第54話 地上へ
10階のボス女王蟻を撃破した5人はダンジョンから出るべく地上へと向かっていた。
既に時刻は5の鐘を回っている。急げば日時が変わる頃には出られるが無理をする事もなく、ダンジョンで野営をし明日の朝出ようと皆で話し合った。 これは後にダンジョン深くに潜る時の為にの練習も含めて練習にもなるとディードは予測したのだが・・・・
(まさかこんな所でクレープ作るとは思ってなかったなぁ・・・)
それは6階の途中突然リリアが思い出し、甘い物が食べたいと言い出した。
「だってあの時ディーは『ここを出たら甘い物食べよう』とか言ってたけど全然そんな気無かったじゃない?だから思い出したら余計に食べたくなったのよ。」
両腕を腰にあて少し不満げな態度だと示すリリア。(肉串5本とパン喰った後にそれ言うか?)と突っ込みを入れたかったのだが、約束を守っていない自分の事を棚にあげる訳にいかず、言われるがままにデザートの準備に取り掛かった。 ここでディードの悪戯心に火が入り、リリアに生クリームを立たせるという軽い悪戯を試みている。
ディードはアイテムボックスから瓶に入れてあった生クリームと砂糖を渡す。それを魔法で作った氷の台の上でひたすらかき混ぜる役をリリアにさせている。レミィには果実を切り分けて貰い、ディードはクレープの生地を作っていた。
小麦粉に牛乳と砂糖を入れ程よくかき混ぜたら追加で卵を入れてさらに混ぜる。それをフライパンで薄く延ばし火を入れている。 焼けたら軽く冷ましアイテムボックスに放り込む。これを材料が切れるまで延々と繰り返していた。 そしてディードは念の為にファグに念話で話しかけていた。
(一応言っておくけど、今入れたのは食べるなよ?。)
(1枚だけ味見してもいいか?)
(完成したらアイテムボックスに入れるからそれまで待てって。それが出来ないなら今この場で全部食うぞ?)
(待たさせてイタダキマス。)
やはり食べる気であったかと心の中で一人呟くディード。
(まぁ生クリームはファグが魔法で脂肪の多い牛乳を作って貰ったんだけどね。)
ファグは以前、ディート達が山で出会い討伐した闇の覆われた紅熊の闇の部分を取り除いて丸焼きにしていた。その魔法の技術を今回生クリームに役立ててもらったのだ。
そうこうやり取りをしていた頃、リリアから悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
「ディー!もうだめぇ全然硬くならないよぉ。」
リリアはひたすらかき混ぜる作業をして貰っているのだが、10分ぐらいだろうかあまり固まってなかった。
「リリア。美味しい物には必ず努力が隠れているんだ。もっと頑張れば美味しいのになるから頑張って。その証拠に少し味見してごらん?。」
リリアは少し不満気な顔をするものの、ディードに言われるがままに6分立てに近い状態の生クリームを味見してみた。 味見をした途端、彼女の口一杯にに広がる甘さは今までの苦労を吹き飛ばすように彼女に甘い幸福感を与えた。
「何コレ美味しい!もっと頑張る!。」
その甘さに触れさらに必死に頑張ってかき混ぜるリリアを見て(チョロ過ぎる)と突っ込みを入れたくなるディードだった。
リリアの努力の甲斐あってか、生クリームは8分立てまで出来上がっていたが、これ以上はもうダメと右手を押さえてへたり込んでいた。 ディードはそれを受け取り先程焼いた生地の上に乗せ切って貰った果実を並べ最後に包み込んだ。
7個分のクレープを完成させ、2個はアイテムボックスに放り込み、皆でデザートを食べ始めた。
「おお美味しいにゃん!これなら何個でも食べられるにゃん!。」
「この白いふわふわが美味しい・・・。」
「ディー!もっと作って~!」
女性陣には好評で夢中になって食べている。ジロエモンだけは『甘すぎる』と言って半分で挫折してしまった。だがララが残りを頂いて食べていた。それを見たリリアとレミィはおかわりをディードに目で要求していた。しかし生クリームはもうないので新規で作り直すしかない。それに先程入れた2個は多分・・・と思っていた所に急にファグからの念話でから大きな遠吠えを聞かされる。
遠吠えというより大声で『うめええええええ。』と叫んでいる様だった。 ディードはその声に驚き頭痛がする思いだった。レミィは加護を授かった為なのか、念話の余波が彼女の五感を刺激し、耳を大きく立てて辺りを見回していた。
(おい!何叫んでいるんだうるさいぞ!)
(す、すまんあまりにも美味しかったんでつい・・・)
(どうせ入れたクレープ取られると思って急いで食ったんだろ?)
(・・・・・・うん。)
(取らないから、また生クリームの元を作ってくれ。新しく作るから。)
(御意!)
