第184話 ゲートウォールの長い一日。その17
広場を抜け北の外壁へと向かうディード達。
ディードの横で一緒に走っているリリアの顔は少し優れない。
「大丈夫か?リリア。」
「ん・・・大丈夫、少し考え事・・・。」
「君の姉に事についてか?」
考えている事を言い宛てられリリアは少し驚く。
「・・・やっぱり、わかっちゃう?」
「なんとなく・・・だな。 あの変装が得意な魔族、倒れている魔族を回収したって事は恐らくゴーレムを動かす為に必要な人員を確保しに来たと考えるのが妥当かな。 と、なると相手は戦力を結集させることになるから、指揮をしていた人物もいるはず。」
「・・・そうね。 それで間違いないと思うわ。 行く先には多くの魔族とゴーレム、そして私の姉がいるはず。 ねぇディー・・・勝てると思う?この人数で?」
表情に少し陰りが見えるリリア、相手は大量のゴーレムを所持している事から簡単には終わらせることが出来ない事を彼女は当然理解している。
広場での戦闘の後、休む間もなく次の戦いの場へと急ぐ。
体力も魔力も心許ない状態で自分の姉と戦わなければならない事を考えると、今戦くのは得策じゃないことは十分承知だ。
そしてディードは既にケルベロスモードを時間切れまで使い、光の矢、改まで使い切ってしまっている。
この状況で本当に自分の姉に勝てるのか?と不安になりいっその事引き返した方が・・・そんな思いを胸にリリアはディードを見つめるが彼は、そんな事を吹き飛ばすかのように笑顔で返した。
「なら一緒に逃げるか? ここにいる全員とエルカーラ、後奴隷だった子達も一緒に引き連れて、ミリア村に逃げ隠れる事も出来るぞ。」
「・・・冗談言わないでよ。 今更街の人達を見捨てて自分達だけ逃げるなんて出来る訳無いじゃない。 今ここで食い止めないと、相手は街を飲み込みさらに力を付けるわ。 今ここで叩くしかないじゃない!?」
「ああ、だから止めたいんだ。 こちらが勝つ見込みがるとすればゴーレムとの戦闘を避けながら敵の大将を取る、もしくはゴーレムを作り出す魔道具を破壊するしかない。 奇襲・・・敵将のみを打破の一点突破を考えている。 これ以上犠牲を出さない為にもリリア、君の力が必要なんだ。」
「・・・やっぱり同じ考えよね。」
自分達の戦力で今出来る事があるなら間違いなく一点突破しかないだろうとリリアは考えていた。
ディードは同意する形で同じ考えを出してくれたことに少し胸を撫でおろす。
だが簡単には行かない。
最悪の事も考えると、突破している途中で挟撃され全滅、もしくは数で最初から押し切れれる可能性もありえるのだ。
「ああ・・・かなり難しそうだけどね。 もし駄目そうなら俺のもう一つの切り札も考えている。」
「切り札? 光の矢はもう撃てないでしょ?」
「前にも言ったかも知れないけれど、もう一つあるんだよ。 ふふん。」
自慢気にディードは人差し指を揺らしリリアに見せる。
そんな彼の顔にリリアはジト目で返えした。
「ねえ、その切り札は光の矢以上に身体への負担が多きものよね?」
「多分な。」
「多分なって・・・却下よ、そんなもの。 ディーに万が一何かあったらどうするのよ?」
「俺はリリアに万が一がある位なら惜しみなく使うけどな。 勿論リリアだけじゃない、レミィちゃんもライーザさんもだ。 ここで命を散らしていい訳が無い。」
「だからってディーが負担を全部背負うのもおかしいでしょ?」
「男ってさ・・・好きな女の前では少し恰好付けたいんだよ。 特に自分の姉を手に掛けるしかないって表情の恋人の顔を見るとね。」
「っつ!?」
リリアはディードの身体の負担を心配している様に、彼もまたリリアの心情の負担を心配していたのだった。
嬉しく思うが少し複雑な心境のリリア。
「・・・ズルいわよ。」
「ズルくて結構。 それだけリリアを大事に思っているって事だ。」
「・・・本当にズルいわね。 わかったわ、どうしてもって時に必ず私に言って。 いきなり最初から使ったら絶対に許さないからね。」
「よし、最初から全力で使うぞ!?」
「斬るわよ!?」
走りながら愛剣に手をかけ用途するリリアに思わず手をお手上げ状態で走るディード。
彼なりの気遣いであるのも嬉しく思うリリア、それを横目に見ていたレミィがクスクスと笑う。
「ふふふ、私達は出来る事を一生懸命やりましょう。 それで――――。」
言葉途中でレミィは何かに感づき向き足を止める。
視線の先には先行していたライーザが北の城壁を前に足を止め何かを探しているようだった。
「何かあったんですか?」
「・・・・少し気になる事があるのよ。」
「気になる事?」
レミィが少し首を傾げライーザに問う。
