第28話 変化
28話です。よかったら見てやってください。
意識を失ってからどれくらいたったのだろうか・・・・ うっすらと目を開けるディード。
目を開けると頭上には小さな双丘が見える。
(何かの実?) 起きて覚醒したばかりの思考が鈍いディードはその実を取ろうとしていた。
すると突如手に衝撃が走る、どうやら叩かれたようだ・・・「何してんのよ、こっちは心配したんだから・・・」
双丘の上からリリアが顔を覗かせる、どうやら双丘はリリアの胸だった。その顔はディードが起きた事による安堵と、胸を触られそうになった事による羞恥的な感情が入り混じった顔で少し赤みがさしていた。ディードは膝枕で寝かされていたことがわかった。 いい枕だったのは内緒にしておこう。
「すまない、見慣れない物があったから・・・つい・・・ってか俺はどのくらい意識を失ってた?」
「そんなに長くはないよ、それより立てる?みんな心配してたんだよ?」
この状態に仕向けた犯人が何言ってんだ?と思うディードだったが、≪みんな≫という言葉に引っ掛かり、周囲を見る。それは少し離れた所からディードの事を見守る顔があった。
それは先程の少女であった。 ディードが起きた事に気が付くと、少女は両親を押しのけ駆け寄りお礼を言った。
「お兄ちゃんありがとう、おかげで助かりました。」 少女の笑顔が眩しい。だが一つ疑問が残った。
(俺は【回復】をかけたはずだが?致命傷に近い傷を負って【回復】だけで治るはずないんだが?)
「え?ああ元気になったんだ。よかったね。」
「はい!ありがとうございました。」 少女がお礼を言い終わる頃に両親が駆け寄ってきた。その他にも見知った顔が来る、≪草原の風≫のリアにアーガ兵長達だ。
「またも助けられたなディード君、重ね重ねありがとうしか言えない自分が情けない。すまない感謝する。」 「あ、あの門の所といい先程といいありがとうございました。」
公衆の面前で深々と頭を下げるアーガ兵長、続いてお礼を述べるリア、ディードは正直混乱していた。
「す、すみません。まだ状況がよくわかっていないんですが、皆さんなぜ私に礼を?」
焦るディードに対してアーガが説明をする。
「ディード君、君は我々に【大回復】をかけてくれたんだよ。しかも広範囲で・・・【範囲大回復】かな?エルフの秘技とリリア君から聞かされてるんだが・・・?。」
アーガの説明に唖然とするディード、すぐさまリリアの方に振り向くが、当の本人はいい笑顔で微笑みかけている。
(あーそうゆう事か・・・) 即座に理解したディードは話を合わせる事にした。
「ああ、成功したんですね私達の【範囲大回復】2人でやるのは初めてで、成功するかわからなかったですよ。良かったです、私は成功するかしないかの瀬戸際で魔力が尽きて意識が無くなってしまったので、確認はできませんでした。皆さん回復されてヨカッタデスネ。ネ?リリア?」
白々しい嘘を笑顔で押し通すディード。強引にリリアに振るが笑顔で「ヨカッタネ♪」で返してきた。
(ここはリリアの思惑に乗っかって逃げよう・・・・)
「こんな大魔法をかけてもらってなんだが、私達はどんなお礼をすればいいかわからない。【大回復】代でも銀貨が相場と聞いている。」 アーガ兵長が不安な顔をして親子の方を見つめる。アーガ兵長とリアなら支払いは簡単とは言わないでもできるだろう。ただ問題は親子の方だ、この街に来る途中に襲われさらに治療代ともなると支払いは楽ではないだろうと予測できる。もし支払ない能力が無い場合は兵長が立て替える可能性もある。
「お代は結構です。その代わり一つお願いがありますがいいですか?」
「叶えられる範囲でなら。」アーガは緊張したおもむきで答える。
「簡単ですよ、この魔法の事は内密にお願いします。それだけです。」
「そんな事でいいのか?料金を取ってもおかしくない事なのに?」
「この魔法は偶然の賜物です、2人での合体魔法は失敗の方が多い、ただの【回復】で終わってしまう事が多いです。今回は偶然にも成功しただけで、次成功する保証もありませんし私達も当てにされると困ります。なので今回は運が良かっただけという事で内密にお願いしたいのです。」
