第56話 大きな変化
ジロエモンの工房前には一人の獣人らしき人が鼻歌を歌い上機嫌に掃除をしていた。
その後ろ姿はララによく似ているが、彼女は同じ猫獣人だが黒い髪に尻尾の先が白く、なにより大きな胸が目立っていた。
もしかしてララの知り合いかと思い、工房へと近づいてみる。すると彼女の方がら3人の気配を察知したのか振り向き笑顔で近づいてきた。
「こんにち・・・いやおはようございます。この工房の知り合いの方でしょうか?。」
ディードは笑顔で挨拶を交わしコミュニケーションを取ろうとしたが、相手は無言に笑顔で近づいてきた。
そして目の前に立ち何をするかと思えば、突然ディードの顔を抱きしめ胸の谷間に押し込んだ。
「「な!!!」」
リリアとレミィは同時に声をあげ驚く。いきなりディードを胸に抱き寄せたと思えば、2人に向かってウィンクをしてきたのである。 明らかに挑発行為なのだが、2人はこの巨乳美女を知らないでいた。だが・・・
「にゃはははは、ディードありがとにゃ。これはウチからのお礼だにゃ。そこの2人には出来そうもないからウチの胸に沈めてみたにゃ。元の姿に戻れたにゃ~~。」
声の主はララだった。封印状態を解いてもらい元の姿になったと言うが、あまりにも大きな変化の為に3人は見抜けないでいた。
口を開けポカンとした表情から、我に返ったレミィがやや怒った口調でララに抗議する。
「こら~~!ディードさんを離しなさい。苦しそうじゃないですか。」
「そ、そうよ離しなさい。その・・お・・大きな胸で挟んでるんじゃないわよ。苦しんでるでしょ?。」
「そうかにゃ?でもこれはお礼だにゃ。ディードはいい男だからお礼に夜の相手もしてあげてもいいかにゃと思ってるけど、ウチはジロさんのお嫁さんなので出来ないにゃ。だからせめてこの胸で楽しませてあげてるにゃ。2人には出来そうもないしにゃ。にゃはははははは。」
高笑いしつつも2人に自慢の胸に収められているディードを見せつけている状態だ。リリア、レミィ共々ララの言う通りディードの顔を埋めて尽くせる程の胸はない。2人共胸を見つめ顔をプルプルを強張らせていた。
「まだ成長するんです。これからもっと大きくなるんです!そしたらディードさんに喜んでもらえる様になるんですぅぅぅうう!。」
と、半ば投げやりになりながらも顔を紅潮させレミィは抗議する。 その姿を見てリリアは何とも言えないくらい複雑な思いを馳せていた。
(私はこれ以上は成長を見込めないから、この胸で満足してもらうしか・・・・あれ?なんでこんな事考えてるんだろ?。ディーに喜んで・・・いやいやいやいや・・・でも胸が大きくなればあんな事してディードも喜んで、だから違うって!!)
思考が絡まって停止状態のリリアに対し、レミィはディードを引き離すべくララに跳びつこうととララの方に駆け寄る。しかしララはディードに触れさせない様に自分の背を向けたり、クルクルと触れさせない様に回っていた。
「お礼をしているのに、引き離そうとするなんなんて酷いうさぎさんだにゃ。」
「ディードさんが苦しそうにしているんです。離すのですぅ!。」
「それなら実力行使でくるにゃ。」
「言いましたね。後悔させてやりますから!。」
レミィはララの安い挑発に乗り、大きくバックステップをしララに飛び蹴りを放つ。だがララはそれを予想しておりまるで踊っているかの様に軽く回避をする。さすが猫の獣人と言うべきなのだろうか、ディードを抱えたままララは上機嫌でクルクルと回っている。
ただディードは胸の幸せの感触から徐々に息苦しさの方にシフトチェンジしていた。
(息苦しい・・・どうにかしないと・・・。)
さすがに息苦しさもありディードは抵抗し始めるが、頭を抱きかかえられている状態でもがくとララはあざとく反応する。
「やん・・・・そんなに動かれると感じるにゃ。やっぱりディードもお胸は好きかにゃ?ほらもっと気持ち良くしてやるにゃ」
ララはレミィに見せつける様にディードの頭を大きく左右にふり更に胸に沈める。
その姿をみてさらに怒るレミィはララの周囲に【兎の盾】を数枚展開した。彼女はさらにスピードをあげララに攻撃するつもりであった。だが・・・
(それじゃバレバレにゃん・・・)
ララはそれを読んでおり、いつでも回避できるようにしていた。突進してきたレミィは【兎の盾】を壁代わりにし蹴りを入れ反射を数度繰り返す。そうする事で彼女の後ろ側に回り込み、死角から彼女の脇腹を蹴ろうとしていた。その時だった。
「プハッ!!もういいってお礼は十分だから・・・」
ディードがララの束縛から抜け出し彼女の胸を押しのけた。押しのけた場所はまさに今レミィが突進するしてくる場所であった。
