第32話 あの日の出来事 後編
第32話です。よかったら見てやってください。
(最初はただ、ぶつかっただけだと思った。だけど脇腹の後ろ辺りが熱くなり痛くなってふと見たら、身体からナイフが生えてたように見えたんだ・・・一体何故? なぜ俺は街中で刺されているんだ?)
痛みを堪えつつ、刺した本人を確認しようとしたが、ディードは右膝の後ろを蹴られ、抵抗する事できずに前のめりに倒れ込んでしまう。
(ぐっ!、ナイフを抜いて【回復】をかけないと、・・・って腕が動かない?何故だ?)
ディードはナイフを抜こうとしたが、何故か身体が自由に動かせなくなっていた。
それどころか、声も出すことが出来ない。
「ケケケケ、油断したなエルフの若造。どうだ【麻痺蜘蛛】の濃縮液の味は?もう手足を動かす事が出来ないだろう?即効性の毒だからな。この俺様を騙した罪は重いぞ?詫びとしてお前の魔法袋を貰っておいてやる。」
そう、ムレだ。彼はディードに逆恨みをし、背後からナイフを突き刺した張本人だ。先程の花火もどきも注意を引く為に仕込んだものだった。
倒れているディードの腰に付いている袋を取ろうとした時、近くの女性が絹を裂くかのように悲鳴を上げた。
その言葉に気づき振り向くリリア、彼が刺されて倒れているのが視界に入った。
「ディード!」
倒れているディードの元へ向かおうとしたが、リリアの左手首は突如掴まれる。
「イヤ!放して。」
リリアは必死に振りほどこうとしたが、逆に手首を逆に決められてしまい身動き出来ない。
「おっとお嬢ちゃんは、こっちでおじさんと遊ぼうか。」
「痛!放して!何するの。ディード。返事して!ディード!!」
リリアの声に反応する事が出来ず、その場で倒れているディード。
(聞こえているだが、声が出せない。リリア!リリア!待ってろ今助け・・・に )
動こうとしても、動けない身体に苛立つディード。ついにはムレに袋を取り上げられてしまった。
「ケヒヒヒヒ、これを売れば俺等は一生遊んで暮らせる。好きな時に酒が飲めて、好きな時に娼館で遊べるぜ。」 下衆な笑いがディードの頭上から聞こえてくる。 怒りの感情が彼の身体から込み上げてくる。
(こいつ、最低だ・・・はやく、なんとかしないと・・・それにあの袋がバレた後がまずい。)
気持ちばかり焦っているが、身体の自由が利かない。そして時間が経つごとに刺された痛みも徐々に酷くなってくる。
左手を後ろに回され、間接を極められ身動きが取れないリリアも、倒れて返事の無いディードに焦っていた。
「ディード!ディード!お願い返事をして。!」
「うるさい嬢ちゃんだな。少しジッとしてな。」軸になっていた足の膝裏を蹴られ、その場で両ひざを突き左手を締め上げられた。
「くぅぅ。ディード。返事・・して。」 痛みに堪えながらも呼びかけようとするリリア。その願いに応えようと必死に身体を動かそうとするディード。
「おーおー健気だねぇ、お嬢ちゃん。安心しな殺しはしないよ。街中で人を殺すと手配書が回っちまうからなぁ、俺等も手配書は回っちまうと他の街でも住めなくなっちまうからな。その魔法袋をよこせばソイツは殺さないでやるよ。 それとお嬢ちゃんはこの街を離れるまで一緒に来てもらおうか、何ソイツの事忘れるぐらいに一緒に遊んでやってもいいんだぜ。」 と下衆な笑いがリリアの背後からも聞こえてくる。
(これが・・・これが・・・人間なの?・・・平気で人を騙し、奪う・・あざ笑い下賤な生き物。)
リリアの中で怒り、悲しみ、憎しみなど黒い感情が芽生え始めた。
その時、夜空に再び花火が上がった。合図だろうか。ムレ達が互いの顔を見合って確認をする。
「どうやらあっちは成功しているようだな。こっちもさっさと終わらせて合流するぞ。」
「ああ、この嬢ちゃんもソレでやってから運ぶか、いい身体つきしててたまんねーぜ。」
ディードに刺さっているナイフを指差す、ムレの仲間。
「お前はそればっかだな。解放される時に壊れてるんじゃないか?。」
「どーかな、どうせそこのヤサエルフと散々やってんだろ?案外俺等の方がいいってすり寄って来るかも知れねえかもな。そいつうまくなさそうだしな。」
品性の欠片も見当たらない言葉が、笑い声が、リリアの頭上を行き交いしている。
関節を極められて半ば、四つん這いに近い状態になっているリリアに欲情し、力ずくで物にしようと本人の目の前で行き交う言葉に、彼女の黒い感情があふれ出そうとしている事を2人はまだ知らない。
「ディード・・・・」 彼女のかすれそうな言葉がディードの耳に届いている。だが返事が出来ない。
やがて、その時は来た。
ムレがディードに刺さっているナイフを、雑に引き抜いた。
わざと彼の背中に足を置き、苦しませながらナイフを引き抜いたのだ。ナイフからは彼の血が滴り落ちる。 血が付いたナイフは適当に振られ血を払われた。その1滴が彼女の頬に当たってしまった。
「お?お嬢ちゃんその剣、コレのプレゼントか?中々いい物だ。ついでに貰っておいてやるよ。」
ムレがその剣を見定め、まずはリリアを麻痺させようとナイフを彼女の肩に、刺そうとなった時、一筋の剣閃が走った。
「あ?」 ムレの気の抜けた声が上がった。 彼も現状を理解出来ないでいる。見えなかったのだ。