この魔法は偶然の賜物なのは嘘ではない、リリアが過剰に魔力譲渡したおかげでできた魔法だ。
もう1回やれと言われてもやれる自信がないし、したくも無い。魔力の負荷が強すぎて使う度に何度も気を失うなんてもっての外だと思うディード。
「うむむむ・・・しかし無償となると我々、門を預かる者としては、少々納得しがたい・・・・」
唸るアーガ兵長、正直面倒くさくなっているディード、魔力枯渇から少しだけ回復したとはいえ、本音を言えば早く帰って寝たいと思っている。
(さすがに疲れた。そして面倒くさいし寝たい・・・魔力切れは思考が鈍り回復の為に眠くなるし、眠い・・ああそうか・・・) ふと思いついたディード。
「それならば兵長に1つ頼んでもよろしいでしょうか?」
「出来る範囲での事なら。」
「私が泊っている宿を含めて街の安全を見守ってほしいです。本日は色々ありすぎて疲れましたので。」
今日一日だけで大変な目にあった・・・こんな日ぐらいゆっくりと寝たいと切に思うディード。
「それは我々がいつもしている仕事だ。それでは釣り合わないと思うが?」
「いえ、いつも以上にお願いをしているんです。釣り合うと思います。それに慣れない事をお願いするより、慣れた事をお願いする方が出来やすいと思いませんか?兵長も色々ろ忙しそうですし?」
「いや・・・それは・・しかし・・」 唸るアーガ、兵士達もこの要求は否定出来ないしやや困惑気味だ。
2~30秒ほどだろうか唸っていたアーガが結論をだす。
「わかった、街の安全に尽力をしよう。ちょうど君にも関係ある人物が街に不法侵入してしまった事だし。」 ムレ達の事だ。街に舞い戻った経緯は分からないが、法を犯してまで侵入して来るんだ、きっとなにか良からぬこと企てているのだろう。
「それではよろしくお願いします。皆さんもこの事を含め内密にお願いします。」
軽く頭を下げるディード。 皆それぞれの反応があった。
金品を要求されない事への安堵感、その逆に何か裏あるんじゃないかと思う不安感、皆それぞれの考えがあったが、ディードは特に気にすることなくその場を去った。
「ねぇ、ディード本当にアレで良かったの?」 リリアが不安そうに聞いてくる。
「ああ、だって面倒だもん。ギルドに報告行って今日は早く休みたいよ。戦闘より他の事で疲れるのは面倒だし、何より・・・・眠い。」 大きな欠伸をしながらギルドに向かうディード、歩きながら北門の方から歓声が聞こえてきた。撃退に成功したのだろうか?
その内ギルドも開くだろうと思ってギルドへ向かう2人。到着しギルドに着き開くまで少しの時間がかった。
ギルドで初のクエストを終了し二人は宿へ向かった。
宿に着いた2人は早めの食事を取り部屋に入る。 部屋に入るなりディードはベットへダイブした。
フカフカと言い難いが、それなりのベットの柔らかさに包まれながらディードは睡魔に抵抗することなく落ちていく・・・
「ディード、そのまま寝るの?鎧とか脱ぎなよ。汚れるよ?」
リリアの声ももっともだが、今日は何にせよ疲れて睡魔に勝てないのだ。
「ねぇディード、聞いてる?まだ色々と話したい事あるし、お風呂入りたいんだけど?」
ディードの耳には入ってるが睡魔にどうしても勝てない。
(そういえば山で取った蜂蜜とか闇の紅熊とか色々アイテムボックスに入ってるんだっけ。後で整理しないと・・・・そうだ後でお仕置きとか言ってたけど、なんかどうでもいいや。この睡魔には勝てないんだ、取りあえずリリアには明日色々とやる事と、お仕置きの件は無しにって事を伝えてから寝・・・)
「リリア~。」
「なに?ディード。」
「明日・・・お仕置き~・・・・・zzz」
「ええ・・・・なんでそうなるよ~。」
ディードの意識は限界に達し、リリアに伝えたい事が中途半端になって伝わってしまった。
≪住処≫にて
ディードは住処に来ていた。2人に色々と聞きたいことがあるからだ。
「おーい2人共ちょっと聞きたいことが・・・・って何してんの?」
ディードの目の前に繰り広げられる光景は、片手のない紅熊の丸焼きの光景だった・・・・。
