弾き飛ばされそうになるがその場に踏みとどまる。そしてガロンの猛攻が始まる。それは理性を失い、獣のように襲い掛かる。
「まずい!アレは兄貴の狂暴化だ。理性を失い目の前の敵を殺すまで暴れるぞ。」
ガロンの手下たちが次々と口に出す。どうやらガロンは理性を捨てる代わりに、肉体を強化しディードに挑み込んだようだった。 次々と繰り出される剣戟に流石のディードも防戦一方になる。しかしガロンの大剣はディードの刀、時雨を壊すに至らず、限界を迎えてしまう。
バキン・・・大きな音を立て根元から半分ぐらいの位置で割れてしまう大剣。しかしガロンはそんなのをお構いなしに猛攻を続ける。
「死ね死ねしねしねしねいしねしねええええええええ!。」
「この馬鹿犬いい加減にしやがれ!。」
ディードは猛攻を受けつつも、魔法を足のつま先から蹴り上げる様に放つ。放たれたのは【火球】だ。その虚を突いた魔法はガロンの顔に当たり彼を大きく仰け反らせる。
そこへディードの渾身の一閃が先程の傷口目掛けて放たれる。
「雨斬り!。」
左下から斜めに駆け上がる剣閃は、雷を纏いガロンの仰け反った胸の傷の上をさらに深く傷つける。
「ガ・・・・ガ・・・ァ・・。」
大きく血を吹き出し、ガロンはそのまま後ろに倒れ込む。彼の目は白目を剥いており戦意を喪失、意識を失い身体も元の大きさへと戻って行く。
ディードは刀を見つめ一人呟く。
「中々派手なデビュー戦になったな『時雨』・・・これからよろしく。」
ディード達3人の初の対人戦でもある模擬戦は、3人の完全勝利という結果とパーティー名≪虹の翼≫の名前を一躍有名にする事に大きく貢献する事になる。
こうして、この模擬戦は幕を閉じようとしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




