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異世界転生幻想放浪記  作者: 灼熱の弱火 
石の涙
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第178話 ゲートウォールの長い一日。その11

 

「アハハハハ、あはははは。」


 上半身だけになったビクトリアの笑い声が木霊する。

 彼女の腹部から下は紫の蛇の胴体へと変化してゆく、尻尾は3つに分かれ胴体の部分からは2本の大きな腕が生え、全長5m超える巨大な蛇女(ナーガ)が出来上がる。


「いい! 実にいいわ!? 泉の様に湧きあがるこの力、武力でも魔力でも、そして美貌(びぼう)でもアルテナに負けるはずが無い!? あははははははははは。」


 人間という枠を完全に超えた力を手にし、空に向かって恍惚(こうこつ)と表情を見せるビクトリア。


「ディー!」

「ああ、ここであの名前が出るとわな。」


 ――すべてはイーリス様の為に――


 ディード達は迷宮都市グラドゥのダンジョンでイーリスに出会い、その圧倒的な強さで敗北を喫している。

 その際彼女の手によって異世界へと飛ばされたのが、偶然か必然かリリアの固有能力が開花しこちらの世界に戻ってこれた。


「ああ・・・母上が・・・なんて姿に・・・・」


 変貌した母を見上げ絶望した表情で膝をつくビクトール。


「うふふふ、どう?ビクトールこの美しい姿(ビクトリアナーガ)は? これで私はアルテナに負ける事も無いわ。」

「・・・化け物・・。」


 息子であるビクトールの言葉に眉をひそめ不快感をあらわにするビクトリアナーガ。


「・・・この美しい母親に対して使う言葉じゃ無いわね。 ふん、手始めにお前の血でこの地を染めてあげる!?」


 ビクトリアはそう言い放つと新たに生えた腕を伸ばし、ディードに破壊され壊れた人心の鐘を拾い持ちビクトールに襲い掛かる。


「・・・ハッ!ビクトール様!?」

「ッツ!?」


 半ば放心状態だったライーザが危険を感じビクトールの前に立ち、剣を盾代わりにして鐘を受け止めようと構える。


「そんな大きな鐘を剣だけで受け止められる訳無いだろ!?」


 咄嗟にケルベロスモードDになったディードは宙を翔け、鐘が振り抜かれる瞬間間に入る。

 石壁(ストーンウォール)を自分の前に展開させ2人を肩に抱え後方へと飛ぶ。

 しかし石壁だけではビクトリアナーガの攻撃は耐え切れず破壊されディード達を振り抜き吹き飛ばす。


「ぐぁああ!」

「ディー!」

「ディードさん!?」


 ディードのぐもった声にリリアとレミィが反応する。


「く・・そ・・水獄(ウォータープリズン)!」


 薙ぎ払われるように吹き飛ばされたディードは地面に激突する際に水獄を展開させ衝撃を和らげる。


「ディー! 紅蓮の大鷹(クリムゾンホーク)!」

「小賢しい!」


 リリアは紅玉の杖を振りかざし紅蓮の大鷹をビクトリアナーガに放つ。

 しかし紅蓮の大鷹はビクトリアナーガは蛇の大口から放たれる毒液に行く手を阻まれ、勢いを失いさらに鐘で打ち払われてしまう。


「ディードさん!大丈夫ですか!?」


 ライーザとビクトールの下になっていたディード、2人を払いのけるようにどかしディードを掘り起こす。


「く、くっそ・・・」

「足が!」


 ディードの右足はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。

 あの瞬間、2人に襲い掛かる鐘を石壁だけでは守れないと悟ったディードは咄嗟に足で兎の盾(ラビットシールド)を数枚展開した。

 しかし鐘の振り払われる力は強く兎の盾は破壊されてしまう。

 だがその数枚の盾がディード達の被害を彼の足だけに留めさせたことになった。


「く・・・高回復(ハイヒール)。」

「危ない!?」


 苦悶とした表情の中ディードは回復魔法をかけ始める。

 だが魔法と同時に何かが弧を描いてディードの元に飛んでくる。

 レミィはそれを双剣で防ぐ、視界に入って来たのはエルカーラの長剣。

 しかも右腕が肘から先が付いている状態だった。


「エルカーラさん!」


 右腕を確認すると同時にエルカーラ自身もこちらに吹き飛ばされる。

 右腕を失い激痛に耐えながらもすぐさま起き上がり相手を睨みつけるエルカーラ。


「フーッ!! フーッ!!」

「ふはははは、悲鳴を期待してたのだがな・・・・大した精神力だ。」