それは豚の丸焼きならまだショックは大きくないが、ビジュアル的に同じ格好で熊だとその光景には衝撃が走る。しかも刺している熊の棒は多分アイリスの武器だろうか?ディードが持っている武器ではなかった。
「おう、もうすぐ出来上がるぞ。食べてくか?」先に焼き上がった片手を食べているファグ、アイリスは熊の方を見つめながらディードに話しかけてきた。
「ディー、アンタこの熊どの辺が食べたい?特に無いなら適当に切り分けるけど?」
「ええいお前ら!なんで人が狩った熊勝手に食ってんだよ!つかそれ、闇だか黒いなんか変なのに覆われてた奴だろ?食って大丈夫なのかよ?」
「ああ心配ないぞ、闇なら私が排除してそこに結晶化させてある。」 ファグの鼻先が挿す方向にはこぶし大に固められ結晶のように輝いている黒い水晶体があった。
「まだ触るなよ、お主の身体もまだ調整が終わってない状態でそんな物触れると何が起こるかわからないからな。」
「調整?何の事だ?俺に身体に何かしたのか?」
「何かしたというならばリリアのお嬢ちゃんの方だな。お主過剰な魔力を注いだ為に、お主自身がその負荷に耐えきれるように自分自身を作り変えたと言ったほうが早いか、一応我々も手伝ってはいるがな。」
どうやらリリアの過剰な【魔力譲渡】のせいでファグ達にも負荷がかかったらしい。
「具体的にはどうゆう風になったんだ?」怪訝な顔で問うディード
「悪い事ではないぞ。お主の魔力の器が大きくなった。簡単に言えば最大MPが増えて、新しく使える魔法も増えたって言えばいいか。」
「物凄くわかりやすい説明をありがとう。」
ファグの説明がゲーム風なのが、ディードにわかりやすく理解できた。
「で、新しく使える魔法ってもしかして?」
「まぁわかっていると思うが【大回復】に【神聖回復】が使えるようになったぞ。」
「ちょっと待て!大回復はなんとなくわかるが、神聖回復までなんで使えるようになったんだ?」
疑問に思うディード、それもそのはず2つの魔法は神官クラスが何年も修行をしてやっと習得できる魔法。
膨大な魔力を流されたとはいえ、それだけで使えるようになるのはおかしいと感じたからだ。
「習得した順番が逆だ、神聖回復を覚えてから、大回復を覚えたのだ。あの魔力譲渡でお主の肉体と精神が崩壊しかけた。そこで私達が手助けをして、魔力の器を広げ受け皿を作り回復から神聖回復までの取得を一気に縮め獲得させたのだ。そのおかげで自分自身を修復しつつ、大回復を習得したのだ。紅熊はその料金と言うべきだ。まだまだ料金としては足りないがな。」
ファグはそう答えると、紅熊の方に振り向きアイリスの焼き加減を見張っていた。よく見ると小さく尻尾を振っている。紅熊が出来上がるのを待ちきれないのだろう。
「もしかして俺が妙な睡魔に勝てなかったのは、反動なのか?」
「そうだ。魔力枯渇に肉体、精神変化、今日一日でお主は、ゲームに例えるとLV1~LV20ぐらいまでアップあようなもんだ。LV1のHPの状態でLV20まで一気に引き上げられるのだ、変化に対応する為に身体も休みが必要になるだろう。」
「そうか、そんなに負荷がかかっていたのか、やっぱりリリアにお仕置きを検討する必要があるかもな。」
「それぐらい笑って許してやれ。男だろ?」 ファグはディードをからかうように言い放つ。
それが男って物だろうと言わんばかりのファグの態度が癪だが男らしく見えてしまった。
「ちなみにファグ達のサポートがなかった場合、俺はどうなっていた?」
ディードが素朴な疑問を問いかける。 するとファグは尻尾を振るのを止め、天を仰ぎ
「最悪精神が崩壊、魔法も使えない身体になっていたかもな・・・・」そう答えるとため息をついた。
怖!一瞬で悪寒が走る思いのディードだった。ただリリアには意図的にやった訳でないのは知っているので大きく怒るに怒れない。まぁ今回は許そうと思うディード。
そしてファグ達に聞きたい事はまだあるのだ。
「そういえばファグは闇を結晶化出来る能力を持っているのか。それって他にも出来るのか?」
「ああ、出来るぞ。そこの蜂の巣から蜂蜜だけを取り出す事も出来る。」
ファグの挿す示す方向に山で取った蜂の巣がある。見ると蜂の巣から蜂蜜だけが浮いて漂ってきた。ファグの魔法なのだろうか。