「・・・弩弓や攻城兵器、それらに関する物が見当たらないのよ。」
「見当たらない?」
「ええ、南の城壁もそうだったのだけど、鉱山から稀に大型魔物が現れる事があるの。 それに対抗出来るように城壁の近くにはそれらの物が置いてあるのだけれど・・・」
おかしい・・・と表情を曇らせるライーザの言葉にディードに悪い考えが過る。
「魔族達が持ち去った?」
「そう考えるのが妥当よね。 それにしても攻城兵器や弩級なんて、重い物をなんで持ち去ったのかしら・・・。」
「ん-、ディードさんの様に大きなアイテムボックス持ちなら運搬は可能でしょうけれど魔族側にそんな人が居ればわざわざこっちの兵器なんて手にしなくてもいいでしょうし・・・。」
「逆にこちらに使わせないようにするだけならば破壊してしまうのが一番、だから何故持ち去ったのかおかしいと思ってたいたのだ。」
嫌な予感がする・・・口にこそ出していないがライーザはそう言いたげな表情であった。
そしてその直後、彼女の嫌な予感は的中する。
目の前の城壁から何かがぶつかる轟音が響き渡り、その音は大地をも揺らす。
壁から小さな埃と小さな破片が落ちてゆき、その威力を物語っていた。
「なっ! なんだ!?」
「城壁から衝撃音。 この威力・・・まさか!?」
ライーザは焦り城壁の頂上に上がる階段を急いで駆け上がる。
それに続く面々、階段を駆け上がり城壁の頂上に辿り着くと、そこにが100は優に超える大小様々なゴーレムの数々が隊列を組み、こちらにゆっくりと向かっていた。。
あるゴーレムは弩弓を水平に構えクロスボウの様に取り扱い、あるゴーレムは数体で連携し投石器を操っている。
小さなゴーレム達は弩弓の矢、投石、槍などの持ち歩きいつでも補充出来るように制御されおり、大きなゴーレムの後を付かず離れず一定の距離を保っていた。
その様はまるで人間の軍。
ただし規模が圧倒的に違う、相手は攻城兵器を容易く持ち合歩き、感情や疲労は無く、ただ命令があればそれに従い魔力、魔石が切れるまで動き続ける。
石や鉄で出て来た身体は頑丈であり、ゴーレム1体に対し人間の兵士10人分相当に匹敵する。
それでいて街の人間を材料にしている事から、実情を知っている人間からすれば、手を出す事を躊躇う最強の人質とも言える状態だ。
「な・・・なんだ、これは・・・。」
「ゴーレムの軍団・・・。」
「武器が弩弓に攻城兵器・・・なの?」
「魔族はこれを作っていたのか・・・・人間の命を材料にゴーレムを作り、さらに人間の兵器を使い、人間を殺す・・・なんて事だ。」
目の前の光景に思い思い口にディード達。
ライーザは拳を握り締め怒りで震えていた。
「こんな事が・・・こんな事が・・許されてたまるか!」
ライーザは剣を手に取り魔力を注ぎ、飛翔剣を放つ。
斬撃はゴーレムの手前で大地を抉り取る。
「くっ!?・・・」
ゴーレムになったとはいえ元をたどればこの街の人々、ライーザはそう判断しゴーレムを傷つけるのを躊躇う。
「お・・・おのれ・・。」
歯の奥からギリギリと音を立てる程ライーザは悔しさを表情に出す。
「ディードさん、あそこ見えますか?中央のゴーレム。」
レミィ指差す方向を注視するディード。
遠目から見てもそのゴーレムは異質なのが解る程特徴の多いゴーレムだ。
幾つもの車輪が回る広い台の上、中央より後方に鎮座する人型で大型のゴーレム。
その右手には玉座があり悠々を座る人物がいる。
鹿の角を彷彿させるように伸びた角をもち、黒いドレスを身に纏い足を組みながら座る人物こそが
ディード達が求める人物。
ファレン・ツヴァイ・デ・ゾルディ。
リリアの腹違いの姉だった。
「リリア・・・見えるか?」
「ええ、間違いないわ。 あれが私の姉、ファレンよ。」
「その上のゴーレムに縛られている人物は見覚えありますか?」
「いいえ・・・と言うよりあんな風に縛られ目隠しをしてあるんじゃ判らないわ。」
目を細め異形のゴーレムの頭部に鎖で繋がれている人物を見る。
青い髪、目には赤と黒で綴った布製の呪符で目隠しされ、上半身は裸で胸ははだけ、下半身はゴーレムに埋め込まれていた。
意識は無いのか、ぐったりとしたまま動かない。
「人質・・・と言うより何か利用されているといった感じだな。」
「・・・そうね、アイツの上にいるから重要な役目を担っていると思うわ。」
「だとすると、救出したほうが良さそうだな。」
「ディー、あそこにどうやって辿り着くの?」
「そりゃ・・・俺が兎の盾で全力疾走を――――。」
リリアに問いかけられ、ディードは素直に答える。
だがその時、思いもよらぬ事が起こった。
城壁から身投げするかのように飛び出した人物・・・否、ゴーレムのジグが一人飛び出していった。
「パパ! 僕だよ!?」