「・・・え?。」
「あ・・・。」
レミィとララから気の抜けた声が聞こえた途端、止まる事が出来ないレミィの蹴りがディードに深く突き刺さり、身体をくの字のさせ吹っ飛んだのだ。
「ぐへぇぇぇぇ・・・。」
肺の中から全ての空気が押し出されたかのような声の主は、そのまま地面へと転がされる。
「ちょっ!ディー大丈夫?。」
「えええ!ディードさん。ごめんなさい大丈夫ですかー!!。」
慌てて駆け寄る2人に対しララは気まずそうに工房へと身を隠そうとしてた。だがレミィに見つかる。
「よくもディードさんにこんな酷い事を!。」
「「いや、やったのアンタでしょ。」にゃ。」
リリアとララの冷静な突っ込みを入れられ顔を泣きそうな程歪ませるレミィ、確かにやったのはレミィだが、挑発し焚き付けたのはララだ。レミィは怒りと悲しみを同時に吐き出しそう中、ララの背後にジロエモンが見えた。
「あ、ジロさ・・・・キャン!!。」
背後に現れたジロエモンに振り向こうとしたが、ララは尻尾を強く握られ奇声をあげる。その後にゴン!という音が鳴り響き彼女は前のめりに倒れ込む。 どうやらジロエモンに後頭部を思いっきり殴られたようだ。
「朝からはしゃぎ過ぎだ馬鹿もんが!。」
「きゅうぅぅぅ・・・。」
「ディードや、昨日仕入れてきた物で話があるんだが起きれるか?」
ジロエモンの問いかけにディードは何とか反応を示す。
「だ、大丈夫だ・・・。」
ディードは脇腹を押さえつつも何とか起き上がり自分に【回復】をかけジロエモンに寄って行った。
「ってジロエモンさんその傷はどうした?。」
よく見ると彼の体中は引っ搔き傷や、噛み傷、それにキスマークまであった。
「いや・・・まぁ・・・この傷は気にするな・・・・。」
ジロエモンがディードから見つめられる視線を逸らし恥ずかしそうに頬を指で掻く。
「ああ・・・昨夜はお楽しみでしたね。」
ジト目でさらにジロエモンの事を見るディードだったが、これ以上の追求は野暮と判断し、彼にも【回復】をかけてやることにした。
「その、すまんな・・・。」
「まぁそれは置いといて、仕入れの話ってのはどうだった?。」
「それがのぅ。すこし厄介というか兎に角工房へ入ってくれ。」
そう言われジロエモンはララの尻尾を掴みそのまま引きずりながら、工房の中へと引きずられていく。
「いだだだだだ!痛いにゃ!ジロさん!。尻尾取れちゃうにゃ!」
「少しは反省せい!。朝から騒がしい。」
「久しぶりに戻れて、つい興奮してそのまま朝までしてたから、まだ気持ちが昂ってるにゃ。どう?ジロさん3人が帰った後もう1回。」
「やっかましい!!!。」
そのまま尻尾を掴まれ叫び声とを共に2人は工房の中へと消えて行った。
ディードも仕方なく工房の中へと入って行ったが、リリアとレミィは顔を顔を赤らめ硬直し『朝まで・・・朝まで・・・』と呟き中々工房に入ってこなかった。
5人が揃うとジロエモンが仕入れの事で話をしようとするのだったが、ララが彼の身体にすり寄り満面の笑みで甘えていた。その顔には色艶がありさらには大きな胸も相まって大人の甘える女性を醸し出していた。リリアとレミィは先程の『朝まで・・』の言葉を思い出し、今だ頬を赤く染め色々と想像をさせてはドキドキさせていらしい。このララの大きな変化に3人は突っ込まずにはいられなかった。
「仕入れの話よりまずララさんの事聞いていいか?。」
ディードの言葉に対し、リリアとレミィも小さく何度もコクコクと頷く。ジロエモンに纏わりつくララを引き離そうとするが、中々離れてくれない。とうとう彼は諦めてため息を吐き事の顛末を話し始めた。
「昼食の後、コイツは一人で神殿に行き、俺のギルドカードを持って行き解除にいくらかかるか聞いてきたんだと。金額は金貨3枚。そしてディードが帰った直後、突然俺を連れ出し神殿で封印解除の手続きをしたんじゃ。しかもな、コイツ金を自腹で払いおった・・・・。」
「ふふふふふ、ウチのヘソクリにゃ~。いつかジロさんとの子供が出来た時に貯めてたヘソクリが役に立つと思わなかったにゃ~。」
そう言うと、彼女は後ろにあったバックを見せていた。そのバックは穴が開いてりそこから彼女が隠していたヘソクリの残骸と言うべきものがあった。底が抜けない様に厚手の皮が仕込まれていた皮の内側から小さな穴が見つかった。どうやらそこに金貨を仕込み皮を重ね見えない様に二重底にしてヘソクリをしていたらしい。
「まぁそんな訳でコイツの封印は解けたんだが、仕入れの方は不調に終わった。すまん・・・。」
「不調・・・?と言うと?。」