「おお、凄いなコレ。抽出出来るとなると色々な事が試せる。後で色々仕入れてアイテムボックスに入れておこう。」 ディードの顔に笑みがこぼれた。
「むぅ、俺はお主の遊び道具ではないぞ。」ファグは少し不機嫌そうな声になる。
「なら止めとおこうか?甘い蜜菓子やパンケーキなんか作って差し入れとかしようと思ったんだけど。」
「お好きな時に何なりとお申し付けください。」ファグが頭を低くし、下半身だけ高くし尻尾を振っている。
「もう少しプライド持とうよ幻獣神よ・・・」と突っ込みを入れるディード。
「甘い菓子が食べられるなら、プライドなと犬にでもくれてやる!。」
「ぉぃ、狼の幻獣神、そこまでプライド捨てるんじゃねぇ。作ったらアイテムボックスに入れるから、その時の材料とかは追々相談するから。」
「約束だぞ、必ず作ってくれださいマシ。」ずいずいと顔を近づけるファグ。意外な一面を見た気がする。
「わーった、わーった。明日材料とか仕入れるから≪住処≫に来たときに相談する。もしくは簡単な物なら作って入れとくから、何か希望があるか?」 ディードはやや興奮気味で語尾のおかしいファグの顔を押しのけ話をする。
ファグは考え唸り声をあげる。「あれもいい・・・これも食べてみたい・・・うーん、うーん。」
まるで全ての料理が注文できる状態にあるかのように考え込む、しかし材料が揃わなければ作れないのは本人もわかっているはずだが・・・・・・やがて考えついたのかファグが答えたのは意外な物だった。
「甘いクッキー、これを最初に作ってくれ。」さんざん考えておいて求めた物が素朴な物で拍子抜けしたディード。
しかし、アイリスは思ったよりもツボに入ったらしく、身体を震わせながら笑いをかみ殺している。
「悩んでいて、やっぱりそこに行くのね。」 アイリスが堪えきれなく笑い出した。
ファグはそっぽ向き小言で「それがいいんだよ最初は」と呟いた。彼の拘りなのだろうか。
「わかった、それなら材料もすぐ揃うし難しくもないからやってみるよ。」
「うむ、任せたぞ。」 ディードに向き頷くファグ。
「とりあえずこんなとこかな。さすがに今日は疲れが取れなくて思考も鈍くなりそうだから寝るよ。色々とありがとう。」 礼を言って≪住処≫から出ようとするディード。
「あ、ディー待って、アイテムボックスなんだけど・・・・って遅かったか。」
呼び止めようとするアイリスだったが間に合わずディードの姿は消えていた。
アイリスはファグの方を見つめると、顔がにやけていた。
「まさか、クッキーを要求するとはねぇ・・・ふふふ、あの子の事思い出したの?」
口に手を充て、からかいながらファグを見つめるアイリス。
「ふん、まぁそんなとこだ。別にお前が作ってもいいんだぞ。多分、炭になるがな。」
痛い所を突かれたアイリスは大げさにアクションをする。
「ぐっ・・・まぁ確かに炭になりかねないけどさ、まぁアンタも物好きだね。親子3代から初めての手料理をクッキーにしてもらうなんて、可愛いとこあるじゃない?」
「それだけ、子を見守ってるって事でいいだろう。今日の闇化の魔物の話を逸らすことも出来たのだし。」
ファグは、遠い目をしながらアイリスに語り掛けた。 アイリスもまた同じ方向を向き、話を紡いだ。
「そうね、いずれバレるけど今はまだ隠せる事は隠しておきましょう。今のディードが立ち向かうには仲間も少ないし力もまだ足りない、それに覚悟もね・・・」
「そうだな、まだまだアイツには成長してもらわないとな・・・・」
「そうね・・・・」 二人は寄り添いしばらく遠くを見つめる。
「なぁ・・・アイリス。」 「どしたのファグ?」
「肉・・・・焦げてないか?」 「・・あ・・・」
出来上がったのは4分の1が炭になった紅熊の丸焼きだった・・・
◇◇◇◇
某所
◇◇◇◇
「あらあら、いい素材があったと思ったのにアイツら見守っているのね。ふふふ、楽しくなりそうだけど今はまだ手を出す時期じゃないわね、コレを仕上げてからお邪魔しようかしら。それまでは他の素材を集めておきましょう。」
クスクスと笑う彼女(?)の見つめる先には禍々しく、闇に纏われた杖が中を浮いていた。
最後まで読んでくれてありがとうございました。