第23話 変異
23話ですよかったら見てやってください。
突如周囲が闇に覆われ、唐突に夜が訪れた様な錯覚に陥ってしまう。
だが、全てが闇に覆われているわけでもなかった。 周囲を見渡すと、街の方角では明かりが挿していた。
おそらく地震があったと思われる所に闇が発生したのだろうか?
時間的にはまだ日中、4の鐘(午後3時)がまだ鳴ってない。要はまだ昼過ぎなのだ。
周囲を見渡し確認する2人。 「どうなっている?ここだけ闇に覆われている感じだぞ。」
「わからないわ。それに嫌な感じがするの、ディードここは早めに紅熊と大蜂を倒してここを離れましょう。」
「ああ、俺も嫌な感じが離れない、紅熊はまだ首を縛っている状態だから先にコイツを、って何だ!」
ディードが叫んだ先には、紅熊がどこからともなくやってきた黒い影に捕らわれているのが見えた。その黒い影は徐々に紅熊の身体を徐々に蝕んでいく。足から胴、やがて頭へと黒い影がゆっくりと飲み込んでいく・・・
ディードは背筋が凍るような感覚に襲われ、思わず鞭を手元に戻す。
勘なのか、心の中であの闇に飲み込まれてはダメだと感じ取った。
冷や汗と鞭を持つ手にも汗が滲んできた。得体のしれない緊張感が身体を強張らせる。
やがて紅熊は頭まで闇に覆われ意識が無くなったのか、その場にうつ伏せで倒れ込む。するとリリアに切り取られていた右手の根元から突然、黒い泡が溢れ出てくる。 泡はみるみるうちに手の形となり、黒い手となり再生を果たした。
「あの闇、再生能力もあるのか、厄介だな。出来れば逃げたいけど無理だろうな。」
「いっその事頼んでみる?」 「出来たらやってるよ。・・・リリア右から蜂が来る!」
先程方向感覚を失っていたと思われる、大蜂がかなりの速度で降下しつつ襲ってきた。
ディードは鞭で迎撃を試みるが、簡単に回避されてしまう。
「あいつも黒くなってるのか。益々厄介だな。リリア今のうちに紅熊をこっとは俺が引き受ける。」
「わかったわ。」
ディードは、大蜂に対し鞭を振りリリアの方に意識を向けないように攻撃を試みる。しかし攻撃は簡単にかわされ、顎で噛みつかれようとしている。普通の大蜂なら楽にかわせるのだが、黒くなった大蜂はそう簡単には回避させてくれない。全てにおいて強化されているのか、速度が一段と早くなっている。
鞭では対処できないと悟ったディードは、即座にアイテムボックスからミスリルソードと取り換える。
(長々と時間をかけてられない。一気に勝負に出よう。)
ディードは両手に魔力を込め大蜂を迎え撃つ体制を整える。
大蜂は魔力を感じ取ったのか、一度上に上昇し一気に降下してきた。先程よりもさらに早くなっている。
大蜂は顎を、ディードは左腕を出し互いぶつかり合う直前、「守れ!青の腕輪!」ディードが叫ぶ。
すると同時に出していた左腕の腕輪から半径50cm位の魔法陣が現れ大蜂攻撃を防いだ。
大蜂は攻撃を防がれ、自身の出したスピードで衝突したせいもあってかダメージを受けて怯む。
腕輪から出された魔法陣は先程の衝突後にガラスが割れる様な音を残し崩れ去る。ディードはすかさず剣で大蜂の頭部を貫いた。
貫かれた大蜂はまだ意識があるのか、貫かれた頭部を引き抜こうとして逃げようとしていた。
「硬いし、早いし、しぶといし、面倒な。そのまま燃えろ!」
ディードは突き刺した剣に属性を纏わせる、【属性付加】を行った。
剣は鍔元から火の属性が立ち昇り、大蜂を焼き始めた、大蜂は貫かれた頭部の中から火が回り必死にもがくが、逃げ出すことが出来ずやがて動かなくなり退治された。
そしてリリアの方に振り向こうとした時、小さな悲鳴が聞こえる
「キャッ」 「リリア!」
大蜂を剣から引き抜き慌ててリリアに駆け寄る。
幸いリリアは弾き飛ばされる程度で大きなダメージを受けてなさそうに見えた。
