第58話 ギルドにて
『時雨』の完成と共に防具も受け取り礼を述べるディード。
「ジロエモンさん、おかげで俺とレミィちゃんの新たな武器が手に入った。これでさらに奥に進めそうだよ。ありがとう。」
「礼を言うのはこっちだ。それと防具の調整はしたいならいつでも来てくれ。取りあえずはその性能を試してこい。」
ジロエモンから受け取った防具は3人分のアントジャケットにアントブーツだ。3人共軽装備を主流とするので、それ以上の装備は求めていない。尤も量産品の防具よりはしっかり作り込まれている。アントジャケットは素材を重ね合わせて造ってあり、内側には火牛の皮を張ってある。これにより衝撃を少しでも分散させるように作ってある。 アントブーツも同様に加工されていて、靴底には大蛙の皮を重ね合わせて加工した所謂ゴム底靴を作ってある。 レミィが早速試着した所、使い勝手がよいと太鼓判を押された。
レミィが冗談で『攻撃力はあがらないですか?』とララを見つめながら言ったのだが、ララは『胸に重りを付けた方が体重が増えて威力もあがるにゃ。でもそのまな板じゃ成長は無理かもしれないにゃ』と言い返し、先程から外で徒手による模擬戦をしている。この2人は何かと理由を付けては模擬戦に繰り出している。喧嘩すほど仲がいいと言うべきなのだろうか・・・・
レミィとララは、『成長する』『しない』でさらにヒートアップしている。一方リリアは無言で自分の胸を見つめ、ジャケットの位置を調整している。
(2人共、それなりにあるんだから無理しなくてもいいのに・・・・)
ディードは心の中で呟く、だが彼女達は彼女達なりの譲れない思いがあるらしい。
「取りあえずワシは寝るぞ、さすがに徹夜で戦闘は無理じゃ。ララは元気だから連れてけ。」
「そんな事無いにゃ。ウチも同じく徹夜してたにゃ。寝るにゃ~。」
模擬戦を途中で勝手に切り上げジロエモンの所にすり寄って行くララ。その勝手な姿にレミィは文句を告げるのだったがララには暖簾に腕押し、柳に風の状態だった。上機嫌でジロエモンの片腕を胸で挟み寝室へと向かって行く。その姿を見て、ディードはジロエモンは果たして寝れるんだろうか?と疑問に思いつつも工房を離れギルドへと向かって行った。
ギルドに3人は、早々にギルドボードに向かう。本日はダンジョンで新装備を試運転と何か依頼があればそれに追従してこなす予定だ。時間は2の鐘が鳴った少したった後、一通りのクエストが受注されていてのこったクエストは、納品系統のクエストが多かった。 納品系統のクエストは収入は多いが時間と労力がかかる。討伐に時間を取られ、運搬に時間を取られるので割高になる。しかしディードにはアイテムボックスがあるので討伐させすれば運搬に時間を取られる事無くクエストをしょうか出来る。収納魔法を所有している強みだ。 現在のディードは村を出た頃に比べると遥か持ち運べる重量が違う、今はトラック1台分持ち運びが出来るくらいまでに成長している。
「流石に討伐系はないね。残っているのは、食料関係と薬草、鉱物系ばかりだね。他のを求めると11階より下とかになるから今日はやめておこうか。」
「そうですね。今はオークの肉と火牛の肉の納品くらいですか、これはダンジョンで火牛を狙いに行く感じですか?。」
「そうね。今日は装備の試運転も込めてだからあまり無理し――「あの女です!見つけましたよ。ガロンさん。」
3人の会話を遮る様に突如リリアを指差し声を上げる2人の冒険者。その姿に見覚えがなく首をかしげるリリア。 奥の方から呼ばれて出てきたのは、狼の獣人だった。 その男は背丈180cmくらいで茶色の毛と大きな尻尾を持ち、その顔には自信と野性味あふれる顔で場の空気を散らす。
「ああ?お前らこんなヤサ男にやられたのか?だから2軍なんだよ。ボケ!。」
ガロンと呼ばれた獣人の男はそう言うと先程呼び叫んでいた男2人の頭を叩く。乾いた音がギルド内を駆け巡り、叩かれた男達は頭を押さえ小さな声で応えた。
「いえ、その男は違います。武器を壊したのはそのエルフの女です。男の方は見覚えがある程度ですが・・・。」
「ああ?だったらもっと早く言えっての! っつか女に武器を壊されるテメーらの武器はとんだ粗悪品だな。酒と娼館で金をつぎ込む暇があるなら、っちたぁ装備に金かけろやボケェ!。」