ディードが疑問に思いジロエモンに問いかける。ジロエモンはそのまま無言で奥に行き、そこから両腕に大小さまざまな鉱石を抱えながら5人がいるテーブルに広げていった。
「今俺のランクで買えるのはコレなんだと。さすがに冒険者ランクがもう1つ2つ上がるか、横の繋がり用はコネじゃな、それか何度も素材を買って信用を上げないといきなりミスリルは買わせてもらえないらしい。すまんな海洋都市だったらこうはいかんのだったが・・・。」
ジロエモンは申し訳なさそうに頭を下げる。さすがに彼もにこの事は予想していなかったのであろう。彼の故郷の海洋都市アクアノーレッジなら、父の代から受け継いだ信用があり購入できる。しかしここな迷宮都市グラドゥ、ランクの低いハーフドワーフがいきなりランクの高い素材を買おうとしても、受け入れて貰えないのだろう。さらにジロエモンは語る。
「一応その細々とした物はミスリルに必要な素材の全部らしい。後は魔核と錬金術があればミスリルは作れるんだが、余計に金がかかっちまう。すまんが今回はこの鋼鉄で武器を作らせてくれ。」
再度頭を下げるジロエモンに対し、ディードは意外にも微笑みを返した。
「いや、ジロエモンさん。これでいくらかかった?。」
「これで金貨1枚分だ。この小さい鉱石は加工すればそれなりに使えるからボッタクリではないんじゃ。例えばそこの赤い鉱石。火炎鉱石でな、加工すると炎が出せる。それでな・・・・。」
ジロエモンが次々と鉱石を指差し説明しようとするがディードは手をかざしそれを制止する。
「金貨1枚か・・・あと欲しいの魔核と・・・・他には何か買えたのかい?。」
「あー。ワシの方で必要じゃった武器の強化に使う大地の結晶じゃな。これと一緒に加工すると鉄が少し強化される。鉄よりは硬くしたい時に使う物だ。」
「おー大地の結晶か、それは俺も使ったことある。それとジロエモンさん確認なんだけど、この細かい鉱石と魔核でミスリルって出来上がるの?」
「なんでもミスリルを分析すると様々な鉱石が長い時間をかけて混ざり合い出来る鉱石らしい。なので錬金術で作り出すことも出来るらしいぞ。」
「そうか・・・ならもう一つ頼みがあるんだけどいいかな?。」
「なんじゃ?ワシに出来る事なら言ってくれ。」
「それは――――――。」
ディードとジロエモンの話の後、3人とララは再びダンジョンに来ていた。
「あーもっとジロさんと良い事したかったにゃ。」
ララは少し不満そうに口を尖らせ武器を引きずる様に持ち歩いていた。彼女の武器はジロエモンが作った銛、そして石突の先にはロープが繋がれその先には石が括りつけられていた。これが彼女の戦闘スタイルらしい。
「すまないな、でもこれが終わるまで辛抱してくれ。」
「まぁ仕事が終わればジロさんと2人きりになれるにゃ。さっさと仕事を終わらすにゃ。」
現在4人はダンジョンの6階を中心に往復している。目的は兵士蟻の魔核と6階のオーク狩りだ。
兵士蟻の魔核はある目的の為に大量に集めている。オーク狩りは食料確保の為だ。
ララは不満こそ言うが、自分の仕事をこなしている。兵士蟻を見つける為に彼女の嗅覚を当てにしている。 猫の獣人でもある彼女は嗅覚も人間より優れており、兵士蟻の匂いも嗅ぎ分けられている。
そして意外にも戦闘慣れをしている。彼女曰く、『これ位の遅さなら海の魔物の方が強いにゃ。』という事らしい。銛1本で敵の攻撃を回避し、脆い所を的確に突く。繋がれた石は相手の視界を奪う様に投げ込まれたり遠心力で相手にぶつけダメージを与え、怯んだ隙に銛で突くという攻撃方法を取っている。
「ディード、あんまり蟻の匂いがしなくなったにゃ。他の階へ行くかにゃ?。」
「いや今日はこれで終わろうか、ララさんのおかげで助かったよ、後でオーク1匹をそのまま報酬にして欲しい。」
「おー太っ腹だにゃディード。後で切り分けて残りは保管してて貰ってもいいかにゃ?2人分だと食べきる前に腐っちゃうにゃ。」
「勿論、後で切り分けてダンジョンから出る時に渡すよ。」
「おーありがとにゃ。これで魔石を売ってジロさんにお土産にお酒でも買ってあとは良い事できるにゃ。」
口を隠しつつもニヤニヤとするララを見て、リリアとレミィの2人は夜の事を想像しつつ顔を赤らめる。その姿を見てララが面白そうにからかうやり取りはダンジョンを出るまで続いた。
ダンジョンを出た時にはすっかり夜になっており、ディードは切り分けたオークをララに渡しその場で別れた。ディード達はギルドに向いオークの魔核と肉を少し売り3人は宿へと向かった。
そして朝が訪れ、再びジロエモンの工房に向かった・・・