ディードは大きくため息をつき、ファグが急いで用意してくれた生クリームと砂糖をボウルに入れ軽く混ぜ合わせる。
「あれ?ディー。また作るの?アイテムボックスに2個同じの入れたじゃない?」
「ああ、ちょっと思いついて作ってみようと思ったんだ。少し待ってて。」
そう言うと、ディードは再びボウルに砂糖と生クリームを入れ始めた。
(まぁ思いついたというよりも元々こうする予定だったけどね。)
ディードは手を止め両手をかざし魔力を込め始める。すると徐々にボウルの中で生クリームが小さな渦を作り始めていた。
(イメージ的にはハンドミキサー。風の魔法の応用で渦を作り空気を入れ込む・・・・こうか?)
生クリームはボウルの中で渦を作りながら回転しあっと言う間に8分立てまで完成していた。
「まぁこんなもんかな。上出来、上出来、やっぱりこっちの方が早かったか。」
「やっぱり?。何・・・その器用な魔法は私がやる前より考えてたわけ?。」
「ああ、そうリリアに混ぜる苦労をしっ――――。」
余計な口を滑らせた事で頭部を殴られるディード。その後は機嫌取りに何度もクレープを作らされるのであった。
夜も更けて交代で見張りの時間がやってきた。順番はリリアにララが最初に組み、ひとりづつ交代をする形となった。 ディードとジロエモンは夜に装備の話をする為に早々と眠りについている。レミィは軽く仮眠をとるつもりで横になっていたのだが、見張りの彼女の会話が気になっている様だった。
「そっかララさんのとこはもう結婚してそんなに経つんだ?」
「そうにゃ番になってからもう3年過ぎているけど今でもラブラブにゃ。だけど今はこの姿じゃ、夜は良い事出来ないけどにゃ・・。」
自分の胸を見つつしょんぼりとするララ、その胸を見つめながら『良い事』と呟くリリアにララが悪戯じみた笑顔で寄ってきた。
「リリアちゃんは良い事に興味があるのかにゃ?。」
「え?・・・・いやいやいやいや、そんな事無いわよ。ただその胸が封印に何か関係あるのかな?って思って。」 しどろもどろに手振り身振りで興味が無さそうに答える。 逆にそれがいかにも興味がありますと言わんばかりだ。ララはそれを逆手に取り話を続ける。
「本当かにゃ?怪しいにゃ。まぁ今は胸は無いけど、昔はそれを使ってご主人様を喜ばせていたにゃ。」
「よ、喜ばせる・・・・た、例えばどんな風に?」
「お?興味ないって言ってたのに知りたいかにゃ?。」
「え?いやあの・・・その・・・。」
言葉を濁しモジモジと恥ずかしがるリリアの姿を見て、ララはニンマリと悪い笑顔がこぼれる。
「まぁ、年頃の子なら興味があってもおかしくないニャン。特別に教えてあげるにゃん。男はねみんな夜は狼になるにゃん。うちのご主人様も凄いにゃ・・・アレが・・・。」
「あ・・・アレ?それは・・・。」
「そう、アレ。あの時だけは女で良かったと思うにゃん。ご主人様に抱きしめられてその後・・・」
「その後・・・」
固唾を飲み話の続きが気になるリリアだったが、その姿を見てララの悪戯心は加速する。
「おっとその先は言えないにゃん。それは自分で確認してみるにゃ。そこの彼氏と・・・にゃふふふふ。 それとうさぎちゃんも聞いているならこっちに来るかにゃ?。」
ララがレミィに顔を向ける、彼女は横になってはいたが話を聞いていた。それを見透かされて身体をビクっと反応させてしまうが、そのまま寝たふりをする。
「うさぎが狸寝入りしてるにゃ。・・・・まぁお姉さんのウチから言える事は、こんな事ぐらいかにゃ。」
「それじゃララさん、そっちの話じゃなくてジロエモンさんと馴れ初めの話でも教えて~。」
「いいにゃ。ご主人様とウチはね――――。」
――――――
レミィ、ディード組
レミィとディードが火を見つめながら辺りを注意しつつも会話が弾ませている。
「それじゃクレープを食べている時のあの遠吠えはファグ様のだったですか?。」
「うん、アイツもクレープ美味しかったってさ。遠吠えする程良かったみたいだよ。」
「まるで子供みたいな反応ですね。」
「実際に子供っぽい所が多いね。」
レミィにだけはファグの存在を認識している。彼女はディードと一緒に≪住処≫へ行き直接あって加護を受けている。加護と言っても【兎の盾】の使い方を教えて貰っただけなのだが、獣人からはファグの存在は神として崇められている。
「でも気持ちはわかります。あのふわふわして甘いクリームは、村に居た頃食べた事ないですしあの美味しさは癖になりそうです。」
そう言ってレミィは自分の両頬を押さえ、あの時の味を思い出している様だった。
「また材料があったら作ろうか?それとも他のがいいかい?」
「それは贅沢な悩みですね。どっちも欲しいですけど、食べ過ぎて太っちゃうのが心配です。」
そう言って軽く舌をだし可愛い笑顔を見せるレミィ、彼女のあどけなさが可愛く思い頭を撫でているディード。