 卑下(ひげ)た笑みを浮かべたアッシュが広場へとやってくる。

 肌の色は全体的に浅黒く、肉体は二回りほど大きく頭部からは細い角が生えており、先程までの容姿とは似ても似つかない。


「エルカーラ!待ってろ直ぐに回復を!レミィちゃん少し時間を稼いでくれ。」

「そんな必要はない。 回復する時間ぐらい与えてやる。 早く治すがいい、また切り刻む楽しみが増えるというものだ。 あははははは。」


 高らかに笑うアッシュ、痛みを堪え相手を睨みつけ尚も戦意を失わないエルカーラ。

 ディードは自分の回復を途中で切り上げ、彼女の右手を拾いあげ接合するように回復魔法をかける。


「動くな直ぐにくっつける、神聖回復(リジェネヒール)。」

「すまない・・・。」

「手を貸すか?」

「いいえ、手を貸すのはこれで最後でいい。 ディードはあの化け蛇とそこの転がっているので手一杯でしょ?」

「・・・死ぬ気か?」


 ディードの言葉にエルカーラは瞳を閉じる。 

 深呼吸をし再び瞳を開ける彼女の瞳に諦めるという感情は宿っていなかった。


「・・・いいえ、奴を倒し生き延びるわ。 生きて我が子を探さないと、胸が乳で張って痛いのよ。」

「プッ・・・」


 こんな危機的な状況でも生きる事を諦めず、軽い冗談をいうエルカーラにディードは思わず吹き出す。

 


「そんな冗談を言えるなら大丈夫だな。 ・・・よしくっついたぞ。今度は負けるなよ。」

「ええ、次は油断しないわ。 だからアンタも頑張りなさい。 それの面倒は任せたわよ。」


 再び長剣を握り締め気炎を吐きながらアッシュへと向かって行くエルカーラ。


「強いですね、彼女は・・・それに引き換え私達は・・・。」


 俯き投げ捨てるように言葉を放つライーザ。 

 そしてその傍らでは倒れたまま化け物と呟くビクトールの姿。


「彼女は生きる事を諦めていない、きっと活路を見出し奴を倒すだろう。ライーザ、君はどうするんだ? 俺達が負けるのを黙って見ているのか?」

「・・・・わからない。 私はどうすればいいのだ、ディード殿。 教えてくれ、私はビクトリア様を討つ事など考えてもいなかった。 討つとなればビクトール様にも剣を向ける事になる、そしてハヴィ様を悲しませる事になるのだ。」


 ディードに縋り弱音を吐くライーザ。

 ここでビクトリアを討てば、彼女の息子であるビクトールには永遠に恨まれる事になるかもしれない。

 それより一番恐れているのは、父であるハヴィに悲しい思いをさせたくない事。

 病気で後が無い父に更なる精神的負担を掛けたくない、そんな気持ちからかライーザは自身の母の仇であるビクトリアを討つという行動に踏み込めない。



『いつまでもウジウジしないで立って戦いなさい、ライーザ! 貴方は戦乙女(バルキュリー)のアルテナの娘でしょ!?』

『あ、アイリス様。』


 アイリスの念話が響き渡る。


『このままディード達に全てを任せれば貴女はきっと後悔しながら生きていくわ。 それだけじゃない、民を守る事、そしてアルテナの死の真相を聞き出さなくていいの?』

「ッツ!?」



 母の死の真相、それはライーザにとって是か非でも聞きたい事であった。

 毒の紅茶だと知っていてあえて飲み込み、敵対していたビクトリアに頼んだアルテナの理由は未だ解けていない。

 彼女は何を思ってわざわざビクトリアにそう願ったのか知りたかった。

 しかしビクトリアがディード達に討たれれば、それを聞く機会を永遠に失う事になる。


「わ、私は・・・・。」

『父を想うのは悪い事じゃない。でも、それだけじゃ足りない。少しだけこの街の人を、そしてディー達を支える事を加えてあげて。 そして自分に正直になりなさい。貴方には成すべきことがあるはず。  貴族の務め(ノブレスオリージュ)を、そして戦乙女の誇りを胸の立ち上がりなさい!』

「アイリス様・・・。」

『さぁ、行きなさいライーザ!!』

「は・・・はい!?」


 アイリスの叱咤激励が彼女の瞳に光を灯す。

 剣を握り、魔力を込め彼女は駆ける。


「私はこの街を守る為、大事な人と仲間を守る為・・・私は・・・私は、戦乙女アルテナの娘ライーザ・スカーレット! いざ参る!?」

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[一言] 誤字とか目立ちますが更新楽しみにしています
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