不機嫌そうなガロンは、再び男2人の頭部を叩く。乾いた音が鳴り響き男達は頭を抱え沈んで行った。
「ぉぃ、そこのエルフ女、ちーと話がある。ツラ貸せや。」
不機嫌にガロンはリリアに対し、顎で外へと誘導しようとしていた。その姿はさながら古き時代の不良の漫画の1ページを見ているかのようだった。そのガロン対しリリアは視線を合わせる所か、相手にする事無くディート達と会話を続けようとしていた。
「・・・で、新調した装備を試すにはダンジョン5~6階辺りがいいのかな?今からの時間だと日帰りにするにはその位の階層辺りが限界かな?まぁ泊りでやっても―――。」
ガロンの問いかけに全く応じる事無く進められていく会話。相手にされる事無く無視されるガロンは唖然とした表情を見せていた。
「お、俺の呼び声にまったく反応しないだと・・・・?。」
自分の問いかけに今まで、振り向かなかった奴は誰も居ない。だからこそ無視されるという行為は彼にとっては万死に値する行為とも言えるものだった。 彼は自分の身体を震わせ怒りを堪えきれずに咆哮を上げる。
「てめぇえええ!、俺様の話を聞けや!このクソブスエルフおんなぁぁあああ!!。」
ギルドの建物全域に響き渡るかのような咆哮は、声の主に注目が集められる。間近にいた数人は耳を塞ぎ身構える程、怒気が込められた声だった。ディード達も例外ではなく耳を塞いでいる。無駄に被害を喰らったのは耳が良いレミィだった。
「キャンキャン五月蠅いわね。どこの犬よ?。」
リリアが大きくため息を吐きながらガロンを見つめる。その犬という言葉に対しガロンは更なる激情に駆られてる。
「誰が犬だこのアマ!引き裂いてやろうか?。」
ガロンは腰にしまってある獲物を抜き出そうとするが、先程殴られた男たちがガロンの腰に跳びつき抑え込もうとする。
「まずいですってガロンさん。また騒ぎを起こすと今度こそランク降格もあり得ますから。」
「そうですよ。ここは抑えてください。お願いします。」
「やかましい!俺はそこのエルフの女が気に入らないだけだ。1発ぶん殴らせろ。」
2人掛りで抑え込められずに今にも飛び掛かろうとするガロンに、奥の方から声が聞こえてくる。
「ガロンの兄貴。何をそんなに叫んでいるんだ?」
「そうだぜ兄貴。また此処で暴れると面倒な事になるぜ。」
そう言いながらも歩いてくるのは2人の獣人だった。1人はガロンと同じ狼の獣人。もう一人は人間族の大男だ。
「おう!ギロンにミロダ!お前ら等そこのエルフの女を捕まえろ!そいつは俺を無視しやがったから1発ぶん殴ってやんねーと気が済まねえ!それに俺を犬扱いまでしやがった。許せねえ。」
「おー、兄貴を犬扱いとか凄いねぇ、姉ちゃんよく見れば綺麗な顔してるじゃん1回いくら?。」
「まぁギロン。ここは兄貴の言うと通りにして殴ったら後でいいじゃないか。その綺麗な顔が苦痛で歪む姿を見つつヤルのがまたいいんじゃないか。」
「相変わらずキモイなお前。」
「褒めるなよ。」
「褒めてねーよ。」
嗜虐的な会話をしつつ2人組は彼女に近づいてゆく。リリアも聞いていて勝手に殴られるのが前提だったので、さすがに不快感を表面に出している。 彼女は愛剣を手にかけ抜き出そうとしたがディードがリリアの前に立ちはばかった。
「なんだお前?そこをどけヤサ男。吹き飛ばされたいのか?」
「お前らこそなんだ?勝手にうちのメンバーに因縁を吹っかけてきて、なんの様だ?。」
ディードが前に立ち近づく2人をしっかりと見つめる。その姿に動じた様子は無く相手を静かに且つ何かあればすぐに対応する構えを取っている。だがその2人はそれが見抜けなかったのか冷静に対応するディードを嘲笑いながら話しかけてくる。
「おいおいこのヤサ男、お前そこのエルフ女のパーティーのリーダーなのか?」
「ああ、そうだが?」
「俺等は、パーティー名《赤い爪》だ。それだけ言えばわかるだろう?どけ?。」
「・・・・は?だから何だ?その赤い爪とやらを出せばなんでも言う事を聞かないといけないのか?。」
「ぉぃもしかして、俺等の事を知らないのか?」
「ああ知らないな。」
青筋を少し浮かせる大男に対しディードは毅然とした態度で相手を見据える。依然と一触即発な状態な雰囲気が漂っていた。
もう一人の男も少し口角を上げつつも問いかけてくる。