「まぁ少し位太っていてもレミィちゃんは可愛いから大丈夫だよ。」
「・・・・・それは反則です。」
彼女は顔を赤らめながらそう呟く、よく見ると耳まで赤く染まっているように見えた。
「私は2人の足を引っ張らない様にもっと頑張っていきたいんです。その為には早く動けて【兎の盾】ももっともっと使いこなせるようになりたいんです。」
「今でも十分にうちの戦力になってるよ。あまり気を張り過ぎないように無理しないでね。」
「ええ、勿論です。」
そうして夜はさらに更け、2人の他愛のない会話が進んで行く。そしてそろそろレミィとジロエモンの交代の時間となった。
「そろそろですね。ジロエモンさんを起こしますね。」
「ああもうそんな時間か、頼むよ。」
「ええ・・・ディードさんそっちに何か光りませんでしたか?。」
レミィは立ち上がりふと指を差した。ディードはその指差された方向に注意を向けるが何も見えて来ない。
「んー、特にこれといったのは見えなかったけどレミィちゃ――――。」
ディードは目を凝らし指差された方向を見ていたが、その隙を突かれレミィから頬にキスをされる。
「クレープのお礼です。それじゃジロエモンさんを起こしますね、おやすみなさい。」
彼女は照れながらも奥で寝ていたジロエモンを起こしに向かった。ディードは頬を押させその姿を笑顔で見送っていたのだが・・・・ 突然目を見開きディードと目が合うララ。
「いいもの見れたにゃ。初々しいにゃ。」
近くで寝転がっていたララに思い切り目撃されていたのだった。そういうと彼女は再び目を閉じ眠りについた振りをするのであった。
(び・・・・びっくりした・・・これは後でネタにされそうだな・・)
――――
ディード、ジロエモン組
「ふむ・・・大蛙を底に使った皮の靴か、なるほど・・・加工に手間がかかりそうだが出来なくないな。」
ディードとジロエモンは装備の話で盛り上がっている。
「ええ、やって見る価値はありそうなのでやってみたいです。失敗しても構いません。」
「面白そうだからやって見るが、あんまり期待はするなよ。今は助手も正直期待できん。」
そう言うとジロエモンはララの方を見ている。
「今助手は封印状態じゃ、解除されればもう少しうまくやれるかもしれんが今は何とも言えん。正直に言えばこの素材で、普通の装備をきっちり作って売り出したい所じゃ。」
そういうとジロエモンはララの方を見つめながら、ため息交じりに話す。彼女は耳を小刻みに動かしながら動かしている。無意識なのだろうか、それとも聞いているのだろうかディードにはわからなかった。
「ララさんの封印が解ければ色々出来るの?。」
「ああこいつは手先が器用でな、ワシの見えない所で色々やってくれる。ワシは刃先を見るがララは手元とか握りやすい様その人の癖なんかを色々と見ているんだ。もしかしたら今回の戦闘でお主等の見えない癖も見抜いているかも知れんな。もっとも封印が解けている状態で見た場合だがな。」
「へーそれは意外だったな。最初見た時はお調子の者の奴隷としか見てなったけどな。」
「それはそうじゃな、あの時は・・・いや今もか、コイツは気まぐれが多い。だがそれで色々と見ているんじゃよ。」
意外にもララを褒めるジロエモンにディードはさらに好感を持てた。だが・・・・
「じゃがな・・・時にコイツはやらかす事も多くて困る事もあるのが難点だな。この封印も自分でやらかした事だし。」
ジロエモンは再びため息を大きくつく。過去に色々とあったのだろうか。その顔からは先程の顔からは笑みが抜けている。
「そういえばララさんは禁漁区で漁をしたって聞いたけど、なんでそんな事になったの?」
ディードが疑問に思っていた事を口にするが、ジロエモンは大きく項垂れ頭を上げられずにいた。やがてポツりと言葉を絞り出しはじめた。
「夕飯・・・。」
「夕飯?。」
「夕飯の話になってな、魚が食べたいと言って自分の小舟に乗って釣りに行ったんだと。そこで昼寝しながら釣りをしていたら禁漁区に入っていたのに気づかず釣れた魚を・・・・旨そうだからってそこで食べて見つかったんだと・・・。たったそれだけで俺は財産取られ、海洋都市を追い出される羽目になったんじゃよ。」
「あ・・・・はははは。」
なんと言っていいかわからずに、乾いた笑いしか出てこないディード。やがてジロエモンは顔を起こしこう伝える。
「いいか、ディードや。嫁を取る時は食い意地が張った奴には気をつけろよ。」
ジロエモンが真顔で迫っている姿に、若干引き気味のディードが無言で頷いていた。
やがて夜が明け、1の鐘が鳴る前に全員起きダンジョンを出る準備に取り掛かった。
「さて、そろそろ行こうか。取りあえず向かうはギルドで高く売れる素材を売って、ジロエモンさんの工房へと向かおうか。」
それぞれが無言で頷き、ダンジョンの出口へと目指していく。そして彼等が地上へと戻ったのは3の鐘が鳴る頃であった。