「大丈夫か?リリア」
「ええ、あの紅熊に力押しで負けて飛ばされただけ。ダメージは与えてるんだけど、傷が浅くて回復されちゃうの。」
よく見ると紅熊の身体には数か所浅い傷があり、所々小さな泡が傷をふさぎ再生していく。
「これじゃキリがないね。リリア鍔元にあるスイッチを押すとチャージできるからアイツに当てるちょっと前に押すようにやって見て。援護する。」 「わかったわ。」
ディードは大きくリリアから離れ紅熊に向かって【水球】を顔に打ち込む。ダメージは無いものの、顔に撃たれるのがうっと鬱陶しいらしく片手でガードしディードに突進してきた。
ディードは突進してきた紅熊に対し間を開け呪文を唱える。
『大地よ健やかなる大地よ、その地の力を借りて、我が敵のゆく手を阻みたまえ【石壁】』
呪文を唱えた後、ディードの足元からせり上がってくる幅2メートル高さ1メートル強の石の壁が目の前に現れた。 紅熊は突進し、石壁をものともせずに体当たりをかまし、破壊する。
だが既にディードは既にそこにおらず距離を取っていた。
「リリア!今だ!。」 「ヤーーー!」
リリアは剣を振る直前にで、ディードの言われた通り鍔元にある小さな突起のスイッチを押した。
リリアからでる魔力の刃は通常50cm程度なのに対し、1メートル以上も刃が飛び出たのだ。
紅熊は彼女の剣に対し防御を取ろうとしたが、その威力は凄まじく豆腐を斬るかのように斬られ、紅熊は斜めから分断された。
「うっわ、怖!」
作った本人が引く程の威力であった。袈裟斬りされた紅熊は2つに分かれ命を落とし、なお大地を抉っていた。
「何コレ・・・・こんな威力・・・最初から出せば全部簡単に終わるのに・・・」
リリアが自分の出した魔法剣の威力を見つめそう呟いた
「あー無理無理。多分色々と持たない。リリア剣をその場で置いて、ちょっとこっち来て。」
「え?なんで?剣を仕舞わないでこっちなの? どうして?」
「とりあえず、こっちに来て話はそれからだから。」 「・・・?・・・うん」
リリアは取りあえず剣をその場で置き、ディードの方へ歩み寄る、数歩歩いた所で突然、リリアが崩れ落ちる。 「え?」
倒れ込む寸前でディードに抱きかかえられるリリア。慌てて起き上がろうとするも力が入らずそのまま抱きかかえられてしまう。 異性に抱きしめられ羞恥の渦の彼女。
顔は紅潮し思考がブレる。 そして数分が経ち・・・
「あわわわわわ、もうダイジョブダイジョブ、あの、その放して。」
ディードは慌てるリリアをゆっくり放し地に座らせる。ぺたん座りした彼女は少しづつだが落ち着きを取り戻している。そんなリリアを少し可愛く思いフフっと笑うディード。
「このチャージはリリアの魔力と体力を引き換えに威力を増幅させる仕組みなんだ。まさかあそこまで威力上がるとは思ってなかったけどね。あの洞窟内で使わせなかったのは幸いだね。下手すれば洞窟ごと、もしくは仲間ごと斬り分けられたね。あはははは」
「笑いごとじゃないでしょ。もう」 すわり込みながら頬を膨らませるリリア。
「さて、こいつらは1度回収して帰ろうか。今日はもう疲れたよ。街で休もうか。」
「さんせ~。 このチャージは一度に持ってかれるね~。連続は無理だね。」
「ああ、師匠もリリアの魔力と体力次第だと言ってたけど、まず剣の方が持たないから1日に2度ぐらいが限度だって覚えておいてね。」
「そんなに毎日は使いたくないねー。」
「フフ、同感だねー。毎日使う度にリリアの事抱きしめていたら理性が持たなくなるかもねー。」
「え?」 リリアは耳まで紅潮し俯きかける。
「冗談冗談、さて蜂の巣に生き物残ってないのを確認してから持って帰ろう。」
ディードは笑いながら蜂の巣を巣ごと切り抜き、下山するのだった。