「俺等の名前を出しても知らないとか、お前等もしかして最近こっちに来たばっかりか?」
「ああそうだ、先日パーティーを発足したばかりだ。≪虹の翼≫だ。で、ウチのメンバーが何かしたのか?さっきから因縁を付けているようだが?。」
すると後ろの方で2人を引きずりながらもガロンがディードに近づいてくる。
「そこのくそエルフ女がこいつらの誘いを断った挙句に、武器を壊しやがったんだ。それなりの報いは受けて貰う。後、俺を無視したのも重罪だ。顔の形が変わるまで殴ってやる!。」
怒号をまき散らすガロン対しディードはリリアの方に顔を向ける。その顔は何かしたの?疑問を問いかける顔だった。 リリアも少し考え思い出す。少しの間の後ようやくリリアは思い出し、ポンと手を叩く。
「あー、あの下手なナンパの男達か!私を無理に連れて行こうとして返り討ちにあった。ほらディードあの後、私達買い出しに行ったり雑貨屋でその柄の先の玉石買った日だよ。ディードが来る前の話。」
リリアに説明されディードもようやく何があったか理解したようだ。
「あー。返り討ちに遭ってメンバーの先輩に泣きついたって訳か!。」
「て・・・てめぇええええ!。」
更なる怒号を上げ暴れようとするガロンに対し、止めていた男が持ち上げられディードの前に投げ出される。大きな衝撃音と共に低くうめき声を上げる投げ飛ばされた男達を気にした様子も無くガロンはディードの前に立った。
「俺達のメンバーはメンツ優先なんだよ、それを傷つけられる事はメンバーを侮っていると同じ事なんだ。それは万死に値する。」
「そのメンツを大事にするメンバーを投げ飛ばいしておいて何言ってんだが・・・どっかのチンピラだな。」
「言わせておけば・・・痛い目見ないと分からないようだな・・・。」
ガロンは歯をギリギリと音が立つくらい軋ませている。ランクが格下のディードに好きに言われ放題なのが余程我慢できない様だった。
「なら兄貴、模擬戦で決着を付ければいいじゃねーか。俺等の事を知らないって事はランクFかEぐらいだろ?身をもって教えてやればいいじゃねーか。先輩との格の違いを。」
「それもそうだな。先輩からの指導が欲しいようだしな。」
ギロンから提案された言葉にガロンがディードを見つめながら卑下た笑みを浮かべる。その姿は小さな昆虫を無邪気に踏み潰す遊びをしているかの様な嗜虐的の笑み。 絶対に負けるはずがないという根拠の無い自信がその笑みを醸し出しているようだ。
「そう言うわけだ、ギルドの奥に練習場がある。先輩からの模擬戦の提案だが、受けるよな?。」
「はぁ?なんでそうなるんだ?こちらには非が無いのになんでわざわざ受けないといけない?。」
「それは俺達が怖くて逃げるのと一緒だが?。」
「はぁ・・・なんで弱い者イジメなんてしたくないのにお前らと模擬戦しなくちゃいけないんだよ。」
ギロン達の一方的な提案にディードは飽き飽きとした表情でそう答える。その仕草言葉に怒りで我を失いかけるギロン。
「俺達が弱いだ・・・と・・・キサマいい加減にしろよ。ランクCの赤い爪が聞いた事も無い無名の奴らに負けるはずが無かろう。」
「そうだ、弱いと言い張るなら、その強さを見せて貰おうじゃないか。虹の翼さんよ。それとも大口だけ叩いてその後は逃げてこいと、お前の母親にそう教え込まれたのか?。そうならさっさと逃げて母親の所におっぱいでも貰い逃げ帰りな。」
「でも、その母親もどっかで男を引っ掛けて股開いてるかも知れないけどな。ギャハハハハハ。」
「・・・・・あ?。」
怒号と卑下た笑いが混じり込む空気の中に、ディード3人を睨みつけは静かに怒りを放つ。
その怒りは魔力を放ち周囲に冷気をまき散らしていた。
無関係の母親を貶された事に対する怒りだ。ディードは母を愛し、母もディードに惜しみなく愛情を注いでくれた。今世のディードは家族を愛し、愛されていると実感が出来る程心穏やかな時間を過ごさせてもらっていた。 それを見ず知らずの粗暴な輩に乏しめられるのは我慢ならなかった。
その言葉に対しディードは1人で3人を相手にしてでも対峙するつもりだった。しかし意外な形でそれは叶わない事になる。
「だったらその勝負受けて立ってやるわ。」
ディードの前に立ち毅然とした態度でと言い放ったのはリリアだった。