だが、地面に音を立てて落ちたナイフとムレの手首がそこにあった。
「ヒ、ヒギャァァァ!お、俺の腕が落ちたーーー!。」
リリアが怒りに身を任せて剣を振ったのだ。勿論彼女の左手はまだ極められたままだ。
「な!このガキ!。」 リリアの関節を決めていたムレの仲間は、リリアの腕をさらに極めようとさらに絞りあげた。
彼女の身体から鈍い音が聞こえた。それと同時に、ムレの仲間の両肘から下も地面に落ちていた。
彼女は左腕を犠牲にし、外れるのを覚悟して切りつけたのだ。
「あああああ!俺の俺の腕がぁ!!!」 痛みに堪えきれずその場でうずくまるムレの仲間。
だが、その悲鳴はすぐ聞こえなくなる。 彼女が頭を思い切り踏みつけ、意識を刈り取ったのだ。
その姿は右手に剣を持ち、左手は付いているだけの様に垂れ下がっていた。視線はムレを完全にとらえていた。
痛みに耐えながら恐怖するムレ、彼は怒らせてはいけない者を怒らせてしまったのだ。
必死にこの場を切り抜けようと考えるムレ、やがて一つの突破口を見出そうとする。
「おい!このガキ動くな!動けばコイツを殺すぞ。」 必死に落ちていたナイフを拾い上げ、ディードに刺す振りをしようするムレだったが、その手も既に無かった。
リリアの高速で振られた剣がムレの残っていた手も斬り飛ばしていたのだ。
再び悲鳴を上げるムレ。その顔は涙を流し恐怖で引き攣り先程までの威勢は既になくなっていた。
(許さない、ユルサナイ・・・ワタシノ大切なモノを・・・ウバウ奴は・・・生かしてオケナイ・・・)
黒い感情と左肩の痛みを抑えながら、激しい呼吸と聞こえる。まだ彼女の理性がギリギリの所で踏みとどまっているのだろうか、命の奪う所まではいたっていない。
(ワタシの大切な人、・・・物を奪う・・・・ヤツは殺す。コロス・・コロス・・コロス)
「ヒッ!た、助けてくれ。あぎゃああああああ。」
制止するかの様に、前に突き出したムレの腕は、その場で乱切りにされていった。
いくつもの物に切り分けられて落ちていく腕。 その光景を遠巻きから見ていた周囲は声を上げることが出来ず、ただ息を殺し見つめていた。
彼女の怒気に充てられ、ある者は恐怖で歯をカチカチ震わせ、ある者はそのばでへたり込んで失禁する者もいた。
この場を逃げようとしたムレだったが、彼女の視線を外せないでいた。その瞳は冷たく、人を人とも思わないような目に恐怖で身体が縛られていた。
「ば、化け物・・・。」 自分が作り上げてしまった事を棚に上げて呟くムレ。
その言葉を聞いて、リリアは最後の一撃とばかりに剣を高く上げていた。振り下ろそうとした瞬間。
「よせ!リリア止めろ!!。」 ディードが必死に声を上げた。ナイフを抜かれ麻痺が徐々に回復し言葉を発することが出来たのだ。
彼の声を聞いて我に返り剣を下すリリア、彼女の黒い感情は一瞬にして消え去り。ディードを見ていた。
「リリアもうよせ、十分だ。これ以上はやめるんだ。」彼の必死の問いかけに、耳を傾けるリリア。
やがてうつ伏せに倒れているディードを片手で激しく揺さぶっていた。
「あああ、ディード!ディード生きていた。ねぇ大丈夫?刺されたところ痛くないの?大丈夫?。」
「げ、現在進行形でピンチです。揺さぶらないでぐだざい・・・。」
ディードの声に手を放すリリア。彼女は安堵し大いに泣き出す。
「すまないなリリア。怖い思いをさせてしまって・・・。」 刺されていた脇腹を【大回復】で治療するディード
「ううん、大丈夫。貴方が生きていただけで私、ホッとしたの。」
(げ、現状は凄い事になってるんだけどな・・・・)
自業自得とはいえ、両腕を切られ失神しているムレの盗賊。 両腕を切られ片腕は乱切りであちらこちらに散乱し、もはや放心状態のムレ。
(こいつらは【回復】でいっか・・・一応、血止めはしておかないとな。その前に・・・)
ディードがそっとリリアを正面から抱きしめた。
「ディ、ディード?え?やだ恥ずかしい。」赤面している彼女だが・・・
「ごめんな。すぐ済むから。」
「?。」 ディードは彼女の左腕を掴み力を込め引っ張った。 彼女の腕は大きな激痛と共に元の位置に戻った。
「ぎゃ------!!。」
その後は血止め程度にムレ達【回復】をかけてやり、騒ぎを聞きつけた兵士達に引き渡した。
周囲の屋台や店などにも迷惑かけたが、こちらも被害者なので勘弁してもらいたいと思ったディードだった。
宿に戻り、ベットになだれ込む2人。 ディードは色々考えたいことがあったが、今日の出来事で疲弊し深き眠りにつきそうになる。
「ねぇ、ディード。」
「どうした?リリア。」
「手を握っててもらえない?私が眠るまで・・・」顔を赤らめ恥ずかしそうに見つめてくるリリア。
(その顔は反則じゃありませんか?・・・・)
ディードはベットから立ち上がり、無言で自分の寝ているベットをリリアのベットに近づけた。
リリアは恥ずかしそうに、手を差し伸べる。ディードはそれを優しい笑顔で握りしめた。
「この手は離さないでね。」
「ああ、お休み。リリア。」
二人は手を取り合い、微笑みながら眠りについた。
ちょっと小話( ・ω・ )
1日の描写が凄く長ったような・・・
いや、きっとキノセイダ。
最後まで見てくれてありがとうございます。




